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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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とっても素敵な魔女

 「もしかしてアダム様はアウラ様のお知り合いなのでしょうか?」

コッキーの瞳にアゼルへの尊敬が満ち溢れた。

「古い知り合いです、昔の話です」

「素敵です!!聖女様の昔のお話をお聞かせください!!」


コッキーは聖女に憧れや尊敬を抱いている様でその目が輝いていた、だがベルはアゼルの陰鬱な表情を見てこれはあまり触れたく無い話題なのだと悟った。


「ねえコッキー、リネインはどんな街なの?」

話題を振られたコッキーは嬉しかったのか嬉々として解説を始める。


「良く聞いてくださいました!!リネインは私の生まれた町なのです、ラーゼより随分小さな町ですが、リネイン伯爵様がおさめています、コウモリ伯爵とあだ名されているです」

「コッキーは今もリネインに住んでいるの?」

「はい、町の聖霊教会が私のお家なんです・・」

これはコッキーが孤児で有る事を意味していた、聖霊教会は孤児院などの運営などを行っている。

「そうなんだ」


話題が聖女アウラからそれたアゼルはベルに少し感謝しているような、そんな視線を投げかけてきたベルはそれに苦笑いを浮かべる。


「で、コウモリ伯爵って何?」

「ふらふらと、ベンブローク派とヘムズビー派の間をコウモリの様に飛び交っているからです、昔町が焼かれた事もあったんで、町の平和の為ならしょうがないと皆おもっていますよ」

コッキーは自分の街の領主に辛辣だった。


「コウモリ伯爵だと真っ先に潰されそうだけど、ルディはどう思う?」

「ん?領主の双肩には家臣と領民の命がかかっているからな、綺麗事では生きられんのだ」

「ですよね、私のお父さんやお母さんは、町が焼かれた時に死んじゃったんです」

微妙な沈黙が流れた。


「だがな中途半端なコウモリは却って災疫を招く事があるのだ、大義名分がなければ裏切る度に信用を失って行く、そして最後には孤立してしまう」


「でも最後まで騎士道精神と誇りを忘れなかった方たちも居ますよ、ド・ルージュ要塞の領主様とご家来衆は忠義を示して壮絶な最後を遂げられました」

「死んじゃったのか、でも本人が満足ならいいのかな?」

「騎士道精神と忠義の鏡と言わてます、吟遊詩人の悲劇の歌にもなってますよ、もう40年近くも昔の話です」

「まだこの国の混乱が始まったばかりの頃か」

ルディは何か思うところが有るようだった。


「ド・ルージュ要塞の廃墟は誰も近づきたがりません、夜になると領主様とご家来衆の亡霊が出てあたりをうろつくんだそうです」

「その廃墟はどこにあるの?」

ベルはその廃墟の場所が気になる怪談や幽霊話は昔から苦手だった。

「リネインから南西にだいたい一日程の場所ですよ」


「ハイネとは別の方向だね、僕たちには関係ないか」

「ええ、リネインから西に歩いて二日でハイネです」

「ねえリネインの南には何があるの?」

「徒歩で一日のところにマドニエが、更に一日行くとマルセナがありますよ、南東にアラセナがその南の大きな山の向こうにオルビア王国です」

ルディ達三人は感心しながら大体の位置関係を頭に叩き込んで行く。


そして会話に疲れたのか一行はやがて黙々と歩き始めていた。



アルゼは昔のエーリカを思い出していた。


学業では突出して優秀だった、気弱だが一途で思い込むと突っ走る、何か失敗すると苦し紛れな言い訳をして深みに嵌まる癖があった、臆病で保身に走るのだ。

優秀で頭が切れるし基本的にお人好しで善良な気性だったからそれが大きな問題になる事はほとんどなかった。

美しく気弱で一途に思い込むと突っ走る、それを含めてアゼルはエーリカを愛していた。


(エーリカの悪いところを、全部見せつけられた気がしましたよ)


「だいぶリネインに近づいてきたぞ?日没までに着くかな?」

アゼルはベルの声で我にかえる、空は茜色に染まり太陽がまもなく沈もうとしている。








それはその日の朝の事だった、ラーゼ城市の東門から護送馬車が出発した、その馬車を騎馬衛兵隊8名が護送任務に付いている、その護送馬車の鉄の檻の中には5人の男達が詰め込まれていた。

