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精霊魔女の通信機

ここはどこなのです?


コッキーは何か柔らかな物の上で目が覚めた、なぜか眼の前が薄い茶色の布の様な物に覆われていた、そして少し暖かい、慌てて頭を上げると目の前に形の良い双丘が見える、その丘の間から目を閉じた美しい銀髪の女性の顔が見えた。


「ベルさん!!」


ベルを下敷きにして寝ていたようだ、慌てて起き上がり彼女の体の上から下りる。

そっと彼女の胸に耳を当てると心臓の音が聞こえて来た、とりあえずベルが生きていると安心した、だが気が付くと周囲が妙に明るい。


目が覚めるに従いしだいに思い出す、廃墟の城の地下に降り銀色に輝く床を見つけ、後ろから追われるように輝く床に近づいてそのまま引き込まれ意識を失ったのだ。


視界の端に傷一つなく完璧な姿で輝く黄金のトランペットが目に写った、おもわずそれに飛びついて握りしめた、大切な物を捧げ待つように恭しい態度でそれを掲げる、そしてトランペットの紐の輪に首を通した。

そして満ち足りた様に微笑んだ。


「やっと還ってきたのですよ」


胸に下がる黄金のトランペットを慈しむように眺め下ろす、そしてゆっくりと立ち上がって周囲を見まわした。


地面は白く表面が磨かれた滑らかな石材が緻密な精度で敷き詰められている、幾何学的に完全に切り揃えられた石組みは非人間的なまでに整い完璧だ、それがどこまでも広がりそのはてが見えない。


地平線の付近は雲か霧が立ち込めていて、巨大な白い壁が周囲を囲んでいる。

遠くを見ると地平線の彼方に何か建造物の影と黒い雲が見えるが、全体的に白と灰色の世界で単調な景色で気が滅入ってきた。


ここは天国なのです?


ふと空を見ようと顔を上げた、だがそこには期待した青い空はなかった、灰色の雲の壁に囲まれた丸い天井の様な空がそこにあった。

初めは灰色がかった緑の空だと思った、しばらく見えている物が良く理解できないまま当惑していた、ただ直感がベルと彷徨った黄昏の世界を逆さまに見下ろしているのだと告げている。


しだいにコッキーは見えている景色の意味を理解し始める。


点在する森と林、黒い水を湛えた湖と池、巨大山脈と砂漠らしき荒廃した大地、何かの人工的な巨大建造物と街らしき建造物の群れが見える。

高い空を飛ぶ鳥から地面を見下ろした様な俯瞰からの圧倒的なまでの壮大な情景だった。


コッキーは大きく口を開けたまま閉じる事ができなかった。



「ここはどこだ!?」


ベルの当惑した声がすぐ近くから聞こえてきた、我に返ったコッキーが声の主に視線を転じる。

明るい光の元で立ち上がったベルの姿は無残だった、野暮ったい田舎娘風のスカートは引き裂かれボロボロになっていた、その用を果たしていないドレスの布の隙間から下着の白い色が見えている。

そして飛び散った泥の飛沫が全身にこびりつき酷い有様になっていた、特に長ブーツと白い両足はこびりついた泥で酷く汚れていた。


そして今度は自分の身なりが気になる、全身見渡すと青いワンピースのお尻のところが泥で真っ黒になっていた。

両手も泥まみれでスカートもところどころ泥で汚れていた。

コッキーは眉を八の字にして顔を横に振る。

そして不気味な腕に握られた左足の足首が火傷の後の様に少しヒリヒリとしていた、かがみ込むと足首の泥をワンピースの裾で拭った。


「ベルさんあの変な世界に戻ってきたのでしょうか?」

「わからない」

「ベルさんルディさん達の姿が見えないのです」


ベルが突然精霊力を解放した、その力はいつもより数段強く感じられる。

「ルディ達はどこだ?…遠くにいるかも」

「かもです?」

「うん、こっちだ付いてきて」


ベルは白い石畳の上を迷いなくある方向に向かって、それでいて周囲に気を配りながら慎重に進み初めた。

床の化粧板のような石畳がブーツに踏みしめられて硬質な音を奏でる。

コッキーも慌ててその後ろを追いかける、だがベルのスカートがボロボロで同性とは言え目のやり場に困る。


「ベルさんそのスカートでルディさん達の前に出るのです?」


ベルが歩みを止めて振り返った、彼女の顔は僅かに赤みをおびていた。

僅かに迷った様に目を彷徨わせた後で口を開いた。


「わかっているけど、着替えは全部キャンプに置いてきたんだ、コッキーもそうでしょ?無いものはないんだ」

ベルの言葉から僅かに苛立ちと怒りの棘を感じて内心首を竦める。


「ごめんなのです」

ベルは振り返りもせずにまた歩き始めた。

「行くよ」


ただコツコツと石畳を堅い物がこする様に鳴る音がした、コッキーはベルの頑丈そうなブーツに金属の刃か鋲が仕込まれているのではと訝しみ初める。


「みて!あそこにいるのはアゼルだ」

かなり離れた場所に人影が見えた、ベルはその人影を真っ直ぐ指差していた。


「おーーーい!アゼルさーーーーん」


コッキーが飛び跳ねながら大声で叫ぶ、アゼルも気づいたのか小走りでこちらに向かってくる。



「ベル嬢にコッキーですか、よかった貴方達もこちらに落ちていたようですね」

「アゼルここは幽界なの?」

アゼルは空を見上げ天を指さした。

「あそこが幽界です、ここは狭間の世界でしょう、前に少し話したと想いますが殿下と私は前に一度ここに来ています、ここは現実界と幽界の境界に位置する世界、アマリア様が言う処のプレーン境界らしいのですが」

