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闇妖精

ルディの話にさすがの木偶人形も驚いたのかゴトゴトと足音を立てた。

「ハイネの南の聖霊教会で奴らと戦った、奴らはコステロ商会の北の別荘地にいるはずだ」

『なんじゃと吸血鬼がおるのか?また奴らが来ているとはの』


「吸血鬼とは魔界に堕ちた妖精族だと言う説がありますが本当でしょうか?アマリア様」

アゼルが大きく身を乗り出す、この問題は魔術師をはじめエスタニアの学者や宗教組織にとって極めて重要な問題だった。


『5万年前に魔界に生きたまま追放された妖精族が闇妖精と呼ばれる様になった、それが吸血鬼の正体じゃよ。

魔界とは禁忌を犯して追放された幽界、神界の高位存在が追放された場所なのじゃよ、やがて大循環に乗れぬ魂の廃棄場所になった』

「罪を犯した者の牢獄なのか?彼らはいったいどのような罪を犯したのだ?」


『これは言って良いものか…お前達ならば問題は無いか、他言は無用ぞ?

かつて神界の高位存在が魂を持つ生物を現世に創造する事を決めたと言っておこう。


それが人よ。


現世で命の力を蓄積し魂の力を貯める、死後に幽界に登り霊界にいたり休眠しそして現世に生まれ変わる仕組みを定めたのじゃよ、この循環の過程で高位世界に力を運ぶ仕組みを定めたのじゃ。

そして幽界の神々は人を庇護し監視する役割を持たされた、だがやがて人があまりにも増えすぎた、神々は妖精族とよばれる人を超越した生物を生み出し、現世を管理する役割を与えた。


だが長い年月が流れ妖精族のなかから魂の力を盗もうとする者たちが現れた、それが堕落した闇妖精じゃよ、彼らは血を吸うことで生命と魂の力を奪う事ができるそれが吸血鬼じゃ、彼らはしだいに数を増やしていったそして遂には反乱を起こした。

だが奴らの背後には魔界の干渉があったのじゃ』


「では魔界の神々に妖精族はそそのかされたのか?」


『うむ、魔界の神々は物質界すなわち現世に侵攻を企んでいた、これをきっかけに大戦争が起きたようじゃな、幽界、魔界の神々が現世に大量に顕現した、宙に浮く巨大な城や空を飛ぶ軍船や戦車までも繰り出した激しい闘いとなった、山が消え島が沈む程の天変地異が起きた、この闘いで現世にあった渡り石が消費されつくしたそうじゃよ』


「アマリア様では5万年前の古代文明の破滅はその闘いのせいだと?」

『人の9割以上が死に妖精族も壊滅した、生き残りの闇妖精は追い詰められ魔界に生きたまま堕されたのじゃ。

神隠しと同じ原理でな行き先が魔界と言うだけじゃ、だが魔界から他の界への通路を開くのは極めて困難でな行くのは楽だが出られぬ、この船でも還ってこれぬわい』




「ねえアマリア、じゃあ僕たちは神様に力を運ぶために生きたり死んだりしているって言うの!?」

ルディはベルの声から抑えられた怒りを感じる事ができた、彼女の憤懣やるかたない様子に目をやる。


『総てに応える事はできぬが、人の魂は永遠には耐えられぬ、大循環を繰り返す度に記憶は失われる、だが魂は極僅かに成長していくらしい、そのなかで大循環から離脱し永遠を得る魂がある、儂すら遠く及ばぬ世界じゃが、そのような魂だけが永遠に耐えられるそうじゃよ。

忘却は救いなのだとあやつは言った』

木偶人形は首を横に振った。


『ベルサーレよお主は死んで総てが無に帰る事を望むか?』

ベルは衝撃を受けたように驚愕し何を言えば良いか迷っている。


人は永遠に耐えられないのか?

忘却は救いなのか?


