表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/9

1.小牧梓紗

やってしまった……

いくら何でも、これはダメだよ……。

せっかくみんなで集まってるのに

楽しい日にしようとしてたはずなのに

どうしてこういう行動しちゃうかなあ……。








《Case1.観覧車》










みんなで来た遊園地。

ジェットコースターから聞こえる絶叫。

カラフルなコーヒーカップで回る人々。

お化け屋敷ではしゃぐカップル。


――の中、一人ベンチに座る私。


たまたま近くにいた滝川にだけ声をかけてきたけれど

せっかくの楽しい空気を壊しちゃった気がして


へこむ。


「はあ……」


さっきから溜息しか出てこない。

身勝手で、弱くて、バカみたいで。


(でも耐えきれなかったんだもん)


仲良くしてる二人を見て、眩暈がした。

いつもなら気にならないことが

たった一つ報告されただけで

こんなにも変わった。


(どんだけ好きなの私)


三年間、ずっと見てた。

同じクラスの時も、違うクラスの時も

こうしてみんなで集まる時も

ずっと。


ずっと好きだった。


(でも、好きなだけじゃどうしようもない)


「はあ……」


また深くため息をつく。

自己嫌悪と、悔しさと、反省と。


『私、加賀先輩のこと本気ですから』


そして、不甲斐なさと。


(私、何も言えなかった……)


自分もだなんてことも、応援するなんてことも。


ぐるぐると頭の中を二人が回る。

今何してるんだろうなんて気になりながら

思い返すたびに嫌になる。


「お姉さん、何してるの?」


憂鬱になっていたら急に人影と声が降ってきた。

驚いて顔を上げると


知らない男性が二人いた。


「あの、何か?」

「一人で来てるの?」

「あ、ええと、友達と来てるんで」


ナンパだろうと思って否定をすると、相手は引かない様子で。

段々と近づく顔に少しだけ恐怖を感じる。


「さっきから見てたけど、ずっとここに座ってるじゃん」

「それは、ちょっと休憩してただけで……」

「ああ、絶叫系とか沢山乗ると休憩したくなるよね」

「いや、違います。大丈夫です」


一人でいるのは事実だし、どう断ったものか困ってしまう。

ユキちゃんとかなら「うざっ」とか一蹴するんだろうけど

私にはできるわけもなく。


「でもみんなとはぐれてるんでしょ? じゃあ俺達と遊ぼうよ」

「いやはぐれてるとかじゃなくて……」


「――彼女に何か用?」


不意に聞こえた、ハスキーな低い声。

離れたはずの、あいつの声。


「それ俺のツレなんだけど」


ポケットに手をいれて、けだるそうに二人を見る。

文句言いたげに加賀を睨む二人は結局何も言わずに立ち去るものの

私としては何で加賀がいるかのほうが重大で。


「なぜ、いる、の」

「お前こそ、何でいないの」


ぎくりとする。

加賀は「はーあ」なんてわざとらしいため息をつきながら隣に座って。

気まずくて、顔が見れなくて、うつむいて。


「ツレとか、今どき言わなくない?」

「俺は言うの」

「ヤンキーみたい」

「それは偏見」


淡々と、短く言葉を交わしていく。

いつもと同じようで、いつもと違うような空気。


「具合でも悪い?」

「そういうわけでは、ない、けど」

「ふーん」


追いかけてきてくれたのかな。

それとも、別の理由かな。

茉莉ちゃんとはどうなったんだろう。


聞きたいのに、聞けない。


「いつまでここにいる気?」

「わかんないけど、何で?」

「金もったいないじゃん。お前フリーフォールしか乗ってない」


確かにそう。

降りてすぐ離れちゃったから。


すると加賀は立ち上がって。


「よし、何か乗るよ! ほら立って!」


笑顔を向けてくれる。

明るく声をかけてくれる。

そういうところが、かっこいいって、思っちゃう。

好きすぎて、ちょっと悔しい。


「何かって何乗るの」

「んー……すぐ乗れそうだったのはあれかな」


加賀が指をさしたのは、遊園地の端にある観覧車。

みんなあっちにいるんだろうか。


(でも、観覧車に二人で乗るって……)


