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地下の光輝


「ラウル何があった!?」

急いで大洞窟に戻ったエルヴィスはラウルの姿を見つけて呼びかけた、だが目はドロシーの姿を探して彷徨う、スザンナの姿が目に入りその側にドロシーの姿もあった。

エルヴィスはほっとしている自分に気がついて思わず苦笑してしまった、こんな時に俺は何をやっているんだと。


そこにラウルと用心棒が駆けつけて来る。

「こいつのチームが奇妙な場所を見つけたぞ、口で言うより見てもらった方が早いらしい」

ラウルは用心棒の肩を叩いて労う。


「百聞は一見に如かずよ」

ボソリと用心棒が呟いたがこの男は時々奇妙な格言を口にする癖があった。


「わかった全員動かせるか?」


ラウルと用心棒に尋ねると用心棒がすかさず答える。


「ある程度までは全員で近づける、特に危険はないがあまり近くに寄るのは注意が必要だ」

「わかった移動しよう、案内をたのんだ」


エルヴィスは全員に移動の指示を出した、すでに皆に話が伝わっているのか、だらけた空気から期待に満ちた活動的な空気に変わっていた。

みな出発の準備にとりかかる、慌ただしく敷布や茶器などを背嚢に収納していく。


その間にエルヴィスはスザンナに近づいた。


「スザンナ、何があったんだ?」

スザンナは顔を渋面に変えた、ドロシーが笑いを堪えているような顔になった、スザンナがじろりと睨むと、素早い足運びでさっと離れてしまったそれは見事な動きだった。

「スザンナは重いから穴に近づかないように言われたのよ」

離れた安全地帯からドロシーが教えてくれた。


「あの下には凄まじい瘴気が溜まっている、それはわかったよ」

スザンナはドロシーを睨みながら教えてくれた。


「この地下に広くて明るい場所がある、何か建物が見えた」

シーリが静かに言葉を発したがどこか気だるそうな口調だった。


「なんだと!?」

「見てもらった方が早い・・・」


シーリは半分寝ているかのように茫洋(ボウヨウ)とした顔をしている、もしかしたら瘴気の悪影響を受けているのではと思った、そしてスザンナの彼女が霊媒体質と言う言葉が頭に蘇える。


「シーリ大丈夫か?」

「ううん夢みたい」

エルヴィスはシーリの状態に危機感を感じスザンナを思わず見る、スザンナはいたわるような視線を彼女に投げかけてからシーリの正面に回った。


そして両の手の平をそっとシーリの(コメ)かみに添えると、スザンナから力が湧き上がるのを感じたその直後にシーリが両の目を見開いた。


「これでしばらく持つよ、また頭がボヤケてきたら私に言いな」


スザンナは手のひらをそっと離す。

「助かりましたスザンナ」

「礼はいいさ、これが仕事だからねさあ行こう」


用心棒とラウルがすでに隊列を先導し動き出している、エルヴィスは最後尾について彼らの後に続いた。





大洞窟から入り組んだ通路の奥に少し開けた場所がある、そこは普通で無い何かを感じさせた、天井の一部が明るく照らされていたからだ、それが真下に光源がある事を教えてくれた。


