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ハイネ城潜入計画

いきなりセザールとの対決の決意を示したルディにその場の全員が凍りついてしまった。


「えっルディ、いきなりハイネ城に乗り込むの?」

ベルは意外に慎重で臆病な一面があった、思い切った後の行動は早くて果敢で情け容赦がない、だが敵の本拠地にいきなり乗り込むと言われると。


「ベル、前に城の中を探検しようと決めただろう?コッキーの事もあってそれどころでなくなったがな」

「まあそうだけどさ・・・」

たしかに以前城の北側の堀を二人で観に行った事があるし魔導師の塔の真下にも行った事があった。

ベルはどこまで本気か見極めようといった顔でルディを見詰めている、顔が近いのでルディが僅かに仰け反った。


「内部の様子を少しでも掴んで起きたいこれは威力偵察と言うやつだ、乗り込む以上奴と戦う覚悟も必要になる、そこで倒せるなら奴らの企みを阻むことができる、それに今は愛娘殿の助言を得られるからな」

ルディは胸のペンダントを人指し指で軽くつつく。


「そして武器も揃った」

ルディはベルの腰の魔剣とコッキーの背嚢から頭を出している精霊変性物質の棍棒に視線を走らせた。

精霊変性物質の武器が二振り増えたぐらいで普通は状況が大きく変わるはずもない、だが扱う者が神隠し帰りとなると話が違ってくる、特に少人数で行動する場合はその影響は大きい。

むしろ戦争の様な大きな闘いの場では精霊変性物質の武器に大した影響は無い、影響を及ぼせる程数を確保する事は不可能だ、精霊変性物質の武器は王侯貴族や豪商のステイタスシンボルになっていた。


「そろそろ積極的に攻めに出たい、受け身ではこちらが疲弊(ヒヘイ)してしまう」


ホンザが疑問を口にした。

「ルディガー殿武器とはなにかな?」


ベルが腰の剣を鞘ごと外してテーブルの上に置いた、それを見たコッキーも背嚢から棍棒を引き抜いてテーブルの上に置く。

ホンザがその武器を見て首を捻った。

「剣と奇妙な形の棍棒だが魔術の気配がしない、まさか精霊変性物質の武器なのかルディガー殿?」


『儂が与えた精霊変性物質の武器じゃ、その変な棍棒は昆虫型の召喚精霊の依代の触覚じゃな』

「なんと!!」

ホンザの目が大きく見開かれる、これだけの大きな精霊変性物質は今となっては希少性が高い。


「これ一つでも帝国金貨数百枚はするでしょうな、これだけの精霊変性物質の武器を見たのは初めてです長生きするものですな、ふぉっほほ」

ホンザがその武器をまじまじと観察してから笑いため息をつく。


「ルディガー殿とここにいる者ならばそうそう遅れは取るまい、儂もできるかぎり協力したい。

奴らもお主達がここに出入りしている事に既に気づいておるだろうて、メンヤ様が降臨された時から監視されておるかもしれんな、もうすでに儂も当事者じゃ」

「ホンザ殿・・危険ではないか?」

「今まで身を縮こまらせて生きて来たがそれも終わりだ、どの道わしの寿命もそう長くはないのだお前たちの役に立てたい、これでも土の上位魔術師じゃよ半端者には遅れはとらんさ、ハイネ城も昔の記憶でおおまかな見取り図ぐらいは書けるぞ、今はどうなっているかまでは分からんが」


『儂も記憶を頼りに手伝おう、だがなあそこは厳重に警戒されておるぞ、玉虫で一度中を調べようとしたが危険な気配がしたので中には入った事が無いのじゃ、まあ地図だけは作っておこう』


「アマリア様、城は今はハイネ評議会の議事場や公式行事に使われていると聞いております」

ホンザはアマリアには丁寧な口調だった、立ち上がり寝室に向かうとやがて頑丈そうな羊皮紙と筆記用具を携えて戻って来た。


やがて二人は記憶を頼りにハイネ城の地図を作成していく。

沈黙を守っていたルディが地図の西側を指差して口を開いた。

「ここに北西の山から水道橋がかかっていた」


『ん?そういえばそんな物があったわい、良く観察しているのうルディガーよ』

「軍務に就いていると水の利を確認する癖が付くのです愛娘殿、ドルージュ要塞も同様ですよ」

『そうなのか?儂はそっちの事は疎くての』

「あそこは湿地に囲まれていますが水には不便をしていたようです、雨水を貯める施設の後が幾つも見当たりました」


「ルディ、ドルージュ要塞で雨水を飲んでいたの?」

ベルが興味をそそられたのか窓際からまた身を乗り出してきた。


「非常時には雨水も飲むかもしれないが、普段は外から運び込んでいたに違いない、朽ちた酒樽も大量に残っていた、麦酒やワインを戦時に水代わりに飲む為に大量に備蓄していた様だな、酒は腐りにくいのだ」


