第四話 修復開始
砂嵐が止んだ。
状況は・・・ぼろぼろ。エアロックは狭いし、床が硬かったせいで一晩過ごしただけなのに背中のあちこちが痛い。それに、とても寒かった。
「まあ、命があっただけマシかなー」
《こっちはひどいよ。急な減圧に襲われたこと、ある?》
「あー、ないね。あったら死んでる」
確かに、艇内は変わり果てていた。至るところに氷がこびりつき、あちこちの壁が破裂している。
「まず水道管が破裂。減圧で沸騰した水蒸気に内側から引き裂かれた感じかな」
水道管が破裂したので、温水器が動かなくなったのだろう。昨晩寒かった原因はこれだったのか。
《エンジンは?》
「蒸気がエンジンルームにも押し寄せてきて、スクリューのシャフトをへし折ったみたい。暴れるシャフトが辺りをメチャクチャにかき混ぜたせいでギアボックスが壊れた。やっぱり酷いね。」
ギアボックスの中にはバラバラの金属片が散らばり、下半分が砂で満たされていた。スクリューシャフトが変形したせいで、隙間から侵砂したのか。SESを動かさなければ悪化することは無いと思うけど、念のため隔壁を閉めておいた。
自力で直せるかわからない、もしかしたらオーバーホールしないといけないかも。
《液晶パネルもだめ。中の液が全部蒸発しちゃって、真っ黒で何も映せない》
迂闊だった。液晶なんだから真空にやられるのは当たり前だ。
こんなに被害が大きいとSESを売って得た金が無くなる。どうにかしなくては。
《あれ、液晶パネルは直せるかも。》
「え?備品も全部駄目になってるんでしょ?」
《それが、少し無事な奴があるっぽい。二週間前に、倉庫の整理をしたでしょ。検索してみたら、備品庫に入らなかった分の液晶パネルを食糧庫に入れた、っていう記録があったの。》
「なるほど、食糧庫なら減圧されてないか。ちょっと見てくるよ」
なんとなんと、二二枚もあった!おかげで修理費が四分の三になった。
「これだけあれば、普段使ってるパネルは全部直せる。他のパネルは後回しにしても構わないから、その分の修理費を水道管とエンジン機構部にまわせる。水道管はテープを巻いとけばいいと思うけど・・・・」
《あと圧搾空気タンクね。直さないと航行できないよ》
「そうだった。あのタンク、とっくに生産終了してるから同じ形のやつ手に入らないんだよね・・・」
《内圧七〇気圧に耐えるのっていうと、選択肢ほとんど無いしねー》
圧搾空気タンクは、吸気口から取り込んだ空気を七〇倍に圧縮して貯めておく超頑丈なタンクだ。船の外殻ごと貫かれて大穴が開いてしまったけど、こっちは水道管のようにダクトテープで塞ぐ、というわけにはいかない。内圧が高すぎるので隙間からどんどんもれてしまう。
「タンクがみつかるまでは、タンク無しで空気を確保する方法を考えよう」
タンクなしで地上から吸気し続けるか、それともタンクが手に入るまでここに留まるか。
どちらにせよまだ船は動かないし、航行に空気は欠かせない。
とりあえず水道管は直そう。今はできることからやっていかないと。
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水道管を直していたら日が暮れてしまった。けど、温水器まわりは優先的に直しておいたから、寒くない。まだ作業できそうだ。
「よし、艇尾右舷は完了。あとはどこだっけ?」
《そこで最後。他の場所はもう注水して、異常もないよ》
「よし、じゃあ水圧を一・五まで上げて、一晩テストしよう。」
今日はベッドで眠れそう。エアロックとさほど変わらない大きさだけど、暖かいしやわらかい。
うれしい。