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敵の反撃

 日も落ちてハイネの南に広がる森の中も次第に深い闇に閉ざされて行く、だがその森の一角に多くの人のざわめきがあった。

虚ろな光を投げかける魔術の光に照らされながら、多くの人影が動き回っていた、北の夜空はハイネ城市の夜の灯に下から照らされてオレンジ色に夕焼けのように輝いている。


「ラミラさんガラの悪いのが集まってきてますね」

ジムは隣にいるラミラに小声で話しかける、ラミラがジムを見返して来たが彼女の顔は暗闇に溶け仮面の様に不思議と作り物めいて見えた。


「あそこに固まっているのが炭鉱街を縄張りにしていている『赤髭団』向こうに集まっているのが東の新市街を縄張りにしている『鉄拳(アイアンフィスト)(クラン)』だよ、どこかに南の『狂犬騎士団』もいるはずだけど」

ジムが細い目を凝らすと人相の悪い男どもが剣や槍やナタや棍棒など思い思いの武器を持ちたむろしていた。

はっきりとは解らないが50人以上いるだろう。


ジムの視界の隅に魔術師の黒いローブ姿をみとめた、それは一際異彩を放つボサボサの髪に痩せこけた女魔術師だった。


「あれは魔術師ですよね?」

「ええそうよ、他に治療と索敵、戦闘に加わる者もいると思うわ、あの屋敷は普通では無いからね」


近くをジンバー商会の厳つい男達が走り去って行く。


「防護結界の質と規模から強い上位魔術師がいるらしいわ、そしてオービス隊を壊滅させた連中がいるからね」

「物量で圧倒するってわけですねラミラさん」

ラミラはそれにうなずく。



「これはまたむさ苦しいですねぇ」

突然真後ろから声がかかり、驚いたラミラとジムが振り返って思わず固まる、ラミラは驚きの表情をしばらくのあいだ貼り付けたままだった。


そこには二人の男がいた、一人は大柄で逞しい戦士の様な体格だが魔術師の黒いローブをまとった長身の男でフードから覗く顔は浅黒く精悍で若々しい。

だがこの男の隣にいるもうひとりの男の方が遥かに強い存在感を放っている、それは中肉中背の上等な執事服に身をつつんだ初老の男だ、髪の毛は短く刈り上げられ白髪が混じり、鋭い目と鋭い眼光が見るものにより強い印象を与えていた。


「私の気配がしなくて驚きましたか?お嬢さんに坊や」

ラミラがなんとか気を取り直して口をひらく。

「あなたキールね」

「光栄ですねぇ私を知っていただけたとは、あなた達はジンバーの見届人といったところですか?」

「そんな処よ」


「俺はオスカーだよろしくな」

長身の魔術師が魔術師らしからぬ挨拶をする、ジムはその軽い口調に密かに驚いていた。



そこに聞き覚えのあるジンバー商会の執事長フリッツの声が遠くから聞こえてきた。

「この声はフリッツ殿ですな、私は挨拶してきますよ、では失礼」

キールと大柄な魔術師はそのままジムとラミラの元を離れ薄暗がりに声のした方向に消えていった。

ラミラは深く息を吐き出す。


「ラミラさん今のは誰です?」

「今のは研究所のキールよ、コステロファミリーの男だけど聖霊拳の達人で化け物のように強い、となりの男はたぶん死霊術師ね良く知らないけど」

ジムは聖霊拳の知識をかき集めた、護身や体つくりで聖霊拳を学ぶ者たちはそれなりにいるが、上達者ともなると人外の強さを発揮する者がいると聞いた事があった。

「あの人が聖霊拳の上達者なんですか?」

「ええそうよ、ふざけた強さらしいわ、でもキールが出てこなきゃならないって事が不安だけどね」


再びフリッツの覇気に満ちた声が聞こえてくる。

「最後にもういちど言う、目的はオーバンの身柄の確保だ、その次に屋敷の中にいる者を制圧し確保する、中に手強い奴がいるから油断するな、ジンバー商会の者を殺した女もいる、身柄の確保が不可能ならば殺して構わん、今から移動し配置に付くあとはすべて手はずに従え!!」

