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終焉の地

調査団は昼に休憩した洞窟の分岐点に引き返した、結局下に降りられそうな通路が見つからなかったのだ。

エルヴィスは先頭をラウルに任せて後ろから調査団を観察する事にした、偉大な発見は心を踊らせ素晴らしい財宝の期待は士気を上げる、だが人の想像を絶する驚異に遭遇した時どうなるのか?それがエルヴィスの懸念だった。


エルヴィスチームは怪異に慣れていたが、親方のいつにない硬い表情を見ると、彼だからこそあの地下の世界の異常さが理解できるのだろう。

親方は何か考込むように歩き続けていた、他の職人達も放心したように歩いて行く。


「ミロン君!!古代文明の生きている遺跡を見つけるなんて、ここまで来たかいがあったものだよ」

アンソニー先生だけが元気一杯だった、ミロンが苦笑しながらそれをいなしていた。

しかしミロンは何時ものように人当たり良く微笑んでいる、彼はあの光景に動じた様にも見えない、彼が考古学者の端くれならばもう少し反応があってもおかしくないのではないか?


それに引き換え傭兵達や下働きの者達は動揺していた、彼らは報酬を放り投げても逃げしたい欲求にかられているのが後ろ姿からもまるわかりだ。

バーナビーやアームストロング隊長に彼らの脱走に注意を払うように言うべきだろうか、傭兵達が逃げ出して砦の野営地のラクダが強奪されると厄介な事になる。


それにしてもザカライアもヤロミールもあの洞窟の光景に驚いていたが落ち着いている、それはアームストロングやスザンナも同じだ。

スザンナは始めからすべて知っていたのではないのかと疑うべきだ、聖霊拳の上達者に関する噂が真実ならスザンナ一人でこの調査団を壊滅させる事ができるかもしれない。

聖霊拳の上達者がここにいる理由があるはずだ。


分岐点に戻ったところで先頭のラウルの元に急いで向かう。

「ラウル今から探索する時間は無いぜ、少し時間があるが今日はここで引き上げよう」

ラウルが告時機を取り出し時間を確認するとうなずく。


「そうだな、何かを始めるには遅すぎるか、俺も賛成だ」

エルヴィスが調査団全員を見渡して帰還を宣言した。

「皆んなごくろーさん、今日は早めに帰って休もう」


それに不満を述べる者は誰もいなかった、むしろあからさまな安堵の空気が広がって行く。




そして調査団が神殿の門からようやく外に出た時、外はすでに暗く成り始めていた、アンナプルナの山並みに陽の光が隠されてここは暗くなるのが早かった。

それでもみんな伸びをすると洞窟から解放されて饒舌になった、やはり地下の閉じられた空間の中にいるのは負担も大きいのだろう。

野営地の留守番をしていた荷役人(ポーター)達が出迎えてくれた、そこに例の三人組もいる、ケビンとリーノ少年は倒木を集めそれを細かく鋸で切断している処だった。

すでに留守番の下働きの男たちが夕食の準備に忙しく立ち働いていた。


背後に再び力が集まるのを感じた、この感覚はシーリの魔術行使に依るものだった、魔術師の術の行使は属性や個性で差が出る、感受性の高い者は慣れてくると誰が術を使おうとしているか感じ分ける事ができた。

彼女が神殿の口に魔術結界を張り封印を施したのだろう。


「エルヴィスさんどうでした?」

天幕に近づくとケビンが作業の手を休めて駆け寄ってきた、リーノは遠くからこちらを見ているだけだ。

エルヴィスは少年を一瞥してから視線を戻す。


「いろいろ見つけた、詳しい話はあとだ」

エルヴィスはケビンを適当にあしらうと天幕に入ると座り込んだ、そこに続々と仲間達が入ってくる。


「地図を見せてくれ」

エルヴィスが求めると地図職人が地図の素描を描き込んだ地図を敷布の上に広げた、そこに神殿と湖を記した地図を並べる。

地図職人が地下の洞窟の位置を推測しながら地図に洞窟を描き込んでいく、エルヴィスチームの幹部は身を乗り出してその地図に魅入っていた。


その地図を見るとあの輝く地下の大空間はあの湖の東側の地下深くにある、なぜあの空間が保たれているのか理解に苦しむ。

あの空洞は自然の洞窟なのだろうか?


