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コッキーの母の遺品

 ゲーラの中央広場近くの安宿で食事を終えたルディ達は待機している馬車に向かう、孤児たちは外食は初めてだったので大喜びだった、味付けも宿屋の食事はまかないの老婦人達の料理より味が濃い、子供達の興奮が醒めず賑やかな行列になった。


そんな行列をルディが先導していたがそれがまた妙に様になっている。


「ルディ様ご馳走さまでした、この子達に良い思い出になりましたわ」

サビーナが申し訳なさげに礼をのべた、だがそんな態度と裏腹に彼女も喜んでいるのがまるわかりでルディも微笑ましい。


サビーナも元気を取りもどした様で何よりだった。


(今の処は俺の金でなんとかなったが、アゼルが一文無しになってしまった、このままではまずいな)


ルディはサビーナの思いも及ばぬところで悩んでいた、ベルの顔をつい思い浮かべて危機感を感じながら歩く、これ以上ベルの金に頼るとますます彼女が増長してしまうだろう。


街の人々はこのにぎやかな行列が通り過ぎるのに驚いていた、悪い印象は無い様子だがいろいろ目立ちすぎている。

予定通りゲーラの東門の近くで待機していた馬車に乗り込むとふたたびリネインを目指して走り始める。



走り始めると御者はすっかり気を許したのかルディに話しかけて来る。


「旅は順調ですぜ旦那、このままリネインの閉門前に着くとおもいます、何も無ければですがね…」

「襲われる危険があるのか?」

「この街道はもともと治安が良いほうですぜ、ベントレーが落ち着いたらゲーラやリネインの領主様が治安を見る余裕がでますからねい」

ルディは御者が少し訛っているのが気になった、どこの言葉だろう?


「この馬車はハイネの運送ギルドの商会が資金を出し合って運営しているんで、よほどの馬鹿しか襲ってはきません、ですが絶対はありませんぜ」

「運送ギルドだと…ジンバー商会もか?」

「大きな所は全部出していますよ?なにかあるんですかい?」

「いや、少し気になっただけだ…」


ルディはジンバー商会が小さな運送屋から大きく成った話を聞いたことがあったからだ。

運送業は安全の為に護衛を抱えていたり傭兵団などとも縁が深い業界で荒事に慣れていた、海運ならば私設海軍を持つギルドまであるし海賊を兼ねる場合すらある。

ルディは書物で得た知識を思い出していた。

ハイネの運送ギルドの看板には無法者が手を出しにくい事情があるのかもしれない、たしかジンバー商会も無法者に顔が効いていた。


ふと後ろの荷台が騒々しかった、それが気になり幌の隙間から荷台を覗いてみるとサビーナとファンニが子供達と何事か談笑していたので一安心した。


「そうだ、そのベントレーで争っていた兄弟が両方とも死んだそうだな?私は精霊王に仕える身であまり世情に詳しくないんだ」

こんどは御者に話しかける。


「旦那、いや司祭様、馬鹿兄弟の後ろにはそれぞれベンブロークとヘムズビーがいたんでさ、ごぞんじですかい?」

「ああ、もちろん知っているぞ」

自身有りげにそう応える大柄な司祭を胡散く見上げる。


「ここらへんの領主様も皆どちらかに加担していたんでさ、それが皆んな手を切ってあたらしい同盟に加盟したってこった、このまえの戦が終わった後で二人共片付けられたんだ」

「暗殺か?」

「暗殺に近いかな、それぞれの館を奇襲して押しつぶしたらしい」

「乱暴な事を、それでご兄弟の従兄弟殿を領主にしたわけだな」

「そんなところらしい、馬鹿でも暗殺は警戒していたようだぜ」

「なるほど」

「それで街道が安全になるならそれに越した事はないねえ、へへへ」

御者の男は嗤った、ベントレーの兄弟はこの地方の人々の顰蹙をよほど買っていた様子だった。


午後の気怠げな陽に照らされそよ風に優しく吹かれながらルディは御者台からの景色を楽しんでいた、何度か疲れる事を知らないベルの気配が馬車に近づいて来るを感じた、こちらの様子を確認しているのだろう。


