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大きな古い屋敷

 食事を終えルディとアゼルは荷物を背負って再びロビーに降りてきた、カウンターの前に立つ店主に別れの挨拶を告げた。

「世話になったな店主」


「おう!!また泊まりに来てくれ若旦那、ところで可愛い娘さんは?」

「先に出ていったはずだが?」

「俺が席を外していた時に出ていったのか?」

店主が首を傾げた、まさかその可愛い娘さんが二階の窓から出て行ったとは思わない。


食堂で給仕をしていたセシリアがカウンターに顔を出してきた。

「アゼルさん行ってしまうのね・・・・」

アゼルの顔がセシリアの声で僅かに動揺した、アゼルはセシリアを密かに苦手にしている。


「セシリア殿、またハイネに寄ることがあったらまたここに来る」

ルディがアゼルに変わって鷹揚な態度でセシリアの相手を務める。

「ええ約束ですよ若旦那さまぁ!!」

セシリアはルディにウインクする、ベルがいたらセシリアを睨みつけるはずだが彼女は幸いにもここにはいない。


その時、奥の厨房から料理長がセシリアを呼ぶ大きな声が聞こえてきた。

「もう戻らないと、アゼルさんルディさん次のご来店をお待ちしておりますわぁ、では!!」

セシリアは慌てて食堂に戻って行く。


アゼルが残りの宿泊料をまとめて店主に支払った。

「別れは言わないのが商売人、またのご来店をお持ちしております」

「おせわになりました」

「またな店主」

ルディは手をひらひらとさせた、カウンターの前で遊んでいたエリザがアゼルの肩に飛び乗る。


ルディとアゼルは商店街に出ると、商店街は喧騒に満ちていた、二人は八百屋で食材を買い込むと商店街を大通りに向かって南に進んで行く、彼らが目指すのはハイネの南にあるセナ村だ。


