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ジンバー特別班との闘い

 ルディの目には、警戒しながら後退していく指揮官らしき男と、荷馬車の前に立ちふさがる巨大な人形(ヒトガタ)がしっかりと目に入っていた。

荷馬車まで30メートルほど、踏み込むべきか躊躇する、魔術師との闘いでは懐に飛び込むべきだがそれは困難だ、前に巨人と骸骨が壁を作っていた。


そして後ろから走り寄ってきた二つの気配に問う。

「あのデカイのは何だ?わかるか?」


「わかりません、死霊術の精霊召喚でしょうか?しかしあれだけの大きな精霊を簡単に召喚できるものでしょうか?」

背後の闇からアゼルがそれに答える。

「並の剣の刃が立つと思うか?」

「剣に水精霊の属性を付与します」

「頼んだアゼル!!」

そうしている間に馬車の前に新たに骸骨が加わり馬車の前に陣取った。


「うわ、また増えたよ?」

ベルが呆れた様な声を立てた。


「『トロンヘイムの氷の付け刃』」

アゼルの詠唱が完了した、ルディが構えた長剣が白く曇りだす、魔力の冷気が刀身に露結を起こしている。


「僕は回り込んでアイツを狙う」


ベルは右側に走ると、木の幹に突き刺さっていた血塗れの短剣を引き抜き、夜の闇の中にあっという間に消えて行く。


「馬車の前のデカブツを片付けたいが、魔術師を潰せるか?」

「殿下、奴は魔術防護の対策をしています、先程の睡眠が効きませんでした」

「わかった」

「私が巨人を範囲魔術で攻撃します、私の詠唱の開始を合図に間合いを計ってください」

「それでいい」


突然ルディが何かを感じたように体を僅かに震わせる。

「なんだ?」

ルディは体を何かが通り過ぎた様な感覚を感じたのだ。


「今のは・・殿下、奴が探知と思われる術を使ったようです」









荷馬車の側に後退する指揮官に荷台から魔術師が声をかけた。

「オービス何が起きた?」

「クラン見ていただろ?二人やられた、残り二人もたぶん殺られた」

オービスと呼びかけられた男の声には僅かな動揺があった、ルディガーの人間離れした剛力に慄いていた。

「奴らは例のあの連中ではあるまいな?」


「怪力男に術士か?たしかに!!」

オービスはクランの推理にうなずいた。


「オービス、敵の術士の反応が悪いとは思わんか?」

オービスとクランは顔を見合わせ荷馬車の上の荷物を一瞥した。

「これが狙いか?ならばここに魔術を打ち込む事はできまい・・・人質になるか?」


「わからん、相手は全部で何人いるかわかるか?広くやってくれ!!」

「少しまて・・・『生者の光の道標』」

荷台の死霊術士が生命探知の術を構築し詠唱する。


「・・・三人しかいないのか?・・おい、一人お前の左側だ!!」

オービスは左手に短剣を抜き構えた、そこに鋭い空を切る音と共に何かが飛来する。

それをかろうじて短剣で受け軌道を僅かに変えてそらした。

激しい金属の悲鳴とともに、なにか粘りつく様な液体がオービスふりかかる。


「隊長!?」


隣にいたオービスの部下が叫ぶ。


オービスの鼻が血の臭いを嗅いだ。

「これは俺の血ではない、意識をそらすな、死ぬぞ!!」

オービスの顔色は青ざめていた、敵の異常に重い攻撃の手応えから、彼の百戦錬磨の経験が脅威と警告している。


その直後に馬車の正面にいた長身の男が堂々と踏み込んできた、それに即応するように骸骨達が迎撃に出た、骸骨達はまるで予め与えられた命令に従い行動しているかの様に見える。

だがオービスはそちらを見ることができない。


「『ペイオンズの死光の盾』」

クランが再び詠唱を唱えると、オービスの全身が青白い光に包まれる。

小声でクランがささやく様に伝える。

「魔力は残り半分だ」

オービスは左側を警戒しながら振り返りもせずに頷く。


その時、空気が凍てつくような悲鳴を上げる、巨人と骸骨を二体ほど巻き込みながら無数の氷の刃物が乱舞した。

誰かの悲鳴が上がる、部下の一人がその乱刃に巻き込まれたのだ。


再びオービスの正面から鋭い空を切る音と共に何かが飛来する、だがそれはオービスを狙ったものでは無い、隣の部下がうめき声も立てずに倒れた。


一瞬オービスの注意がそれた瞬間、森の中から人影が踏み出す、それは恐ろしい加速で間合いを詰めながら斬撃を打ち込んできた。

オービスは短剣を投げ捨て長剣でかろうじて受け流す、だが彼の顔は苦痛と驚きに歪んでいた。

信じられぬほど重くそれでいて彼ほどの者が対応がぎりぎりになる程に剣速が早い。

クランの補助魔法がなければ耐えきれなかったと自覚した。


彼はその対峙する敵の顔を初めて見た、少年のようなほっそりとした体形で顔に黒い布を巻き付け目だけを出していた。

その薄い青い瞳の奥が僅かに光を湛えてそれを透かしだしている。


それを見た時この世の者とは思えない美しい非人間的な存在を思い出した。

古風な深紅のドレスに身を包み、同じく深紅の大きなボンネットの奥から覗く赤く輝く瞳をみた時の戦慄と衝撃、目の色こそ違えどその人とは違う異質な威圧感がとても似通っていたのだ。


