5.高嶋こゆき
「何か乗りたいものある?」
「そういうのは、みんなと、乗ろう」
「じゃあ休憩してる?」
「いや、ええと……」
二人きりになってしまった……。
あんなに断ったのに……何故だ……。
《Case5.お化け屋敷》
あたし、高嶋こゆきには苦手な人がいる。
よく遊ぶ友人の一人、三谷奏多だ。
別に悪い奴ではない。むしろ良い奴。
誰にでも優しくて、気が回って、イケメンで、何か色々できてパーフェクトな優男。
それが超苦手。
隙を見せれば食われそう、そんな感じ。
実際、そんな噂もあるくらいだし。
女を騙して遊んでるとか。
……いや、所詮噂なこともわかってるし、そんな奴じゃないとは思うけどさ。
でも、噂とはいえそんな相手に苦手なものを知られてしまった。
知られただけでなく、二人きりになってしまった。
めちゃくちゃ気まずい。
多分そう思ってんのはあたしだけだけど。
何か、弱みを握られている気分。
よくわからないけどちょっと怖い。
「調子悪いの?」
「いや、平気、大丈夫」
てか、アズはどこ。
アズがいればこんな盛大に弱みを見せずに済んだのに。
もしかして貴也とうまくやってんのかな。
それなら仕方ない……こともない。
「はぁ……」
ついには小さくため息が出る。
何やってるんだろう、あたし。
「あ、じゃあさ、次みんなと乗るの探しとくってどうかな」
「え、あ、うん、いいんじゃない?」
「はい、マップ」
手渡されたマップを開いてアトラクションを見ていく。
お昼どうしようかなんて話しながら目に入ったのはお化け屋敷。
そういえば三谷のそういう話は聞いたことがない。
「……三谷ってお化け平気?」
「んー、あまり?」
何かよくわからないけどチャンスだと思った。
三谷の苦手なものを見つければ、この変な恐怖心も消えるだろうと。
逆に弱みを見つけてしまえば対等になれると。
「お化け屋敷とか、どうかなーとか……」
「あー、茉莉苦手って言ってたからみんなとじゃ無理だもんね」
こちらの思惑も知らず、勝手に納得して承諾してくれる三谷。
あたしもそんなに得意なわけじゃないけど、三谷よりは多分平気だと勝手に思い込んでいた。
短い列を並んで入ったお化け屋敷は結構大きくて本格的らしく
スタート前に関連する映像を見せられてストーリーを把握させられる。
舞台は学校、どうやらいじめで亡くなった子が仲間を探しているといった感じらしい。
(やばい……すでに怖い……)
映像で何人か攫われていくところが映し出され、演出とわかっていてもぞくっとする。
隣をちらりと見ると、大して怖くなさそうに「凝ってるなー」なんて言っていて。
「こ、怖くないの?」
「怖いよ?」
「……そう見えないんだけど」
「楽しいのもあるからかな」
こっちを見てふふっと笑う。
(こういう余裕な感じが何か癪……)
楽しんでる余裕がある時点で絶対怖くないと思うんだけどと言いたい気持ちを抑えながら
スタッフから渡された懐中電灯を握りしめて開いた扉を進む。
狭い廊下は真っ暗で、手元の光無しでは進めそうにない。
空気も冷たい。
季節のせいってわけじゃないと思う。
右側にある教室の扉は鎖でふさがれていて、とても普通の校舎には思えない。
三谷は物怖じしない様子であちこち照らしながら様子を見ていて
あたしからしたらその行動がいちいち怖くて。
光が移動する度、何か見えたらどうしようかとビクビクする。
「ひ!!」
下から突然吹き込んできた風に驚いて小さく悲鳴を上げた。
「大丈夫?」
「つ、冷たくて!」
「ああ、確かに冷たかったね」
恐怖を悟られたくなくて、つい言い訳を放つ。
これ、大丈夫なんだろうか、あたし……。
どれくらい歩いただろうか。
多分そんなには進んでないとは思うけど。
ここまでは音や風だけの小さなアクションだけのままだったが
今、目の前には開けてくださいと言わんばかりの扉が立ちはだかっている。
(怖い……!!)
