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新しい設営地

日が昇る前の薄明の野営地でエルヴィス達は動きだす、早めの食事をとると砦の北の集合場所を目指した、ラウルとチームの地図制作の男がそれに従う。

遅れてアームストロング隊長の昔の傭兵仲間達がやって来た、その中にリーノ少年の姿も見える、四人とも全員背嚢を背負っていた。


彼らはエルヴィスが指名してこの探検に参加させたのだ。

エルヴィスはこの三人をもっと知りたかった、バーナビーの証言が気になる、彼らがペンタビアの調査団を監視していたと言っていたからだ。


「エルヴィスの旦那よろしく」

「ああ期待しているぜ」

「ははは」

三人の男は気さくに挨拶をかわした、だがリーノはエルヴィスと目を合わせようともしない。



「おいシーリ達も来たぞ」


ラウルが言う通り砦から数人の群れがこちらに向って歩いてくる。

大きな人影はスザンナだろう、ローブ姿のシーリとドロシーの影も見える、そして傭兵らしき男達が三人と調査団の下働きの男を二人ほど従えていた。


「エルヴィスさんおはようございます」

ドロシーが元気一杯に声をかけてきた。

「おはようドロシー」

軽く手を上げて迎えると。

「よろしく」

シーリが少し眠そうにボソリとつぶやいた。


彼らも全員背嚢を背負っていたが、エルヴィスは先程からスザンナが背負っている大きな背嚢に目を奪われていた、大の男も難儀しそうなほど大きな背嚢に限界まで物を詰め込んでいる。


「スザンナすげー荷物だなそれ?」

「ああ万が一の事があってもこの娘達を雨風から守ってやりたいと思ってね」

「そうか、あんた本当に世話焼きだな」


スザンナはまた大きな声で笑う、それにしても彼女の荷物の重さは人の体重を越えてるとしか思えなかった。

このメンバーで次の野営地までの道を切り開き設営場所を確保しなければならない。


「全員そろったなじゃあ行くぞ」


エルヴィスを先頭に昨日切り開かれたばかりの森の道を目指す、ここも人が行き来すれば次第にしっかりとした道になるだろう。


「途中まで道はできている、だいたい三時間で到着する少し急ぐぞ」


一度後ろを振り返ったエルヴィスは急ぎ足で薄暗い道に踏み込んだ。




隊列は言葉少なく進んでいた、みな周囲を警戒しながら進む、時々シーリが魔術を使い周囲を偵察していた。

「特に異常は無いわね、小さな獣と鳥しかいないわ」

「ありがとうよシーリ、偵察は君に任せるから自由にやってくれ」


「まあ日の出だわ!」

ドロシーの少し興奮した声が割り込んでくる。

エルヴィスも目の前の木の幹が明るくなったのを見た、おもわず東の方角を見ると森の木々の間から日の光が差し込んで来る、薄い霧を透かして森の中に光が差し込み初めた、それは美しい幻想的な光景だった。

