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探検が始まる

エルヴィスとラウルが周囲の状態を調べて野営地に戻って来ると、野営地が少し慌ただしくなっていた、エルヴィスチームの用心棒の姿も見える、どうやら親方達が予定より早くこちらに到着したらしい。


天幕に戻って中を覗いてみると親方が天幕の中で荷物を広げ中身を調べていた。


「親方か早いなバーナビーはどこだ?」

「おおエルヴィス、むこうを朝早く出たんだ、バーナビーは今神殿を見に行っているぞ」

エルヴィスが神殿の方向を見ると三人ほど人の姿が見える。


「ここは思ったより神殿に近いなエルヴィス」

「まあ運が良かった」


やがてバーナビー達が戻って来た、親方の若い弟子の姿もあった。


「エルヴィスあれが例の神殿なのか」

バーナビーは神殿を振り返ってつぶやいた。


「そうだよ、バーナビーと親方は俺と一緒に来てくれ、ラウルはシーリを呼んでくれ、神殿の前に行く」

エルヴィスの口調が真剣な物に変わっている、それに何か感じとったのかバーナビーと親方の顔も変わる。



神殿の前に次第にメンバーが集まってくる、シーリもドロシーとスンザンナと一緒にやってきた。

エルヴィスは集まった者達を見渡す。


そして昨日から神殿に近づくなと指示を出していた事、それでも通過する者がいるかもしれないので、シーリに魔術的な罠を神殿の入り口に貼ってもらった事、今朝その罠が切れていた事を話す。

続いてシーリが魔術の性質を補足してくれた。


「で何者かが通過したんだな?」

バーナビーの声が僅かに上ずっていた。

「一応ここに近づくなと指示を出していた、内部の者か外部の者かまではわからねえ」


「他に何か証拠はあるのかの?」

親方が神殿の奥を覗き込みながらつぶやくと屈んで床を観察する。

「人が歩いた跡はないか」


「上を見てくれ」

エルヴィスは通路の天井を指差す、高さは床から三メートル程だろうか、みなそれに釣られて上を見た。

息を呑む音が聞こえてくる。


「なんじゃ?これは!?」

親方の声は彼の不審と僅かな脅えすら感じさせた。


「足跡のようにも見えるがこれは何だ?いつからあるんだ?」

バーナビーはエルヴィスの肩を掴む、かなり慌てている様だ。


「落ち着けバーナビーわからねえんだよ、これを見つけたのは今日の朝なんだ」

「昨夜は暗かったから気づかなかったのよ」

シーリもバーナビーを宥めた。


「エルヴィス、この中の構造は本当にわからないのか?」

バーナビーには何度も説明したはずだが彼はまた同じ質問をして来た、エルヴィスチームの資料には大まかな外観と位置しか記録されていない。

詳細な調査資料はペンタビア大学に収蔵されていたはずだ、それも今は失われている。

「俺たちの手元の資料じゃ中の事はわからねえんだよ」

何度言わせるんだとまたうんざりとしながらバーナビーに返答する。


「あまりいい感じがしないねえ」

初めてスザンナが声を発した、その声は重く大きく不気味な足跡を見て動揺しはじめた皆を落ち着かせた。

全員の視線が自然とスザンナに集まる。


「ここは空気が悪い、瘴気の臭いがするよ」

皆が入り口から神殿の奥の深淵をのぞき込んだ、ただ昨日の夜聞こえていた風の様な音は聞こえなかった。





「準備はできたか?」

エルヴィスはチームの天幕の入り口から中に声をかける。

「すぐ準備できる、待っておれ」

親方の声が中から答えた。


「俺は神殿の前に先に行くぞ」

「おおわかった」


エルヴィスが神殿に向かうとラウルとドロシー達が歓談していた。

ラウルは大柄で浅黒く日に焼けていてなかなか整った容姿をしている、いつもどこか人懐っこい笑みを浮かべている。

だが彼が通商路の荷役人のチームを率い、時に盗賊の真似事をしていたとはドロシー達には想像もできないだろう。


「みんな集まったな」

エルヴィスが声をかけるとドロシーが振り返る。

「こっちは準備できたわよ」


ドロシーは例の上等な革の鎧に乗馬パンツ姿であの民族衣装風の布は腰に巻いていなかった、彼女も背嚢を背負っていた、そして頭に奇妙なヘアバンドを巻きつけている、額の上に向日葵の花の飾りが取り付けられている。