絶対開けたら何かいるじゃんこんなの。
いなきゃいないで怖いじゃんこんなの。
「お、開きそうだよ」
「ちょっ!!」
さらっと開けそうな三谷の腕を咄嗟に掴んだ。
「どうかした?」
「いや、えーとっ……」
「開けてもいい?」
「うっ……ど、どうぞ!!」
ゆっくりと開く扉。
心の準備は全くできてなくて
暗闇が覗いていくその隙間を、瞑りそうになる目を堪えながら凝視して。
――♪
次の瞬間、明るくポップなサウンドが耳に飛び込んできた。
「きゃああああああああああああああああああああ!!!」
それがよく聞く携帯の音とも気付かなかったあたしは、盛大に叫んでしまったのだった。
「大丈夫?」
結局その後はただ叫び続け、逃げるようにお化け屋敷を脱出した。
そこまで平気ではないと言っていた三谷は始終あっけらかんとしていて
全然怖くなんかなさそうで。
(詐欺だ!!)
ぜえぜえと呼吸をしながらしゃがみ込み、息を整える。
三谷は心配そうにあたしの顔を覗き込んでくるけど
できることなら見ないでほしい……。
(まさに、敗者の気持ち……)
リングに上がれと喧嘩を売りながら
殴られてもないのにグロッキー。
何かそんな感じ。
「こことかどう?」
ベンチで休憩しているときに三谷が教えてくれたのは、ゲームセンター。
まさか遊園地の一角にこんな場所があったなんて。
「好きかなと思って」
「大好き!!!」
がしっとマップごと三谷の手を掴んでその勢いのまま立ち上がり
さっきのテンションはどこへやら、驚く三谷をよそにすったかと目的に向かって歩き出す。
(なんてったってあそこは聖地!! あたしのテリトリー!!!)
「はあああああ!! 生き返る!!」
ゲーセンに入るなりそう吐き出すと、隣からは笑い声がして。
「顔色戻ったね」
嬉しそうに三谷が言う。
「まさか遊園地にゲーセンあるなんて思わなかった」
「しかも結構大きいよね」
「さーて何があるのか見てみよーっと!!」
まずは景品ゲームを確認しようと歩き回っていると
文句も言わずについてきていた三谷がぴたりと立ち止まって
「ちょっと待って」と、声をかけてきた。
振り返ると、じっとクレーンゲームを見つめる三谷。
視線の先にはモバイルバッテリー。
「どうしたの」
「ねえ、これ一回やってみていい?」
「え……、あ、うん」
そんなものわざわざここで取らなくても、と思ったけれど
三谷がそんなこと言うのが珍しくて了承してしまう。
(……そういえば、三谷っていつもゲーセン来ても見てるだけな気がする)
何でもこなす三谷だから、実はクレーンゲームも?なんて少しだけ思いつつ
じっと見てみればそんなに上手なわけでもなさそうで。
あたしなら狙わないだろうところを狙い、そして外していた。
「結構難しいな。もう一回いい?」
「うん」
あたしが取ろうか?と言ってもよかったはずだった。
でも、三谷の顔がとても真剣で。
何かを考えながら、すごく真面目にプレイしていて。
「ねえ、これって何かコツあるの?」
「え!? あ、えーと、重心とか、あとアームの強さとか考えると、いいかも」
何度もお金を入れて挑戦する。
そんなに欲しいなら買えばいいのにって思ったけど
それは違うんだろうなってすぐにわかった。
(このやり方、どう考えても、会得しようとしてるんだよね)
色々なやり方を試して、何が違うどれが正しいって試行錯誤してる。
得意なあたしに聞きながら、自分の力でそれを手に入れようと。
(だから三谷は、何でもできていくんだ……)
こんなに真面目にクレーンゲームをやる人、初めて見たかもしれない。
こんなに真面目な三谷を見たのも、初めてかもしれない。
(かっこいいじゃん……)
今まで、全然三谷のこと理解してなかった。
ずっと目を逸らして、怖いとか、苦手とか言いながら
何もわからないまま、勝手に苦手意識持って。
いつも明るくて、気が使えて優しくて、何でもできて、常に余裕。
人生舐めてるなんて、そんな風に思ってた。
でも本当は、そういう余裕を持てるように色々気を回して頑張ってきたからできることなのかもしれない。
今の三谷を見てると、そう思えてしまう。
――ガタン
景品が落ちた音でハッと意識が戻される。