馬車は順調にリネインに向かって進んでいく。









リネインの城壁が夕日に照らされてオレンジに輝いていた。


「リネインよ!!私は帰ってきたのです!!」

リネインの城壁を久しぶりに見たコッキーは感動して叫んだ。

それをどこか羨ましげにベルが見つめていた。


「どのくらいになるのかな?」

「えー半月ぶりくらいでしょうかね?」

「そんなものかな、いろいろな事があったから半年くらい昔に感じる」

「そうですよね…聖霊教会の皆んなも心配しているのです」


「コッキーにはサビーナ達と合流してからリネインの聖霊教会に行ってもらうから繋ぎをお願いね、後はサビーナとルディにまかせて」

「ベルさんわかりました、私も修道女長様や司祭様とお話しなければならない事があるのですよ」

「大切な事なんだね」

「そうなのです」

「わかった…」


「さあ、ふたりとも急いで宿を探しましょう、若旦那様達がすぐに来ます、あと店が閉まる前に買い物をしたい」

アゼルがリネイン市街に入ることを二人に急かした。




宿は以前宿泊した宿を選ぶ『エドナの岩肌』という名のそこそこ良い宿だ。

だが宿屋のフロントでベルが悩み始めた。

「やっぱり一部屋ではだめかな?」

ベルの提案にアゼルとコッキーは反対しかけたが、むしろ三人なら良いかもと考え直す。

「ベッドが二つの部屋なら良いですが…お金の心配をかけてしまいましたか?」

アゼルがベルに気を使った。


「ルディさん達もいますからね、街から部屋がなくなるのが心配です、この街は小さいのですよ」

「ベル考えがかわりました、二部屋契約してください、若旦那様が聖霊教会に泊まらずに済むように部屋を確保しておきましょう」

「そっか、解った二部屋契約するよ、まだ増えるかもしれないし」

「ベルそう言う事です」

「サビーナさんやファンニさんが泊まるかもしれませんよね」

コッキーがそれに賛同したがベルは僅かに微妙な顔をした、明日あたりアマンダがこの街にやって来るのだ、そうなると女性三人で一部屋となるだろう。


ベルは結局ベッドが二つある部屋を二部屋契約した、貴重品をアゼルの部屋に集めると彼が防護魔術をかける。

「では若旦那様を迎えに行きますか」

そして三人はルディ達を迎える為に急いで街に出る。





やがて大型馬車がリネインの西門に現れ予定より僅かに遅れて西門を潜る、閉門にはまだ時間があった。


「旦那、みなさん着きましたよ!!」


御者が到着を告げる。


「さあみんな降りるんだ!!」

ルディの合図で子供達が馬車から溢れ出す、ルディはまたサビーナ達が降りるのを手伝ってやった。

最後にルディはベルから預かった金から残りの料金を御者に手渡す。


「たしかに受け取りやした」

「ところでこれからどうするのかな?」

「あっしですか?あっしは馬車を預けて馬の世話をしたら決められた宿にいきます、明日ハイネにかえるんでさ」

「ご苦労だったな」

ルディは小銭をチップとして御者に手渡した。

「へへ、これで一杯やりますよ」

御者は馬首を馬車止めに向けて馬をせかす、それに子供達が手をふり見送った、子供達の小さな旅はひとまず終わったのだ。


ルディは背中に感じる気配でアゼル達が背後からやって来たのを感じた、だがサビーナ達もそれに気づいた様だ。


「僕姉ちゃんとちび姉ちゃんだ」

「まあアゼル様!!」

子供達がアゼル達三人に近づいて群がる。


「リリー達どうやってここに来たの?」

孤児の長たるアビーが当然の疑問をぶつけて来た。

「僕たちはアゼルの魔術の力で馬車より速くきたんだ、そうだよね?」

「ええ、そうですよ」

話を振られたアゼルもそれに合わせる。


「すごいわね魔術って」

アビーも子供達もそれを信じ感心する事しきりだった。



「アゼル様」

子供達の後ろにいたサビーナが前に出てきた。


「この前の御礼も言う事ができずにこの様な事になってしまって」


サビーナはファンニと交代でセナ村に行く予定だったのだ、だがサビーナ誘拐計画が発覚しそのままアゼルに礼を言う機会を逃していた。

サビーナは深く一礼した。


「いいえ、サビーナさんと子供達が無事でなによりでした、そのような事はお気になさらずに」


