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勝利か?

ルディは木々の上に聳える黒い巨人に慎重に近づいて行く、巨人は全身から白い煙を音を立てて吹き出していた。

コッキーが巨人の胴体を棍棒で殴りつけた、だが巨大な腕で薙ぎ払われる、彼女はくるくると回転しながら空を飛んで森の奥に消えて行ってしまった。


やがて木々がなぎ倒されて開けた場所に到達する。


ベルが一撃離脱で戦っている、それは巨人と妖精剣士の物語の一幕の様に彼女の武器は針の剣の様に頼りなげに見える、その間にも巨人は死霊術の攻撃を絶え間なく繰り出した、巨体を生かして周囲に破壊をばらまく、アゼルやホンザはその度に詠唱を妨害され位置を変えなければならなかった。


このままでは切りがない、どちらも決め手に欠けている、そしてこのまま双方とも消耗していくだろう、そしてこのままでは負けると確信する。


巨人に挑みかかりたい気持ちを押さえて踏みとどまる、そして頭の回転を上げた、以前バーレムの森でグリンプフィエルの猟犬と闘った事を思い出す。


「愛娘殿、リズが言っていたなあれは召喚精霊だと、奴が力を使い切る可能性はあるか?」

『召喚精霊ならば力を使い切り幽界に帰る、召喚精霊に術者が後から力を与える事はできぬのでな、それができるならば奴は不死身と言う事じゃ』

「ではあの中に闇妖精がいると思うか?」

『わからぬ、たしかに中におれば日の光の心配もいらんわ』


不愉快な力の波動を感じると巨人から瘴気が放散した、どうやら高位の死靈術が行使された様だ。

それはアゼルを狙っていた、コッキーがギリギリの間でアゼルを抱えて射線から離脱する、黒い光が森の木々を消滅させながら真っ直ぐに道を拓いた。

その時ベルが懐に飛び込むと巨人の体を駆け上がり首筋を狙い魔剣を一閃させた、巨人の腕がベルを叩き潰そうとしたがベルは素早く離れる。

直後に大きな精霊力の発動と共に、人の胴回りより太い(ツタ)のような植物が巨人に絡みつき締め上げる、岩が砕ける様な音を立て巨人の漆黒の体にひび割れが走った。


『あやつの依代はなんじゃ?、魔界の神々や眷属の知識は我らにほとんど無い』

だがその植物は巨人に握り締められるとあっさりと引きちぎられた、植物は緑色の液体に変わると巨人の体が緑色のガスを吹き出す。


「奴の体は酸に溶けるぞ!!」

ホンザの声は精霊力に乗り心に良く届く。


「奴は岩か金属か?」

『そんなところかの』

すると周囲の地面に口を開けた亀裂や穴から、どろりとした密度の瘴気が吹き出し巨人にまとわりついた、溶かされた体が修復していく、やがてベルにえぐられた胴体も再生しはじめた。


