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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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悪夢の始まり

 ゲーラの安宿の一室にピッポファミリーが集結していた、その宿の名は『ゲーラの首飾り』だった。

建物自体はそう悪くなかった帝国時代の様式を残した建築だ、薄汚れていたがその造りを見る者が見ればわかる、だが優雅な名前が恥じるぐらいに長い時をへて客質が低下してしまったのだ。


「あいつら、スキが無いわねー、簡単に魔剣だけ持ちだせるスキなんて無いわ」

どこか眠そうにテヘペロが椅子の背もたれに身を預ける、するとローブの前がはだけて大きな胸が存在を主張する。

「小娘は隙があれば無意識で行動しはじめるはずですぞ」


「しかしピッポよあの娘はどうなっているんだ?暗示をかけたのか?」

テオ=ブルースが小声で割り込んできた。


「暗示にかけたわけではありません、小娘を操る事ができる存在を憑依させ、それに命令を与えたのです、私の術は二段階になっておりましてね」

「魔術師でも無いのにそんな事ができるのか?」

「ピッポは魔術師では無いけど、錬金術師として精霊の制御に関わる研究に関わっていたのよ」

「残念ながら、わたしには幽界との通路を開く才能が無いようで、魔術師としての感受性があると言われてはいたのですがね、キヒヒ。

私は幽界の通路を開く方法を長い間探しているのです、残念ですが今だに目的は果たせていませんがね」


「なんとも俺には理解しがたい話だな」

テオ=ブルースが悩ましげに語った。


テヘペロが気に入らなさそうにテーブルの一角上を見つめている、そこには穴が開いておりその周りが黒く焦げていた。


ピッポは何か悩んでいるかのように見えたが再び話を続ける。


「私は、精霊を簡単に呼び出せる方法の研究に関わってきました、珍しくもない研究ですぞ?昔は簡単に呼び出せたので世界中でその研究をしています。

その中で召喚精霊を従えたり、命令を強制する仕組みの研究の協力をしておりましてね。

そこで思いついたんです、死霊術が人の霊魂を精霊の様に扱えるのなら、生きている人間も支配できるのではと」


「精霊召喚で使う触媒からある程度は近い事ができるところまでは行けましたが、禁忌とされ実験資料を奪われ呪いをかけられ追放されました」


「呪いとはなんすか?」

話に加われなかったジムが思わず口を開いた。

「それは私の知識を人に教える事、使うことができなくなる呪いですぞ」

「いや、使えている様に見えるが?」

マティアス=エローが疑問を呈した。

「ある事故で部分的に呪いが壊れましてね、イヒヒ」


「ところで小娘を操っているのは精霊とやらなのか?」

マティアス=エローが疑問を呈した。


「死霊です、精霊を使いたくとも私には幽界への通路を開く事ができません、もっとも人を操るには死霊の方が向いているのです、精霊憑きは世に知られていまして発見される危険が高すぎるのですよ」


一同は言葉を失った、テヘペロだけが心ここにあらずで何事か考えていた。


「死霊ならば初めから現世にいる奴なら召喚しなくても良いのよね?」

「それなら通路を開く必要はありませんからな」


「さて術をかけて二日目です、しだいに支配が強まって行く、これからが本番ですぞ、イヒヒ」








コッキーは誰かに手を引かれ街の中を走り続けていた、周囲は悲鳴と泣き声と怒声に溢れ、人々が逃げ惑っている。

「やつら町に火を付けやがった、逃げろ焼け死ぬぞ!!」

近くにいた誰かが叫びを上げた、その声音(コワネ)には恐怖がにじみ出ていた。


後ろを振り返ると、町の家並みが燃え始めている、炎が夜の闇を焦がし火の粉が群衆の上に降り注ぎ始め、それが群衆の混乱に拍車をかけた。


「コッキー絶対に手を離さないで!!」

「お父さんはどこなのです?」

幼い娘が母親に縋り付いた、娘が見上げるのはコッキーにとても似た美しい女性だった、髪の色は同じ薄い金髪で腰までの長髪だ。


「今は私達が生き残る事だけ考えて、お父さんはきっとご無事です!!」

炎は風に煽られ街の中に広がり家々を()め始めた。

母娘は群衆に揉まれ流されながらノロノロと東に向かっていく。


「東の城門に向かえ、そこから町の外に出るんだ!!」

どこからもなく叫び声が聞こえてくる。


東側にはリネイン城がある、そこの門だけが開け放たれていた。他の門は固く締め切られたままで逃げ場が無かった、もっとも開いていたとしても街は敵に包囲されていたので逃げようも無かったが。

