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ドロシーの時間

コッキーは頭の上を越えて行く棍棒を捕まえるために跳び上がった、5メートル程跳び上がって棍棒を捕まえた、そこから真紅の怪物が信じられない速さで向かってくる姿を捕らえる。

コッキーの目が驚きに見開かれた、真紅の洪水が視界いっぱいに広がり直後凄まじい衝撃がコッキーに襲いかかる。


真紅の怪物の剣を辛うじて棍棒で止めた、だが真紅のドレスをはだけて美しい長い脚が真っ直ぐ伸びてコッキーの腹をえぐる。

コッキーは更に空中に跳ね上げられた、真紅の怪物は瘴気の爆破を生み彼女を追撃し剣で追い撃ちをかけたがその攻撃を細い何かが辛うじて受け止める。

煌めく火花が散る、コッキーがアマリアからオマケにもらった精霊変性物質のダガーが辛うじて下から突き上げた斬撃を受け止めていた。


さらに真紅の怪物の足が美しく弧を描き天を疾走った、空中で腰を捻ってコッキーを蹴り落とす。

真紅のドレスが旋回し赤い花のように咲いた。

更に地面に叩きつけられたコッキーに真上から剣を突き立てようと襲いかかる。


そこにベルが突入してくる。


この世の物ではない火花を散らしふたたび魔剣同士が激突した。

コッキーから落下軌道がそれた、ベルは不敵に笑ったが次の瞬間驚きにかわる。

真紅の怪物が吹き飛ばされながらベルを蹴り上げたのだ、真紅のハイヒールがベルの腹にめり込んむと真上にベルが吹き飛ばされた。

反動で真紅の怪物は地面に上半身から落ちた、片手を地につくと風車の様に回転しながら速度を殺して平然と大地に立つ。


ベルはとっさに力を集めて蹴りを耐えたがそれでも腹がねじ切られるように苦しい、そして重い衝撃で体ごと上に飛ばされていた。


上空から少女の叫びが聞こえる。


「ドロシーあいつがくる!」


空中で青い光に包まれ浮いている白いドレスの少女の姿が目に入る、そして真紅の怪物の名前がドロシーだったと思い出した。


大地を疾走する影がドロシーの背後から迫っていた、何時の間にかルディが敵の背後に廻りこんでいたのだ、直後に強大な力がドロシーに集中するベルは魔術の発動を予感した。

ルディが狙われている地面に落下しながらベルは叫んだ。


「ルディ!!」


だが彼女の予想は一つだけ外れていた。


高速旋回する瘴気の塊が生まれると宙にいるベルに向かって放たれたのだ。

足場の無い空中では回避不能だ、絶対絶命!!


ベルは死を覚悟したその時何かが体の奥で動き始める、時間の流れが急に遅くなった様な感覚の暴走が始まる。


そして粘りつくような高密度の精霊力が強引に幽界の門を通過していく、全身が歓喜に震えこの感覚が永遠に続けば良いのにとはしたなくも感じた。

目の前に旋回する瘴気の球体が迫る、それが少しずつ遅くなって行く、遅くなっているのではない時間感覚が狂っていく。


そしてベルの左側に虚無が生まれようとしていた、何かが潰れた様な弾けた様な感覚とともに視界が揺らぐ、その直後に旋回する瘴気の球体がベルの右側を凄まじい速度で通過していった。


今のはなんだ?


ベルを見上げるドロシーの顔も何が起きたかと問いかけていた。





そこにルディが襲いかかった、ベルに気を取られ隙が生まれたのだ、ドロシーの反応が遅れた、ドロシーが斬撃を回避しようと動くが完全に回避しきれない、ルディもまた並みの人間でない、赤いドレスの切れ端が薔薇の花びらの様に舞った。


ルディがドロシーについに一撃を加える事に成功した。


だがドロシーは距離を保つと向き直る、脇腹を庇うように傷を片手で抑えていた、そして少し驚いた顔をしていたが。


彼女が手を離すと目の前で傷が見る間に消えていく。


ドレスの切れ目から月明かりに青白い肌が見えていた、その生々しい切り傷が見る間に塞がっていくのだ、傷口から黒い瘴気が気化し散って行く。

恐ろしい回復速度だったベルの回復速度の数十倍いや数百倍はあるだろう。


『なんと言うことだ』

アマリアが感無量と言った感じでつぶやいた、それをドロシーの鋭敏な聴覚が聞きとがめた。


「珍しいアーティファクトね」

胸のペンダントを見つめて小首を傾げる。


ドロシーの背後にいつのまにかベルが立っている、彼女の黄金の瞳がハイネの夜景を背景に映えた。


ドロシーは周囲に目を配ると何かに気づいた様に表情が変わった、その直後に横に滑るように飛ぶ、彼女が飛んだ直後に地面から泥と草の根が吹き出した、地面に空いた穴の中からコッキーが耳障りな叫びを上げながら飛び出した。


