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セザール=バシュレとの遭遇

記憶を手繰る、狭間の世界でアマリアがアゼルに武器を与えた事を思い出す、だが細かい事は覚えていなかった。

「広範囲に強力な氷の嵐を生み出す上位精霊術を行使できます、ここが使い時です」

そのアゼルの言葉ではっきりと思い出した、充填可能な上位の攻撃魔術道具で古代文明の遺品としてのみ存在する、今となっては国宝級の古代文明の遺産。


「この部屋の奥に何かがある、たのんだ」

「わかりました」


その間にも奥の部屋から相次いで術式が行使されていく気配を感じる、複数の敵が術式を連続して行使しているに違いない、高濃度の瘴気が通路から溢れ出てきた。


「急ごうアゼル」


自らを盾にしてアゼルが道具を使うまでの僅かな時間を稼ぐこの二人に言葉はいらない。

部屋の壁が右手から差し込む青白い光に照らし出されていた、よく見ると正面の先にもまだ部屋がある。


そこに骸骨の群が押し寄せて来た。


「またガラガラと出てきたのですか!」


ヒステリックなコッキーの叫びが空気を引き裂いた、彼女はまた棍棒で暴れ始めた。

この娘の性格は意外と闘い向きなのかもしれないとルディは思う。


そして物量でこちらの行動を妨害しつつ魔術を織り交ぜて攻撃を加える、それが死霊術の集団戦の型だと理解した、精霊召喚が容易な死霊術の強みを生かした戦術なのだ。


「扉に穴があいているのに繋がらない、邪魔する奴がいるんだ!」


ベルが背後で何か叫んでいるが彼女の言いたいことがイマイチ良く理解できなかった。

だが探知の力が彼女から微かに発して広がって行く、ほとんどが壁に吸収されたが僅かに後方から反射してくる力をルディも捉えた。


「ベル落ち着け!扉がどうした?」


ふと答えが喉まで上がってきた、だがその先の答えがつかめない。


だが今はそれを考察している場合では無かった、通路から奥に踏み出すと部屋の様子が見えてくる、部屋の右手から青白い光が射し込んでいた、光源があるはずだがまだ見えない。

ルディは部屋から溢れてくる骸骨とそれに織り交ぜられた攻撃魔術の集中攻撃を浴びた、魔剣で叩き落とし防護結界を信じて受け止める、アゼルを護るため避ける事はできない、自身に付与された防護結界が光揺らめく度に敵の精霊力を相殺しながら力が霧散していく。


アゼルは魔術道具の発動に時間がかかっているようだ。

ホンザの術が目の前に植物の壁を生じるとそれが敵の攻撃を引き受ける。


そしてアゼルが魔術道具の力を解放した。


人の頭ほどもある精霊力が物質化した氷塊が無数に生じ部屋の中で荒れ狂った、骸骨と正体不明の召喚精霊と死霊術師達、実験道具や製造装置までをも巻き込みながら叩き壊し吹き飛ばす。

上位の水精霊術の範囲攻撃が逃げ場のない狭い空間で行使されたのだ。


「ひょっ!!」

隣でコッキーが悲鳴を上げた。


術式が終わると氷塊の総てが消滅し精霊力に還元されていく、部屋の中は酷い状態になっていた、木製の家具は破壊され無数の機材が倒れ床に散らばっていた、ところどころに倒れ伏した黒いローブが見えるが死霊術師達だろう、彼らが生きているのか死んでいるのかは不明だ。


「ルディ、この部屋変だ精霊力が消えないぞ?」

ベルがまた叫んでいるが彼女もかなり動転している、たしかに精霊力が部屋の中に溜まりいつもの様に幽界に還って行く気配が無い、瘴気とまじりあい不快感が増していった。


「今は考えるな・・・せめてあの光の正体だけでも見ておきたい」


ルディは真っ先に部屋に踏み込み込む、足元が散らかっていて歩きにくい、開け放たれた扉から青白い光が射し込み高密度の瘴気が吹き出していた。


その部屋の入口に駆け寄った。


「なんだこれは!?」

これを口にしたのが自分なのか仲間なのかすら定かで無い。


部屋の内に異常な光景が広がっていた、天井から何か丸い物体が細いロープで釣り下げられ、その物体から蛇の様に(ウゴメ)く何かが吊り下がっていた。


干からびた無数の髑髏(ドクロ)が細い金属線で天井から吊るされていた、その(ウゴメ)く蛇はむき出しの干からびた人の背骨だった、肩の骨も腰骨も失われ背骨だけが髑髏(ドクロ)からぶら下がり、何かを求める様に生き物の様にさまよう。