目の前には嬉しそうに目を輝かせる三谷がいて。
「よっしゃあ!! 取れたよ!!」
「うん、おめでとう! やったじゃん!!」
「ありがとう、ユキのおかげ」
にこっと笑われてびっくりする。
あれだけ頑張ってあたしのおかげって言うの、すごいと思う。
「そんなにそれ欲しかったの?」
「ううん、クレーンゲームできるようになったらもっとゲーセン楽しめるかなと思って」
「???」
疑問符を浮かべるあたしに、三谷が笑う。
「ユキは好きでしょ、ゲーセン」
「……う、うん?」
何かよくわからないけど
とにかく三谷は、自分が楽しめるように頑張ったらしい。
それに比べてあたしときたら
苦手だ嫌いだと言いながら
それを隠して言い訳ばかりで逃げまどって……。
「ねえ」
決めた。
あたしはお化け屋敷なんかに負けない。
だからもう一度挑戦しようと思った。
「まだ連絡きてない?」
「うん、きてないよ」
「じゃあ、お化け屋敷付き合って!!!」
あたしの発言を聞いた三谷がふっと吹き出す。
バカにされたかと思ったけど、三谷はすごく優しい顔で微笑んでくれて。
「もちろん」
行こうか、と、お化け屋敷に向かってくれた。
「どこが怖い?」
並んでる間、そう聞かれた。
どこ、と言われても、全部なんだけど。
「襲ってきそう?」
「それはある」
「他にもある感じ?」
「何が起きるか、わかんないじゃん」
何もわからないし、何も知らないから怖い。
だけど何かが起きることは絶対で、その上アウェイで、密室。
相手のほうが有利な条件。
勝てる気がしない。
「肝試しみたいなものじゃない?」
「肝試し?」
「ユキ、肝試ししたことない?」
「……ある」
中学生の時に二回。
一度目は学校の行事で、寺の曰くを聞いてから墓を回るという至って普通のやつ。
二度目はいわゆる廃墟にみんなで乗り込んで、何かあるか探しに行くというもの。
「その時って怖かった?」
「ううん、全然。むしろワクワクした」
「何で?」
「探検みたいな気持ちで」
あたしを狙った仕掛けがあるわけでもないし。
何があるのか気になるし。
幽霊がいるならいっそ見てみたいし。
……ってことは、つまり。
「ユキ、狙った演出が怖いんだね」
「そうっぽい」
だって、わざわざ驚かすための演出が揃ってる場所だ。
あたしをターゲットにしたもの。
あたしへの攻撃に近いもの。
それが嫌。
あと、それに負けるのがちょっとムカつく。
「ホラー映画もダメ?」
「わーって驚かしてくる系は嫌い」
人の心を弄んでる感じがすごく嫌。
相手が絶対的優位にいるのも嫌。
多分、三谷を苦手と思ってた理由も、同じ。
そんな話をしていたら順番が回ってきて
さっきと同じ映像を見せられる。
いじめられた女の子は、いじめてきた子だけでなく
関係ない子にまで手を出して
そして増えた仲間がまた関係ない人に手を出して行く。
(二度目なのに怖いな……)
特に掃除用具入れから血まみれの手が出てきて連れ去るシーンが一番怖い。
その後のバキボキいってる効果音がエグい。
隣を見ると、また楽しそうな三谷の顔。
何でそんな余裕なんだろう。
勝てる自信があるから?
「どうかした?」
「え! あ、ううん、何でも!」
目が合って慌てて逸らした。
どうしたんだろうあたし。
さっきまではそんなこと、気にならなかったのに。
(何で今、モヤモヤしないんだろう……)
映像を見終えてからは先ほどと同じように案内に沿って進んでいく。
扉を開けるまでは特に何もなく、冷たい風や怖い音。
それでも充分嫌なんだけど。
(問題はここから……)
三谷の右手が取っ手にかかる。
「大丈夫?」
「う、うん……!無理!!」
「無理なんかい」
そう突っ込みながらくすっと三谷が笑う。
怒るとか呆れるとかじゃなくて、笑う。
何だ、何か、変な感覚。
「大丈夫だよ」
ぎゅっと手を握られた。
その手が優しくて、温かくて
驚きもあったのに、少し安心している自分に気づく。
「俺もいるからさ」
何でだ。
何で三谷が大丈夫って言っただけで大丈夫な気がするんだ。
(いやでも、実際三谷なら何とかしそうな気がするし……)
いつだって頼りになる人ではある。
あるけど。
それにしたって。
(何か、あたし変じゃない?)