「親方、あの光のある空間は自然のものなのか?」

「お前もそう思ったか」

親方は地図から目を上げるとこちらを見返してきた。

「自然の物ならとっくに水没しておる」

「であるな」

それに用心棒が賛同のつぶやきを漏らした。


「親方、あれは古代文明人が作ったのか?」

「エルヴィス、古代文明が滅んだ伝説を聞いた事はあるよな?」

エルヴィスは仕事柄その手の伝説には詳しくなっていた、当然の様に答えた。

「いろいろな話があるが、妖精族の一部が魔界の神々と結びこちらに道を開いた、それをきっかけに幽界と魔界の神々の戦いが始まり、古代文明は滅び妖精族は堕落し魔界に生きたまま落とされただっけか?」

「そんなところだが、世界の理に反逆した妖精族が追い詰められ最後にたて籠もったのがアンナプルナ山脈だと言われておってな」

「あれがそのたて籠もった場所だと?」


「まだ結論は出せないが、あれを見た時にその話を思い出したのさ、戦いは幽界の神々が更に上位世界の支援を受けて勝利したと伝えられておる」

「まああれを調査すればわかるさ親方」

「そうだったな」

親方は苦く笑った、新しい何かを発見する度に歓喜した親方が今回は畏怖や恐怖すら感じている様に思えた。


今度は話題を変える為にラウルを見た。

「ラウル傭兵共が動揺している」

「俺も感じたぜ隊長に警告が必要か?」

「隊長は把握している奴は優秀な男だ、ところでシーリ達はどうだった」

俺は用心棒に視線を転じた、彼が午後はシーリ達がいた偵察隊の指揮をとっていたのだ。


「三人ともおどろくべき冷静さだ、無神経なのか太いのかはわからぬ、特にスザンナは只者ではない」


エルヴィスは悩んだ、スザンナが聖霊拳の上達者で聖霊教の聖女である事を教えるべきなのか悩む。

だが幹部達には話しておくべき事だと決めた。

天幕の周囲に意識をめぐらす、そばに聞き耳を立てている者はいない。

他言無用と断ってから、スザンナが聖霊拳の上達者で聖霊教の聖女である事を打ち明けた。


だが皆の反応は予想外に鈍い。


「聖霊拳の使い手の聖女様なんていたのか?」

それがラウルの率直な反応だった、エルヴィスも同じだから笑えはしない。


その疑問にやはり親方が答えてくれた。

「たしかに珍しいが、過去にはいた事もあるんだラウル」

「我は聖霊教会に特殊な役割を果たす部門があると噂に聞いた、聖霊拳の上達者が重要な役割を果たしていると」

それは用心棒の声だ。


「本気にした事は無かったが、俺も聖霊教会に禁忌を犯した組織や魔術師この世ならざる者を討つ為の組織があると聞いたことがある」

それは仕事をしていく中で冗談交じりの会話の中から得た知識だった。

「あまり表には出ないが聖霊拳の聖女様はいるのだ、神々の尖兵としての役割を果たす、しかしスザンナが聖女様とはな」

親方が最後に笑った、あの頑健な筋肉の固まりの様な彼女は聖女の印象からあまりにもかけ離れていた、それに釣られてエルヴィスも苦笑する。

そしてエルヴィスはスザンナがシーリを霊媒体質と言っていた事を失念していた、あまりにも経験した事が多すぎたからだ。


「食事の用意ができました」

ケビンが天幕の外から呼びかけてくる。


「まあ食おうぜ」

エルヴィスの合図で全員立ち上がるとゾロゾロと天幕の外に出ていく、やがて入り口が閉じられた、天幕の中は朧気なランプの灯りで照らされているだけだ。

するとラウルが戻ってくるとランプの火を消した。

「おっとやべえな」

彼は一言漏らすと天幕の外に出ていった、天幕の中は真っ暗闇に閉ざされた。






食事の後は本部の天幕の前で定例会議が開かれた、アンソニー先生が遺跡に関して独演会を始めかけたのでエルヴィスはすかさず割り込む、講演会なら全てが終わった後でペンタビアに帰ってからやってもらいたい。