床には無数の魔術術式が複雑な紋様を重ね合わせて床一面に隙間なく書き込まれている。


あまりにも非常識な光景で脳がそれを受け付けない。


の弱いものなら見ただけで失神しかねないおぞましさ、テレーゼを呪う死の結界の制御魔術術式なのだろうか?


「何だこれ?」

背後からベルのうめき声がする。

「ひぃい!!」

コッキーが悲鳴を上げそれが途切れた。

「コッキー!?」

ベルが叫ぶその叫びでやっと我に返った。


吊るされた髑髏(ドクロ)が大量の瘴気を発生していた、その瘴気の流れが見える程に濃い、干からびた背骨の末端から立ちのぼり髑髏(ドクロ)の口や虚ろな目や鼻の穴から瘴気が吹き出す、それらの瘴気は床の魔術術式に吸い込まれ消えて行った。

あまりにも濃い瘴気のせいで水の中で物を見るように視界が歪んだ、その部屋の奥に青白い光を発する髑髏(ドクロ)が一つ見える。


その髑髏(ドクロ)が青白い光の光源だ。


「なんだこれは!?アゼル、ホンザ殿?」

「なんとこれは」

ホンザの声が上ずるそしてアゼルには言葉がなかった。


「ベルさん大丈夫です!!こんなの壊してやりますよ!!!」


ルディが足元を見るとベルが腰を落としてコッキーを抱き抱えていた、コッキーは震える足で立ち上がるとトランペットを手にとりそれを口元に運ぶ。




だが何も起きなかった・・・


「どうしたの?コッキー」

「トランペットが応えてくれないのですよ・・・誰ですか邪魔するのわぁ!!」


「壊せる物だけ壊してすぐに引き上げるぞ!!」


ルディは決断を下した。


何となく予想していたがトランペットは力を顕さない、魔術陣の破壊が不可能ならば速やかに撤退すべきだ。

それでももしやと思い試しに床の魔術陣に無銘の魔剣を突き立てた、だが何らかの防御が施されているのか魔剣は魔術術式に届かない。


「だめか!!」


舌打ちをすると頭を横に振った。


アゼルとホンザが術を使って魔術陣に何かをしはじめた、ルディは天井から吊るされた髑髏(ドクロ)を無銘の魔剣で手当たりしだいに破壊する、そこにベルとコッキーも加わった。

破壊する度に瘴気の発生が弱まっていく。


最後に青白く光り輝く髑髏(ドクロ)も打ち壊す、これが何なのか分からないが特別な物ならば壊してしまおうと思ったのだ。


輝く髑髏(ドクロ)の破壊により部屋の中が暗くなり完全に瘴気の発生が止まってしまった、これで少なくとも妨害工作になるだろう。


「よし走れ!!」


ベルがまた先頭を走って部屋から飛び出すと一般区画を目指す、ルディはまた殿を勤める。

通路を抜け一般区画に戻ると力が少しずつ戻り始めた、幽界の門が繋がり新たな力が満ちていく、ここまで来れば脱出は簡単だと安心する、あとは逃げ帰り情報の整理をするだけだ。


