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エルニア帝国興亡記 ~ 戦乱の大地と精霊王への路  作者: 洞窟王
第二章 騒乱のテレーゼ
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呪われた大地

 「あなたともお別れですね、お世話になりました」


『ウキィ』


ラーゼの市場でアゼルはロバに別れを告げる、エリザもロバの背中に乗り旧友との別れを惜しんでいるようだ、ロバの瞳も心なしか潤んでいる様に見えた。


「さあ行きましょうか、昼食をとったあと買い出しをしましょう」

「良い店とかあるの?」

「東門近くに私の馴染みの飯屋があります」

三人はアゼルの案内でその飯屋に向かう。


「ところでどうしても小間使いの格好をしなきゃならないの?」

「ベル、そんなに嫌なのか?」

「動きにくいと言うか戦いにくいだろ?」

「貴女らしい理由ですが、我慢してもらいます」

「でもこの剣とか似合わないよ?」

腰のグラディウスの柄を軽く叩く、小間使いの服とグラディウスは確かに似合いそうもない。


「ベル、その剣の鞘は昨日買ったのですよね?」

「中古の出物」

「昨日はあまり良く見て居ませんでしたが、ずいぶんと古風な意匠の鞘です」

「城の図書館の壁に有った神話絵巻に描かれていたのと同じ」

「ああ、あれは歴史絵巻です、ロムレス帝国のユピテル軍団の記章ですね」

「ユピテル軍団って何?」

「ユピテルは西方世界の宗教の主神の名前です、その主神の武器の雷撃を象った記章です、ユピテル軍団はその神の名を冠した軍団なんです」

「ほんとだね電のような意匠だね」


ロムレス帝国は大陸西部で建国され大陸の半分を支配した大帝国だ、二番目の帝国として第二帝国などとも呼ばれている、その帝国の重装歩兵は今も有名でベルのグラディウスはその時代の武器だった。

ちなみにセクサルド帝国は第六帝国と呼ばれている。


「でも傭兵のかっこの方がいろいろ動きやすいでしょ?」

「アゼルよそれは俺も思ったな、戦の多いテレーゼでは傭兵の方が自然ではないのか?」

「いえ商人は流通を絶やさない為にある程度は庇護されますが、傭兵は関所で留められたり、個人の傭兵だと強制的に雇用される事すらあるんですよ」

「そこまで酷い事になっているのか」

「ええ、敵の陣営に傭兵が行かないようにするなどの嫌がらせが多いのですよ、敵を干す為に商人も足止めされる事もありますがね」


「見えてきましたそこです」

アゼルが指さしたのは小奇麗な飯屋だった、アゼルが言うには夜は酒場になるらしい。

ドアをくぐると店の店主がアゼルにさっそく声をかけてきた。

「あんたか?ひさしぶりだな今日は連れがいるのか」

「こんにちは」

ベルが店主に愛想を振りまいた、ルディはそれに密かに驚いた、ベルは二年前までお転婆とは言え貴族の令嬢だったのだから。


「ラーゼは安定して恵まれていますが、他は厳しいですよ、ここで十分食事を楽しみましょう」

三人は豚肉の野菜炒めを注文する、ここではかなり贅沢な料理だ。

席について落ち着いた頃、となりのテーブルの傭兵らしき男達の会話が漏れ聞こえてきた。


「ハイネ方面で戦が起きるぜ」

「今からじゃあ稼ぎにならんな、移動の邪魔なだけだぜ、でどこが戦うんだ?」

「ベンブローク派のヘンリー=ベントレー伯とヘムズビー派のアラン=ベントレーらしいな」

「また相続争い絡みかよ、どうしようもねーな」

「双方の援軍が集まりつつあるらしい」

「朝まではそんな話聞いてなかったがどうなっているんだ?」



「テレーゼっていったいどうなっているんだ?」

ベルが声をひそめてルディに尋ねた。

「簡単に言うとだな40年程前にテレーゼの王室で継承争いがあった、叛乱やお互いに暗殺で殺し合った、最後の直系は恨まれた家臣に殺された、その後は縁戚の公爵家同士で争いが始まってな、二つの派閥で延々と争い続けている、それぞれベンブローク派ヘムズビー派などと呼ばれておる」


「良く周りから攻め滅ぼされないね?」

「北はアラティア王国とセクサルド王国とグティムカル帝国が延々と争っていて介入する余力はない、クライルズ王国は湖沼地帯と山脈があって関心が薄い、エルニアはまだ開発する場所が多くてテレーゼに関心がない、むしろテレーゼから来る流民や盗賊や諸侯の奪略を何とかしたいのだ」


そこにベルが割り込んできた、ベルは妙に声を落とし小声で話す。

「クラビエの自由開拓民の村はテレーゼからの流民で開発したんだよ、父さん達はエルニアからは農民を入れないようにしていたみたい」

「ああ、そういう事か!!」

ルディは頭を抱えた。


「それに戦がグダグダ続く理由がありまして、例えば相続争いで兄がベンブローク派に付くと弟は反対側に、領地争いが起き片方がヘムズビー派に付くと、敵対している方が反対側につく、二つの陣営の勢力図が入り乱れ絶えず変化しています、何時の間にか敵対し合う者の陣営が入れ替わっている事すらありました」


