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ラピスラズリの宝石

「ただいま」

セナ村の屋敷の裏口から勢いよくベルが駆け込んでくる、台所で朝食の準備を整えたばかりのコッキーが声の主に目を向けた。

「ホンザ、アマンダが来たから通れるようにして」

ベルは居間に向かって大声で呼びかけた。

「わかった・・・今通れるようにしたぞ、すぐに入ってきてもらいなさい」

居間からホンザの声が聞こえてくる、ベルはまた外に飛び出したがすぐに戻ってきた。


コッキーの視線はベルの後ろから入ってきた長身の美女に目を奪われた、ベルも背が高いが美女は更に背が高かい。

「あらコッキー、お久しぶりね」

微笑んで美しいエメラルドの瞳を(キラメ)かせた。

「えっ?アマンダさんその頭は」

「ふふ、黒く染めたのよ」


「あらいい匂いね」

アマンダは食卓の上に整った朝食に気づくと腰をかがめて検分を始めた。

「また食べるの?きてホンザに紹介するから」

スンスンと匂いを嗅いでいたアマンダをベルがせかして二人は台所から出ていってしまった。



居間にはすでにルディとアゼルそして老魔術師のホンザが寛いでいた、ルディは立ち上がるとアマンダにホンザを紹介するそして空いていたソファを指し示した。

「アマンダまずはそこに座ってくれ、長旅ご苦だった」

「ルディガー様お気遣い痛み入りますわ」

アマンダがソファーに落ち着くと、ルディがこの魔術陣地がホンザの手に寄るもので、彼のおかげで安全にハイネに潜伏する事ができている事から話した、アマンダはベルから説明されていたのか驚くことも無かった。

アマンダは丁重にホンザに礼を述べる、話を聞くとホンザがいる事は精霊通信で知っていたらしい、ベルは普段とは違うアマンダの態度に目を丸くする。


『お主が聖霊拳の上達者なのか、儂も数える程しか知らぬ、特に懇意にしていたわけではなかったからの』

少女の様な可憐な声だが年よりじみた言葉使いが不自然な声が聞こえてきた、アマンダの貌が闘う者の貌に変わる、謎の声がどこから聴こえてくるのか素早くその瞳が探りだす、そしてルディガーの胸に下げられたペンダントに目が釘付けになった、彼女の緑の宝石の様な瞳が強い眼光を放つ。


「アマリア殿戻られたのか?」

ルディが胸のペンダントを掴んで持ち上げた。

「アマリア?」

ルディの口から漏れてきた名前にアマンダは僅かに小首を傾げた。


「アマンダ様申し訳ありません、精霊通信では正確な状況を伝える事ができず直接お話しようと考えておりました、このお方は『偉大なる精霊魔女アマリア』様です」

アゼルが友であり主君であるルディに代わって説明する、ここからは自分の方が良いと考えたのだろう。


アマンダの顔が信じられない物を見たようにペンダントを見つめている、偉大なる精霊魔女アマリアの物語はすでに伝説になっていた、彼女の生死も不明でここ数十年その姿を表に現してはいない。

そして少女の様な可愛らしい音色だ、ルディのペンダントが伝説の精霊魔女アマリアと言われても困惑するだけだった、だがアマンダも気を取り直してすぐに姿勢を正した。


「貴方と殿下が私に嘘を言う理由がありません、これは本当の事なのですね、でもどう判断したら良いのかしら?」

『これは儂の作った魔術道具じゃよ、時空を越えはるか離れた場所に声を伝える事ができる、今だにそのような道具は作られておらぬ』

「そんな道具があれば革命が起きますわ」

『うむ察しが良いのお主、嫌いではないぞ』

アマリアの声は上機嫌だ。


「私から説明させていただきます」

アゼルはそれに応えてドルージュ要塞の廃墟から狭間の世界に渡り、そこでふたたびアマリアの塔に出向きこの通話用の魔術道具を借り受けた事を説明した。

「私が帰ってからすぐにそんな事が・・・」


アゼルに変わってルディがアマンダに問いかけた。

「ところでアラセナの方はどうなっている?アマンダ」

「ルディガー様、今のところは安定していますわ、ですがアウデンリートが私達のアラセナ占拠に気づくのは時間の問題だと父上達はお考えです、すでに気づいているかもしれません」

「国外の情勢が不安定だ、しばらくは知っていても手をださんだろう」

「殿下私もそう思いますわ、北の情勢が緊迫していますから」


「ねえサビーナ達は元気?」

アマンダは背後に立っていたベルを振り返ると微笑んだ、新市街の南の聖霊教会の修道女と子供達は危険なハイネからアラセナに逃した、彼らをアマンダがアラセナまで導いたのだ。