その光の向こうに一瞬だけ人影が見えた様な気がしたがそれはすぐに消えた。


「シーリ、スザンナ、今なにか感じたか?」

「何かいたのかい?」

隊列が停止すると同時にスザンナがズカズカと歩み寄りエルヴィスの向いている方向を見つめた。


「アタシには何も感じられなかったよ、本当に何か見たのかい?」

「一瞬だけ人の影を見たんだ」

隊列に動揺が走りざわめいた。


「気のせいだと決めつけるのは良くないね、注意してすすもうかね」

「私も何も感じなかった」

エルヴィスの横にいつの間にか立っていたシーリも頭を少し傾けながらささやく。

ドロシーは何もわからないわと肩を竦めていた。


他のメンバーも何人かは林の奥を見て首を傾げていた、だが傭兵達はそれに構わず命令も無いのに周囲を警戒している、なかなかアームストロング隊長の部下達は優秀らしい。


エルヴィスは時々背後から刺すような視線をずっと感じていた、間違いなくあの少年だろう。


「エルヴィス進もう」

周囲を無言で警戒していたラウルが促す。


「さあ進むぞ!!」


エルヴィスは再び命じた。



昨日ラウル達が到達した最終地点に着くとそこで小休止をとった、ここから遺跡まで道を切り開かなければならない。

他の者達が休んでいる間にエルヴィスとラウルは古地図を広げ地図制作の男と顔を突き合わせてルートの策定をすすめる。

周囲の地形などから目的地を絞り込む、彼らは遺跡の資料と古地図を見比べながら、周囲の山や丘の姿から進むべき方向を決めて行った。


「できるだけ早い時間に場所を決めたいな」

ラウルが空を見上げている時間を気にしているのだろう。


「始めるぞ!!」


エルヴィスの号令でふたたび前に進み始める、今度はラウルが先頭を進む、彼に続く者が邪魔な枝を切り払い下草を踏みにじる、後続の者達も鉈や鎌をふるい邪魔な枝や雑草を切り払い足で踏みにじる。


周囲を警戒する役と道を切り開く者が交代しながら前進して行く、いきなり進む速度が大きく落ちた。

ドロシーとシーリとスザンナの三人は切り開く作業に関わらない周囲の警戒に徹していた。


エルヴィスが先導役をラウルと交代してしばらくたったころ、前の方から水が流れる音が聞こえてきた。

「ラウル前に川があるぞ!?」


隊列が停まり後ろでラウルと地図制作の男がなにやら打ち合わせを始めた。

「エルヴィスその川を渡って緩やかな斜面を昇ると平地に出る」

「進む方向はいいのか?」

「大丈夫だ」


エルヴィスは空を見上げる、まだ陽は真上に差し掛かっていない、晴天だが雲が恐ろしい速さで東に流れていた。

隊列は再び進み始める、川の音が聞こえているのに以外に距離があった、その小さな河を渡り対岸の緩やかな丘を登り始めた、やがて坂を登りきると急に視界がひらけた、丘の上は背の低い灌木しか生えていなかったのだ、おもわずそこからの絶景に見惚れた。