部屋の手前で停止した隊列の先頭の方からどよめきが上がる、ラウルと用心棒が穴に近づくなと警告を発していた、エルヴィスは隊列をかき分けて前に出る。


そのほぼ丸い部屋の真ん中に大きな窪みがあった、その底に1メートルに満たない程の丸い穴が開いていたが、そこから光が差し込み天井を照らし出していた。

この窪みに落ちると穴から下に落ちるかもしれなかった、それに岩盤の厚さがどのくらいあるかもわからない、床を踏み破る危険が無いとは言えない。


「この下は見たのか?」


エルヴィスはシーリを見つけると声をかけた。


「魔術眼でみたわ、地図の人に報告してある」


地図職人が寄って来てメモを見せてくれた、そこには書きかけの下の空間の地図が描かれていた。


そこにザカライアとバーナビーがやって来た、今日は大人しくここまで行動を共にしてきたが、ここに来て初めて動きを見せる。


「さて私が術を使おう、風の上位の術にちょうど良いものがある」


ザカライアの言葉も終わる間もなく術式の構築が始まった、今までに感じた事がない程の大きな力が彼に集まっていく、やがて若緑色に輝く魔術眼が生まれ出た。

同時に灰色の幻影が窪みの上に生じた、それは絵の様に何かを映していた、よく観察するとその幻影はここにいる調査団の姿を映したものだった、その中には隊長やスザンナの姿が見える。

よく見るとドロシーの姿も見えたが、彼女は魔眼に向って手を振っていた。


「シーリみてみて私よ動いている!」

浮かれた彼女の声が聞こえてきた、それをスザンナとシーリがたしなめていた。


幻影に魔眼からの視点が映し出されているのだ、これなら魔眼の見た映像をこうして他の者も同時に見ることができる。

感嘆の唸り声が聞こえて来たが誰の声かはわからない、上位魔術師はとても希少なので彼らの術に触れる機会はめったに無いのだ。


魔眼がくぼみの真上に移動して、やがて真下に降り始めた、幻影が映し出す映像も穴を囲む人々を上から足元へと映しながら穴の中を下って行く。


すると突然視界が開け、再び大きなどよめきが上がった。


穴の下は巨大な空洞になっていた、その壮大な光景に皆言葉を失う、魔眼は横に回転すると地下の空間全体を映しだし、やがて上と下を向いた。

天井を見上げると岩肌に漆喰の様な何かを塗った様に滑らかになっていた、そこに魔眼が降りてきた丸い穴が口を開けていた。

自分達は巨大なドーム状の空洞の天井の上にいる事がわかる。


空洞の広さは直径二百メートル程在るように見えた、大きな池が真ん中にあってその中に石造らしき底広がりの建物が見える、真上から見るとその形は正方形だ、その様式は古代文明の建造物にどこか似通っていた。

その建物の屋根の上に強く輝く謎の光源がある、この光が洞窟の壁を照らし出し天井の穴から漏れ出していた。

西側の壁に石造りの大きな門が設けられている、だがその扉は閉じられていた。


「これは生きている遺跡だぞ!!こんな発見は今までなかったすごい事だよ!!」

アンソニー先生の興奮した声が聞こえてくる。


更に魔眼は何かを見つけた、洞窟の南側の壁に白味がかった金属らしき正体不明の円盤があった、大きさは正確に掴めないが少なくとも10メートル以上あるだろう。

その金属の円盤の表面に時々稲妻のような光が走り、淡く輝きながら明滅していたが映像では色までわからなかった。


「あれがそうなのか?」

誰の声だ?その言葉を発したのは近くにいたバーナビーだった、やはりこいつは何かを知っている。


さらに北側の壁の一部が崩壊し洞窟が口を開けているのを見つけた。


「みろ、あそこまで降りられるか?」

その声は親方の声らしい、それに呼応するように魔眼がその洞窟の口を向いて固定された、たしかにあの口まで洞窟沿いに降りられるルートが存在する可能性があった。


「下に降りるルートを探す、みんなもとの洞窟に戻るぞ」


エルヴィスは決断を下した。




先程の大洞窟に引き返し小休止をとる、眼下の大洞窟の威容を目撃した調査団の空気は大きく変化していた、高揚する者もいれば、不安をいだき始めた者、任務として内面を覆い隠しひたすら務めを果たそうとする者達。

エルヴィスチームは問題ないが傭兵や荷役人(ポーター)や下働きの者達の態度に注意が必要だ。


傭兵達がバーナビーの周りに集まり何か話し合っている、あまり雰囲気は良く感じられない。

傭兵達はペンタビアが契約した兵でアームストロング隊長も雇われ隊長だ、エルヴィスも雇われている立場で調査団の誘導や探索に関して指揮権を与えられているにすぎないのだ。

