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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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アマリア魔術学院

 街に遊びに飛び出したベルはゲーラの街の見物を始めたが、あっという間に見るものが無くなってしまった。


「コッキーこの街にはお城は無いの?」

「街の北の山の上にお城がありますよー」

「見てみたいけどいいかな?」

「北門から外に出ると見えますよ」


二人は北門に向かって歩き始めた、そこに北門から武装した一団が入城してきた。

その武装した一団が掲げている軍旗を見るとリネイン伯の紋章だとわかった。


「戦いは終わったのかな?」

「よくわかりませんです」

「リネインってゲーラと同じ陣営だったんだね」

「あっ!?そのようですね」

リネイン軍は総勢200名程で、指揮官を含む騎兵が10騎に歩兵が150名程、そこに魔術師らしき男と残りは輸送隊だった、そして十数名ほどが負傷している様に見えた。

好奇心があったが話しかける訳にもいかないので見送る。


「もしかして城で泊まったのかな?」

「ああ!!そうですよね、それならこの時間に街に入れます」


そのまま北門から城外に出ると、たしかに北の街道沿いの岩山の上に城が築かれていた。

北門から一キロ程離れているだろうか。


「ベルさん、北西の丘の上に見えるのが学校の跡ですよ」

北西の方向のかなり離れた丘の上に大きな建物が見える、そこまで2キロ程度は離れているだろう。


「あそこならすぐ行って戻って来れそうだ、見物したいけどコッキーついてくる?」

「もう何も無いはずですよ?」

「あの学院だっけ?アゼルが精霊魔女アマリアが関わったとか言っていたでしょ、少し興味があるんだ、ゲーラは小さいし見る所が無いからね」

「まあ二時間ぐらいで戻ってこれそうですね」

少しコッキーはベルに呆れているように見える。


二人はさっそく学院探検に向かうことにしたが。

「よし、おやつを買って行こう」

「おやつですか?遠足みたいですねベルさん・・」

「何が起きるかわからないよ、果物とか乾パンでも買っておくのが正解だよ?」

「そういう物なのですか?」



二人はゲーラ周辺の農地を縫うように伸びる小道を辿(タド)りながら学院の廃墟に向う。

小道は学院のある丘の麓まで続いていたがそこからが大変だった。


訪れる者が居ないのか学院の正門に続く道は殆どが消えていた、長い間だ整備されていなかった為か道は荒れ放題で林に半ば埋もれている。


「ベルさんまってください」

「ごめんコッキー」


ベルは長い森の生活で鍛え抜かれている上に、神隠し以来超常の力を身に着けていた、コッキーがどうしても遅れてしまうのだ。


ベルは立ち止まりコッキーが追いつくのを待つ事にした、ふとベルは僅かな人の気配を感じた。


(誰か近くにいるのか?)


その時ベルの視界から突然コッキーが消えた。


「あれ!?コッキー!!」

ベルはコッキーが消えた近くまで走った。

「コッキーどこだ??」


足元の方から声が聞こえてきた。

「ベルさん穴に落ちましたー」

「コッキー怪我は無い?」


コッキーが落ちた穴の中は真っ暗だったが、下に落ち葉や小枝が積もっていた為なのかコッキーに怪我は無かった、そして彼女は何か薄くて丸い金属の様な物体を握っている事に気がついた。


「無事みたいです、でも真っ暗で良く解りません」


(穴に落ちた時に思わず掴んでしまったようです、なんでしょう丸い金属のようです、お金ならうれしいのです)


コッキーはその丸い金属のメダルを上着のポケットに入れた。



上ではベルが周辺の地表を調べ始めていた、コッキーが消えた辺りは太い木の根が幾重にも張り巡らされている、その根の隙間に大きな穴があるのを見つけた、その下が雨か地下水で空洞になったのだろう。

穴の上に分厚く被っていた小枝や樹の葉を慎重に払いのける、それらが落とし穴を隠す天然の蓋になっていたのだ。


「穴を見つけた、待ってて」

「上が明るくなりました」

ベルは巧みに穴の中に下りるとコッキーを下から押し上げる様に穴の外に押し出してやった。


「ベルさん身のこなしが軽いし凄い力が有るんですね、凄いです!!」

「ふふ、ありがとう」

コッキーに続いてベルも穴から出てきた、二人はお互いに泥や枯れ葉を落としあう。

「怪我がなくて良かったです、下に枯れ葉や枯れ枝が積もっていたから助かったのです」

「これからは慎重に行こうね」


上を見ると丘の頂上も近く学院の壁がそそりたって見えていた。

「もうすぐ学院だね」

二人は再び丘を昇り始めた。


コッキーは穴に落ちた時に思わず掴んでしまった堅い金属のような物を思い出した、それを上着のポケットから取り出す、それはコインのような丸い金属だが、全面に不思議な文様と記号がレリーフになっていた。


(これはなんでしょうか?)