「・・・やってみるか」

『なにをする気じゃ?』

ルディはそう呟くとホンザのいる場所に走った。


「何でもいい、あの巨人を大地から持ち上げる事はできそうか?」

「なんだと?術を使う時間を稼いでくれたらなんとかやって見よう、上位魔術じゃ」

ちょうどその時ベルが再び巨人に切りかかったところだ。

「ベルに時間稼ぎをしてもらおう」


「アマンダ殿聞いているか?一人用の魔術陣地を作ってある、心配せず行ってきてくれ」

ルディはホンザの言葉に驚く。

「ルディガー様、私がベルのところに言って伝えてきますわ」

そこでアマンダの声が聞こえてきたので驚いた、彼女はホンザを支援すべく近くで気配を完全に殺して潜んでいたのだ。


「俺が赤い照明を点灯したら始めてくれ」

ホンザが頷くのを見てからアゼルの元に走る、アマリアのペンダントのように互いに意思を伝える道具が欲しいと切実に思った。

幸いな事に巨人は激しさを増したベルの攻撃に翻弄され注意がそちらに向いていた、巨人はベルに魔術と巨体を駆使した攻撃の集中砲火を浴びせかけた。


ルディはアゼル達のところに近づくと、コッキーがアゼルの側にいた、コッキーと巨人は相性があまり良くないらしい、彼女はアゼルを守る事に徹している。

「アゼル、奴は召喚精霊だ、ホンザ殿があの巨人を持ち上げる、魔氷で地面を覆う事はできるか?」


「殿下、たしかに・・我々は幽界への門を体内に持っています、ですが召喚精霊に術者が後から力を与える事はできません、死霊術が同じとは限りませんが・・」

やがてアゼルはメガネを指で持ち上げるとうなずいた。

「奴の再生力はこの世界から得ているのかもしれませんね、試して見る価値はあります、私の術は単純ですが大きな力を使いますので殿下支援をお願いします」


「わかった」

アゼルにうなずいてホンザに向かって魔術道具の照明道具を点灯させる、そして今度は自分も巨人に背後から襲いかかる。

ルディが一気に肉薄すると腰を切りつけ巨人の腰を蹴って反動で飛び退いた。

さらにと動きかけた瞬間、瘴気の槍が迫って来る、それをかろうじて砕くと巨人の背中から今度は礫が放たれた、意表を突かれ大部分は躱せたが何発か食らった、礫は石の様な黒い硬い物体で地に落ちると瘴気に還って消えていく。

そして巨人の背に小さな穴が無数に空いていた、奴は体の一部を剥ぎ取って散弾にしたのだ。


「殿下おさがり下さい」

アマンダの澄んだどこまでも通る美声が聞こえてきた、続けざまの攻撃を避けながら距離を保つ。


その直後に地面が激しく揺れると、太い(ツタ)状の植物が何本も絡み合いながら大地を割り這い出して巨人に絡みつきながら伸びる。

大地のひび割れが潰され黒い瘴気が吹き出した。


巨大な植物はそのまま巨人を絡みとりながら持ち上げる、巨人は手足を動かしもがくが(ツタ)が手足に絡みつき怪力を発揮する機会を奪った、それは巨大な植物で作られた檻のようだ。

しだいに巨人の足が地面から浮き上がりそのまま高く持ち上げられる、やがて(ツタ)の隙間に巨大な豆のような身が姿を現す。


だがこれで巨人を倒せる訳では無い、湿った何かが引き千切られる不気味な音が聞こえる、巨人の怪力が(ツタ)を傷つける、このままでは破壊されるのは時間の問題だ。

時々死霊術で(ツタ)に攻撃が加えられたが、その度に再生される、ルディは老魔術師の身が心配になった、彼は身動き一つせず精神を集中していた。

ふたたび背後で精霊力の収束を感じた、そちらに目をやるとアゼルがいる、コッキーが数歩前に出てアゼルを護る位置に動いた。


「みんナもっと離れロ」

それはコッキーの非人間的な声だ、ルディが更に巨人から離れた直後にそれは起きた。

硬いものが砕ける轟音と共に巨人を中心に広い範囲を覆うように分厚い魔氷が現れた、氷の大地が日の光を反射して白く眩しく輝く。


その直後ルディは一気に巨人に迫る、(ツタ)を傷つけないないように岩の巨人の体を精霊変性物質の剣で切り裂いた、切れぬ物を切る事ができる魔剣は並の剣では切れぬ物に絶大な効果を発揮した。

ベルとコッキーも巨人に近づくとあらゆる場所を狙って攻撃を加える。


巨人の動きは封じられたが、死霊術の攻撃は止まず攻撃は魔氷に向けられた、氷が破壊される度に新しい氷で塞がれ、巻き沿いを食らった(ツタ)も再々される、全員による総攻撃が始まる。