魔術の色とりどりの光の玉が次々に舞い上がり、それらはゆっくりと移動しながら朧気に周囲を照らしだした。


「ほんとうにフリッツさんが仕切るとは思いませんでしたラミラさん」

「あの人は先代の側近をしてたの、無法者を取りまとめていたからね、昔はかなりの武闘派だったんだよ」

「でもこれは大掛かりですね、でも油断しないぐらいで済む相手じゃないっしょ?」

ジムは声を一段とひそめる、あの髪の長い少女や青いワンピースの少女を思い浮かべてこれでもまったく安心できなかった。


「心配しないで私達二人は見届けるのが仕事よ、味方を見捨てたとしても情報を持ち帰るのが私達の仕事さ」

ジムの浮かない顔に気づいたのかラミラはそう声をかけた。


「声を立てるな!!だまって移動しろ!!」

伝令らしき男が命令を出しながらジムの前を横切って行った。


その大集団は南に向かって静かに移動を始めた。












その光一筋も射さない暗黒の部屋の中はなぜか人の生活音に満たされていた、中の住人にはこの暗闇もまったく苦にはならないようだ。


「そろそろセナ村に行かなくていいの?ドロシー」

「いかない」

「ええっ?」

ヨハンの驚きに満ちた叫び声が上がる、声変わりのしていない少年の声だ。


「ドロシー今日は新月だから馬鹿になったのね」

エルマの声はどこか呆れた響きを帯びていた、その直後硬い何かがぶつかる音、続いて乾いた重い音がしてうめき声が上がる。

「叩かなくてもいいでしょ!?ドロシー」


「ちいさいほうのせいれいきょうかいにいく」

「「えっ!?」」

ヨハンとエルマの声が唱和した。


「やつらがそこにいる、わたしがやつらのあいてをする、あなたもきなさいエルマ」

「僕は?」

「おるすばん」

「なぜだよネーチャ…ドロシーなぜだめなの?」

「ちいさいから、ゆうことをききなさい」



「わかりましたドロシーお姉様」

「エルマついてきなさい、そのまえにすみっこのひとにほうこく」


暗闇の中から金属製のベルの音が鳴り響いた、廊下の彼方から駆け寄る足音が近づいて来る。










伝令が命令を伝える為に走り回っている。

「よしここだ止まれ」

どこからともなく野太い声が聞こえてきた。


「とまって美しい私のアリスよ!!」

リズが頭の上の青白い鬼火に熱い声で語りかける、まわりの無法者達がわずかに引いている。


「ここで最後の準備をしろ、静かにやれよ騒ぐやつは殺すぞ!!」

その声は赤髭団の頭のブルーノだ、声を潜めているがその低音は良く通る。

彼らの目の前に数十メートルにわたり畑が広がり、その先にセナ村を取り囲む森が見える、その森を横切ると目標の屋敷があるはずだ、赤髭団は攻撃部隊の右端に布陣していた。


「馬車からその箱を降ろしてこっちに運んでくれ」

マティアスの指示が薄暗がりから聞こえてくる、無法者達が大きな木箱をリズの前に運んで来た。


「そこに中身を出して適当でもだいじょうぶ、どもども、よし私も始めるよ」


リズは赤髭団の後ろに近い場所に配置されていた、連絡役兼護衛のマティアスは彼女の側につく。

赤髭団は死霊のダンスとの連絡をマティアスに押し付けていた、団長のブルーノとはそれなりに古い知り合いだった関係でそれなりに重要な仕事を任されていたのだ。


「何をやるんだリズ?」

「まあみてて、みんな少し離れて」


リズは深呼吸をすると術式の構築を始める。


「『ガイナックの朽木の巨人』貴方はヘクター!!」


リズの前に置かれた朽木の塊が変化し始める。

そしてリズの前に身長3メートル近くもある巨大な人形が現れた、まるで木の幹に手足を適当に繋げた様な姿だ、その肌は木の表皮の様に荒く色も朽ちた木の幹のように深い焦げ茶色だ。


