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死霊のダンスから

 ピッポは繁華街の雑踏の中を北に向かって進んでいく。

彼は最近機嫌が良く足取りも軽かった、久しぶりに錬金術師としての腕を振るえて金が稼げるのだ。

一流の錬金術師だったがここ数年一線から離れていたが、それが問題にならない程テレーゼは遅れている、とくに場末の闇魔術ギルドなどレベルが低い。

だが死霊術に関しては世界でもっとも進んでいるとピッポは評価していた。

当初は死霊のダンスなどで働きたくは無かったが、仕事をこなすにはやはりここで働くしかなかない。


ピッポが繁華街を抜けると人通が少なくなる、やがてインチキ魔術道具店『精霊王の息吹』が見えてきた。


(さてどのくらい集まりましたかな?)


ピッポが扉を通ると店長が箒で床の掃除をしている。

「こんにちわ店長、おや掃除ですかな?ヒヒッ」


店長は少し胡散臭気な目をピッポに向ける。


「展示が崩れたんだ」


たしかに床にわたぼこりの塊があちこちに落ちている。

ピッポはこの店の商品の扱いがいい加減で埃が積もっていた事を思い出した、この店にはまともな術士は来ない、来るのはいかがわしい薬や占いを求めてやってくる街の素人ばかりだ。


「大変ですな店長、では通りますよ」

店長のカルロスはそれには答えない。

ピッポはカーテンをくぐり地下への階段を降りていった。




ピッポが死霊のダンスの広間に入ると、長老のベドジフが適当な態度で迎える。

「きたのか」

あまりピッポを好いてはいないのがあからさまな態度だった。


ピッポに充てがわれた実験台の前に行くと、さっそく魔術師達が集まって来る。

「これが死霊術で使った触媒のカスだ、買い取ってくれるそうだな?」

「ええ、私の研究の為に欲しいのですよ、決められた重さで買い取りますよ」

ピッポは用意してあった天秤で使用済み触媒の燃えカスの重さを測り術士達から買い取っていく。

触媒は術により必要な組み合わせで小さな袋にいれている事が多い。

たいがいはさっさと捨ててしまう事が多いが、今までゴミとして捨てていた物が小遣いになるのだから一応歓迎されているようだ。


大きな木の皿に集めた使用済み触媒を革袋に入れて懐にしまい込んだ。

「思ったより集まりました、初めて見る顔もいます、予想より死霊術士が多いのかもしれませんな」

ピッポは小さく独り言をつぶやいた。


(この調子なら二~三日で集まるかもしれません)


実験台の上には依頼された薬品と複合触媒のリストがある、作成依頼が出ている薬品や複合触媒のリストを確認し必要な材料を集めなければならない。

死霊のダンスの広間の扉の一つが薬品・触媒の倉庫に繋がっていた、倉庫には使用頻度の高い物質や触媒の材料が殆どで希少な物はここにはない。

テヘペロが希少な触媒を旧市街のセザーレ=バシュレ記念魔術研究所から手に入れてきたが、彼女にどんなコネがあったのか驚いたぐらいだ。


そのかわりにここには見慣れぬ触媒が幾つかある、これが死霊術固有の物だと推理していた、あと特定の触媒や物質の在庫が多いので、これも死霊術で使用頻度の高い物だろうと予測していた。

ピッポも死霊術を研究していたがテレーゼでは独自に大きく進化している、なんとかその知識を手にいれたいと熱望しているが、長老のベドジフに嫌われて居るようなので、ほかに親しくなれそうな死霊術師を探す必要があった。