「要塞に井戸が有ったかまではわかりませんね殿下」

「アゼル、台地の上から井戸を掘っても深くなる、あそこでは水の質も良くないだろうな」

その言葉に皆うなずいた、コッキーただ一人だけが半分眠りかけていた。


『それはそうとしてその水道橋がどうかしたのか?』

「前に水道橋を見に行ったのだ、山の中腹に掘られた隧道から水道橋でハイネ城に水を導いていた」

『まさかそこから城に入ると言うのか?』

「まともに城壁を越えるより見つかり難いと思ってな、もっとも何かしら対策をこうじている可能性も高い」


『だろうよ、良い魔術道具でもあればよいがな適当な物が手元になくての』


やがてルディ達の前でハイネ城の内部の見取り図が作られていく、帝国時代から重要な地位を占めていたアマリアはかなり詳細な内部の様子を知っていた。

羊皮紙の上に五層の大城郭と名物の四本の大尖塔を持つハイネ城がその姿を表そうとしていた。


「大きなお城ですね、こんな風になっていたのですか」

コッキーが興味深げに覗き込んできた。


「この北東の角の塔を奴が根城にしているそうだ」

「魔道士の塔ですな、以前は身分の高い罪人を閉じ込める塔でした地下にも監獄があったはずです」

ホンザがそれに答えた。

「ここが最重要地点だな、テレーゼの死の結界の核に関わる何かを少しでも掴みたい」

「退路も確保しないとね」

ベルも積極的に加わっていた、そして作戦を練り上げていく。

彼らはアマリアのハイネ城の記憶をたどりながら図に細かく要点を記入していった。



地図が完成して皆が気がついた時には窓の外は完全に日が落ちて真っ暗になっていた、夜の店の喧騒が遠くから聞こえてくる。

「ルディガー殿達は今晩の宿はとったのか?」

ホンザが思いついた様に頭を起こして、肩を手で叩きながらたずねた。

「ああ『精霊亭』に部屋をとった、この街の西門近くにある宿だ、前に泊まった事があったがなかなか良い宿だった」


「でもあの人がいるんだよね」

ベルがぼそりとつぶやいた。

「覚えているのです、お客さんに色目を使う駄目な給仕のお姉さんなのです、セシリアさんですよね」

コッキーが眉を顰めて悪口を言い放った。

「双子のセリアさんだよ」

それをベルが修正した、だが口の中で似たようなものだねと追加していたが誰にも聞き取る事ができなかった。


「ルディガー殿明日ハイネに向かうのかな?」

「そうだ」

「ならば明日の朝渡したいものがいろいろある、役に立つかもしれないものじゃ、詳しい説明は明日渡す時にしよう」

何が出るかわからないがホンザが無意味な物を用意するとも思えない、ルディはその好意を素直に受けることにした。

「感謝するホンザどの」


「アマリア様」

ホンザがルディガーのペンダントに向かって話しかけたが応答が無かった。

それに見かねたのかアゼルが口を開いた。

「ホンザ様、その道具は向こう側から使用しないかぎり反応しないようです」

「そうなのか?」

「アマリア様に伝える事がありますか?」

「いや良い・・・」

何か想うところがあったのかホンザは曖昧な笑いを浮かべていた。


四人は精霊の椅子を去り宿に向かう、ホンザは二階の窓から去りゆく彼らの後ろ姿を見詰めていた。















ハイネの新市街の西側の炭鉱町の繁華街の一角に怪しげな魔術や占いや怪しい薬を扱う店が集まった小通りがある、その中に一際胡散臭さが際立つ魔術道具屋『精霊王の息吹』があった。