その二人を遠くから見詰める視線があった、だがその事に二人は気づかない。





ルディ達がハイネの野菊亭から去ってしばらくたった頃の事、朝食の時間も終わりハイネの野菊亭の食堂は昼食の仕込みに忙しくなる。

セシリアは日課の宿の前の掃除をはじめていた、彼女は楽しげに踊るように華麗な(ホウキ)さばきと足運びを魅せている。

彼女の躍動する見事な胸と腰が健康的な魅力を発揮して通り過ぎる男たちの目を奪った、彼女に惹かれてこの宿に泊まる旅人も密かに多い。


そんな彼女に一人の女性が声をかけてきた。

「あのよろしいでしょうか、貴女はここに勤めているのかしら?」

セシリアは驚き踊り、いや掃除を中断した。


声のする方を振り向いて驚いた、そこにはなんとも個性的な男女二人がいたのだから。


声をかけてきた女性はセシリアと変わらない歳に見えた、どこかの商家の使用人風で洗濯女の様な白い頭巾をかぶっている。

頭巾からはみ出した髪の色は赤みがかかった金髪で、肩で短く切りそろえられていた、彼女からほの香に石鹸の香りが漂ってくる。

その彼女の隣に若い大男がいた、童顔で糸の様に細く空いているのか閉じているのかわからない目、少年の様にも見える年齢不詳の大男を見ているとセシリアは不安になった。


「そうですけど、何か御用ですか?」

「私はラミラと言う者です、人を探しているのです、私のご主人様の奥様を暴漢から助けてくれた方々を探しているの」

「まあ!!それはまた、どんな方かしら?」

セシリアの顔が好奇心に輝いた、彼女はこういった話にとにかく餓えていたし、すぐに知人に言いふらすつもりだ。


「お一人は長身でたくましい浅黒い肌で整った顔つきの気品のある若い殿方です、髪の色は黒で商人の様な御方だそうです」

「ええっ?・・・方々と言いましたわね?」

「ええ、他に長身で細身で魔術師の様なローブを纏った若い御方ですが詳しい事はわからないそうです、あともう一人は若い女性で長い黒髪の小間使だそうで」

「もしかして・・・」

「ご存知ですか?」

「今朝出ていかれたお客様達にそっくりですわっ!!」


「もう居ないのかしら?」

「ええ」

「なんてことでしょう!!奥様が悲しまれますわ、ぜひお礼をしたいとおっしゃられていたのに、どうしよう」

ラミラは僅かなすれ違いを悔やんでいるように見えた、気を取り直しセシリアに向き直る。

「あの、どこに行かれたかわかりますか?」


セシリアは申し訳なさそうに答える。

「ごめんなさい、聞いていないわ」

ラミラは宿の名前と場所を目に焼き付ける様にして見上げている。

「ラミラさん?」

セシリアは心ここにあらずなラミラの様子に不審を感じた。


「あ!!ごめんなさいね、どう奥様に申し上げようかと悩んでいたの、お手間をおかけしましたわ」

我に返ったのか、ラミラはセシリアに礼を述べると足早に歩きさって行く、彼女の後をあの大男が追っていく。


結局あの大男は最後まで何も喋らなかった事にセシリアは気がついた、たぶん彼女の護衛なのだろうと決めつける。

気を取り直しまた掃除の続きを始めた、しだいに興が乗り流れるような踊るような(ホウキ)さばき見せつける、ある旅の男が彼女の素晴らしい腰の動きに見惚れてさっそく今夜の宿を決めた、彼女は優秀な客引きでこの宿の看板娘だった。



ハイネの野菊亭を後にしたラミラと大男は大通りを横切るとそのまま南東区に入っていく。

「残念ね僅かに遅かったわ、すぐに帰って報告しなきゃならないわね」

「オービス隊を殺った連中と、あの四人は関係があるんすかね?」

「まだわからないわ・・・」

二人はしばらく進むと右折する、このまままっすぐ進むとジンバー商会の側に出る。


「ジム、あんな感じで聞き込みをすればいいわ」

「ラミラさんは自然でしたっすね」

「あはは慣れよ慣れ、貴方にもやってもらうわ、とにかく一度戻りましょう、情報を共有して今後の方針も決めないとね」

二人は足を早めた。







その頃ルディとアゼルの二人はセナ村への道を南下していた、途中アゼルが探知魔術を使い尾行を見つけようとしたが見つける事ができない。

「アゼルよ尾行している奴はいないのか?」

「殿下、探知範囲内にはいません」

「魔術にも限界があると言うことか」

「そうですね、ベルサーレ嬢はかなりの範囲を探知する事ができるようですが」

「俺も慣れればできるのであろうか?」

「それは私にはわかりません・・・」


二人はすでにセナ村の入口に到着しようとしていた、林の中の道を曲がると視界が一気に開ける、昨晩は暗かったのでセナ村の全容は見えなかったが、こうして見ると想像以上に小さな村だった。