最初は巨人の傷はすぐに塞がった、やがて再生速度が遅くなりやがて再生が止まる、巨人は戒めを解こうと暴れるが三人は手足を集中的に狙った。

次第に巨人の動きが鈍り傷つき形が崩壊していった、大地が分厚い魔氷に覆われ再生する力を得られないのだろうか。

巨人の手足が破壊されツルがいよいよ強く巨人を戒める。


「止めを刺す!!」


ベルが叫んだ、彼女が何をしようとしているか皆察した。


ベルが身を屈めた瞬間、乾いた破裂するような音がする、その時にはベルは巨人の背後の空を飛んでいた。

ルディはその直前に黒い何かが巨人から飛び出したのを見た。

何かが潰れる身の毛のよだつ音がすると巨人は岩の残骸に変わっていた、破片が壊れたツルの牢獄から下にこぼれ落ちる。


そのツルの牢獄の屋根に黒い何かが立っている。


それは人の形をしていた、その体の線は女性の肢体を象っていた、あの闇妖精にとても良く似ていた。

だが青白い肌に油を塗った奇妙な姿ではない、それは光をまったく反射しない真の闇でできていた、その影の形が裸の闇妖精の姿そのままなのだ。


巨人の残骸が瘴気に還り、ツルが萎び風化し崩れ去る、どこかでホンザを気遣う声が聞こえてきた、

そして役目を終えた魔氷も消えて行く。

だが黒い人影から目が離せない、一瞬も空きを見せてはいけないと直感が訴える。


ルディは地面に降り立つ闇妖精の影に正面から対峙する、背後から襲いかかろうとベルが動くのが見えたからだ。

機会を合わせて前に出るだが闇妖精の影は横に跳んだ、その行き先に地面に片膝を付いたホンザがいた。

ルディは思わず警告していた。


「ホンザ殿!!」


だが闇妖精の影をアマンダが受け止めていた、一瞬の間で精霊力を爆発させたアマンダが闇妖精をさえぎり一撃を加えた。

アマンダは続く闇妖精姫の攻撃を更に受けとめる、それだけで十分だった、ベルが闇妖精の側面から刺突の体制で突っ込んできた、生身の人間が僅かな時間とは言え闇妖精姫と拮抗する事ができたのだから。

闇妖精は素晴らしい動きでベルを躱し反撃に転じようとしてそこで動きが止まった。


闇妖精の無貌の顔が足元を見ていた、地面から白銀に輝く腕が突き出し闇妖精の優美な足首を握りしめていた。

それを見逃すルディでは無い、次の瞬間力を解放すると一気に踏み込み『無銘の魔剣』を振り下ろし闇妖精を縦に両断した。


縦に分断された闇妖精の切り口から、うごめく黒い何かがお互いを探すようにうごめいた。

そこにアマンダが闇妖精の片割れに連撃を加える。

その直後に瘴気の爆発が起きた、ルディは液体の様に濃厚な瘴気の流れに叩きのめされ流された、闇の中で背中が何か硬い物にぶつかった。


洪水の濁流に耐える様に耐える、やがてそれも薄れ視界が回復してきた。



森は巨人を中心に破壊しつくされ、倒木すらも流され周囲に山積みになっている、中心部には大きな窪地が生まれ何も残っていなかった、そしてあの闇妖精の姿も見えない。


ルディは起き上がると仲間の姿を探した、どうやら全員無事でこちらに向かって来る、ベルとコッキーはすでに変異を解いていた。



『ルディガーよ、奴の姿が無いの』

ペンダントのアマリアが沈黙を破る。

「闇妖精は滅んだのか?」

『魂を魔界に追い返す事しかできぬ、闇妖精は肉体を復活させる手段を残して置くものじゃ、闇妖精との戦いは復活の手段を一つずつ潰していく戦いになる』

「きりがないな」

『じゃから高位の闇妖精の肉体を滅ぼす直前で止めて魂を現世に封印する方法が考案されたのよ、滅びなければ復活できぬこれは逆転の発想よ、だが今の儂らではそれは無理じゃ』

「聖霊教会の力が必要なのか?」

『そうじゃ聖霊教会に専門の部局があるのよ、破魔部隊が存在する』

ルディはおもわず目でアマンダの姿をとらえていた。

「やはり、やつも滅んだわけではないのだな」

『そうなるの、じゃが肉体を滅ぼされるとそれなりに回復に時間がかかる、特に高位の者ほどな、そして復活の手段は巧妙に隠してある』

「かまわんよ奴の動きを封じたならば、今度は不死の結界に対処するだけだ」


背後からリズの声が聞こえた。

「あたしにも何も感じられないよ、闇妖精の体は滅んだのかも」

彼女はかなり距離を確保していたのかローブも乱れていなかった。


集まって来た仲間たちは多少傷いていたが無事だった、だがホンザとアゼルに疲れが目立つ。


「セナ村に帰ろう、これだけの騒ぎを起こしたんだ人が集まってくる」

みなルディの意見に異議は無かった、まだ日が高いがこのまま何かをする気にはなれない、一度引き上げ次の行動を相談する事になった。





彼らが去ってしばらくした頃、大きな窪みの中心が崩れ大きな竪穴の口が開いた、その穴の中から美しい女性の姿が浮かび上がる、青白い油を塗った様な肌を太陽に照り光らせながら。

その姿とかけた大きな丸い遮光メガネが不釣り合いだ。


しばらく気持ち良さそうに宙を漂っていた、だが遠くから無数の蹄の音が聞こえてくるとその姿がかき消える。






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