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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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狂戦士

 マティアスは頭を回転させはじめた、なぜエッベがここにいるのか状況を整理しなければならない。

「よおエッベさん、たしか新しい盗賊団を仕切っていたと思ったがどうしたんだい?」


エッベはギロリとマティアスを睨みつけた。

その話はコームファミリーには初耳だったらしく全員が驚いている。


「もう無いぞ、そんなものはなあ」


「盗賊団って落としたり、なくしちまうもんですかね、テオさん?」

ジムがテオに小声で呟いた。

「知るかよ」


マティアスは更に慎重に言葉を選ぶ。

「あんたの組織は50人くらいいたよな?どこいったんだい?」

「そうだコステロ、コステロの野郎おおおお!!!!」


コームが震え声で割り込んで来た。

「エッベさん、そのコステロって、ハイネのコステロファミリーのボスのエルヴィス=コステロの事じゃあありませんよね?」

「そいつに決まっているだろうが!!!ボケがー」


「「げっ!!!」」

これにはコームファミリーにマティアスまでもが唱和してしまった。

ハイネのコステロファミリーはテレーゼ最強の犯罪組織で、表向きにはコステロ商会を持ち、私設軍隊まで擁している。


コームが顔を青ざめながらマティアスに呟いた。

「恩に切るぞ、あんたのお蔭でヤバイ話を早めに知る事ができた」


「じゃあ、あんたの手下はコステロファミリーに殺られたのかい?」

「半分だけだあ!!」


「こいつ『オヤツを半分食われちまったぜ』とかそんな乗りっすかね?」

ジムがテオに再び小声で呟く。

「そうか?」


「じゃあ残り半分はどうなったんだい?」

「3人組に20人ほど殺られた!!」


「なに?3人組だと?」

テオとジムが顔を見合わせる。


「あのクソ女、犯してからぶっ殺してやるううう、この傷の借りは絶対に返してやるぞ!!!」

「その傷はその女に付けられたのかい?もしかして長い黒い髪の女かな?」


「てめえ!!その女を知っているのか!?今どこにいるんだ!!」


マティアスが言葉を継いだ。

「リネインに男二人と女の3人組がいたんだよ、一人は黒い長い髪の女で、魔術師が一人だ、ハイネに向かうらしいぜ」

「間違いねえ!!!そいつらだあ!!!」

「え?襲うんですか?」

「当たり前だろうが!!!」


(一度負けているんだろ?何か策でもあるのか?)

マティアスは頭を捻る。


「テオさん、あの3人に奴の手下が20人ほど殺られたなら、かなりの強さっすね」

ジムが小声で呟いた。

「ああ、こちらにテヘペロがいてどうなるかは未知数だが」


「この3人組が街を出たらエッベさんに教えよう、これで協力関係が」

「邪魔だ、見張りは俺の手下がやる!!お前らには用はねえ!!!」


(話が通じねーぜ、でもこれで都合が良いのか?こっちは何もカードを切らないのにどんどん流れが来ているが、こいつらだけで力試しになるのか?)


マティアス達はコームファミリーの冥福を祈りながら盗賊村を去る事になる。

コーム達は絶望した眼差してマティアス達を見送った。




「マティアスさん、いろいろ役に立つ情報を仕入れられましたね」

「だが、あの野郎がいるとは思わなかったぜ」

「強攻策は捨てるで良いな?んっ?」

テオが最後に語った後で後ろを振り向いた。


「おーい待ってくれ」

後ろから3人を追いかけて来る者がいる、コームと二人の部下だった。


「コーム何のようだ?」

「あんたら何の用で来たんだ?エッベの野郎のせいで何も聞けなかったが、最後に『これで協力が』とか言いかけていただろ?」

「ああ、例の3人組がいろいろ金目の物を持っているんだよ、その話で来たんだ」

「俺達の協力が必要なのか?」

「エッベの部下が20人殺られたとなると、強行策はさけるべきだ」

テオが意見をのべる。


(ほんとうだな、もうピッポの策でいいような気がしてきたぞ)

マティアスは黙考した。


「まってくれ、エッベはその3人をやる気なんだよ、俺達が矢面になるんだ」


「でっ?」


「えっ!?」

「俺達にどうしろと?」


「皆さんエッベをどうにかしちゃえばいいんじゃないすか?」

ジムの意見にテオが同意する。

「酒で潰すとか薬で眠らすとか毒を使うとか方法はいくらでもあるだろ?」


マティアスとコームは顔を横にふった。

「あいつは化物なんだよ、酒を飲んでも酔わない、毒も効かない、怒ると人間離れした力で暴れるんだ、奴は『眠らずのエッベ』と言われていてな、昔は普通の人間だったようだが、どんどん頭がおかしくなってきているんだ、それでも魔法道具を恐れていると言う噂があるが、それも怪しいがな」