この言葉はアゼルの率直な気持ちで偽りがない、サビーナが孤児院の子供達が誘拐された時に宿屋の彼の部屋に頼って来た時から変わらなかった。

アゼルは穏やかな微笑みをサビーナに向ける、それはベルが一度も見たことの無いような穏やかなものだった。

彼女は何かを続けて言おうとして戸惑いそして言葉を続けた。

「ありがとうございますアゼル様あの…子供達に変わってお礼を申し上げます」

サビーナは顔を伏せてしまった、彼女の顔は僅かに赤く染まっていた。

「顔を上げて下さいサビーナさん」

顔を上げたサビーナは普段の彼女だった。


子供たちはすでに街を見回して大いに騒いでいた、ハイネから離れたのが生まれて始めての子供が殆どなのだ。

男の子達がコッキーにイタズラを仕掛けて締められている。

「苦しいよ、ごめんチビねーちゃん!!」

「何を馬鹿な事やってんの?コッキーさんにお仕置きされればいいのよ!!」

女の娘の大きな声が響いた、日頃の鬱憤(ウップン)が感じられる冷たい声だ。



そしてベルと話し込んでいたルディがサビーナの処にまでやって来る。

「いつまでもここにはいられません、聖霊教会に挨拶に行きましょうサビーナ殿」

「あっ!そうですわね、ファンニ行きましょう」

大人達が子供達を取りまとめるとリネインの聖霊教会に向かう、西門前の広場からでも夕日にオレンジ色に輝く聖霊教会の礼拝堂の尖塔の先が見えていた。


ここの孤児院にも余裕が無い事はコッキーから聞いている、とはいえサビーナが居るのに挨拶無しでリネインに腰を据えるのはありえない、それに聖霊教会の口利きで家を借りる予定だった。

だがここにきてアラセナに彼らを逃がす案が浮上してきた、これはサビーナ達しだいだがその前にアマンダの口利きと協力が必要になる。


「コッキーお願いね」

歩きながらベルがコッキーの側に寄ってきた。

「まかせてください、それにサビーナさんはしっかりした修道女様ですから信用されますよ」

ベルのお願いの意味を察したコッキーはすぐに請け負った。


「ねえここの司祭様に何か大切な話があるとか言ってなかった?」

「そうです、ここの孤児院を出る事にしました、そうだ!!!ベルさんもうしわけありませんがお金を貸してください、すみません!!」

コッキーが本当にもうしわけなさそうにベルに頼み込んで来る。


コッキーが言うには本当は15歳になったら孤児院を出なければならない決まりがあるらしい、だが働いてお金を入れる事で17までは居ることができると。

そのお金が奪われてしまったので貸して欲しい、そして孤児院を出る覚悟がきまったので司祭と修道女長にその話をしたいと言うのだ。


「コッキーお金はどのくらい必要なの?」

「17アルビン盗られたのです、その内10アルビン収める約束なのです」

帝国金貨一枚が100アルビンになる、コッキーにとって大切な財産だ。

思い返すとピッポ達は彼女のなけなしの財産にはまったく無関心だった、精霊変性物質の剣の価値が帝国金貨300枚、神隠し帰りの価値をその10倍と見越していたのだから当然かもしれない。


「わかったお金の心配はしないであとで渡すから」

「ありがとうです、お金ができたらかならず返します」

「うん」


「あと孤児院から出る時に、おかあさんの形見を受け取る事になっているのですよ」

ベルの目が見開かれた、なにげなく話を聴いていたルディとアゼルも同様だった。


神の眷属にして神の器の主の少女の背景がまったくわかっていなかった、そして彼女の母の死霊がコッキーに憑依していると言う。

彼女について知るにはこの街で調べる必要があった。


「コッキーのお母さんの形見があったんだ…」

「一度だけ見たのです、焼けて焦げていたけど立派なブローチでしたよ、つらかったので一度しか見たことないのです」


行列を先導していたルディが急に停まった、何時の間にか彼らはリネインの聖霊教会の正門の前に来ていた。


前に来た時は聖女アウラのテレーゼ巡見使の訪問の時だった、あの時の記憶が蘇ったルディはアゼルの様子をつい覗ってしまった。






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