心臓がドキドキしている。
これは、怖くて??
「う、うん、わかった」
よくわからないまま何だか顔が見れなくて、とりあえず手を握り返す。
それを合図に、三谷がガラリと扉を開けて。
怖くてうっかり目を瞑る。
(さっき何もなかったけど!! わかってるけど!)
反射的なものなんだからしょうがない。
あ、でも目を開けて何かあったらどうしよう。
それはそれで怖い。
ちゃんと見ておけばよかった。
どうしよう。
「な、何もない?」
「ないよ?」
小さく確認すると、思ったより近くで聞こえる返事。
「?」を浮かべて目を開けると、目の前に三谷がいて。
反射的に勢いよく退く。
「ち、近いし!」
「いや、何してるのかと思って。暗くて見えないから」
違う意味でびっくりした。
確かに暗いけど!
顔を照らすのが失礼なのもわかるけど!!
だからってあんな近くで見ることないじゃんか……!!
(てか、綺麗な顔してるのが余計にムカつく!!)
もう何に対してかわからない怒りを抱きながら
部屋の中をライトで照らす。
「さっき見た時こんなのあった……?」
「あったよ」
よく見ると色々ある。
どうやら体育倉庫をイメージしてるらしい。
全然気付かなかった。
……血まみれだけど。
ガタガタッ!
鳴り響いた音にびくりとする。
「驚いた?」
「お、驚いてない」
前回よりは。多分。
「何今の」
「それだと思うよ」
三谷がライトで示したのは、バスケのボール入れ。
ガタガタと揺れを大きくしながら近づいてくる。
(さっき迫ってきてたのこれかー!!)
前回の現象と重ね合わせて正体を把握して
若干の悔しさをにじませながらも恐怖で体がこわばってしまって。
すると、合図をするかのように繋がれた手がぎゅっと締まって。
「ほら、次行くよ」
「あ、う、うん」
言われるがまま、次の部屋へ移動した。
正体が判明しても別にスッキリしないということはわかった。
結果が変わらない以上無理なものは無理。
てか、あれ、あのままいたら食われるのかな……。怖。
「怖かった?」
体育倉庫の扉を背にそう聞かれる。
怖くなかったわけじゃない。
正直怖かった。
でも。
「……す、少し」
「少し怖かった?」
「……少しだけ怖くなかった」
それは事実だ。
内容がわかってるからなのか、何なのかわからないけど。
でも、なんかずっと心臓はドキドキいってる。
前よりもずっと大きな音で。
(手が熱いから、何かここだけ、非現実……)
熱いのはあたしの手なのか、三谷の手なのか、わからないけど。
たまに強く握ってくるその手が、何か安心する。
親とか、子供の手を握ったりするし
手を繋ぐっていうのは、意外と大事な要素なのかもしれない。
だから。
「手、離したら怒るから……」
あたしの言葉を聞いて、三谷の手が一瞬ぴくっと動く。
そしてすっと手が解けたかと思うと、それは指先が絡む握り方に変わって。
「……じゃあ、こうしようか」
さっきよりも強く、熱を感じて。
「通称、恋人繋ぎ」
「こ……!?」
「さ、次行こう」
自分で放った言葉を流すように先に進んでいく。
それはずるくないか、と思うけど、これ以上突っ込むのはこちらとしても恥ずかしい。
(恋人、とか……)
よく恥ずかしげもなく言える。
経験が豊富だからか。
それとも。
(実は、恥ずかしがってるんだろうか)
顔を見てもわからない。
三谷って結構、表情変わらないような気がしてきた。
さっきの真面目な顔除いたら、笑ってる顔くらいしか見たことないかも。
そんなことを考えながら進んでいたら
いつのまにか、お化け屋敷の出口を迎えていた。
「どうだった?」
「……それなりには、怖かった」
冷静に見てみると結構小道具が細かいとかもわかったんだけど
わかっててもこちらへの悪意……って言うと違うけど
驚かしてくる気は変わらないのだから
怖いものは怖いわけで
まぁ、怖いの種類がちょっと変わったけど。
(あと何か、ずっと心臓がうるさかった)
何にドキドキしてるのかもよくわからない。
暗がりで冷えた空気のお化け屋敷が怖くて
絡んだ指先が痺れそうなくらい熱くて
いつもと変わらない三谷がただ気になって
頭の中がいっぱいいっぱい。
「何?終わった?」
三谷を見ると、いつのまにか電話をしてた。
どうやら連絡がきたらしい。
いつきてたんだろう、気付かなかった。
(もしかしてマナーモードにしてくれてた?)