「なら数で力押したらどうっすか?」

コームがそれに答えた。

「まとまに戦っても勝てる保証がない、何人かはかならず道連れに殺られる、奴は狂戦士なんだ」

「狂戦士ってなんです?」

「俺には良くわからん、術者が言っていたんだ、異常に凶暴で強くなる病気の様なものだと」


「コームさん災難ですね」

ジムが同情を述べるがあまり真剣味が感じられない軽い言葉だった。


「なあ、俺達に助太刀を頼みたいのはわかるが、俺達に何の得があるんだ?」

「奪った物は全てあんたらの物でいい、エッベは簡単には死なねえだろうが、俺達は普通の人間なんだよ」

「エッベがそれを納得したのか?あんたが約束しても奴が守らなければ意味ねーだろ?」


「こうしたらどうっすか?」

ジムが割り込んできた。

「コームさん達の方が逃げてしまえばいいじゃないですか?」


コーム達はその言葉を聞くとお互いにうなずきあった。

「確かにな、拠点を捨てるのは惜しいがアイツといたら破滅する」












ベルとアマンダは中央広場の酒場に入った、昼間は食堂で夜は酒場になる店らしいが、街に酒場そのものが少なく選択肢は無かった。


「メニューが貧しいし高いよね、スープの値段とかエルニアの五倍はするよ」

ベルが小声でアマンダに囁く。

「いいえ、ここなんてまだましよ?場所によっては物々交換じゃないと何も手に入らない場所もあるのよ?」

「ほんと聞きしに勝る酷さだよね」

二人はあまり美味くない昼食を口に運ぶ。


「ねえベル、聞いていいかしら?」

「えっ、何?」

ベルの表情がどこか怯えた様に変化したのをアマンダは見逃さなかった。


「ルディガー様の事だけど、もしかして何か目的とかおありなのかしら?」

ベルの表情が少し安心した様に変わる。


二人は顔を寄せ会いひそひそと話始めた。


「僕たちは精霊宣託の内容を知りたいんだ、そして神隠しの謎も知りたい」

「大公妃の精霊宣託と神隠し事件ね、ルディガー様の追い落としや、ブラス叔父様が失脚する原因になったのは解るけど、もう知りようが無いでしょ?」

「精霊宣託に関わった精霊より上位の精霊ならば宣託の内容を知ることができるとアゼルは言っていたよ」

「えっ!?ヘルマンニは有名な上位精霊術者よ?その上なんていったら精霊王しか居ない、精霊王と契約している術者なんて伝説の精霊魔女アマリアぐらいしか居ないわね」

「僕たちはその精霊魔女アマリアと会う計画なんだけど?」


「なっ!!!?なんですって!!!!?」


アマンダ驚くのは当然だった、伝説の人物に会いに行くなどと言い出したら正気を疑われるのは当たり前の事だ、それもエルニア公国の元第二継承者と上位魔術師が言い出しているのだから。


突然の大声に酒場にいた他の客がベル達の方向に一斉に顔を向けた。


そのアマンダの顔はベルが今まで見たことも無い様な驚き顔だった、ベルは目を丸くして。

「あははははっ」

アマンダの顔を指差し笑い始めた。


「ベル!!何が可笑しいのよ?」

「いつも澄ました顔しているから、驚いたアマンダの顔が面白くて!!」

「ベルがとんでもない事言い出すからでしょ!?」

「昔から、どうやったらアマンダの澄まし顔をなんとかしてやろうと、僕は知恵を絞ってきたんだよ?怒った顔も面白、ぶっ!!」


アマンダは両手の手の平でベルの頬を挟み込んだ、聖霊拳を極めし者の手の平らしく、強力な吸着力があるかのようにベルを拘束した。

ベルの口は封殺されたが、アマンダはそれでは飽き足らず両手の親指をベルの口に差し込むと、無慈悲に左右にうにうにと引っ張る。


「ふぎゅ!?ふぁまんだ、なぃをふるんだ、もうこどもじゃないだりょ!?」

「ああ、懐かしいわねこうするのも、ふふ、うふふふふ」

アマンダの顔が紅潮し目の光が宵の明星の様に輝く。


だがアマンダはこの数年で致命的な弱点が産まれていた事を失念していた。

ベルが果敢に反撃に転じる、両手を伸ばし眼の前のアマンダの豊かな胸を握りしめ、そして揉みしだいた。


「あっ!?この悪ガキお仕置きするわよ!!ううっ!!!やめっ!!やめなさぁい!!!!」

更にベルの口が左右に広げられる。

「ふぇ、いたぁ、やぁめれ!!やぁめてえ!!」

二人の戦いはお互い涙目になりながらも加熱しようとしていた。



「いい加減にしてくれそこの二人!!止めないと出ていってもらうぞ!!」


店主が怒りながら奥から進み出てきた。



急激に冷静になったベルとアマンダは店主に詫る。

「すまなかった店主よ詫びよう」

「ごめんなひゃい」


「久しぶりに貴方に会ったからタガが外れたわね」

(ああ、久しぶりにじゃれてしまったわ)


「口がおかしくなたよ?ほんと子供の喧嘩じゃないか?」

ベルはまだ喋りが元に戻らない様だ。


だが周りの客たちからは美女二人の喧嘩が終わってしまって残念な空気がひしひしと伝わってくる。



二人は再び顔を寄せ会いひそひそと話始めた。


「精霊魔女アマリアに会うと言う話だけど馬鹿げているわね、ルディガー様やアゼルは本気なの?」

「ハイネにアマリアの高弟がいるらしいんだ、そいつからアマリアに会う方法を得る予定」

「ああ、そういう事ね」

「そいつの名前は忘れたけどアゼルならもう少し詳しい話を知っているよ」


「ここに来て良かったわ、ルディガー様の目的が判ったのは収獲でした」


「ねえ、アマンダの目的はそれだけなの?」

「いいえ、ルディガー様に目的があるなら知ること、その上でお戻りになられるように説得することなのよ」

「戻る?エルニアには戻れないから、クラビエの事だね」

「ええそうよ」


「他に無いの?」

「えっ?」

アマンダはベルの何時になく真剣な眼差しから何かを感じたようだ。


「そうね・・あとで話すわね?」

「えっ・・わかった・・・」

アマンダの口元に僅かな翳ろいが浮かんでいたがベルはそれに気がつく事は無かった。


「ねえ、貴方達が宿泊している宿に案内して欲しいの」





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