ザカライアも名目上の長でバーナビーが実質的な調査団の長だった。


エルヴィスは指導者が曖昧なこの調査団に始めから不安を感じていた。



調査団は残りの枝道の調査を再び開始した、偵察隊が手分けして残りの枝道の調査を進めてる、多くの通路は行き止まりだったり人が通れない狭い通路にぶつかった。


だがその調査も進み行き詰まりを見せ始めた。

ここがダメなら昼休みをとった大分岐点に戻りドロシー達が中断した北西の洞窟の先の調査に移ろう、そう決断した時にそれは起きた。


突然耳を圧する轟音が洞窟の内部に鳴り響いた、それはまるで無数の悪霊の咆哮の様に。


「何だ!!」


エルヴィスは思わず叫んだ。


「エルヴィスもどろう」


アームスロング隊長が轟音を押し戻そうとするかのように叫んだ、エルヴィスに否定する理由はない、急いで大洞窟にかけ戻る。

隊長に続きヤロミールや傭兵達も後を追いかけた。



大洞窟に近づくとその唸るような轟音が洞窟に反響して耳が痛くなってきた、白い霧が幾つもの枝道の奥から吹き出して大通路に向って流れていく、重苦しい不快が気が大洞窟からこちらにも吹き寄せてきた。

その洞窟の真ん中にザカライアを中心に留守番の調査団のメンバーが集結し立ちすくんでいた。


エルヴィスはザカライアが結界を張っていると直感した。

先生が手招きでエルヴィス達を招いている、エルヴィは背後から来ている隊長達を一瞥したどうやら全員無事な様子だ、傭兵達は耳を抑えながら走ってくる。


エルヴィスがザカライアの結界に飛び込むと、あの耳を圧する轟音が消えた、あの不快な瘴気の気配もなかには届かない。

そして風精霊術が音と大気を良く支配する事を思い出した。


「エルヴィス君無事だったかい、これがあの音の正体だったんだね」

アンソニー先生はどこか呑気に学術談義でもするような口調だ。

エルヴィスの視線は別の偵察隊のドロシー達を探した、だが彼女達の姿はここには無い。

洞窟のどこかでシーリの結界の中で身動きがとれなくなっている可能性もある、だがまた怪異に襲われたのかもしれないと思うと焦りが募った。


やがて結界の外を吹き流されていた霧が薄れてきた。


「そろそろ大丈夫だ術を解く」


ザカライアが宣告すると音が蘇り、不快な霧が顔に吹き付けてくる、だがもう耐えられない程ではない、遠く笛の様に風の音だけが鳴り響いていた。


全員の無事を確認すると落ち着いてもう一つの偵察部隊が戻るのを待つことになった。

そして10分もしないうちにドロシー達が戻って来た、やはりシーリの結界でやり過ごしたらしい。


「洞窟の先は人が通れないほど狭かったけど、そこから風が吹き出してきたのよ」

近づいて来たドロシーが興奮気味に報告してきた、それを用心棒が困った様な顔でながめている。

複数の通路から風が吹き出したという事は大本は一つかもしれない。


「みんなあの穴をもう一度確認しよう」




調査団があの窪みのある洞窟に戻ると、さっそくザカライアが再びあの術を行使した、その幻影が見せる光景はみなの想像を絶していた。

洞窟全体が大量の水に満たされ、水底にあの正方形の建物の姿が見える、水底からあの光が輝いていた。

やがて魔眼の視界が変わり幻影は金属の円盤を映し出した、その金属の板は水底で不安定に白く輝き明滅していた。

そして西側の大門も北の洞窟の口も水の底に沈んでいた。


だがはたしてこれは普通の水なのだろうか?エルヴィスに疑念が生まれた。



調査団の団員たちはただ言葉もなくその幻影を見つめるだけだった。








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