護送馬車はエドナ山塊の開拓地に向かっていく、ラーゼの東側や北側は比較的安全な為そちらの開発を優先しているのだ。

犯罪奴隷たちの中でもラーゼの者は数年で懲役を終える者もいるが、流れ者は一生木を切る仕事に従事する末路をたどる。


護送隊はラーゼの郊外を抜け、徐々に街道の周りの樹木が増え始めた、森林地帯に近づいているのだ、そして遠くにエドナ山塊の裾野に立てられた砦が見えてくる。


(アネ)さんテオさんが来ますよ」

「そうねジム君、打ち合わせ通りにやるわよ」

その街道沿いの森の中にテヘペロとジムが隠れて護送馬車を待ち伏せしていた。


突然に護送隊はその動きを止めた、馬車を牽引する馬と前方の騎馬衛兵2名が突然動かなくなったのだ。

後ろの護衛達が即座に異常を認識した。

「どうした?なぜ止まったんだ?」

「御者が寝ているぞ?おい起きろ?」


そして前方の騎馬衛兵の衛兵が落馬する。

「何が起きた?警戒しろ!!」

そしてまた衛兵と馬が何人か動きを止めた。

「なんだ、何が起きているんだ?」

「おい馬車の中の奴らも寝ているぞ!!」


残った衛兵は恐慌状態に陥りつつあった、だが残った衛兵と馬もすぐに動きを止める、そして何人かは同じ様に落馬していった。


(アネ)さんやりましたね」

「きついわー『精霊の深き眠り』三連発よ?」

中級の睡眠魔術を連続で行使したのだ、大型の動物にも効く上に、簡単な衝撃では目が醒めない上に効果時間も長い、だが効果範囲が狭いのが難点だ。


「じゃあジム君お願いね」

ジム少年は馬車を馬から外し人力で押し始めた、凄まじい剛力だ。

その間にテヘペロは隊長らしき男の懐をまさぐり牢の鍵を見つけ出した。


ジムは馬車を森の中まで押し込み、テヘペロが牢の鍵を開ける、だが中の5人は昏睡したままだ。

(アネ)さんこれくらい離れればいいっすよね?」

「十分よ、じゃあ起こすわよ?これでしばらくは魔術を使えないわ、何かあったらテオだけ連れて逃げるわよ」

「まかせてくださいよ、コイツラがおかしな動きをしたらぶちのめします」

「まかせたわ」


テヘペロが『精霊の深き眠り』を解呪すると、もぞもぞと5人の男達が目を醒ましはじめた。

「くそ、なにが起きた?」

「おお、テヘペロと坊やか」

「なんだ、お前の知り合いか?」

テオが申し訳なさげにテヘペロ達に詫びる。


「ヘマをやらかしたすまん」

「あんたらしくないね」

「化物みたいな女にやられた」

「あの変な小娘ね?」


「おい、お前ら何なんだよ?」

他の5人の囚人の事を忘れていたのだ。


「貴方達はテオのついでに助けて上げたのよ、好きにしなさい」

「おっ、ありがてえぜ!!」

「でも私達の儲け話を手伝う気があるなら使ってやってもいいわよ?」

「おれは故郷に帰らせてもらう・・・」

結局のところ3人の囚人はそれぞれの道を行く事になる。

去る者は追わない、脱走囚人が個別に動くならラーゼの警備を混乱させてくれるだろう。


「さて、残った人だけど試験させてもらうわよ?」

「なんだと!?」

「貴方達、何か特技とか無いの?前の仕事とかあるなら言ってみて?あと何をやらかしたのか」


「俺は傭兵をやってた、食料の横流しがバレて逃げ出してな、逃げる時に仲間を殺した、そして強盗をやらかしてこのざまだ」

「グティムカルの農民だ、土地を失い流れてきた、ここで強盗でつかまった」


「ふーん、グティムカルの男、あんた犯罪を繰り返してきたの?」

「ここで強盗をしたのが最初だ」

「あんたはどこかに行きなさい、傭兵君は採用ね」


「なぜ俺はダメなんだ?」

「あんたはまだ帰れるでしょ?後がない奴じゃないと仕事は勤まらないのよ?裏切るかも知れないし」

グティムカルの農夫は何かいいたげだった。

「私はしつこい奴が嫌いなのよ?」

ジムが両手の拳骨を克ち合わせた、グティムカルの元農夫は諦めたように去っていった。


「あいつは肝が座っていない、放り出して正解だ」

テオがテヘペロの判断を支持した。

「キャハッ『皆んなこんな事はやめよう!!』なんて言い出しそうな顔してるんだもの、アイツ」

その場に居た者達は苦笑いをした。


「さて傭兵君の名前は?」

「俺はマティアス=エロー」

「私はテヘペロ=パンナコッタ、とっても素敵な魔女よ」

「俺はテオ=ブルース、昔時計職人だった男だ」

「僕はジム=ロジャー、未来の冒険商人さ」


「じゃあ、急いでピッポと合流するわよ」


「で、とっても素敵な魔女さん、儲け話って何なんだ?」






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