『ウキッ!!』

開けた景色にエリザが興奮する。


「殿下、あの森の近くのあの大きな家だと思います」

アゼルは村の入口から見て東側の森を指さした、森との境に大きな屋敷と納屋らしき建物が並んでいるのが見える。


「とりあえず行こうか、ベル達がいるはずだ」

村の畑では農夫達が農作業に勤しんでいたが、ルディ達を見て手を休め見慣れぬよそ者を訝しんでいる。

二人が子供達のいる屋敷に向っている事を悟ると、ようやく事情を理解をした様に緊張を緩めた。



古い屋敷に近づくにつれ、中からトランペットの演奏が聞こえてくる。

その音と共にルディとアゼルは微弱な精霊力の波動を感じた。

「殿下、前はこんな精霊力の波動を感じませんでした」

「俺にもわかる、たしかに変わったようだな、トランペットに慣れてきたのだろうか?」

二人は演奏を聞いていると力が満ち溢れ心身の疲れもが消えていくような気がした。


二人が屋敷の玄関を潜ると奇妙な光景に固まった、部屋の中をトランペットを吹きながら歩くコッキーの後ろを四人の子供達が一列になって進み、最後尾にベルがいたのだから。

その行列が広い居間の中をグルグルと廻っていた。


「ベル何をしているんだ?」

ルディが唖然となり思わず呟いた。


コッキーが演奏を止め入り口のルディを見た。

「ルディさんアゼルさん早いですね」

コッキーが止まったので後ろの五人もピタリと停止した、子供達も来客に驚き入り口を見る。


「ルディさんとアゼルさん、昨日はありがとうございました」

ネイトは二人が誰かすぐ気が付くと礼をのべる、他の子供達も彼らが自分達を助けてくれた大人だと理解したのか、それぞれお礼を言い始めた、妙に棒読みなのでファンニあたりに(シツケ)られたのだろう。

礼を言う子供達の視線はアゼルの肩の上のエリザに注がれていたが。


ふとルディはベルの様子がおかしい事に気づいた、先程から立ち止まったま前を向いて動かない、ルディはそれを訝しんだ。

買い込んだ食材を入れた麻袋を床に降ろすと、思わずベルに近づいた、彼女は半分意識が無いかのように朦朧としている、目は開いているが普段の様に強い輝きが消えまるで半分眠っているようだ。

彼女の頬が赤く染まり口を薄く開き僅かに汗までかいている。


「ベルどうした?」

ベルを軽く揺するとそのまま姿勢を崩しルディに倒れかかった、それを軽々と抱き止める。

コッキーもベルの異変に気づいたようだ。

「ベルさんどうしたんです?」

ルディは居間の長ソファーにベルを横たえる。


「コッキー何があったか教えてくれないか?」


「はいファンニさんが帰った後、ラッパの演奏会をしたのです、色々な曲を演奏したのです」

それに最年長の少年シャルルが応じた。

「ちび姉ちゃんのラッパは楽しかったよ、なあ皆んな?」

それを聞いたコッキーは眉を一瞬ひそめるが子供達は気づかない、一番小さいレイフがシャルルに賛同した。

「僕姉ちゃんも楽しんでいたよな?何が起きたんだろ」


ルディは外の井戸に向かい直ぐに布を湿らせて戻って来た、それをベルの額に乗せてやる。

その時ベルが艷やかな悩ましい声を上げた、ルディとアゼルはそれに驚きそしてコッキーを思わず見る。

その視線は説明を求めていた、コッキーは思わず頭を横に振る。


やがてベルが目を醒ました。


「あれ、僕どうしたんだ?」

目の前にルディの顔があったので恥ずかしそうな顔をした。

「何が起きたか思い出せるか?」

「コッキーの演奏で行進したり踊ったりしてたんだ、でも急に体がおかしくなって意識が薄れて・・・」

ルディは意識をベルの精霊力に傾ける、ベルの精霊力がかき乱されているのを感じた。

「力が制御できないのか?」

ベルはそれに力なくうなずいた。


「ごめんなさいですベルさん、曲のせいかもしれません、まだ良くわからない処があるのです」

「そういえば最後の行進曲を聞いたら力が満ち疲れが消えた」

「若旦那さま、私もそう感じました」


子供の一人が感嘆する。

「ちび姉ちゃんすげーぞ!!」

それを聞いたコッキーは一瞬だけ鬼の様な顔をしたが直ぐに可愛い美少女に戻った。


「そうだお土産がある、ハイネで食材と果物を仕入れてきた、ファンニ殿と相談してベルとコッキーで管理してくれ」

床に置いてある大きな麻袋を指さした。


「若旦那さま、そこの部屋に防護結界を張ろうと思います、そこに危険な物や貴重品をいれてください」

屋敷を見聞していたアゼルが居間に繋がる小さな部屋を指した。


「これなんて言う動物?」

「エリザはお猿さんなのです」

子供達の関心は既にエリザに移っていた。






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