まともな客は寄り付かないその店の奥に死霊術ギルド『死霊のダンス』への入り口がある。


その地下のギルドの作業場で今日もピッポは作業に没頭していた。


「おいマティアスはどこだ?こちらにまだ来ていないのか?」

地下の薄暗い作業場軒ギルドホールにギルドマスターのメトジェフの怒鳴り声が響く、ピッポが仕事に没頭している間にメトジェフが戻っていた様だ。


奥の作業机で作業をしていたピッポが胡散臭気な顔を向けると、それに目が会ったメトジェフが更にイライラを刺激されたようだ。

「うるさいですな、私もそう長くはここにはいませんがね、イヒヒ」


ピッポは顔を伏せて嘲笑った。

ギルドマスター席に見かねた事務員が慌てて走って行く。


「マティアスはリズと共にジンバーに行っています、リズの私物が少し残っていますが彼女はもうジンバー預かりなっていますよ、マティアスはジンバーと家との連絡役です」

「なら『赤髭団』との新しい連絡役は誰だ!?」

「まだ決まってませんが、フランクが暫定的に繋ぎです」

ピッポは話の成り行きに興味が湧いたので聞き耳を立てた、ピッポの向かいで働いていた若い魔術師が立ち上がりメトジェフの席に面倒くさそうに歩いていく。


「ジンバー商会から奴らを動かす許可をもらっておる、お前か?」

そのやる気の無さ気な男が不平を隠そうともせずにメトジェフの前に立った。


「ええ俺です、新人募集で多少は向こうの顔をしっていました、ですが向こうの仕切りの男が死んで話しのできる奴がいないんですよ、他は話が通じなくて」

「何人動かせる?」

「あそこ24人いましたが7人死んでかなり苦しいみたいですよ?まともに読み書きできる奴もダメになってまして」

「そうだったな・・・」


「で何をするんです?マスター」

「これから俺が言うことは部外秘だいいな?」


「魔術師を一人捉えるか始末する、名前も場所もギリギリまで教えられない」

事務員や魔術師の顔色が変わった。

「『赤髭団』の奴らには荷物運びなどをやってもらう、五人いればよいだろう」

「相手の技量ぐらいは教えてください」


「相手は上位魔術師一人だ」

「なっ!?まさかメトジェフさんが出るのですか?」

「当然だ俺が出なければ話にならん、ハイネに上位魔術師など数えるほどしかいないんだぞ!!」

「しかしそれならば研究所か魔道士の塔でも良いのではありませんか?ギルマスが出るなどと」


「俺の手で片付けてやる、誰がバルタザールの若造に頼めるか!!魔道士の塔もセザール様の他に三人しかおらんのだぞ」


メトジェフがその相手に遺恨でもあるのかとピッポは頭を傾げた、向かいの男が戻ってきたら聞いてみようと思った。


「では他に手伝いが必要ですか?」

「うちからは下位魔術師を三人連れて行く、死霊術師は盾役を作れるだけ優位に立てる、魔術師は強大だが脆いからなあっけなく墜ちる事もある、そこが我ら死霊術の最大の利点だ」

「うちからは?では他から応援が出るのですか?」


ピッポはメトジェフが相手と一対一で戦うつもりではないと知って密かに笑った。


「ジンバーからも応援が出る、向こうの応援は現地に直接向かうそうだ」

「応援はもしやリズとマティアスでしょうか?」

メトジェフは顔を歪めてうなずいた。


ピッポはなぜこの男がリズをこうまで嫌うのかわからなかった。


「俺は人選と準備を考える、魔術道具も用意する必要があるな、お前は『赤髭団』に話を付けておけ、期間は3日だ決まり通りに報酬は払うとな、出発は明日の朝9時だここの前に集まらせろ行き先はその時教える」

若い魔術師がしぶしぶと自分の机に戻ってくる。

「あそこに行きたくねえんだよな」

そんな彼のボヤキにピッポが胡散臭気な笑みを浮かべながら声をかけた。

「ご苦労さまですな」

疲れた様な顔をピッポに一度向けただけで彼は奥の階段を上がっていった。


「そうだお前はいつもの処で馬車の手配をしておけ、二頭立ての大型の幌馬車だぞ?期間は3日だ!!」

メトジェフの大声と共に今度は命を受けた事務員が階段を昇って行った。


「ふむ3日ですか?ハイネからそう遠くは無いようですな」

ピッポは近くの街の名を思い浮かべ、マスター席で愚痴を並べているメトジェフを眺めながらつぶやいた。


そして注文票をふたたび眺める、最近仕事が多くて実入りが良くなっている、今セーザル=バシュレ記念魔術研究所から移籍の話が来ているのだ、そうなれば再び錬金術師として本格的に腕を振るう事ができる。

長らく諦めていた夢が再び叶うかもしれない、テレーゼに来て良かったと思い始めていた。


ピッポは昔の仲間達の事を忘れ初めていた。





そして話題の人リズ=テイラーは『死霊のダンス』から遠く離れたハイネの旧市街の倉庫街のアパートで荷物の整理に忙しく動き回っていた、部屋は古いが清潔でカビ臭い匂いもしない快適な部屋だ、この部屋が彼女の新しい住処となった。


ここはジンバー商会に近く連絡が簡単だった、ジンバー商会で前任者の死霊術師が使っていた部屋と倉庫をそのまま与えられたのでそちらに道具や書籍を移した。


「中位魔術師になると待遇が全然ちがうわさ」

ちなみに下位魔術師でも決して貧しくないはずだがそれはリズが浪費していただけだ。


リズは買い込んだ中古のソファに勢いよく座る、彼女も最近大分栄養が良くなって来たのと清潔に気を配る様になったので前ほど酷い有様ではなくなっている。

それをマティアスが部屋の真ん中で見下ろしている。


「あまり調子に乗るなよ、明日はさっそく大きな仕事だ」

「うん、かなり荒っぽい仕事みたいだね」

「気になるのか?」

彼女が銀のモノクルを燦めかせる。

新人募集(ハカアラシ)に協力していたし覚悟はしていたさ」


「リズそろそろ飯でも食いに行こうか」

リズは顔をほころばせてマティアスを見上げる。

「そうだね、なら今晩は私がおごるよ」


リズはいきおい良く立ち上がるとマティアスは彼女の手をとって出口に向かった。






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