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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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新たなる精霊宣託

 「(ワシ)がまだ駆け出しの魔術師だった頃じゃった、それはテレーゼの内乱の前でな、国内はまずまず平和で栄えておったよ」


「その時既にセザール=バシュレは今の(ワシ)と同じ様な年だった」

「では奴は不老不死なのか?」

ルディのその質問には答えることは無かった。


(ワシ)がセザール=バシュレに弟子入りした時、奴はテレーゼ随一の大魔術師としての地位を固めていた、だが奴は焦っていたのだ、既に伝説と化していた精霊魔女アマリアの域にまで到達できず、迫り来る命の終わりに怯え焦っていたのだ。

そして死靈術に手をだしての、アマリアから破門され、テレーゼにおける地位を失い追放されたはずだったのじゃ、だがすぐに内乱が始まっての、その混乱の中で奴の所在は不明になった」


アセルがホンザの灰色の瞳を見つめ口を開いた。

「ボンザさん、セザールが死靈術に手を出したのは、死を免れる為ですね」

(ワシ)もそう考えておる」

「そして内乱が始まり、20年も経った頃から、再び奴の名が上るようになったのじゃよ」


「セザール=バシュレが破門されているとなると、精霊魔女アマリアに会える手がかりにならない可能性があるのか・・・」

ルディの表情に深い落胆の影が落ちる。



しばらく長い沈黙の後にホンザが再び口を開いた。


「アゼルよ、お主は精霊宣託はできぬのじゃな?」

「はい、残念ながら精霊宣託師としての才能はありませんでした、下位の精霊宣託はできますが、これでは道端の占いとかわりません」

「そうか『力の行使者』なのか?もっとも魔術師の殆どはこの種類じゃがな」


「ルディ殿、試しに(ワシ)の精霊宣託を受けてみるかね?」

コッキーを除いた3名が驚いた。

「ボンザ殿は精霊宣託師だったのか?」

「いや精霊宣託師としての才能もあったと言ったところじゃな、儂は中位の精霊宣託師でもあると言うだけじゃよ」


「今のままでは手詰まりだ、何か打開策が見つかるかもしれない、お願いしてもいいだろうか?ホンザ殿」

「少々お代をいただくぞ、そして少し時間もいただく事になるがの、ほほほ」

「ルディお金の心配はいらないからね?」

ルディがギョッとして声のする方向を見やると、そこには満面の可愛らしい笑みを浮かべたベルの顔があった。それに得も言われぬ不吉な物を感じたルディであったが意を決した。

「わかった、頼みたい」


「若旦那様のおっしゃるとおりにいたします」

アゼルがそれを肯定した。


「中位の精霊宣託の相場は50アルビィンじゃよ、高位の精霊宣託ともなるとゼロが二つ以上増えるぞ?準備と結果が出るまで夕刻までかかる、ルディ殿とアゼルはここに残ってくれ、さて本日は休店にしなければならぬのう」

ホンザは店の扉に『本日休店』の看板を出しに扉に向かう。

「今の内に何を質問したいか、アゼルと相談して決めて置くが良い、あと契約の条件も決めて置くが良い、後で取り返しが付かなくならないように気をつけるんじゃぞ?」



「ねえ、コッキーはハイネに仕事があるとか言っていたよね?僕は一日ここで待つつもりだけど」

「あっ、そうでした!!」


(契約があるのでした)


その時突然コッキーの意識が遠くなる、彼女の瞳から光が消えた。


『コッキー、もっと大切な事があるでしょ?』


何処からともなく遠くから声が聞こえてきた。


(はいそうでした、忘れていましたです)


「コッキー?」

一瞬固まり何の反応もなくなり呆然(ボウゼン)(タタズ)むだけのコッキーにベルが声をかけた。

「はっ!!ベルさん達と一緒に居たいのです!!」

「わかった」


(今までこんなにも誰かと一緒に居たい気持ちになったのは初めてなのです)


ルディがベルの肩に手を置く。

「ベルとコッキーは街を見物していてくれ、コッキーはベルから決して離れないようにな」

「ルディさん、わかりましたです」


「じゃあ背嚢(ハイノウ)はここに置かせて貰っていいかな?」

家主の答えを待たずにベルが背嚢(ハイノウ)を下ろし始めた、袋から小銭を分けて懐に入れる。

「うむ、かまわんぞ、邪魔にならない場所に置いておくれ」


「じゃあ、僕たちは街を見物してくるよ」

「いってまいりますです」


ベルとコッキーは魔術道具屋『精霊の椅子』のドアを開け街に飛び出していった。


やれやれと言った顔のルディとアゼルに向ってホンザが改めた態度で向き直った、それはホンザが老獪(ロウカイ)な商人から魔術師の顔に変わった瞬間であった。


「さて、ルディ殿、アゼル、精霊宣託の手順と契約について説明するぞ・・・・」








ここはゲーラから南に伸びる街道を、怪しげな8人の男達が南に向って歩いていた、この街道はド・ルージュの廃墟を経てルビンの街に至る。

男達の装備には統一性がまったくなくバラバラな武装をしていた、彼らの防具は金属部分には錆が浮き、皮革の部分は汚れと垢で黒く埃を被っていた。


彼らはどこかの農家から奪略したらしき、食糧を手づかみで食い漁っていた、すでにゲーラ近郊の田園地帯を抜け、周辺は広大な森林地帯になっている、街道沿いには放棄された村の跡があるだけだ。


やがて遠くの丘の上にド・ルージュ城塞の廃墟が見えて来た、その麓にはド・ルージュの街の廃墟があるはずだ。

この街道をそのまま進むとド・ルージュの街の廃墟を通り抜けて南のルビンまで至る。


「おい、ド・ルージュが見えてきたぜ」

「本当にここを根城にするのか?」

「おまえ、幽霊を信じているのか?よけいな奴が寄り付かなくて安心だとは思わんのか?」

「ここはそれなりに商隊が通るんだ、ここでしのぎをするんだよ」


男達はノロノロと歩きながら騒ぎ立てている、奪略したらしき酒を焼き物の容器から飲み干す、どうやら彼らは昼間から酔っているようだ。



その時、彼らから見て左手の森が(ニワカ)に騒がしくなった、鳥の群れが一斉に騒ぎ立て飛び上がる、林の木々の枝や折れ下草や小木が踏みにじられる音が響き始めた。

「なんだ!?てめえら警戒しろ!!」


森の中から街道の行く手を塞ぐように、彼らの目の前に何か大きな物が飛び出してきた、それは体高2メートルを優に越える大きな何かだった。

男達は一瞬熊か何かの大型の獣と思ったが、すぐにそれが人間だと認識を改めた。


「え、エッベだああああぁぁぁ!!」


男達はエッベを良く知っていた、恐怖と欲望に支配され、コステロの商隊を襲い罠にかかり半壊し、更にルディ達を襲撃し壊滅した生き残りだったのだから。

あの後三人ほど姿を消して去った、その3人の判断が最も賢明だった事を今になって思い知る事になる。


「ひー、逃げろー!!」


男達は蜘蛛の子を散らすように逃げ始める。


「に・げ・る・なーーー」


エッベが凄まじい怒声で咆哮した、その声の響に含まれた力が男達の体を竦ませ力を奪う、男達は冷や汗を流しながら失禁していた。

男達の酔いは醒め顔色は青を通り越して土気色になっていた。


「俺に付いてこい!!!」


それに逆らえる者はいなかった、屠殺(トサツ)される家畜の群れの様にエッベに従うしかなかった。





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