エルヴィスは会議の議題を明日以降の調査方針に戻した、そして未探索の大洞窟を調べ下の大空洞に降りるルートの開拓を方針として示す。

やる事は今日と変わらない焦らず偵察を出しながら安全を確保し進むだけだ。


今日は会議に地図職人を招いていた、彼が地上の湖と大空洞の位置関係を説明すると感嘆の言葉が上がる。

異論も出ないので明日以降の方針がこれで固まる、これで今日の会議の主な目的は終わった。



「実は俺たちの中から、古代文明の滅亡期に妖精族が最後に立て籠もった場所ではないかと仮説が出ている、これに関して意見を聞かせてほしい」

アンソニー先生がさっそく反応したこれは予想通り。


「そうだね、可能性は無いとは言い切れない、古代文明はエスタニア大陸全体に広がっていた、もしかするとナサティア全体に広がっていたかもしれない、僻地の遺跡ほど状態がいいから勘違いされるけどね、文明の中心はやはり肥沃な地にあったんだ」


「聖域を祀る神殿ぐらいならともかく、こんな処で大規模な工事をする理由がないと?」

「その通りだよ、もっと詳しく調べれば理由が見つかるかもしれないけどね」

「ありがとう先生、ほかに意見のある方はいるかい?」


「闇王国の者達は古代文明の遺跡を利用しただけだった、もうその認識で良いな?」

ザカライア教授が全員を見渡した、エルヴィスはそろそろ議長役をザカライアに譲った方が良いと思い始めていた。

「教授ここからの議論の纏めをお願いします」

ザカライアは少し驚いたがそれを受け入れた、他の者達も異論を挟みようもない。

エルヴィスはバーナビーを見たが彼は腕を組み考え込んでいる、特に彼から異論はでなかかった。


その後は学術的な話題と考察に移ったがやはり闇王国の者達が何を隠そうとしたかに話は戻る。

そろそろ会議の終わる時間だと判断したエルヴィスは挙手をして発言を求めると、面倒くさそうにザカライアはエルヴィスを指名した。


「これ以上は調査の進展しだいだと思います、どうでしょうか?」


エルヴィスが空を見る仕草をした、空は満天の眩しいほどに光り輝く星に埋め尽くされていた。

ザカライアが閉会の時間と気づいたのかそこで会議は終わった。






会議が終わって野営地も次第に静かになって行く、シーリ達の天幕の外でスザンナが今日最後の仕事をしていた。

そのスザンナに天幕から離れた場所から手招きをする、すると彼女もそれに気づいた様だ、スザンナが苦笑いをしながらこちらにやって来る。

「あの娘はもう寝たよ、起こす気はないね」

「いやあんたに用があるんだ」

「ほういったいなんだい?」

少し驚いた様な俺が何を言い出すか期待するような目で見てくる。


「あんたは何を知ってるんだ、何が目的なんだ、俺の仲間の安全とそれに・・それが守られるならあんたに協力しても良いと思ってる」


「そうさね私が聖霊教の聖女だとバラしたのは賭けでね、あんたらの信用を得たかったのもある、ここから無事に引き上げるにも洞窟を進むにもあんたらを敵に回すのは不味いからね」


「なら話してくれるのか」

「知っている限りのことならね、ここは野営地に近すぎる少し動くかね?」

「わかった」


エルヴィスとスザンナは灌木が生えているだけの荒野に出ると闇の中に消えていった。


その二人を遠く見つめる黒い影があった。







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