考えて段々恥ずかしくなる。

近いし、狭いし、密室だし。


(……意識されてないってことかな)


ふと我に返って、切なくなった。


「嫌なら他のにするけど、あと大体混んでたよ」


全く気付いてない様子の加賀を見て頭を振る。

意識しすぎなんだと自覚してしまう。


「大丈夫、観覧車でいい」

「うし、じゃあ行こう!」


クールで、だけど明るくて、いつも引っ張ってくれる、そんな人。

優しくて、笑顔がきらきらしてて、かっこよくて。

今だってきっと、気を使ってくれてる。

それが嬉しくて、すこしだけ寂しくて。


(加賀は誰にでも優しいから……)


茉莉ちゃんにだって、きっと。




「本当に早く乗れたね」

「みんな夜に乗るんじゃない?」

「そっか」


重々しく揺れ始めるゴンドラの中。

思っていたよりも狭くて、声が響く。

正面にいる加賀にドキドキして、意識を逸らそうと窓の外を見て。


「わあ、上がってる」

「これさ、ヨシキとか見えるかな」

「それは無理じゃない?」


ゆっくり上っていくゴンドラ。

小さくなっていく人と、遠くまで見えてくる景色。

すると加賀が突然立ち上がって。


「何してるの?」

「ズーム機能あるじゃん。これでヨシキ達見えないかなって」

「どんだけ見たいの」


思わず笑ってしまう。

窓の外にカメラを向けて、楽しそうにみんなを探す加賀。

無邪気な表情で、何だか子供みたいで。


「あ、いた!」

「うそ、見えるの?」

「ほら見て」


手招きされて私も立ち上がる。

重心の変わるゴンドラに、思わずバランスを崩した。


「大丈夫?」

「うん、平気」


転びそうになりながら画面を見ると、確かに滝川の姿。

画質は荒いけどちゃんとわかる。


「撮って送ってやろ~っと」


パシャリと音がしたスマホの画面が、すっと移動する。


「何て送るの」

「見えてるぞ~って」

「ふっ、何それ」


座って文字を打ち始める加賀。

私はといえば、そのままみんなを見ようと自分でも携帯を取り出して。

そしてようやく気付いた滝川以外のこと。


「ねえ、三谷とユキちゃんいないんだけど」

「んー、知らない」

「知らないって……」


雑な返事の加賀を見ると、焦った様子で携帯をいじっていて。


「何? 返事きたの?」

「うんまあ、そう」

「どうかしたの?」

「どうもしてない」


明らかにどうかした様子なのに否定をされた。

単に滝川に何か言われただけだろうけど。

はぐらかされてるところを見る限りこれ以上は聞けそうにない。


(ユキちゃんと三谷どうしたんだろう……)


二人のことは気になるものの、姿がどこにも見当たらない。

連絡……と思ったけど、よく考えたら私も勝手に離れてる身。

どうしようもないので私も座ることにした。



窓の外には自分の知らない街並み。

段々と頂上へ近づいていく。

そういえば観覧車なんて何年ぶりだろう。

まさか好きな人と乗る日がくるなんて。


「あのさ」


そんなことを考えていたら、返事が落ち着いたのか加賀が口を開いて。


「梓紗って三谷のこと好きなの?」

「へ?」


予想外の質問に間の抜けた声が出る。

どうして急に三谷……?

好きって、何で……?