エルヴィスはそれが照明用の魔術道具だと見てとったその向日葵の花の飾りが笑いを誘う。


シーリは黒い魔術師のローブ姿で彼女も小さな背嚢を背負っていた、だがつば広の帽子を被っていない。

代わりに頭にヘアバンドを巻きつけ月の飾りが付いていた、神話の月を擬人化した女神の厳しい顔が彫られている。

これも向日葵の花と同じで照明用の魔術道具に違いない。


スザンナは相変わらずの似合わない侍女服姿で、背嚢を背負っていたが随分と小さく纏めていた。

「今日はどこまで行くんだい?」

スザンナがこちらを見て顔を近づける、距離があるのに妙な圧迫感を感じさせる。


「入り口近くだ、中の様子を見てこれからの方向を決める、今日は時間がない」

みんなそれを聞いて空を見上げる、薄曇りの空を雲が早い速度で東に流れている、太陽は天頂から西に傾いていた。

そこにバーナビーとエルヴィスチームの親方と弟子に地図制作の男と用心棒がやって来る、更に傭兵三名が続いた。




「俺とこいつで先頭を進む」

全員集まるとエルヴィスは用心棒の男を皆に紹介した、痩せて長身の三十代ほどに見える男だが目には暗い光がある。

彼は罠などを見破る専門家で暗器などの扱いにも慣れている、探査や護衛など重要な仕事を担っている男だ。


エルヴィスは首から下げた円筒形の魔術道具に触れた。


「悪い空気に反応する魔術道具だ、警告音が聞こえたらいそいで外に出るんだ、浄化はその後慎重に行う、照明用の魔術道具を持っている者は何時でも使えるようにしておけ、武器を持たない者は両手は空けておくように」

全員にいくつか簡単な注意を告げると、エルヴィスはシーリに魔術の明かりを頼んだ、照明用の魔術道具も用意しているがそれはできるだけ節約したかった。


シーリの手元に青く光る光の珠が現れると、神殿の入口から中に漂いながら入って行く。

五万年の歳月を耐えた古代文明の神殿の壁や床が青白い光に照らされると、壁の消えかかったレリーフが影を成してその姿を顕した、古い象徴的な紋様が光に浮かび上がった。


今は闇の奥から風の音は聞こえてこない。


「いくぞ」


一行は慎重に進み初めたが、二十メートルほど進みアーチ門をくぐると少し広い部屋に行き当たる、そこから四方に通路が口を開いていた。

ここで天井の足跡は消えている、そして床には足跡が乱れた様に残されていた、侵入者はかなり動き回たたようだ。


しかし天井を歩くとは魔術師であろうか?