ピッポはさっそく倉庫に向かう、入り口の側に持ち出した触媒の記録を付けるノートが置かれた小さな椅子と机があった。

壁は総て引き出し付きの棚が置かれ、引き出しには薬品や触媒の名前が書かれたラベルが貼ってある、

部屋の中央にも同じ様な引き出し付きの大きな棚が背中合わせに置かれていた。


必要な材料を集めたピッポが広間に戻ると、いつのまにマティアスとリズがそこにいた。

すぐにマティアスがピッポに近づいて来る。


マティアスは小声でピッポに話す。

「あの黒い小娘が繁華街の路を歩いていた、奴らはまだこの近くを嗅ぎ回っているぜ」

「なんと、間がわるければ遭遇していましたな、私も変装した方が良さげですか?」

「ああ、絶対その方がいい、俺はここには長居できないから引き上げる、例の酒場にいく」

「わかりました、あなたも気をつけるのですぞ」


そのマティアスは精霊王の息吹側の扉に向かったが、去りげにリズと二言三言話をしているではないか。

「はて、あの二人は親しくなったのでしょうか?」


ピッポはさっそく注文の薬品と複合触媒の作成を始める。

彼が来る前は組合の魔術師達ができる範囲で作成していたらしい、作成の難しい薬品は買うしかなかったと聞いている。

ピッポの参入でさらにソムニの果実を使用した利幅の大きな薬品の製造も可能になった。

それは例の酒場を本拠にしているマフィアを通じて流すと聞くが、ここも後ろに大きな組織が居ると噂されていた。


こんどは作業中のピッポの実験台の所にリズがやって来た。

「これを渡すの忘れてたよ」

彼女はふところから大きな皮袋を取り出した、ピッポはその使用済み触媒の量に驚く。

「これはまた大量ですな、どうしたのですリズさん?」

「はは、掃除をしたら出てきたよ」


リズは微妙にきょどっていた。

ピッポは彼女がどんな部屋に住んでいるのか疑問に思ったがとりあえず重さを測る事にした。

「では重さを測りますぞ」

リズはピッポから代金を受け取ると大喜びで自分の居場所に戻っていく。

「これでしばらく生きられそうだわ」

ピッポはリズの言葉にその小さな目を見開いた。


彼が再び作業を初めてどのくらい時間が経っただろうか、広間の奥の階段から人が降りて来た、ここの組合とは違う魔術師のローブを羽織っている。

その人物がローブを脱ぐとその下から若い男が現れた、黒い髪のがっしりとした体格の男で魔術師にはちょっと見えない。


「ヨーナスか久しぶりだな」

ベドジフが声をかけた。


「ベドジフ殿もお元気で」

それにヨーナスと呼ばれた男はそっけなく応じた。


「で何の御用かな?」

「バルタザール様からのお話です」

「わかった、詳しい話はそこで聞こう」

ベドジフは執務机の前から立ち上がると、二人は広間の扉の一つに向かって歩いていく。

そこは倉庫の隣の部屋の扉だった。


(ヨーナス、バルタザールとは何者でしょうか?)


ピッポは再び作業に没頭し始めた。

しばらくするとベドジフとヨーナスが部屋から出てきたがなぜか二人はピッポに視線を向けた、そしてヨーナスは奥の階段を上がって行く。

「儂は外に出る、しばらく用が出来た」


そしてベドジフも続いて奥の階段を上がっていった。

ピッポは二人の態度に僅かに不審を感じた。



そしてピッポが仕事が一段落ついたとここで小休止をしているとオットーがピッポに近づいてきた。

「なあ、あの女魔術師はこないのかい?」

「はて、テヘペロさんですかな?」

「そうそう、その変な名前の女だ」

「テヘペロさんは炎の魔術師でして、荒ごとが非常に得意な方でしてな、用がある時に声をかける事になっております」

オットーは少し残念そうな顔をした。


「さてさて、もしやテヘペロさんにお近づきになりたいとか?」

ピッポは声を落として話す。

ピッポの顔はわかっていますよと言っている様にも見え、いつもよりさらに胡散臭い顔になっていた。

オットーも声を落とす。

「そんな事は言ってないだろ?」

ピッポはオットーを見ながら何か思案をしているようだ、だがまたいつもの胡散臭い顔に戻る。

「よろしければ、彼女に渡りをつけますよ、伝言でも手紙でもお渡しできますが、イヒヒッ」


「えっ!?そうなのか?どこにいるのか教えてくれ」

「それは明かさない様に彼女から頼まれています、でも橋渡しぐらいは致しますよ、その替わりに少しお願いを聞いていただけませんかな?」

「なんだ?俺にできる事ならいいが」


ピッポはテヘペロがどこにいるか知っていた、なにせ自分の部屋の隣にいるのだから、とうぜん隠し宿の位置など教えられる訳がない。


「先程ここにきた客人について教えてくだされ」

「そんな事か?あの男はセザール=バシュレ記念魔術研究所のヨーナスと言う魔術師だ、表向きは土の精霊術が得意となってるが死霊術師でもある」

「おお、あのセザール=バシュレ記念魔術研究所の方でしたか」

「では少し漏れ聞いたバルタザールと言うお方はどなた様ですか?」

「良く聞いていたな、バルタザールはセザール=バシュレ記念魔術研究所の所長だ、表向きは風の精霊術の術士だが上位の死霊術師だよ」


「ありがとうございました、これで伝言なり手紙なり彼女にお渡ししますよ、イヒヒ」

「わかった少し待ってくれ」

オットーは自分の席に戻ると紙に何かを書き始めている。

ピッポはふとリズを見ると彼女は軽侮を隠さない表情でオットーを見ていた。


「さて死霊術の教師にはどちらがふさわしいですかな?オットーの方がテヘペロさんを出汁にできそうですな、いろいろと知りたいことを教えてもらえそうですが・・・」

とても小さい声でそう呟いていた。







日が少し傾きかけた昼下がりの魔術街をピッポは中央大通りから北に向かって歩いていた。

目的は幽界帰りのあの娘を封じ込める為の狂戦士の治療薬の材料を買うためだ。

希少な触媒はテヘペロがすでに確保してくれた、あとは比較的容易に手に入る材料ばかりだった、死霊術の使用済み触媒が予想より早く必要量確保できそうな成り行きなので、早めに他の材料も買い集める事にしたのだ。

そしてマティアスの忠告に従い変装用の服も調達する、これは他の商店街に行く必要があるだろう。


「薬の目処がたちました、そろそろ具体的な作戦を詰める必要がありますな、ヒヒッ」

独り言を呟きながら魔術街の通行人を眺めた、ここは魔術学校の生徒や術士が多かった。


ピッポはふとかなり前を進む修道女の服を着た女性の後ろ姿に目を引きつけられた、その腰と豊かな尻をつつみ込む曲線は修道女の服の上からも魅惑的だ。


「あれはテヘペロさんですな」


ピッポは彼女との距離を詰めようと足を早めた、だが彼女は魔術街に面した魔術道具屋に入ってしまった、ピッポがその店の前につくと扉に「閉店中」の看板が出ている。

『風の精霊』の看板が下がっているのを見つけてピッポは僅かに苦笑した。


手紙を渡すのは隠し宿に戻ってからで良いと思い直し、最近見つけた気に入りの魔術道具屋に向かう。







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