「くそ西風だ!!」

「はやく動いて!!」

「もたもたするなー」


しだいに動揺が群衆に広がっていくそれが更に恐怖を煽る、群衆が争うように東門に殺到していく。

やがて恐慌状態の群衆に巻き込まれ揉まれている内にコッキーは母親の手を離してしまったのだ。


「お母さん、お母さん!!お母さん!!!」



『コッキー』




「コッキーどうしたの?」

コッキーが目を覚ました、その目の前にベルの顔があった。

全身が汗でじっとりと濡れている、そして涙までも。


「うなされていたよ?」


「夢でしたか、久しぶりに見てしまいましたです・・」

「嫌な夢だったんだね、無理に言わなくてもいいよ」

ベルは布でコッキーの顔から汗を拭いてやった。


「ベルさん、ありがとうです、もう大丈夫です」

コッキーは薄っすらと笑った。


「大丈夫みたいだね、まだ朝まで時間があるよ、眠れる?」

「はい、眠れそうです」

ベルは微笑んだ。


「じゃあ、おやすみ」

「おやすみですベルさん」


リネインが燃えたあの夜の夢を見たのは久しぶりでよ。

心の中でつぶやくと再びコッキーは眠りに落ちていった。



コッキーがなんとなく鼻がムズ痒くなり目が覚めた時、眼の前にベルの寝顔があった、ベルの鼻息がコッキーの顔にかかっていた。

窓の外は日の出前だが既に空は明るくなっている、彼女がベットから出て窓辺によると外は薄曇りだった。


今日は旅をしやすい天気になりそうですね。


ふと部屋の奥を見ると、反対側のベッドにルディが寝ている、その枕元に彼の剣が目に入った。

その瞬間コッキーの意識がいきなり暗転した。


彼女はその光を失った瞳のままその場にたたずんでいた。


『さあコッキー、その剣を持って早く部屋からでるのよ』


どこからともなく声が聞こえる、不思議とそれを変だとは感じなかった、それを自然に受け入れ当然の様に感じていた、感情が麻痺していた、頭も(モヤ)がかかったように何も考えられない、だが心の奥の何かが喜びを感じていた。


わかりましたです!!


コッキーはルディのベットに近づいていく、一歩二歩と。


その瞬間、部屋の中で鈴が鳴り響いた、コッキーの体がびくりと震えた。


「なんですか!?こんな朝から精霊通信ですか」

アゼルが起き出してた、彼はそのまま精霊通信盤に向かった。

「昨日連絡がないと思ったら朝くるとは」

少し忌々しげにつぶやく。


そしてその騒ぎでルディも起きはじめた。

「んん?コッキーか?もう起きていたのか」

「えっ!?ルディさんおはようございます」


今意識が跳んでいましたか?


「どうかしたか?顔色があまり良くないようだが」

「寝起きがあまり良くないのです」


「寝起と言えばベルだな、殺気や異常事態には機敏に反応するが普段はぐうたらなのだ、コッキー起こしてやってくれないか」


その間にアゼルが通信内容を整理したようだ。

「通信内容は『クライルズ婚姻』ですね、クライズ王国から婚姻話が来たと言うことでしょうか?」

「ルーベルト、殿下に婚姻話が来たのかもしれんな、アラティアとの婚姻よりは歓迎されるだろうな、後は大公妃がどう出るかだな」

「しかしエルニア諸侯もルーベルト殿下の継承自体に反対する者も特にいないのですから、そこは大公妃も引けば良いと思うのですが」

「まあそうなんだがな・・・」


ルディはアゼルに目配せをした、アゼルはコッキーを一瞥し話を打ち切った。

「エルニアの王子様が結婚ですか?おめでとうです」

「うむ、結婚ともなれば商売の機会なんだが残念だった」


ベルに近寄ったコッキーがうつ伏せに寝ているベルの両脇に手を差し伸べるとくすぐった。

「うーん、くすぐったい」

「ベルさん起きるのです!!」

ベルがベッドの上で(モダ)えてはじめた、だがまだ起きようとしない。


「ベル、朝飯を食べたら妖精の腰掛けによってからハイネに向かうぞ」

「朝ご飯!?」

ついにベルが半分寝ぼけたままもぞもぞと起き出した。

「皆んな今日少し早くない?」


「ベルさんがやっと起きましたよ」







一行は宿屋を後に街の中央広場を目指した、魔術道具屋『精霊の椅子』は一際目立つ建物だった。

童話の中に出てきそうな小さな塔で瀟洒(ショウシャ)な造りだ、店名の『精霊の椅子』と三角帽子の絵が描かれた看板が下がっている。


「あれが昔セザール=バシュレの弟子だった男が経営している店なんだな」

「そうです若旦那様」


アゼルがドアを開け中に入ると、魔術の触媒の独特の匂いが溢れ出る。

ベルは顔をしかめコッキーは堂々と指で鼻をつまんだ。


正面カウンターには昨日と同じに、老魔術師が店番をやっていた、やはり頭には看板の絵と同じ魔術師の黒い三角帽子を乗せている。


「おぬしは昨日のアゼル=メイシーだな、今日は店をあけたら一番か」

「おはようございますホンザさん」

「何か買い忘れたのか?」

「私の知人がセザール=バシュレについてお聞きしたいと申しまして」

「あんたは?」

そこで初めてホンザはアゼルの後ろにいる奇妙な組み合わせの集団に目をやった。


「エルニアのリエカの商人ルディ=ファルクラムだ、ホンザ殿」

「あ奴に何用かな?返答次第では何も教えんよ」

ルディ以外の三人に緊張が走る、ルディは一瞬目を瞑り、開いた時には決意を固めていた。


「俺は精霊魔女アマリアに会いたいのだ」


「な、なんじゃとお!!!」

ホンザは驚きの余り大声を上げてしまった。

アゼルもベルもいきなり直刀を叩き込みに行くとは予想していなかったので驚いていた。


コッキーがベルの耳に口を寄せて呟いた。

「すいませんベルさん、精霊魔女アマリアってどなたです?」

「とても偉い魔女なんだよ、これ以上は僕に聞かないで」


「精霊魔女アマリアに会ってどうするのだ」

「俺に関する精霊宣託の中身を知りたい」

「それは宣託主がお前以外の人間なのか?」

「そうだ」

「精霊宣託は契約に縛られている、契約によっては他者の精霊宣託の内容を知る事はできないぞ、高位の宣託ともなるとそんな事ができるのは精霊王・・・そう言う事か」


しばらく長い沈黙の後にホンザが口を開いた。


「お主にとって余程の問題なのだろうが、思いついても実行しようとする奴がいるとはのう」






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