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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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盗賊団の崩壊

 その異様な力の波動は大男から噴出していた、ルディは迷わず背嚢(ハイノウ)から魔剣を鞘ごと抜き取る。

「エッベどうしたんだよ?」


コームが叫んだ、その叫びから怯えた響きがあった、だがエッベは何も答えない、エッベは白目を向き口から泡の様な物を吹き出していた。

そしてエッベが再び野獣のような咆哮(ホウコウ)を上げる。


「なんなんだよ?こいつら化物だ、もう嫌だこんな処にいられるか!!」

「死にたくない・・・俺はまだ死にたくないぃいい!!」

エッベの近くにいた盗賊達の士気が崩壊し逃げる様に散り始める。

「お前らまたんかー」

コームの叫びに聞く耳を持つ者はいなかった。


ベルは背後で大きくなっていく異様な気配を感じて更に足を速める。

「ベル、はやく来い!!」

だが二人を抱えたベルは思うように早く走れない、幸いな事にルディとエッベの間にいた盗賊たちが逃げ出したので邪魔者は消えていた。

ルディとアゼルが動きベルとの合流を急いぐ。


そこでベルはもう良いだろうと立ち止まり、エッベを振り返り見てしまった、エッベは白目を向き口から泡を吹き出している。


「うわっ!!ルディこいつヤバイ」

「ヒィ!!」

ベルが抱えていた母親がエッベを見て気を失ったのを感じた。


「あれはなんだ?アゼルよ何かわかるか?」

「殿下、奴は狂戦士かもしれません・・・ですがこの異様なオドはなんでしょうか?狂戦士特有のものなのかは解りませんが、今は分析している暇は無いようですよ」

そこにエッベは咆哮を上げながらベルを追いかけて突進してきた。


ルディが魔剣を抜きエッベを迎撃するために前に出る。

金属が打ち合う音が鳴り響き、魔剣がエッベの大鉈(オオナタ)に半ばまで食い込んだ、鉄を切り裂く魔剣も肉厚の大鉈(オオナタ)を分断するまでには至らなかったようだ。


「みろよ!!なんだよあの剣!?」

これで残っていた盗賊までもが浮足立ち始めた。


ベルは二人の人質を降ろし、グラディウスを抜き放ち、ルディの背後の盗賊達を威圧した。

彼女に向って矢を射た者がいたがそれを剣で無造作になぎ払う。


「駄目だ!!あんな(オンナ)と戦えるかよ!!」

「俺はこの仕事が終わったら足を洗って彼女と結婚する予定だったんだ!!こんな処で死ねるかよ!!」

残っていた盗賊達がすべて逃げ出し始める。


「お前らどこにいく!?くそ!!この借りは必ず返させてもらうからな、おぼえていやがれ!!」

こうなると首領のコームも逃げ出すしか無かった。


鍔迫り合いになったルディはエッベの表情に不審を感じた、その狂気の中に僅かながら理性が戻っていたからだ、ルディの魔剣を見つめる目から僅かな怯えすら感じとれた、そしてあの異様な力が眼の前の大男から消えかけている。


エッベはそれでもルディの剣を破壊すべく大鉈(オオナタ)をひねる、だが魔剣はこの世の金属を越えた物質で形成されていた折れる物ではない、そしてルディの剛力はエッベを上回っていた。

剣は大鉈(オオナタ)から引き抜かれ二人は再び間合いを保つ。


自由になったベルはエッベの側面に回り込もうとしていた、そしてアゼルはルディの後方から魔術の準備を整える。


再びエッベから得体の知れない力が発散され始めていた、だがルディの予想を裏切りエッベは何事か喚き散らしながら逃げ始める、その喚き声はもはや人語を成していなかった。

「逃げるものは追わずだが、奴は殺しておいた方が良かったのか?」

その僅かな躊躇(チュウチョ)がエッベにトドメを刺す機会を逃してしまった。


怒りと興奮のあまり言葉にならなかったのか?そこにいる者達に理解できなかったのは幸いだったかもしれない、何かの呪詛(ジュソ)か怒りのような言葉は例えようのない狂気を孕んでいた、それはグリンプフィエルの猟犬との戦いの時に聞いた異界の言語のような叫びだった。


ベルの背筋に悪寒が走る。


エッベはその巨体からは信じられない人間の限界を越えた速度で南の方向に逃げ去って行く。


「あいつ速いぞ!?」

「前もすぐに逃げ出しましたね」






ルディとアゼルは人質になっていた母子を街道近くにいた旅人の元に送り届けてやった、アゼルは怪我人に下位の治癒魔術を施してやる。

街道上で放棄された馬車の近くで倒れていた旅人や護衛は総て死んでいた、アベルが魔術で地面に穴を開ける、商隊の生き残り達が価値のある物品と形見の品を回収し、犠牲者の屍体を穴に入れて行く。