「この足跡はどんな靴かわかるか?」

エルヴィスは床の足跡を指差すとそれに用心棒が答える。

「底が頑丈な靴だ、最近流行りのありふれた旅行用の靴だ、それ以上の事はわからぬ」

用心棒は足跡を分析し首を横に振った。


まず右の通路を進んだがすぐに左折する、その先は通路の両側に小さな部屋が並んでいたが中には何も無い、古い象徴的な紋様が光に浮かび上がる。

用心棒が異常を探りエルヴィスは抜身の剣を握りゆっくりと進んだ。


また左折すると正面に十字路が見える、そこまで進み左を見ると先程の大きな部屋がその先に白い出口が見えた。

右側の通路に光の珠が入っていく、釣られて右側を見るとそこも大きな部屋だ。


青い光に照らされて部屋の中心に何かがあるのがわかる。


「おい何かあるな」


エルヴィスは慎重に部屋の中に入って行く。


「なんてこと祭壇が壊されているわ?」

シーリの言葉には呆れたような怒りに満ちた響きがあった、中心の祭壇が砕かれて破片が散らばっている。

用心棒と親方が祭壇を調べ初める。


「これは最近壊されたものじゃな、破片に埃がたまっておらん、だがどのくらい新しいかはわからんぞ」

その間にも後ろで地図制作の男はひたすらメモをとり続けている。


「みて」

ドロシーが奥の壁を指差した。

「奥にも何かがあるな」


それは壁に刻まれた蛇のレリーフだ。


「この部屋には罠はない隠し扉も無い、我が知るかぎり」

部屋を細かく調べていた用心棒が報告する。


「これは根源の蛇神を祀ったものだなあ」

親方がつぶやいた、エルヴィスも古代文明の神々の基本的な知識を持っている、すぐにその正体が解った。

「たしか総ての蛇神の母だったか?」

「まあそんなところだ、エスタニア各地の蛇神の原型とも言われておる、しかしここは特に何もないようだが」

シーリがまた詠唱を初めた、その精霊力を微かな力としてエルヴィスは感じ取る。

彼女は何をする気だ?


「魔術的な結界や罠を調べたのよ何も無いわ」

それがシーリの答えだった。


調査隊は残りの区画をくまなく調べたが、次第に困惑が広がっていく、通路の入り口も階段も発見できなかったからだ。


一旦中央の部屋に全員集まる。


「親方これだけなのか?」

エルヴィスの問いかけに親方は考え込んでいた。

「地図を見ても隠し部屋があるかわからんなエルヴィス」

「ああ地下遺跡だ面倒だな」


親方は何かを思いついた様に顔を上げた。


「昨日は風の様な音が聞こえたのだよなエルヴィス」

「ああそうだ」

「やはりここには何か未知の構造がある、昔の調査隊が見逃した何かがあるはずだ、器械的な隠し扉や魔術的な仕掛けはかえってわかりやすいものでな」


親方は注意を惹くように皆を見渡す。


「全員で床や壁を叩いてもらうか、僅かに音が違う場所があるやもしれん」

そして親方は弟子を呼び寄せた。


「床の石畳みで外せそうなところを探せ、下から砂がでてきたら当たりだ」

エルヴィスは親方が何を考えているか理解した、地下への階段を砂で埋めて上に石畳みを敷く方法があるのだ、また砂は古代の遺跡でいろいろなギミックに良く使われる。

これで封鎖されていると叩いても簡単にはわからない、砂はいつの日にか再び掘る時に都合が良いのだ。


親方と弟子で階段がありそうな場所の石畳みを調べると皆に話した、そして親方は魔術道具の光を点灯させ床を明るく照らし出だすと調べ始める。

二人は専用の工具を使い石畳みを巧みに持ち上げる、その作業を傭兵達が手伝った。

他の者達は小さな神殿の壁や床を叩いて音を調べる為に散っていった。


「スザンナ」

側を通り過ぎるスザンナに声をかけた。

「なんだい?」

「あまり強く叩いて壊さないでくれよ?」

「アホ言っているんじゃないよ!」

ドロシーとシーリがクスクスと笑ったが、スザンナがそちらを睨むと二人共顔を背けた。

「さあ仕事だよ、行った行った!」

スザンナが二人を追い立てる様に部屋から出て行く、エルヴィスも適当な小部屋に向かうことにした。




神殿の中は壁や床を叩く音で煩くなった、あちこちから何もないと声が上がる、それは調査を初めて三十分も経とうとしたころだった。

エルヴィスの背中から光が当たった。


「エルヴィスさん何か見つかりました?」


それはドロシーの声、しかし逆光で彼女の顔が良く見えなかった、白く輝く向日葵の飾りが眩しい。

「いや特に何も見つからない」

夏を感じさせる向日葵の花が『お天気人形さん』に妙に良く似合っていた、これはシーリのユーモアだろうか?


「どうかしました?」

「いやなんでもない」

内心が顔に出たかと少しあせった。


「エルヴィス!!来てくれー」

その時の事だった親方の大声が小さな神殿内部に響き渡る。


エルヴィスはドロシーの側を走り抜けると親方のいる場所に向って走っていた。






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