「ここ40年で人口が半減したと言う者もいるのだ」

「それは酷いな」

「誰も正確な情勢を知っている者がいないとさえ言われる程でして」

「それでもな、今までも何度か混乱が収まりかけた事もあったのだ、だが大概予期せぬ出来事が起きて混乱状態に戻るのだ」

「呪われた大地とか、外国からの謀略と怪しむ者も多いようです」


そこに料理が運ばれてきた、給仕の若い少女はアゼルを見て顔を赤らめる。

「コゼットお久しぶりです」

「アゼルさんこそ!!そちらの方々は?」

「お、私はアゼル先生の護衛兼助手のルディ=マーシー」

「私はエドナの山ガイドのララベルですわ」

コゼットはベルとルディを厳しい目でじろじろと見ているが、料理に没頭していたベルはそれに気が付かない。


「コゼットさんハイネの方で戦が起きそうなんですか?」

「えっ!?はい既に注意が出ていますよ、そちらに行こうと思えばいけますが」

戦があるからと行って街道が封鎖されたりはしない、そちらに行くのは自由なのだ。


「戦場の真ん中を進むのは無謀ですね」

「こんな事はよくあることです、南のリネインやその南からハイネに迂回できるかもしれません、遠回りですが戦がいつ終わるかなんてわかりませんから」

「ハイネに向かう人達はいつもそうしているのですね?」

「南門で待って大きな商隊と一緒に進むのも手ですよ、あ、そろそろ戻らないと」

店の店主がコゼットを睨みつけているのに気がつき奥に引き上げて行った。



昼食を終え彼らは中央広場近くの衣料店に移動する。

「ここだけで揃わなければ、他をまわりますよ」

「そこらへんは町に詳しいアゼルに任せる」


商人の制服が有るわけではないのでそう見える衣裳を購入するだけだ、男二人の衣裳は簡単に確保できた、だがベルが衣装に悩みなかなか終わらない、男二人が痺れを切らし始めた。


「衣装代は私が持ちますから悩まないでください」

「ベルよ俺が選んでやろうか?城の侍女服には詳しいぞ?」

「勝手な事しないで!!わかったから」

ベルは素早く小間使いに見えそうな服を選んでいく、小間使いにしては少々高級に見えるがやはり育ちが良いのだろうか?ルディは何も言わずに自由にさせていた。

「もう良いよこれで・・・試着してくる、デリカシーないよね二人とも」


「まあこれなら、商人の一行らしく見えますよね・・」

アゼルは自分の買い物にあまり自信が無いようだった。



「さて、私は魔術用の触媒などを確保しなければなりません、今後の旅に絶対欠かせない物なので時間をいただきます、あとまともに物が手に入るのはラーゼくらいなので、必要な物はここで買っておいてください、日が暮れるまでには宿に戻りますので」

「僕は野営道具を買い直す、あと携帯食料を補充しなきゃ」

「俺はベルに付き合うぞ、その後で西門に行き戦の話でも集めるか」


二人がアゼルと別れ中央広場を抜け西門に向かう街路に入ったところで、後ろから声を掛けてくる者がいた。


「やあやあ、昨日のお二人ではありませんか?」


振り返るとそこにいたのはピッポだった、だが昨日の女魔術師の姿は無い。


「昨日の親父じゃないか、儲けさせて貰って済まなかったな」

「イヒヒ、こんな処で偶然合うとは、昨日は兄さんには驚かされましたですぞ」

「ところで昨日の美人の姉さんはどうしたんだ?」

「え!?いえいえそんな女性はおりませんぞ?何かの見間違いではありませんか?」

「そうか、すまなかった、後ろにいた綺麗な姉さんが、親父殿の仲間だと誤解していたようだ、ところで何の御用かな?」


ピッポは相変わらずにやけた笑みを貼り付けた顔をしておりその表情の変化は読みにくい。


「ハイネへの道が危険になりまして、我々も迂回してハイネに行きたいので、どこかに便乗しようと思いまして」

「俺達に便乗したいのか?」

「お兄さん方もハイネですか?聖霊教会の視察使団が南に向かうので、我々もそちらに便乗するつもりです、お兄さん方もそうしたらどうですかな?ヒヒヒ」

「おお、聖霊教会の視察使団ならば安全は高まるな、俺達も便乗させてもらおうかな」

「旅は数が多いほうが安全ですぞ」


そこにベルが割り込んできた。

「ねえ、あの盾叩くのに一回3ビィンだと苦しいんじゃないの?もっと値上げした方が良いのに」

「いえいえ、そのくらいじゃないと余興で乗ってくれるお方が居ないんですよ、長年の経験と言うやつです、こちらも厳しいのですよ、イヒヒッ」

ルディは何かに気がついた様にベルを振り向いた。


「ところで聖霊教会の視察使団はいつ出るのかな?」

「明日の早朝の開門と共に出るそうですぞ」

「ありがとうよ、ではまた明日会おう」


二人はピッポに手を振りながら別れを告げ西門に向かって歩きだした。

「俺の剣に目をつけている可能性が高いな、まあ俺の正体を嗅ぎつけた可能性もゼロではないが」

「そっちの可能性もあるのか・・・」


「ところでベルはスリも奴の仲間だと疑っていたのか?」

「ボルトにも居たんだよ、大道芸人が人を集めて仲間がスリで稼ぐんだ」

「なるほどな、そう言うことには疎くてな」


「あとアイツ『我々も』と言ってたね」

「ああ、そうだ」




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