彼らは動かせそうな馬車と馬を集め商隊を再編成し回収できそうな積荷を集め始める。


そこにベルが蹴り倒した盗賊達を革紐でしばり上げて運んできた。

小間使いの少女が3人の大の男を纏めて担ぎ上げて運んで来る姿は異様だった、旅人達はそれを恐れの混じった表情で見つめていた。


「あの三人か?気絶していたのか?」

「うん」


捕虜となった盗賊共はルディ達を恐れていたが、脅しあげるといろいろ話し始めた、あの大男の名前はエッベで数日前から彼らの本拠に乗り込み、盗賊団を乗っ取っていたようだ。

かれらはエッベの事を殆ど知らなかったが、首領のコームはエッベと面識があった様だと話した。

彼らからは大した情報は得られなかった。


次第に他の方向に逃げていた旅行者や商隊の者が戻ってきた、彼らは一度リネインに引き揚げる事になったので、捕縛した盗賊団の生き残りを彼らに預ける事にする。


「最近戦が多くてね、リネイン軍は盗賊の討伐ができなかったんだ、だから街道の治安が悪くなっているのさ」

「ありがとうよ、あんたらのお蔭で積荷の殆どを回収できた、とりあえずリネインに引き揚げるつもりだよ」

生き残りの者達は礼をいいながら東に引き返していった。


「我々も先に進みますか?」

「そうだな」


そこに遠くからルディ達を呼ぶ声が聞こえてきた、街道の東から一人の少女がこちらに向って走ってくる。


「あれはコッキーじゃないか」

「ベルさんルディさん、まってくださーい」

次第にはっきりと彼女の声を聞き分ける事ができる様になってきた。


コッキーがベル達に追いついた時には、コッキーはかなり息を切らしている。

「はあ、はあ、とても疲れましたです」


「コッキー?ここまで一人で来たの?」

「えっ?孤児院の仕事が残っていて、街を出るのが少し遅れましたです、納期がある仕事があるので遅らせる事はできません、先に出た人に追いつこうと急いで来たのです」

「そうなんだ」

「ハイネまでご一緒して良いでしょうか?」


それにルディが答えた。

「まあ、かまわんぞ?一緒に行こう」

「えへへ、ルディさんありがとです」


四人はハイネに向って再び歩き始めた、まずは城塞都市ゲーラを目指しそこで一泊、その翌日にハイネに至る。


やがてリネインから怪異の力を持った旅人が盗賊共を成敗したと言う噂が広がり始める事になるのだが、それはまだ先の話だった。








「隠蔽を解除するわよ、もう楽にしていいわ」

それはテヘペロの声だ、だが姿は何処にも見えない、その瞬間五人の男女が忽然と街道脇に姿を表した。


「しかし凄い魔法だなテヘペロ」

テオ=ブルースは率直に感心した、彼の仕事柄この魔法の有用性が良くわかるのだ。

「これは中位の隠蔽魔法よ簡単には使わないわね、触媒が特殊で高いのよ」


「おかげで、いろいろ面白い見ものを見る事ができましたぞ」

「ほんと、あいつらやばいわね、魔法が効くのかしら?」


それにマティアス=エローが答える。

「あの男、女性一人を20メートル以上ぶん投げてたぞ」

「いやもっと飛ばしてますよあれ」

ジム=ロジャーは表情がわかりにくいが、その声からは呆れた様子が伺える。


「あの女も人質の親子を脇に抱えて走っていたな」

テオ=ブルースは苦いものを噛んだような顔になっていた。


「キヒヒ、想像以上の化物ですぞ?まともにやり合わなくて正解でした」


「一応人質が効くかもしれないとコームにアドバイスしたが、小細工でどうにかなる相手では無かったよな」

マティアス=エローが少し遠い目で補足する。


(アネ)さんエッベが狂戦士て話ですがどうです?」

「ああ、あいつは確かに狂戦士だわ、私もお目にかかるのは初めてだけどね、解らないのがあの二人なのよ、魔法の身体強化に似ているけど何かが違うのよね、もっと近くなら何かわかるかもしれないけどねえ」

テヘペロの目には魔術師らしい好奇心に満ちた光があった。


(アネ)さん、あの魔法使いの方はどうでした?」

「アイツね、中位魔法を一回使っていたから、中位以上なのは間違いないわね、結構戦い慣れていそう」

「まだ未知数というわけですな、ヒヒ」

「下位魔法をかなり使っていたから、最低でも中位魔法を2回以上使えるわね」


「さて我々もそろそろ進みましょうぞ」


「あーあ、めんどくさいわねー」






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