その威圧的な巨人を見た周囲の無法者から思わずどよめきがあがる。


「木箱の中身がこれに?」

マティアスの声には感嘆の響きがあった。


「にひひ、これが中位魔術なんだよ、なんとか出せてよかった」


リズは心底喜んでいるようだ。


「おっと、追加をしなきゃね『死せる墓所の下働き』アン、エミリー、シャーロット三姉妹!!私を守って!!」


リズの足元から更に白骨の戦士が三体起き上がってきた。

魔術に縁がない無法者からまたどよめきが上がり、さらにリズを見る目が変わっていく。

無法者は畏怖と嫌悪が混じった目をリズに向け始めた、特に死霊術師はそう思われやすいのだ。


リズは骸骨三姉妹に錆びた剣や腐りかけた短槍をもたせていった。

「よし準備完了!!」


そこに一人の男が近づいて来た。

「ここにいたのか、リズはこんな事もできるんだな」

その声は新人募集部隊のまとめ役の男で赤髭団の幹部の一人だ、マティアスとリズとも顔なじみだった。


「まあね、あの仕事じゃよほどの事が無いと使わないし」

「このデカ物は頼りになりそうだが、こんだけ戦力集めて屋敷の中に何がいるんだ?それにあれはなんだ?」

男が遠く離れた陣の左端を指差す、その先に何か大きな影が魔術の光に照らし出されていた。


リズはその方向を見渡してから顔色が変わる。

「むむ、あれは「ミンサガの死竜スヴェトラゴルスク」かな?」

「たしかにでかいのがいるな、あれが竜なのか?」

マティアスが驚いた様にそちらを見た。

「たぶん上位死霊術だよ、バルタザールかヨーナスかな、ヨーナスは中位だけど上位に成りかけなんだよ」

「バルタザールが出張るものかよ」

新人募集部隊のまとめ役は吐き捨てた。

「ならヨーナスかな?もしくは塔からかも」

リズは頭を傾げた、そしてマティアスがじっとある一点を見つめている事に気がついた。


「何見ているの?」

「いや、知り合いがいたんだ、後で話をするさ」

リズがマティアスの視線の先をたどると、周囲の無法者や術士とは違う雰囲気の人の姿があった、一人は女性で一人は大柄な男のようだが遠くて詳しい事まではわからない。

マティアスがその知り合が女性かと思うと胸がざわつく、遠目にも綺麗な女性に見えたから。

彼女は何を言ったらいいのか悩んでいるうちに伝令が目の前を走ってブルーノに命令を伝える。


ブルーノの低い声が通る。

「野郎ども行くぞ」



「ヘクター前進!!」


リズの声が興奮と熱狂に裏返る、木の巨人はゆっくりと前に進み始めると、赤髭団の無法者達は左右に別れて道を譲った、その真ん中を巨人が進んでいく。


「よしこいつについて行け」

ブルーノの声と共に無法者達が後ろに続く、リズが動き始めると護衛のマティアスも進み、そして骸骨三姉妹もリズを守るべく進み始めた。


「予定の位置まで移動するぞ、マティアス誘導しろよ」

何時になくブルーノの声から緊張と真剣さを感じさせる、さすがの無法者達もそれを感じとっているようだ。

「わかっている」

マティアスはリズを誘導しヘクターを先行させる役割があった。

「どっちにいけばいいの?」

リズはどこか楽しげに見えた。


目の前の森を越えるとその向こうにセナ村がそしてあの屋敷がある。








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