だが受付室へ繋がる通路の先から、術式の発動と巨大な瘴気の波動が生まれた、その直後通路に向かって瘴気を含んだ風が吹き出してくる。


その風は刺激的な薬品臭と冷気を載せていた。


「なんだこいつ!?」


入り口の受付室に飛び込んだベルが叫ぶと二歩後ろに跳び下がった、その方向に外に繋がる鋼鉄の扉があった。

コッキーも固まるアゼルもホンザも部屋の中を見て固まっていた、ルディも前に出たがすぐに仲間達と同じ様に固まってしまった。


受付室の中央に黒いローブの男が立っていた、いや僅かに宙に浮いている。

黒いローブに見慣れない象形文字が金糸で象どられていた、ルディは古代文字の読み書きなどできないが教養としてその存在ぐらいは知っていた。

それらの象形文字はそれに似ていたが見た事の無いものだ、その姿は高位の魔術師か学者の様にも見える。


黒いフードの奥に青白い光を灯した眼窩がある、目があるべき場所はただの穴でその奥の青白い輝きがそこからもれ出ていた。

目が慣れてくると男の顔は髑髏(ドクロ)にミイラの皮を張り付けただけに見えた。

ベルがなにかささやいているが聞き取れない。


その男は全身に耐え難い濃密な瘴気をまとっていた、それが陽炎の様に周囲の空気をゆらめかす、まるで熱の無い炎のように。


男から滲み出る威圧感はあの真紅の怪物に似ていたが、それ以上に不自然でこの世に存在しえない無機的で異質な気配が本能的な恐怖を刺激する。


ルディは自分の吐く息が白くなっている事に気がついた。


周囲の温度が急激に下がっている、そして何種類もの薬品を混ぜ合わせた刺激的な臭いが部屋に満ちていた。


「転移ですか?」

アゼルのつぶやきが小さく聞こえる。


「留守にしておればこのザマか、随分と暴れてくれタようだな」

その黒いローブの男が声を発した、だがこの男が声を発している様な感じがしない、それは虚ろな虚無の底から響いてくるようだ。


ベルが珍しく攻撃を躊躇(チュウチョ)している、自分も直感的に安易に飛びかかるべきではないと感じていた、より本能的なベルならなお動けまい。


「セザールなのか?」

ホンザの声は驚きと怖れからか震えている。


黒いローブの男はしばらくの間ホンザを見詰めていた。

「如何にも・・そうかお前がホンザか、老いぼれたのでわからなかったゾ、メトジェフと遊んでくれタようだな」

この一言で全員闘いの準備を始めた。


「ミイラのお爺さん今までどこにいたの?」

ベルがさっそく挑発する、とにかく怒らせて頭に血を昇らせるのがベルの流儀だった。


「我はテレーゼならばどこにでも跳べる」

「そんな馬鹿な!!ありえない」

アゼルが興奮してうめいた。


「ホンザお前ならばわかるはずダ」

セザールは鼻で笑うとホンザにその虚ろな目を向けた。


「な、まさか!!魔術陣地だと?だがそんな魔術陣地があるはずが・・」

ホンザが驚愕して声が上ずる、テレーゼの死の結界が魔術陣地の性質を持つならばセザールはその中で転移が容易にできる事を意味する。

しかし一国にまたがる魔術陣地が存在し得るのだろうか。


「そういう事だ、魔術陣地の内ならば転移は容易ダ、俺が生み磨き上げタ理論」


ベルに目配せすると彼女は徐々にセザールの右手から背後を取ろうと移動していく、コッキーはしばらくセザールを見ていたが、ベルを見習い左手に回り込始めた。


「やはりお前タチは幽界帰りか」


『久しいなセザールよ見違えたな』

ルディのペンダントが声を発した、セザールは僅かに戸惑っている。


「だれだ?(ワラベ)が久しいなどと・・」

その声には彼には珍しく当惑の響きがあった。

ペンダントから聞こえる声はまだ少女と言えるようなかわいらしい声なのだから。


『お主やはり人を捨てたか、生と死の狭間にぶら下がっておるようじゃな』

「まさか、師・・アマリアなのか?人のまま若返っただと!?」

その言葉は激しく底しれぬ羨望と憎しみを感じさせた。


『そうじゃよここには来れぬが、まあおぬしのせいじゃろ』


「そうかそのペンダントはあの試作品か、どうやって引き上げた?そうかお前達がアマリアの手足として動いていたのか、幽界の神々の走狗共よ明らかにナレバ種は単純な話であったナ」


直後にセザールから巨大な瘴気が吹き出した、複数の術者がいるかの様に術式が複数行使されていく、術者ではないが基礎的な魔術的な教養は公子として叩き込まれている。


ありえない・・


ベルが精霊力を一気に解放しセザールに襲いかかった、だが魔剣はセザールに届かないはじき返され壁に叩きつけらる。


「ベル!!」


想わず叫んだ、今のベルならどうって事はないと後から理性が追い着く、だが感じた一瞬の恐怖に心臓は激しく鼓動していた。






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