「心配しないで皆んな元気よ、街の管理者がいなかった聖霊教会を任せたのよ。

時々聖霊教会に様子を見に行ってるわ、私が行けない時はカルメラに様子を見てもらっているのよ」

どうやら彼らは無事に落ち着いたらしい。


「そうかサビーナ殿も元気か」

ルディもどこか安心したように笑った。


「ルディガー様、アラセナにおいでくださいませ」

アマンダが急に態度を改めると懇願するようにルディの目を見つめる。


『セザーレが敷いた死の結界があるかぎりテレーゼは呪われたままじゃよ、近々戦が始まる、奴の結界にまた力が加わる事になるやもしれぬな』

「そしてハイネには闇妖精がいる」

考え事をしていたアマンダが何かを思い出した様に顔を上げた。

「さては死の行進(アンデッドマーチ)


『そうじゃ聖霊教会が動くのではないか?アマンダよ聖霊拳の上達者ならばお主は聖霊教会の者なのか?』

その言葉を聞いたルディとアゼルの顔がわずかにこわばる、アマンダの後ろにいたベルはそれを見逃さなかった。


「僕は聖霊拳の使い手はアマンダしか知らなかったけど、聖霊拳の使い手は聖霊教会に属しているものなのアマリア?」

そのベルの疑問にルディとアゼルが困惑した。


『そうとは限らぬが、だが上達者の多くは聖霊教会に属する事が多いのじゃ、拳の聖女や拳の聖人と尊ばれる者もいる』

アマンダは心を定めた様子だ。

「私からお話しますわ、私には北の民の血が流れているのです、私の二つ名エルニアの赤い悪魔は私の髪の色から来ていますわ」

『黒く染めておったのか』


「はい北の民の血を引くものはそう珍しくもありません、ですが私の祖母はグディムカル帝国の貴族の出でユールの巫女でした、北の民の血を引いていても何代も経てば修道女や神父になる方も珍しくないのですが、まだ信用されていないのかもしれませんね」

『だいたい事情はわかった』


ベルはアマンダいやエステーベ家の事情に驚かされた、今まで気にした事などなかったからだ、だが燃え上がる赤毛に大柄で逞しい肉体のアマンダは言われてみれば北方世界の人々の特徴を示していた。

そして小柄なカルメラが北の民の血を引いていると聞いて驚いた、さっきユールの巫女の血と言っていたが、カルメラが魔術師の才能があったのも、アマンダが上達者になれた事と関係があるのだろうか。


「気にした事なんてなかった」

『エルニアじゃからの、あそこは良い意味でいい加減じゃ、お主のクラスタ家も西エスタニアから来たのではないか?』

「四百年前にエルニアに来たって聞いた事あるよ、森の神様の巫女と結ばれたって、その縁で狩猟感謝祭の祭事をしたり、大公家の狩猟場を管理してきたんだ」

「私の事は気にしないで、大きな声では言えないけど精霊達はそんな事気にしていないのよ、パルティナ十二神教もユール神教も根源が同じ存在を違う名で呼んでいるだけなんだから」

アマンダはどこか皮肉な笑みを浮かべている、それがアマンダらしく無かった。


その間を破るようにルディが続けた。

「アマリア殿、ベルよ、話を戻そう、例の闇妖精だがかなり上位の闇妖精の疑いがある」

『儂の見立てでは大貴族か王族ではないかの、闇妖精の討伐の記録を昔調べた事があっての、これと先日のハイネの大爆発から推測したのじゃよ』

「お話だけは聞いておりましたが、どれほどの爆発でしたか?」

アマンダはアゼルに顔を向けた。


「ええアマンダ様、私の見積もりですが、一撃で上位攻撃術の魔力総量の数十倍はありました、そしてこれが奴の限界とも思えません」

アゼルの説明にアマンダは愕然となった。

「そんな・・・それが事実なら聖戦になるわね」


そしてアマンダが改まった。

「ルディガー様、アラセナにおいでにはならないのですか?やはり御身が心配です」

彼女の声はどこか懇願の響きを帯びていた。


ルディは目を瞑って考え始めた。

「奴らと決着をつけないかぎりここを離れる事はできない、俺たち以外に奴らを倒せるだろうか?

俺たちがここに集まっている事自体、その神の器の意思ではないかと俺は考えている」

ルディは人差し指をベルに向ける、いや僅かにずれていた。


その指の先にコッキーがいた、いつのまにか小柄な美少女がそこに立っていた、彼女の胸にキズ一つ無い黄金のトランペットが黄金の輝きを放っている。


「何処にも行きません、私一人でもここに残って闘うのです、待っていてください」


コッキーは階段を駆け上るとすぐに戻って来た、彼女は何かを握りしめていた、そしてみなに手の中のペンダントを見せる。

それは星空の様な大きな蒼い宝石だった、だが残念な事に金の台座が焦げている、その場にいた者はその宝石が極めて上等なラピスラズリだと見抜いた。


「それは?」

ベルの声が上ずった、庶民が持てるような宝石ではないとベルにも理解できる、コッキーを除いてその宝石の価値が理解できた。


「お母さんの形見なのです、リネインが燃えた時に焦げました、結界のせいでみんなが死んだのなら敵を討ってそれを壊すのですよ!」

そして首から下げた黄金のトランペットに触れた。


彼女の美しい瞳はテレーゼの空のような色をしていた、蒼い瞳に黄金の光が星の様に煌めく。







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