「コッキーおいで入り口まで来たよ!!」

コッキーはメダルを上着のポケットに落とし込んで急いで坂を登っていった。


二人は学院の正門までたどり着いていた。

正門の向こう側が学園の広大な敷地になっていた、敷地内には幾つもの建物が立ち並び、正門の正面には学院で一番大きな三階建の建物の玄関が見える。


「見てあの石柱に『アマリア魔術学院』と書いてあるよ」

「すごいですベルさん」


「聞きにくい事なんだけど、コッキーは孤児院で文字とか習わなかったの?」

「少し習いましたよ、でも生活に必要な言葉しか習いません、『学院』といったわからない言葉の方が多いのです」

「そういう事なのか・・・」

多少文字の読み書きができても語彙(ゴイ)が理解できなければ専門性の高い高度な文章は理解できないのだ。


学院の敷地は雑草で覆われ、木が育ち雑木林の様な有様(アリサマ)となっていた、かつては美しい芝生に覆われていたのだろうか?


「みてごらん、最近誰かがここに来たみたいだ」


ベルが指し示すのは切り払われた木の小枝だった、誰かが最近ここを通り抜け、邪魔になる木の枝を切り払った後の様に見えた。


「確かにそう見えますよね?」


敷地内の学院の建造物は二階建てが多い、だが木製の部分が殆ど崩れ落ち屋根と床が無くなっている。


「これは思ったより酷いな」

ベルが予想以上の学院の荒廃ぶりに鼻に(シワ)を寄せた。

「はい、私もここまで荒れているとは思いませんでした」


学院で一番大きな建物の正面玄関付近に地下への階段らしき物が見える、階段周辺には朽ちた木材が(ウズタカ)堆積(タイセキ)している。


その建物に入りベルが思わず上を見上げると、二階の床も三階の床も屋根も消滅していてテレーゼの蒼い空が見えるだけだった。

ただ石造りの壁だけが荒廃に耐えていた、内乱が始まり40年の歳月の重みを感じさせる。


「中を探検してから帰ろうね」

「ちょっと怖いですね」

ベルは小型のランタンを取り出し火を付ける。


二人は石階段を降り始めた、学院の地下部分は頑丈な石組みの為その形を良く残していた。

「地下は何階まであるんだろう?」

「すみませんです、そこまでは知りませんです」


階段を下りると真っ直ぐに通路が伸びていた、その両側には倉庫や資料室の様な部屋が並んでいる、木の扉は湿気で腐り崩れ落ちていた、部屋の中には空の書棚や荷物棚だけが雑然と残っていたが、目ぼしいものは総て持ち去られた後のようだ。


「本当に何もありませんね」

「うん、でもこの目で確かめればもうここに来る必要も無くなるんだ、あ、突き当りにまた階段がある」

「地下二階があったんですね」


通路の突き当りに地下二階への長い階段が口を覗かせていた、意を決して二人は降りて行く。

だが階段の一番下の辺りが僅かに明るくなっている。


「まって、少し変だぞ?」

「明かりがあるのですか?」

「僕が先に降りて偵察して来る、コッキーはここで待っていて、合図をしたら降りてきて」


ベルが階段を先に降りて行く、その先はまた通路になっておりその先に大きな部屋がある、その部屋の中に強い光源があり、部屋から光が通路に(モレ)れ出していた。


ベルは通路を最大限警戒しながら進む、そして大きな部屋に到達した、その部屋は20メートル四方で高さが5メートル以上ある大きな正方形の部屋で、その部屋の壁際中央に光輝く巨大な円形の鏡の様な薄い物体が光を放射している。


ベルはそれを何処かで見たような気がしたが思い出せない、何かとても重要な事だったはずだが思い出す事ができなかった、その光り輝く物体を暫く観察していたが特に異変は起きない、取り敢えず危険は無いと判断しコッキーを呼んだ。


「コッキーこっちに来ていいよ」

「わかりましたです」


階段を降りたコッキーの足音がしだいに近づいて来た。

「ベルさんこれは一体なんですか!?」


その瞬間、周囲の世界が歪みはじめ(タワ)む、そして総ての光が失われた。

コッキーの叫びを遠くから聞いた様な気がした、だがベルも直ぐに意識を失った。






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