「何だお前は?」

相手は何も言葉を発しなかった。


「教えてくれてもよかろうに?」

「死霊術がはやっているからいやだ」

オービスが苦笑いを浮かべた、こちらを倒す気でいるのだから、そして目の前の小柄な敵はその実力を持っている。

だがその声が少し高く透明感のある少女のような美しい声だった事を見逃しはしなかった。


「やはりあいつらか!!」


その瞬間、後ろで乱戦の喧騒が湧き上がった、クランの叫びと術の構築が始まる。

だがオービスは一瞬たりとも正面の敵から注意を反らせない、状況を把握し全体に指示を出したかったがそれは不可能だった。









氷の乱刃が消えると同時にルディはその剣を巨人に叩き込み、すばやく後ろに飛び退る。

その瞬間、太い木の幹のような腕がルディのいた場所を空を切った。

その巨人の胴には無数の氷刃の切裂き傷とルディが剣を叩き込んだ大きな傷が残っていた、少なくとも傷を与える事はできる、だがその傷がゆっくりと塞がっていく。


ルディは舌打ちをした。


視界の隅で敵の護衛が負傷した仲間を引きずり後退していく、それをカバーするかの様に骨達が動く、まるで予め与えられた命令にしたがい己で判断しているかの様な動きだ。


「『生者の光の道標』・・・術士が右に移った・・・『死せる墓所の下働き』奴を追撃せよ!!」

クランが叫ぶのを聞いた。

荷台の木の箱から骸骨が三体立ち上がると、右の林に向ってよたよたと向っていく、


再びルディは魔力と冷気の凝集を感じた。


巨人を包囲するように大きな氷の槍が幾つも出現し周囲から突き刺さる、そして表面を凍らせながらその枯れ木の様な体を破壊していく。

「ゲイラヴォルの円陣か!!」

ルディが思わず呟いた、そして大声で叫んだ。

「奴は再生する無駄使いをするな!!!」


そしてベルが指揮官と対峙している右手を見た、意外な事に敵の指揮官らしき男が善戦していた。

だが勝負はまもなく着くだろうと確信していた、もちろんベルが勝つ。


「『ナンガ=エボカの藪蚊』あたってくれ!!」

クランは骸骨共が向う先の林の暗闇に向って術を行使した。


しばらく間をおいて骸骨の一体が氷の槍で砕かれた、残りの骸骨が進む方向が僅かに南にずれていく。

「もういちど・・・『ナンガ=エボカの藪蚊』」

ナンガ=エボカの藪蚊は耳障りな騒音を立てながら林の中に飛んでいく。

そして骸骨は林の中に踏み込み姿が見えなくなった、クランは向き直りまた詠唱を始め、その詠唱は短くすぐに完結した。


「『アウンズの蠅の群れ』!!」


ルディは大きく表面が破壊された巨人が再生していくのを闘いながら新しい傷を付けながら観察していた。


そこに黒い物質化したかのような黒い濃密な瘴気の粒の嵐がルディに襲いかかる。

僅かに反応が遅れたがそれを剣を高速で振り回し過半を弾き飛ばした、剣の冷気を帯びた氷刃の表面に黒い滲みがへばりついた。


それでも全身数カ所に攻撃を食らい服に穴が空き、そこから血がにじみ出る。

その直後残りの骸骨が攻撃に転じた、そして巨人がふたたび動きだし豪腕をふるいルディをなぐりつける、だがその瞬間には僅かに立ち位置を動かし、ぎりぎりで見切り躱し、巨人の腕に深い傷を刻む。

そして返す流れで骸骨を一体砕いた。


クランが舌打ちをしたがその音が聞こえるようだ。

ルディに付与されていた魔術防護が明らかに損害を軽減している事を悟ったからだ。


林の中から轟音が鳴り響く、骸骨共が向かった先の林の方向だ、何が起きているのかルディにもクランにもわからない。


そのクランの顔には焦りと疲れが滲んでいる、防御魔術を施しているとは言え、盾が護衛一人と生き残りの骸骨と巨人だけなのだから。

そして強者として鳴らした指揮官はもうひとりを相手取るのに精一杯だった。


「オービスだいじょうぶか?」

クランの問いかけにオービスは答えず敵と対峙している。


そしてふたたび林の中から轟音が鳴り響いた。






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