出口を過ぎても繋がれたままの手に視線を移して。
(こいつ、誰にでもこうなのかな……)
だとしたら変な噂が立つ理由も分からなくない。
優しさにも限度ってものがあると思う。
さすがに、こんな……
(恋人繋ぎ……)
先ほどの発言を思い出して顔から火が出そうになる。
よくそう言うことをさらっと言える。
慣れてるんだろうか、やっぱり。
「アズたちも戻ってきたって」
「あ、そうなんだ」
「そろそろお昼も食べたいし、行こっか」
するりと手がほどける。
何事もなかったかのように、平然と。
熱がなくなってすーすーと風が抜ける。
いつもと変わらないはずの右手。
先程の体温を求めるように、まだ熱いままの右手。
(三谷のことがわからないのは変わらないのに、今は、知りたいと思ってる)
何があってもあたしは騙されないと思ってた。
でも、その警戒心が疑心を生んで、苦手意識に繋がってたのかもしれない。
じゃあ、今は、何?
「あのさ」
少しだけ歩いた三谷が、立ち止まって
珍しくこちらを見ないで声をかけてくる。
「どうかした?」
駆け寄って聞き返す。
それでも三谷はこっちを見なくて。
「……苦手意識、なくなった?」
「!」
何のかなんて。
そんなの、聞かなくても何となくわかる気がした。
(バレてたよね、そりゃ)
あんなあからさまに避けまくってたわけだし。
拒んで、逃げて、アズと仲が良いことを言い訳に、できるだけ二人にならないようにしてた。
二人きりになっても、ほとんど会話なんてしなくて。
三谷は、そんなあたしの苦手意識まで取り除こうとしてくれてたんだ。
(優男……)
「……うん、まあ、前よりは」
「そっか」
少しだけ声が嬉しそうだった。
嫌われて良い気持ちはしないだろうけど
嫌ってくるような女にわざわざ優しくする辺り
こいつは損な性格をしている気がする。
そんなことを考えていたのに
次に耳に飛び込んできたのは洩れたような小さな声。
「じゃあ次は、好きになってほしいなーとか」
「っ……!?」
先程までの三谷の言動が頭を駆け巡る。
(あたしがゲーセンを好きだから、とか、恋人繋ぎとか、とか、とか……)
もしかしてあたしは、遊ばれてるんだろうか。
それとも本気であたしに気に入られたいんだろうか。
全くわからない。
でも、それを判断する術はなくて。
だってあたしは、三谷のことをちゃんと知らないから。
今まで、ずっと避けてきたから。
いつもヨシキや貴也といる、何でもできるしっかりした奴。
でも今日そうじゃないことを知った。
この先に罠があるんだとしたら、あたしは本当に単純バカなんだけど。
でも、知りたいって思ってる。
三谷のことをもっと知りたい。
罠だったら、一発、ぶん殴ってやったらいい。
それくらいの意気で行けばいい。
「……少しくらい、知る努力はする」
「マジで?」
そう言って振り向いた三谷はとても笑顔で。
「すっげえ嬉しい」
それがめちゃくちゃ眩しく見えたから。
その鼓動も、その先に待つ不安も
お化け屋敷なんかより大きいのに
何でどこか嬉しいんだろう。
とか。
(心臓、静まれ……)
柄にもなく、そう思った。
5.高嶋こゆき《お化け屋敷》 END