アマリアの木偶人形は話を続けた。


『妖精族は永遠とも言える寿命を持っていた、その代償として大循環には乗れぬ死は滅びであり消滅だ、彼らは徐々に狂って行ったと言われておる、精霊王めいろいろ隠しておるようじゃがな』

「古代の妖精族が数万年前に人を糧にする事を覚え、その罪により幽界の神々により魔界に落された、その伝説は事実だったわけですね」

『伝説は過去の事象の影の様なもの、大まかにはそのとおりじゃな』


「それで集めた力を何に使っているんだ?」

ベルの声にはあからさまに不信が滲みでていた。


『うーむそうじゃな、世界は巨大な花の上にあると言う話を聞いた事があるか?

聖霊教の山岳派や聖霊拳の者達の間では特に信じられている説話じゃ』

アゼルだけが何かに気がついたように顔が変わった。


『世界は巨大な花の上にあると言うのじゃそれが転輪花じゃ、端から端まで幾千万年歩いても辿り着けぬ程大きな花だそうな、その花の上に無数の小さな世界があると言う。

その花の中心に始まりと終わりの奈落がある。

その奈落に総ての物が吸い込まれて落ちていく、物も光もそして力も時も運命すら。

落下の力が生み出す螺旋の力が転輪花を旋回させるのじゃ、それが世界の黄金律の原動力になると言う、転輪花の旋回が時すら進めると言うのじゃよ』


「奈落の底に落ちたらどうなるの?」


『うむそれは新しい創造の糧となるそうじゃ、物質も力もふたたび世界に回帰していく、奈落を始まりと終わりの大穴とも呼ぶ。

世界の終わる時転輪花もその回転をとめる、そして時も進まぬ凍りついた世界になるそうじゃ、永遠の今だけが残る。

まあなんじゃ聖霊教を深く知れば触れる事のできる知識じゃぞ?これは秘密でもなんでもない』


「愛娘どの、先程花の上に無数の小さな世界があると言われたが、エスタニアいやナサティアの様な世界が無数にあると言う事なのか?」

『儂もあやつらに尋ねたが答えを得られなかったわい、じゃがナサティアが有限なのは儂も気づいておるよ、多くは禁忌に関わることで教えてやれぬがな』


「禁忌ですかアマリア様…」

『アゼルよまだ人は知るべきではないそうじゃ』


みなアマリアの話を咀嚼するだけで精一杯のようだ、呆けた顔のベルとコッキーに視線を移してそう思った。





『ところでハイネの吸血鬼はどのくらい数がおるのか解るか?』

「俺たちが知るかぎり、頭らしき若い吸血鬼の女性とコッキーより少し年下に見える少女の吸血鬼だ」

『どちらかが真祖か両方とも真祖か、これだけではわからんな』

「愛娘殿、真祖とはなんだろうか?」

『ああすまぬな、吸血鬼に血を吸われたものはその吸血鬼の眷属になる、その大元の吸血鬼を真祖と言うのじゃよ。

高位の眷属に成るほど真祖に近い能力を持つと言われておる。

そして最初に吸血鬼になった闇妖精は吸血鬼の中の吸血鬼として神祖と呼ばれておるそうな』


「なるほどホンザ殿は不死者の軍団が生まれることを恐れておられた」

『適当に血を吸って放置していると眷属が更に眷属を増やしていく、じゃが下位の眷属が眷属を作っても下等な眷属しか生まれぬ、それは屍鬼のような不死者じゃな、じゃが数は力よ真祖はその軍団を支配する事ができる。

