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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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テレーゼで蠢く者共

 4人は急ぎ足で街道を西に進んでいた、二つの都市の中間地点に差し掛かり、周囲には人家も農地も見えない、だがかつてはこの近辺も豊かな田園地帯だったのだ。


「ベルさん達とまた一緒になって嬉しいです」

「ハイネまで一緒だね、ねえコッキー次のゲーラってどんな街なの?」

「リネインより小さな街ですよ、何度も通った事があるのです、ハイネと仲良くしていますね、昔は学問の街と呼ばれていたようですが、今は学校は廃墟になっているのです」


「あと交通の要所です、西に向かうとハイネ、南に向かうとド・ルージュの廃墟を通ってルビンに出ます、北に向かうとベントレーです」

「べントレーって戦争になっている処だっけ?」

「はい、たしかそのはずですが、ゲーラに行けば何かわかるかもしれませんよ」


一行の先頭を進むルディはエッベとの戦いを回想していた。


(思い出したぞ、エッベに感じたあの感覚、ラーゼで買ったあの奇妙なダガーに似ているのだ)


「ベル、ラーゼで買ったあの黒いダガーを覚えているか?」


「あれがどうかしたの?・・・・あっ!?」

「どうしました?私が預かっているあのダガーのことですか?」


コッキーは訳が分からないと言った顔で3人のやりとりを見ている。

アゼルは懐から魔法道具を入れる特殊な袋を取り出し、その中から黒いダガーを取り出した、ダガーは石綿を練り込んだ特殊な布で巻かれている。

その梱包をアゼルが解いていく。


(極僅かではあるが、エッベの異様な気配に似た物を感じるな)


「そうか、これだったんだな」

ベルもアゼルの手の上の黒いダガーを覗き込む。


「私にはほとんど何も感じる事ができません、感度に差があるのでしょうね」

アゼルが黒いダガーを繁々と観察している。


「その黒いダガーは魔法道具なのです?」

コッキーも興味ありげに覗き込んできた。

「私にもはっきりとした事はわかりません」

「アダムさん、ゲーラは昔は学問の街と呼ばれていたんですよ、昔なら調べられたかもしれないですね」

アゼルは誰の事かと戸惑ったが、すぐに自分の偽名と気がついた。


「テレーゼ王国時代は研究機関があったと記録にあります、今は封鎖されているはずです、あと中にはもう何もないでしょうね」

アゼルは黒いダガーを布で包み袋に入れ懐にしまい込んだ。


「価値の有るものがそのままなわけ無いよね」

それにベルが気楽に応じた。


「アゼルよ狂戦士とはなんなのだ?」

コッキーがふと頭を傾げた。


「魔術師の素質がある者とは精霊との感受性が強い者を指します、幽界との通路を作る事ができる才能がある者なのはご存知ですね?」

「その素質を持った人って少ないんでしょ?」

「ええ、500人に一人と言ったところですか、そして特定の家系に集まる傾向があります、エルニアではメーシー家につらなる者に特に多く生まれています」


「そしてその素質を持った者でも、精霊力の制御が難しく、精神や肉体を害してしまう者が現れます、これが狂戦士化する素質を持つ者なのです、これも魔術師の素質のある者の中から一定の割合で生まれます、ですが若い頃に素質を見出されて魔術師としての専門の訓練を受ければ殆ど回避できるのです、だが環境や運が悪いとあの男の様な末路を辿ります」


「じゃああいつも魔術師になれたかもしれないのか・・・」








エッベは衝動的に走り続けていた、最近意識が遠くなる時間が増えているのを自覚していた、怒りと憎しみに塗りつぶされ何も考える事ができない時間が増えている、だが今は恐怖にかられて逃げていた、あの剣を持つあの男から。

なぜ逃げているのかすら良くわからず、逃げ出したいと言う本能だけで逃げ出したのだ。


最近は物覚えが悪くなり、言葉も面倒になった。


(どうなっているんだ・・・おれは・・・)


だが、消して忘れる事のできない者達がいる、一人は黒い帽子に丸い金縁の黒い遮光メガネに長い顎髭と無精髭の男、そいつがエッベを嘲り嗤う。


もう一人は黒ずくめのローブに顔を見せた事がない、カサついた耳障りな声を立てる男の姿を鮮明に思い出した、その男にとってエッベは物以下の存在でしかなかった。

彼らの姿は強い憎悪の感情と共に甦る。


(殺してやる、ころしてやる、ころ、ころす・・・)


エッベは彼らこそが全ての元凶だと知っていた、エッベからふたたび異様な気が噴出する、そして空に向って咆哮を上げた。


周辺の森の鳥の群れが恐怖にかられ一斉に飛びたった。


そしてまた闇雲に走り始める、なぜか遠くから呼ぶような何かを感じる、そこに向って闇雲に走り続けるのだ。


「ヒィイイイーー」


森で猟をしていた男が、森の中を異常な速度で走り抜ける大男を目撃し腰を抜した、エッベの表情は正視に耐えられぬ異様な物だったのだから。









テレーゼの南西の端にある旧アラセナ伯領、そのアラセナ城の現在の主であるセルディオ=コレオリの前にオルビア王国の密使が訪れていた。


アラセナ盆地は守るに易く守るに堅い天然の要塞だ、北のラーゼ同様に近年まで比較的安定していたが、アラセナ伯爵が家臣に弑逆されてから不安定化した。

そしてアラセナ伯を僭称していた家臣を倒したのがこの傭兵隊長のセルディオ=コレオリだった。

だが統率力に難のあるセルディオから部下が離反し、今やアラセナは3つに別れ内戦状態に陥っている。


「アマデオ殿、あの屑どもとの話は纏まっているのか?」


(こんな事だから部下が離反するのだ)


「セルディオ様、現在和睦の話を進めているのですから、お言葉には気をつけてくださらないと困ります」

「ああ、わかったよ、でどのような状況なんだ?」


「オレノ様、ジョス様共にオルビア王国が和睦の証人として入るのであれば和睦を受けられるそうです、ですが条件がありまして」

オレノとジョスはセルディオの部下の傭兵隊長だった男達で、それぞれ500名近い兵を擁してアラセナ各地を占領している。


「どのような条件だ?」

「和睦を行う場所でございます、お三方の勢力のそれぞれの接点に近いこの村で行う事を要求してきました」

アマデオは地図の一箇所を指し示した、そこはアラセナ盆地のほぼ中央の村だった、この城からも比較的近い村だ。

「そこならばこの城でいいだろ?」


「オレノ様、ジョス様共に、それぞれ同数の兵を出し会談を行う事を要求されています」

この事からいかにお互いに信用していないかが理解できる、一年前までは同僚であり部下と上司であったと言うのに。


「まあ、会談の場所程度の条件ならばかまわんだろう」

セルディオ=コレオリは後ろに立っている副官の男を見やった。


副官の男が一歩前に出てセルディオに報告する。

「まもなくオルビア王国から宰相様の名代が来られるはずです、その御方が和睦の証人兼立会人となります」


セルディオは副官の男に目配せした。

「ジョゼフ、細かいところはアマデオ殿と話を進めてくれ、まかせたぞ」

「おまかせください隊長殿」


アマデオとジョゼフは謁見室から退去し会議室に向かう。


「俺もこれで本物のご領主様だ」


セルディオ=コレオリは豪華な椅子の上でニヤケ顔で独り言を呟いた。





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