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奪還作戦

 「子供達がいる場所がわかっていると言う事だな?アゼル」

「可能性が高い場所がわかりました、サビーナさんには冷たいと思われるかもしれませんが、どこにいるかわからない子供達を探すために若旦那様(デンカ)の手を煩わせる訳にはいきません」

サビーナはアゼルの言葉に衝撃を受けた、だが彼女もまたテレーゼの人間だ。

ハイネで浮浪児になり行き倒れたり犯罪に巻き込まれ消えて行った子供達を幾人も見てきた、彼女もその総てを救えるとは思っていない、修道女として自分にできる事をしてきただけだった。

行きずりに近いこの三人に多くを望む事など出来なかった。


ルディは僅かに考えるように沈黙した後で口を開いた。


「だが目の前で手を差し伸べて助けられる者ならば助ける」


(可能ならばだが)


「ルディらしいね、付き合うよ」

どこか小馬鹿にしたようなベルの口調だが、ルディガーには彼女のテレなのはわかっている。


「アゼル、誘拐犯はかなり面倒な連中なの?」

「ええジンバー商会ですベルさん」

「あそこいろいろ臭いけど、まだ最悪じゃなかったな、たとえば」

ルディがサビーナに目をやりベルの話に割り込んだ。

「急がないと子供達が他に移される恐れがあるぞ、いやすでに移されている可能性もある」


話を遮られ少し不機嫌になったベルが言い返した。

「ルディ、ジンバーに殴り込みかけるわけじゃないよね?」

「馬鹿を言うな、チンピラ相手では無いんだぞ、お前じゃあるまい」

「僕はそこまで馬鹿じゃないよ?」

二人は言い争いになりはじめた。


アゼルが子供達の名が書き込まれたメモを取りだしテーブルに置く。

「サビーナさんそこの椅子にお座り下さい、子供達の特徴を教えてくださいませんか?」

ルディもベルも客人を放置していた事に遅まきながら気がついたようだ。

アゼルが軽くベルを払うような仕草をしたので、ベルの機嫌がまた少し悪化する、テーブルから離れベッドのルディの隣に腰掛けた。


アゼルとサビーナがテーブルに座ると、エリザはアゼルの肩から飛び降りてベッドの下に潜り込む。

そして彼女から四人の子供の特徴を聞き出しながら書き込んで行った。

同じくメモを取るベルの姿を見たサビーナが少し驚いた様な顔をしていた、ベルが文字の読み書きが出来ないとなんとなく思っていたからだ。


「夜まで待ちたいが、すでに別の場所に移されているか昼間のうちに移されるかもしれん、初めからいない可能性もあるがな」

「僕が偵察してこようか?」

「偵察なら私がした方が良いでしょう」

「いや奴らの中に魔術師がいるとなると、お前の隠蔽の魔術が見破られる危険が高い」

「偵察なら僕が適任だよ、魔術師は精霊力の漏れが大きいんだ、最近それが良くわかった」

「ベル!!」

ルディが警告した。

ベルは部屋の中なのでいつもの調子で口を滑らせてしまったのだ、今ここにはサビーナがいる、しまったと言った顔をしたがサビーナはそれには関心をしめさない。


「まさか貴方達は昼間に忍び込むおつもりですか!?」

「ああ、心配しないでくれ、我々も死にたくはないからな」

ルディは笑ったが真面目な顔に戻る。

「サビーナ殿、詳細は我々にまかせていただきたい、貴女には聖霊教会に一度戻って頂いて、あちらで心配されている方々に知らせて欲しい、そして静かに報告を待っていただきたい、あと警備隊に知らせる事が安全とは言い切れなくなった、ジンバー商会には大きな力がある」


「ほんとうに申し訳ありません、ですが大丈夫なのでしょうか?たったの三人で・・・」

「我らにも当てがあるのだサビーナ殿」

「サビーナさん、ですが必ず子供達を取り戻せるとはお約束できませんよ」

アゼルが申し訳無さそうに付け加えた。

「わかっていますわ、アゼルさん達のお力がなければ、私達だけでは何の手掛かりも得られなかったでしょう」

サビーナはまだ納得したとは思えなかったがアゼル達に礼を述べると聖霊教会に急ぎ帰って行った。




ベルは窓から商店街を走り去るサビーナの姿を見送った、そしてルディのとなりに戻る。

「本当に驚いたこんな事になるなんて、しっぽの細工は後回しだ」


「俺も驚いたぞ、アゼルよ少しお前らしくなかったな」

「ここの住所を教えたのは殿下です、それに初めから見捨てるつもりはありませんでした、私も助けたいと言う気持ちに偽りはないですよ」

「ルディはなぜ住所を教えたの?あの時少し疑問に思ったけどあまり考えて無かった、ただの親切?」


「とにかく伝手を増やしたかったのだ、コッキーや魔剣の事、精霊宣託の事で五里霧中だったからな、彼女達も誘拐事件の連発で不安そうだった、ささやかながら何か力になれないかと思ったのだ」


「子供の誘拐はいろいろ酷い結末になるんだ、子供が欲しいだけなら凄く運がいい育ててもらえるからね、たいがいは胸糞の悪い事になる」

ベルは不愉快そうに吐き捨てた、ベルが追放されてからいろいろ見てきたのだろう。


「そうですね、奴隷として育てるならまだましな方と言われています」

「しかし大量に子供が必要と言うのが理解できん、テレーゼの外に売られているのか?」

「そのような流通が整備されている可能性がありますね殿下」


「昼間のうちにジンバー商会を偵察する、それは僕が一人でやるよ、僕の方が精霊力の細かな使い方に慣れているから」

それに関してはルディもアゼルも異論はなかった、だがいくら超常の身体能力の持ち主とはいえベルの身が心配になる。


「子供達が見つかったらどうする?」

「状況を把握してから計画を練りましょう、見張りをしながら夜まで待ちます、その時には殿下と私も加わると言うことで良いですか?」

「居なかったらどうする?」

「いなければ子供達は初めから別の処にいたか、すでに動かした後と言う事になりますね」

「それも情報を集めた後だな、まずジンバー商会の情報を整理しようか、そしてベルにはこの後すぐ向ってもらおう」

「わかった、まかせて」

三人はテーブルの周りに集まった。


そんなハイネの野菊亭を離れた場所から見張っている者がいた、それはテオ=ブルースだ。

昨日は僅かな空きをつかれて三人を見失っていた、だがそれはテオの失策とは言えなかった、人手が足りないからだ。


彼は往来の流れに溶け込みゆっくりと歩きながら観察を進めて行く。


「さっきの修道女は何だ?魔術師の男と帰ってきたが」

テオはそう小さく呟いた。


テオは若い商人と黒い長髪の娘を朝から追跡していた、だが魔術師の男がいつ宿から出たか何をしていたかは解らなかった。

修道女を追うべきかこのまま宿を見張るか悩んだが見張りを優先する事にした。








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