記録では数万の数に増えて大騒ぎになった記録があるぞ街が一つ消えたそうな』

その途方も無い話に全員それを消化するのに精一杯だった。



やがてアマリアの木偶人形が口を開いた。

『やるべき事が多すぎるわい、さてどこから手を付けようかのう』

ルディはアマリアの考えを乱したくないので沈黙を守っていた。


『ハイネの大聖霊教会の地下遺跡が一番近いかのう』


「そうだ思い出した、コッキーのトランペットがそこから出てきたとアイツが言っていたんだ!!」

ルディもベルが魔術街の魔術道具屋の店主を脅して手に入れた情報を思い出した、だが男の名前が想出せない。

『トランペットだと?それか?それがどうした?』

「アマリア様このトランペットに神器の疑いがあるのです」

『なんじゃと!?阿呆がもっと早くいわんかい!!!』

木偶人形が片足を床に打ち付けた、顔は無いのでわかり難いがかなり怒っている様だ。

「申しわけない、余りにも情報が多くて頭から抜け落ちてしまったのだ」


木偶人形はコッキーの目の前に動くと首から下がったトランペットをまじまじと見詰める。

ため息をついて言葉を紡ぐ。


『こうして見たところ何も感じぬな、これが神の器ならば調べても無駄じゃろうて、しかしなぜ神の器と考えたのじゃ?』

そこでアゼルがアマリアにハイネの魔術街でハイネ大聖霊教会の地下遺跡から盗掘された潰れた金属の固まりを手に入れた事、コッキーがそれに触れるとそれがトランペットに変化した事、奪われそして今日偶然戻って来た事、そしてトランペットに特殊な力がある事などを伝えた。


木偶人形は両手を広げて呆れた様な仕草をする、それが妙に人間臭くておもわず笑った。


『それでは疑うのも無理はないか、だが少々主張が激しすぎるぞ、今まで知られている神器は時が経つにつれ初めて神器であったと気づく様な物ばかりじゃ、知られぬまま消えた神器もあると言われておるから絶対ではないが、精霊王め情報を小出しにしおってこれは大地母神メンヤの神の器と思って間違いないのか、確かに大地のホルンと通ずる物があるのう…』


「アマリア様、ハイネ大聖霊教会のある場所は古代の聖域と聞いています、やはりメンヤに関係があるのでしょうか?」

『アゼルよ聖霊教会は古代宗教の聖地や神殿の跡に建てられている事が多いのじゃよ』

ルディがふと見渡すとベルもコッキーも眠そうな顔をしている、巨大な死霊と闘い狭間の世界を旅してきたのだから疲れが溜まっているのだろう。


『みな疲れているようじゃな、ここではまともな食事は出せぬが力が付くものを出してやろう、今日は下の客室で休むがよい、お前たちもそう長くはここに居るべきではない、向こうが朝になったらドルージュ要塞に通路を開こう、もちろん他の場所でもかまわんぞ?』

「荷物があるのだ愛娘殿、要塞の正門近くでお願いしたい」

人形は頷いてゴトゴトと音を立てて螺旋階段を降りて行ってしまった。


やがて木偶人形が大皿の上に小さな煉瓦の様な形をした薄い黄色の物体を幾つか乗せて戻って来る。

『これしかなくての、味はイマイチだが食えるはずじゃ』

皆が躊躇しているとコッキーが手をのばして一つ口に運ぶ、そしてもぐもぐと噛み砕いて飲み込んだ。


「柔らかいクッキーみたいですよ、お菓子みたいでわたしにはご馳走なのです、すこしチーズみたいな味がします」

その言葉でみな手をのばして奇妙な食べ物を掴みとった。


「これは軍用の携帯糧食としては良いぞ」

それがルディの率直な感想だった。

『そうじゃろう?これは100年ほど前に作ったものでな、長持ちする優れものよ』

それを聞いた皆がむせた。






食事を終え一階の客間に戻ったベルとコッキーはすぐにベッドに潜り込んだ、ベッドの側にあるスイッチに軽くふれると照明がゆっくりと落ちていく。

余りにも多くの事が起きた一日だった、最後に頭に入りきれぬ程の情報の洪水、すでに何を聞いたか覚えていない。


暗闇の中からコッキーの声が聞こえてくる。


「ベルさんごめんなさいです…」


しばらく沈黙が続く。

「アゼルが限界だったからしょうがないよ、でも次は勝手にしないで、その時は許さない」


それに答えは無かったコッキーは既に寝息を立てていた。

ベルも疲れていたすぐに深く眠りに落ちていく。






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