「ニガがしたのデス」


コッキーは変異が進んでいた、彼女の青いワンピースはあちこち傷ついていたが、そこからのぞく素肌は白銀色に輝いていた、目が一回り大きくなり黄金の輝きを放っている、そして小さくぽっちりした口は横に薄く広がり、彼女の両手の爪はサファイアの様に青く鋭く輝いていた。

ドロシーに激しく痛めつけられたはずだが彼女は傷ついて居るようには見えなかった。


「でたわね蛇女!!」


遥か上空から甲高い少女の声が聞こえてくるエルマの声だ。


ふたたびドロシーに力の収束が始まった、今まで出会ったいかなる術者より素早く行われる強大な魔術行使の気配、魔術術式をいとも容易く構築し息を吸い吐くように無造作に膨大な力を流し込んでいく。


それはたちまち完成した。


突然その場にいた全員から全ての感覚が失われる、だが超常の感覚は仲間と再び力を集め始めたドロシーの存在を捉えていた。

三人とも動き出したが何時になく鈍い、思い通りに動けない。

この術も経験があるセザールが使った術に似ているが遥かに濃くそして深く見通しが悪い。


そこに巨大な瘴気の波濤(ハトウ)が生まれた、うねる様に波うちねじれながらすべてを飲みこもうとする貪欲な飢えた渇望を感じ取る。


ルディにはこの術に覚えがあった、聖霊教会の戦いで最後にドロシーが使った術に似ていた、魔界の深淵から呼び出された生ける神酒(ネクタル)、神に捧げられし供物を求める貪欲な波濤(ハトウ)が襲いかかろうとしていた。


あの時を遥かに超える威力で魔界の津波が生まれようとしていた。




突然ルディは静かな丘の上に膝をついている自分に気が付いた、静かで物音もなくハイネの夜景が闇に沈んでいた。

そして真紅の怪物も白い少女の姿もない。


慌てて見渡すとアゼルの姿がまず目に入る、近くにベルとコッキーの姿もあった。

そしてホンザが草地に倒れていた。


「ホンザどのどうした!?」

ルディは慌ててホンザに駆け寄る、抱きかかえて安否を確かめる辛うじて意識があるようだ。

ホンザが弱々しく微笑む。


「ルディガー殿か、魔術陣地を無理に作ったがギリギリ間に合ったようだ、あ奴は動きが早く魔術師では戦いにならんのう、だがここもまもなく消える」


魔術陣地が揺らぎ震えている。


「外部から干渉を受けている長くはもたぬ」


「殿下私に考えがあります」


アゼルがそう言うと魔術術式の構築を始めた、しだいに彼に大きな精霊力が集まり始める、そしてホンザの結界がいよいよ綻び初めた、アゼルの詠唱が始まった。


「ベル、ホンザ殿を頼む!」

ベルがホンザにかけより抱き起す、その直後にアゼルの術が完成した。


「『フレイヤのフォールクヴァングの魔氷の鏡』」


彼らの頭上に光り輝く円板が生まれた、美しい輝く板がまるで鏡の様に月明かりを反射して輝いた。


そして周囲の空気が揺らいだ瞬間にホンザの魔術陣地が崩壊する、その直後真上から巨大な力が襲いかかった、上空に棺の形をした黒い扉が開き、そこから暗黒の青みを帯びた見えない死光の帯が大地に突き刺さる、それを輝く魔力の鏡がそのまま反射した。


死光は上空の影に向かって伸び黒いドレスの影が砕け散る。


「やったか!?」

「アゼルお手柄!」

ベルの浮ついた歓声が聞こえる。


人の上半身の影がドレスの残骸を引きながらクルクルと回転しながら落ちてくる。


「ドロシー!!」

エルマの悲鳴じみた叫びが上がった。


その直後に瘴気の巨大な嵐が生まれそれは密度を増し物質化しその上半身の影を包みこむ、みな唖然としたまま眺めていた。

そして魔術術式が構築され再び力が強引に流し込まれると術が発動した。



瘴気の嵐が晴れると真紅の怪物ドロシーがその姿を現わした、彼女はゆっくりと高度を下げてくる。

月明かりが彼女の全身の姿を照らし出した。


何が起きた?





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