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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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騒乱の予兆

 イルニア公国の公都アウデンリート、その中心に大公家の居城が聳え立つ、ルディガーの謀反事件から一週間が経過し城内は落ち着きを取り戻したが、エルニア国内では次に起きるであろう事態を予感し緊張感が高まりつつあった。

そしてバーレムの森を捜索していた部隊からの情報が徐々に公都に集約され始めていた。


宰相執務室の隣の会議室にエルニアの首脳部が集まっている。


「この地図を見たまえ、宰相閣下の手の者が壊滅したのがこの地点、ボルトの町から北西の方角だ、ボルトからエドナを越えてテレーゼに向かう最短ルートならば真西に進む、ここは旧街道の跡が残っているからテレーゼに進みやすいだろう」

テーブルに広げられた大きなエルニア公国の地図を棒で指し示すのは、軍務庁長官のクルト=ヘーゲル男爵だ。


「そしてグリンプフィエルの猟犬との交戦場所がここだ、やはりボルトからおおまかに北西の位置にある、明らかにこの方向に謀反人は向かっている、そしてエドナの鼻で焼け落ちた山小屋の跡が見つかっている、ごく最近焼けたと思われるそうだ」


エルニア公国宰相ギスラン=ルマニクは己が抜擢した武官を一瞥すると。

「謀反人ルディガーの生死は確定していないが、グリンプフィエルの猟犬の自爆から生き残り、国外に脱出した可能性が高いとすべきだな、だが生存を公表するわけにはいかぬ」


「しかし、彼らはどこに向かっているのだ?」

クルト=ヘーゲルが再び棒で地図を叩く。

「テレーゼの北西のラーゼか、その北のグティムカル帝国だな」


エルニア公国総務庁長官のヴェンデル=ヘルトが意見を述べる。

「閣下、生死不明のままでは問題が多すぎます、死亡したと公表すべきです、どこかで名乗り出てきた場合は偽物で押し通す、敵対勢力の旗印に担ぎ上げられる事だけは避けねば成りません」


ギスラン=ルマニクがそこで言葉を挟んできた。

「エルニアの敵に利用されるのを恐れるが、その様な国は今のところ南のクライルズ王国だけだ、だがそれは既に手を打ってある」


法務庁長官のオイゲン=アルムスターが応じた。

「宰相閣下、例の話ですかな?」

「そうだ、そろそろクライルズの使節団に関する報告が来る頃合いなんだがな」


オイゲンが苦笑いを浮かべながら話を継いだ。

「大公妃様がつまらぬ野心を捨てていただければエルニアは盤石になるのですが」

「周辺諸国に対して万全の体制を確保してから、国内の難題に手を付けたい」

その場にいたもの達は皆頷いている。


そしてギスランは決断を降した。

「やむなし、謀反人ルディガーはバーレムの森で死亡したと公布しよう」

総務庁長官のヴェンデルがそれに答える。

(ツカマツ)りました、公布の詳細はこちらにお任せ下さい」


「ああ、では本日の閣議はこれで閉会といたそうか」


そこに魔導庁長官のイザク=クラウスが割り込んだ。


「報告が遅れましたが、グリンプフィエルの猟犬が自爆してしまいましたが、それでもかなりの量の精霊変性物質を回収できました、価値としては180000アルビィン程になると判明しました」

「それはまた凄まじいな」


その場にいた者達はその価値に感嘆するだけだった。











エルニアの南に広がる広大なクラビエ湖沼地帯、その自由開拓村の一つにクラスタ家の本拠が置かれている、その村の館に当主ブラスとクラスタの重臣達が集まっていた。


「どうだリコ物資の集積状況は?」

「ほぼ必要量集まりましたが、油の入手に難渋しています」

「わかった」


クラスタ家はエルニアの有力豪族で家臣の数こそ500名を越えるが、その中で戦えるのは350名程度だった、農兵を徴募すると1000名を優に越える動員が可能だったが、その様な事態はここ50年の間まったく起きていない。

現在エルニア本国の本領と分断されていて状況は決して良くは無いはずだが、館に悲壮な空気はまったくなかった。


「サカリアスよエミディオとの連絡は?」

クラスタの密偵頭を努めているサカリアスが進み出てきた。

「今のところ連絡体制に不備はありません」

「連絡は密にな」


定例会議は終わり家臣達は解散していく。



ブラスはソファから立ち上がり館の私室に向かう。


「あなた」

ブラスの妻のアナベルが後ろから声をかけてきた。

「なんだ?」


「貴方は本気なのですね?」

「ん?ああ本気だぞ?今の俺はエルニア大公の家臣ではないのでな、好きな様にやらせてもらう」

「ギスラン様に勝てるのかしら?」


「ギスランはデギオン様が見出した能吏だ、大いにエルニアの為に貢献してきたが、だが奴はアルムト帝国産まれ故に見えぬ死角がある、エルニア人とは何者なのかそれを思い知らせてやるつもりよ」