「じゃあそのアマリアが僕たちをここに連れてきたの?」

「それはまだわかりません」


コッキーはその時アゼルに違和感を感じて小首を傾げた。


「ところでベル嬢、殿下がどこにいるかわかりますか?」

ベルはまた指をある方向に向けて指差した。

「たぶんこっち、なんとなくこの先に居ると思う」

アゼルは訝しげにベルを見たがしばらくすると納得したように語る。


「貴方達の力が強くなっている可能性もありますか…幽界帰りですからね」

そう呟いたアゼルの表情にコッキーは彼の懊悩の一端を感じた様な気がした。


「コッキー?」

アゼルを見つめていた事に気づいて慌てた。

「なんでもありません」


そして違和感の正体に気付いた、小さな猿のエリザの姿が見えない事に。


「アゼルさんお猿さんの姿が見えません」

「あっ!?エリザがいないけどどうしたの?」

ベルもエリザの姿が見えない事に気づいた様だ。


「…私が目を覚ました時にはいませんでした」

ベルが再び探査の為に精霊力を放った。

「うーん、生き物の反応は近くに無い、いるのはルディだけだ」

コッキーはその力が体を通り抜けて行くのを感じて改めてベルの力が強くなっていると実感した。


三人はベルの案内で歩き始める。


「見てルディがいる!!」

しばらく歩くとベルがそう叫ぶと全速で走りだした。

コッキーがその先を見るとその先に立つ人影が見えた、その人影がこちらを振り向いた。

コッキーとアゼルもベルを追って足を急がせる。






「ルディさんご無事でしたか」

「殿下ここにいましたか…」


『なんともパンツ丸出しとははしたないのう』


ベルに追いついたコッキーの耳に老人じみた口調だが鈴のように美しい正体不明な少女の声が聞こえてきた。

だがその声はルディの方から聞こえてくる、コッキーはわけがわからず混乱した。


「コッキーこいつが話しているんだ」

ベルはこちらを振り返ってルディの胸を指差したので、それでますますコッキーは混乱した。


『こいつとはなんじゃ、近頃の小娘は口の聞き方がなっておらんわ』


「あの今の声はルディさんなのです?」

「ちがうこのキラキラしたゴキブリだよ」


『何がゴキブリじゃ!玉虫じゃ!!』


怒った少女の声がルディの胸に止まっている昆虫から聞こえて来る。

コッキーは思わず近寄り凝視する、その甲虫は磨き上げた金属の様に、水に落とした油の様に虹色に輝いていた、見る角度が僅かに変わるとオーロラの様に色が変わっていく。


「その声はアマリア様ですね、お久しぶりです」

『おおアゼルかとりあえず全員揃ったか、そろそろ時間切れじゃまた来るぞ』

それを最後にルディの胸にとまった玉虫は何もしゃべらなくなった。


「綺麗なのです」

コッキーは玉虫の変化する輝きに魅了されている。


『そうじゃろ、そうじゃろ、パンツ娘と違って美を理解できるようじゃな』


「うわっ!!」

コッキーは急に声がしたので驚いて後ろに飛び跳ねた拍子に足を滑らせて盛大に尻もちをついてしまった。


「愛娘殿まだいたのか?」

ルディは少し苦笑いをしている。


『こんどこそ時間切れじゃ』

そして玉虫は完全に喋らなくなった。



「この虫がアマリア様なのです?」

コッキーは美しく美しく色合いを変える玉虫に魅了された様に見つめていた。


「違う、これはアマリア殿の使い魔か魔術道具だろうな」

ルディがコッキーの疑問に応える。

「私にも原理は理解できませんが、アマリア様の術でしょうね、前に来たときにも案内をしていただきました」



「この先どこに行くの?」

ベルがルディに半歩近づくとルディは半歩下がり視線をベルから僅かに逸す。


「アマリア殿の話ではあの遠くに見える黒い雲の方向だ、そこに来いと言っていた」

それはコッキーが最初に見た何かの建造物と黒い雲と同じものだ。


「じゃあ行こうか」

ベルがさっそくそちらに向かって歩き出す、ボロボロのスカートの隙間から彼女の形の良い尻と泥が飛び散って汚れた白い下着が見え隠れする。


「まてベル、俺が先頭を進もうガイドのアマリア殿の使い魔がここにいる、そうだベルは殿を頼む」

ルディは胸の玉虫を示した、それはもっともな理由だった、ベルはおとなしく立ち止まった。


「エリザを見つけたら教える」

アゼルが通り過ぎる時ベルがそう呟いた、そのつぶやきがコッキーの耳にも届いた。


「ええ、よろしくお願いします」

アゼルもベルから視線を微妙に逸らせながら礼を言う。

そしてベルが一番最後から歩き始める、これで彼女のボロボロのスカートを眺める者はいなくなった。





コッキーは後ろにいるベルから精霊力が放たれたのを感じた、まるで体の中を探られるような不安を感じる、その直後ルディが停止のサインを出した。


コッキーが数歩横に動くと先の地面の上の黒い大きな水たまりが目に入る、総ての光を吸収するような完全な黒があるならこの変な水たまりの色だと思った。


「ものすごく黒いですよ?」

「これは、前に見た物と同じですね、かなり大きいようですが」

アゼルも数歩前に出てルディと並んだ。


「なんだあれ?」

ベルも前に出ようとしたがコッキーがベルの腰をつかかんだ。


「殿方の前に出てはいけません」

ベルがこいつ何を言っているんだと言った目で睨みつけて来た、少したじろぐが負ける訳には行かない。


「あれが動き出しましたね、注意してください」

アゼルが警告した、彼らの目の前でその黒い水たまりが波打ち初めた、それは次第に激しくなって行く。







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