「いい景色だね、でもピクニックにはここは遠すぎるわねえ」

前に出てきたスザンナが大きな声で冗談を言った。


アンナプラナの大山脈の白い岩肌が迫り、眼下は寒さに強い植物の森になっている、そして西の彼方に日の光を反射する湖面が見えた。


「あれが湖だな」

ラウルも水湖の輝きに気がついた。

「エルヴィス、お前はあそこに行った事あるのか?」


「先代の時に一度行った事がある、もう7~8年前の話だ、あそこは調べ尽くされて用が無くてな、それでも諦めの悪い奴らが行きたがる」


「エルヴィスさん、あの大きな岩まで進むと半分ですよ」

地図制作の男がはるか南西の方角にある巨岩を指差した、どうやら予定通りに進んでいる様だ。


「遠いなおい、まあ行くかあそこで昼休みにするぞ!」


エルヴィスはうんざりしながら前に進み始めた。


エルヴィスは背後から時々刺すような視線をずっと感じていた、だがこの辺境から一人で生きて帰れる見込みはない、万が一俺を殺す事ができてもあの子供も破滅する。

エルヴィスは幾分か意地悪な気分になり笑った。




昼休みにシーリが精霊通信で後続の輸送隊の出発命令を本部に送った、そして隊列は再び林の中を道を切り開きながら進み始める。


やがて彼らは大きな岩が立ち並ぶ一帯に差し掛かかろうとしていた。

そこで急に林が途切れ目の前が開けた、白い岩が点在し背の低い灌木と小さな池や湿地がどこまでも続いている。

湿地の西側は切り立った崖が壁のように立ちふさがりその上がどうなっているかはわからない、古地図では崖の向こう側のその先に湖があると言う。


エルヴィスは地形から石灰岩の台地の上にいると見積もった。

しだいに隊列の進む速度が上がるこれは良い誤算だ、だが後から来る者が道に迷いやすくなる。

エルヴィスが立ち止まると隊列も止まった。


「こりゃ目印が必要だぞ?ラウル」

「そうだな、木を見つけたら赤いリボンをつけるか」

「そうしてくれ」


そうしてそこから三十分も進むんだところで地図制作の男が報告してきた。

「そろそろ目的地が近いはずです、エルヴィスさんラウルさん」

男は地図を確認しながら辺りを見回している。


彼のその言葉が終わるまもなく背後から大きな力を感じた、シーリが魔術を行使する時の気配だ、だが今までの偵察の術と違っていた。


「見えた、建物が見えるあそこよ」


彼女が遥か前方の巨岩が集まる一角を指差した、あそこまで三十分もかからないだろう。


「あの岩の反対側に見える」

「凄いわね裏側が見えるのね?」

ドロシーの声が聞こえてきた、率直にシーリの魔術に感心している。


「いえ感じるのよ」

それにシーリが答えた、彼女の声がわずかに弾んでいる様に感じられたのは気のせいだろうか。


そして魔術師のありがたみを改めて認識させられた、なんとか調査に同行できる優秀な魔術師を確保したいと心の底から思う。

やがて隊列は巨岩の集まる一角に差し掛かる、巨岩の周囲に湿地も池もなく乾いた地面が広がっていたこれは都合が良い。


シーリがエルヴィスの背後に近づくとささやいた。

「不信な動く生き物の気配は無いわ」

「ありがとうよ」


大きな岩を回り込むと、正面の巨大な岩の根本に古びた小さな古代文明様式の神殿の入り口が黒い開けている。


一行からどよめきが上がる。


「ラウルこりゃ神殿の近くに設営できそうだな」

「ああ、ここならあまり切り開く必要もない、すこし整地すれば済む」


エルヴィスとラウルは思わず顔を見合わせて笑った。

神殿の近くに設営できない可能性、設営地を時間をかけて切り開く事も想定していたからだ、今回の旅はとても運が良いらしい。


「予定より二時間早く着きましたね、ここの様子がもっと詳しく解っていたらな」

地図制作の男はそう言いながら周囲の状況をメモをとり複製された地図に細かく描き込んでいた。


まずエルヴィスとラウルが神殿を偵察する、資料によれば入り口の上に環状の蛇のレリーフがあるはずだ。

そして小さな入り口の上に輪になった蛇のレリーフが確かに刻まれていた。


「ラウル間違いないここだ」


調査は専門家を呼び寄せてからになる、入り口から内部を覗き込み聞き耳を立てるが真っ暗で何も異常は感じられない、中を調べたいが内部に悪い空気が貯まっている事も多く安易に入る事すら危険だった。


二人は調査隊に戻ると設営の準備を始めた。

「みんなここを整地してくれ、あと綺麗な水源があるか探すぞ、手分けしようラウルと・」

「まって、私が探してみるわ」

エルヴィスの背後にいたシーリが手を上げて制した、彼女が水精霊術師ならたしかに簡単に探せるのかもしれない。


「有り難いが、今日は術をかなり使っただろ大丈夫か?」


エルヴィスが振り向くとシーリが僅かに微笑んだ様に感じられた、整っているがどこか曖昧な捉えどころのない印象を与える彼女にも表情があるのだ。


「いいえ簡単な術しか使っていないから問題ないわ」


すぐに彼女は少し高い岩場にある湧き水を見事に探知してみせた、綺麗な水だがミネラルが多いので注意が必要らしい。


シーリはどこか得意げだ。



日が落ちて薄暗くなり始めた頃ついに輸送隊が到着した、全員でいそいで天幕を組み立てた。

輸送隊もいるので設営地は狭苦しくなった、輸送隊は明日の朝にはここを発ち砦の設営地に帰る。

皆でささやかな宴会を開いて労をねぎらう事にする、スザンナがドロシーや下働きの者達をこき使いながら宴会の準備を指図しはじめた、もう誰もそれを疑問に思う者はいない。







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