ブラスは不敵に笑った、先代大公が生きていれば野獣を野に放ったと嘆いたかもしれない。

「うふふ、そこに正義はお有りですか?」


「奴らは二年前のベルの神隠しの件で言いがかりのように爵位を取り上げた、そしてルディガー殿下の謀反を捏造したあげくクラスタの領地までも取り上げようとしている、だがこのまま奴らの思い通りにはさせんさ」

そのブラスからは言葉とは裏腹に悲壮感など無かった。

「今の貴方はとても生き生きとされていますのね」


アナベルはそのブラスに改めて見惚れた。


(何もなければ、平凡な御領主様で終わったかもしれないお方なのに、なにか楽しくなってきましたわね)


「父上、ベルサーレ姉さまの事は何か解らないのですか?」

そこに少年が現れた、身長はベルと同じ程だろうか、黒い髪に金色の瞳が目立つ、容姿は美少年と言って良い、ベルとは髪の色以外似ていなかった、その容姿は母親のアナベルに良く似ていた。


「ミゲルか、そんなにベルが心配なのか?アマンダが戻れば詳しい話を聞けるさ」


更にそのミゲルの後から幼い少女が現れた。

クルミ色の薄いブラウンの髪と、蒼い瞳がとても目立つ美しい少女だ、顔の形はアナベルに似ていたが、目や鼻筋は父親のブラスやベルを思わせる娘だった。


「おねえたまはもりにすんでいるのです」

「もうお姉さまは森には居ないんだよ、ルディガー様と旅に出たんだ」

ミゲルが幼い妹を諭した。


「わたしもたびをしたい!!」

「駄目だよ?」

「いや~~ん」


「セリアお嬢様、わがままはお辞めください、旅に出るのは無理でございますよ?」

その後ろからクラスタ家のセリア付きのメイドが追いかけてきた。

「エルバのいじわる」




ブラスは家族の賑やかなやり取りを横目に窓からクラビエの風景を見やる。

(ここも干拓が進めば素晴らしい農地になるのだが、今はそれを考える時ではないか・・・)


「この二年間準備をしてきたが、時間が経つにつれジリ貧になる、速やかに動かねばならぬな」

ブラスは一人窓の外を眺めならが一人呟いた。









ベルとアマルダが再会を祝い楽しい昼食を楽しんでいたころ、聖霊教会前の群衆の中でルディとアゼルは人の波に揉まれていた。

「エリザベス私から離れないように」

『キキッ』


隣で父親に肩車されたいた子供がエリザを見て喜んだ。

「なあに、これ?」

「ん?なんだ!?猿と言う生き物じゃあないか?」


「ええ、これはエルニアエドナ猿と呼ばれる小型の猿ですよ」

アゼルは子供に猿を見せてやった。

「ふーん」


『ウキッ』


聖霊教会の中からは聖女と修道女達の聖霊讃歌が聞こえてくる、儀式は佳境に入っているようだ。


「俺も驚いたぞ、聖霊宣託の送迎団から行方不明者が出ていた事をお前の話で思い出した、それが今の聖女になっていたとはな、しかしアゼルよこれでは彼女と話す機会を作るのは厳しいようだな」

「ええわかっていました、リネイン伯と聖霊教会の警備が厳しいですね」

「話をしたい事もありますが、一度は死んだと思っていた方です、いずれ必ず機会を作ります、今はやらなければならない事があります・・・」


「そろそろ動きましょうか?」

「ああ、そろそろアマンダがこの街に来る頃か」


「しかし私はアマンダ様が直々に来るとは思っていませんでした」

「単なる連絡役では無いと言う事だ、何を話に来るかは予想がついている」

「お戻りになられるように言ってきますね」


「ああ、しかし混雑して動きにくいな、ベルのように屋根の上を移動したいものだ、しかしベルは屋根の上で何をやっていたんだ?」

「屋根の上で退屈そうにしていたので不安を感じました、もうどこかに遊びに行ったようですね、彼女よりエリザベスの方が余程落ち着きがありますよ」

「そうかもしれんな、はは」

ルディは快活に笑った。


『キキッ』


「宿に戻りアマンダとの合流を考えよう」





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