「どうなの」

「どう……普通……?」

「普通って何」

「何って言われても」


何なのかと加賀を見れば、すごく真面目な表情をしていて

そんな顔で見られたら、何だか緊張してしまう。

もしやとかまさかとか、考えちゃう。


「加賀、どうしたの……?」


ドクンと心臓が鳴る。

呼吸が止まったみたいになる。

聞きたいと思いながら、でも怖くて。

なのに続きを待ってしまう。


「俺、実は……」


実は――。


――途端、シンプルで軽快な音が鳴り響いた。

自分もよく聞く着信の通知。

言葉は止まって、続きは消えた。


「な、何?」

「ごめん俺。ヨシキから」


そう言って電話に出る加賀。

まるで何事もなかったみたいに。


ドキドキした。

何かと思った。

少しだけ、期待した。


(私のバカ……)


そんなわけないのに。

また小さく溜息をついて。


「は? 知らないよ。きてない。何で俺にくんの」


電話をする加賀は怪訝な顔をしていて。

どうやら何か揉めているらしい。

軽く言い争っているような様子がうかがえる。


「どうしたの?」

「何か茉莉ちゃんがいなくなったって」

「え!?」


電話が終わって尋ねたらそんな言葉が返ってきて

何故か冷静な加賀にこちらが慌てる。


「ちょっと、大丈夫なの?」

「大丈夫でしょ、もう高校生なんだから」

「誘拐とか、ナンパとか!!」

「ヨシキと何かあっただけっぽいから、大丈夫」


落ち着いて、と、いつもの低い声。


「でも……」

「ヨシキに任せれば大丈夫だから」

「でも滝川と揉めたんでしょ?」

「あいつだって馬鹿じゃないよ」


確かに、あれで意外としっかりした人だ。

もし何かあってもちゃんとフォローできると思う。


「頂上過ぎたね」

「え? あ、うん、そうだね」


急に思考を遮られる。

どうやら茉莉ちゃんの話は終わったらしい。

何も解決してないんだけどと思いつつ

外を見れば、確かに下りになっている。


(もう少し早く気付けばよかったな)


頂上の感動を味わえなかったことを少しだけ寂しく思ってると

加賀が何か言いたげにこちらを見ていて。


「何?」

「……そっちいっていい?」

「え、う、うん」


ゆっくり立ち上がって、私の隣に座る加賀。

さっきので既にパニック気味なのにこんな近いなんて。

聞こえてしまうんじゃないかってくらい心臓がうるさくて。

普通を意識することに必死になって視線を床に向ける。


「あのさ、俺ら最初クラス一緒だったじゃん」

「うん、席近かったよね」

「それから結構よく話すようになってさ」

「うん……?」


急に左手を触れられて、びくりとする。


「俺、あれからずっと梓紗のこと好きなんだ」


――時間が止まったかと思った。


そんな夢みたいなこと

期待したままのこと

起きるわけないって思いながら


包むように握られた左手が熱くて

加賀が、震えているのが伝わって。

じっと私を見る目が、どこか不安そうで。


「だから、俺と付き合って」


耳がじんじんする。

加賀の低い声が響いて、嬉しくて、恥ずかしくて。

涙が出そうで。


「ダメ?」

「ダメ、じゃ、ない……」


「よかった」って、安堵したように加賀が微笑った。


三年間、ずっと。

ずっと見てた。

ずっと好きだった。


もう、卒業も近くて、離れ離れになっちゃうんだと思ってた。

好きなんて言ってもらえると思ってなかった。

もしかしたら茉莉ちゃんと、なんて、思ってた。


この恋は、終わるんだと――


「泣いてる」

「え……」


頬に手を触れたら、涙が流れてた。

自分でもびっくりした。


「あはは、ごめん我慢できなかったみたい」

「我慢しなくていいのに」

「だって、何か恥ずかしいじゃん」


加賀が私の頬を拭う。

熱い指先にまたドキリとする。


「もしかして嫌だった?」

「ちがっ……!!」


言葉にするのが恥ずかしくて声が小さくなる。

それでも、勘違いされたくなくて

どうにか絞り出して。


「その、嬉し、く……」


顔が近づいた。


「て――」


近づいて、触れた。

触れただけなのに

唇が熱くなった。


頭がついてけなくて、心臓が爆発しそう。

そんな私を見ながら加賀は微笑む。


「もう一周しようか」


その笑顔が素敵で、胸がきゅんとして。


「うん」


みんなには悪いけど、と二人で笑って。

今度は『恋人』で。

変わった関係で、もう一周。


同じく廻る観覧車。

次見える景色は、きっと違う。





1.小牧梓紗《観覧車》 END

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