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異変の始まり

 「おい起きろ!?」

ベルが物置にうつ伏せに放り込まれていた捕虜のわき腹を足で軽く小突いた、捕虜はもぞもぞと体を動かした、既に目を覚ましていたようだ、何か言っている様だが猿轡(サルグツワ)のせいで声にならなかった、捕虜はベルを憎しみと恐れのこもった目で見上げていた。


「ここは狭いな、とりあえずこっちに来てもらうか」

ルディが捕虜を作業場に担ぎ出して猿轡(サルグツワ)を外してやった。


「さて、まずお前の名は?」

捕虜は少し考え込んでいたようだが。


「俺の名はペッツだ、俺から大した話は聞けないと思うがな?それにお前に仲間を殺されたんだそれを忘れてもらっては困る」

「お前達は命令とは言え俺を殺そうとしていた、殺される覚悟もない者が人を殺そうとしていたのか?」

「そんな事は解っている、だがな仲間の敵を討ちたいと思うのは当たり前だ」


「お前達は宰相直属の例の部隊だな?」

「どうせあんたなら解っているか、その通りだよ、しかし俺たちを一人で壊滅してくれるとはな」

ペッツは大公家の公子のルディガーに対して敬語を使っていないが、ルディもベルも気にする様子は無い。


「俺を殺すように命令を受けていたのか?」

「俺たちはアンタを捕まえるべく待機していた、ただし抵抗や逃亡を図ったら殺せと命令されていた、表向きにはアンタに反逆罪の容疑がかかっていたからな」

「俺が城から脱出してからの反応が早かったわけか」

「やはり誰かがアンタに計画を教えたのか?」

「それは言えない」

ルディの経験からアマンダが抜かりなく生き延びると確信していたが、忠実な彼女に少しでも不利な事はしたくなかった。


その時ベルがルディの側に近づき耳元に口を寄せる。

「大した話は聞けないみたいだね、それどころかこいつに情報を与えるだけだ、捕虜にして失敗だったかも」

「だが今更殺せないだろ?無抵抗な者は殺さないのがお前のやり方だ」

「ルディも同じ様なものだろ?」



だがペッツの顔色がしだいに悪く成り始めていた、はたから見るとペッツを始末しようと密談している様にしか見えないのだから。


「そう言えば、女、お前ずいぶん人間離れした動きをしていたな、どうなっているんだ?」

ベルは、説明するのが面倒くさかったが、ペッズを殺す気も無いし余計な事も教えたくない。

そういう事でペッズを恫喝する事にした。

「うーん聞かない方がいいと思うよ、知りすぎると困った事になるかも?」

抜き身のナイフをチンピラの様にクルクルと回して弄んで見せたものの、どうにもベルには様にならない、だがベルを人間離れした何かと思っているペッツの顔が引き攣った。


「ところでさ、あんたに暗殺計画を教えたのは、アマンダとか言う侍女じゃないのか?俺はあんたの侍女共を監視する役割だった」

ペッツはルディに少し気を許しすぎたようだ、それは軽率だった、ルディと言う男の本質を知らなすぎたのだ。

ルディを取り巻く空気が一変した、大切な人を守る、大切な何かを守る為に断固戦いそれを打ち破る意思の持ち主だった、殺気が満ちあふれ大柄なルディの体躯(タイク)が膨れ上がったかのように錯覚した。


「ルディ、アマンダが疑われるのは自然な事だ、でもアマンダなら簡単に捕まるわけがないよ、普通の侍女じゃないんだろ?」


ベルは少し慌ててルディを落ち着かせようとする。

ペッツの顔は恐怖に歪んでいた、余計な挑発はまずかったと後悔したようだった、ベルにはペッツはそれなりの実力者だが軽薄な男に思えた。

ルディから殺気が引き潮のように消える、一呼吸置いてペッツを嘲るように言葉を紡ぎ始めた。


「我々はこのまま国境を越えて逃げ切れると思うぞ?」

「いやお前らは逃げられないと思うぜ?」

「なぜ決めつける?俺も彼女もそれなりに腕は立つ」


ベルはさっそく調子に乗る馬鹿になる事にした。

「そうだ!!そうだ!!僕とルディで10人やっつけたんだぞ?」

「いや最初は20人程いた」

ルディから予想外の突っ込みが入る。


(ええ!?1個小隊全滅させたのかよ!!)


ベルは内心で呆れた、ルディも普通では無くなっていないか?


ペッツは馬鹿にしたようにベルを一瞥しただけでルディに向き直る、ベルは野人の真似は出来ても街のドブネズミの真似はまったく似合わなかった。


「お前も大公家おかかえの魔術師を知っているだろ?グスタフ=ヴェーゼマンと言う魔術師がいる、かなりの高待遇だが普段は大した仕事もしていないような男だ」

「ああ、そんな名前の奴がいたな」

「最後の切札として奴を飼っているんだ、絶対にあんたらは逃げられないんだよ、俺達が戻らなければ準備を終えた本隊が捜索に出るはずだが、すぐに奴が使われる可能性もあるぞ、この森の中であんたらを追跡するのは難しいからな」


ペッツはこれ以上は余計な事は言うまいと決意したのかだまりこくってしまった。


ふたたびベルがルディの耳元に口を寄せた。

「これ以上、情報が得られないような気がするよ」

「そうだな、こいつが本当の事を話しているとしても裏を取りようがない、こいつを倉庫に放り込んで休もうか?」


ペッツに再び猿轡(サルグツワ)を噛ませて倉庫に放り込んだ。


「明日は早い、早めに眠り体力を回復させようか」

「ルディは背中を怪我しているから、毛皮を厚めに敷いた方がいいね」

「いろいろすまないな」




ベルの狩猟小屋からそう遠くないところ、夕刻に激しい戦いが繰り広げられた泉の天然の花壇は、夜の静寂に包まれていた、まもなくルディの追手達の屍と血の匂いに呼ばれた森の掃除屋達が現れるだろう。


だが、その泉から何か黒い霧のような何かが湧き出し初めていた。




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