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Luna/Blood  作者: 十立 章
一章 血統者の目覚め
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一章Ⅷ 「生じる不信」

 フォルデホルスの当主アシューは前回平介を襲った時に、まさか七人目の神器を持つ者が現れると思っていなかった。レェミュの奇襲に遭い辛酸をなめさせられたアシュー達は他に神器を持つ者がいないか、グラファの能力を使い探していた。


 アシューがいつものリビングに皆を呼び寄せると、グラファと一緒に調べていた事をエミが報告する。彼女はメイドでありながらも、とても優秀で色んな事をこなす事が出来る。彼女の持つ才は戦闘や諜報活動もそつなくこなし、常人とは比べ物にならない。

 またルナの能力が相まって、アシューにかなり重宝されている存在だ。


「グラファ様とここ数日調べていた結果ですが、神器を持つ者が新たに三人分かりました。斧江平介を襲った際に奇襲をしかけた赤髪の少女を除き、推測される残りの二人に関しては現在も調査しております」


「そうか、進んでいるようだな」


 アシューの落ち着いた様子に安堵する事無く、エミの表情は緩まず冷ややかに「はい」と頷く。続けて話そうとするエミはカルメリアが何かを頼もうとする様子に気付き、一旦言葉が詰まった。アシューは二人の様子に気付きカルメリアの方へ向くと、カルメリアはうっかりしてしまった事に気付き、身体を小さくしていた。カルメリアはよくメイドを使い、特に優秀なエミを気に入っていた。今日もメイド姿のエミを見て、ついいつもの癖が出てしまったのだ。


 月床石争奪戦が始まると、エミはアシューからメイドの仕事を免除されているのだが、メイド服に関しては彼女の正装であり、様になっている為カルメリアはよくこういう失敗をしてしまう。

 失敗した妹にミッチストンは微笑むのだが、カルメリアの様子は怒りに変わり冷たい態度で返した。優しくしても冷たい態度で返されるのはいつもの行いのせいだろう。


「では、新たに見つかった三人と赤髪の少女について分かった事を報告していきます。まずは赤髪の少女ですが、名前をレェミュ・リムリッドと言います。彼女は『槍』の神器を所持しており、彼女が力を使った際に出て来た顔の文様と、力の影響を受けた三人の様子から一定範囲のルナを奪い取る能力を持っています。よって彼女の神器の能力は『ルナを奪う能力』であり、範囲内にいた者は使用できるルナを全て奪われてしまいます」


「厄介だが、これで後二回しか使えないという事でいいのだな?」

 眼鏡の奥の目力は鋭く、しめた顔をするグラファ。命を削っただけの成果を感じていた。


「はい。すでに使っている私やグラファ様と同様にレェミュも顔の文様に三つのラインがありましたから、神器が言うように力を使える回数は残り二回になるでしょう」


 アシュー達の持つ神器もまた話しかけてくる事があり、神器から得られる情報を細かい事でも皆で共有している。その内に神器の力を使用した時、人によって模様が異なるものの電子回路のような線の束が顔に三つ現れると教えられていた。

 その線の束の数が神器の力の使用出来る回数だという。


「ああ、力を使う時に浮かび上がる顔の文様が確認出来たなら間違いないだろう」


 横に少し跳ねた髪を少し摘まみながら、アシューは同意する。


「はい。前回の戦いで彼女の能力が分かり、回数を減らせたのは大きいと思います。彼女の力は強力ですが、範囲外に一気に出られれば対策を講じる事が出来ます」


「そうだな。出来る限り私が相手をする必要があるな」


 アシューはそう言うと顎に手をあて少し思案した様子を見せる。彼の鍵を使い、別の場所へ移動出来る能力でレェミュの力の範囲を推測しているのだろう。エミがアシューの力でルナを奪われる事が無かったのが手掛かりになる。


「そして、私がグラファ様を助けに戻った際に現れた二人は、レェミュと仲間であり斧江もまた仲間に加わったかと思います。途中で現れた二人を後で調べたところ、男性は西坂奏と名乗り『弓』の神器を持っています。女性の方は藤宮香菜と名乗りこちらは『剣』の神器です」


 前回いた敵の事を報告し終えると、目の横に短く結った三つ編みと反対側のサイドテールを揺らしながら、ふっと気になったカルメリアの方を見た。

 疲れているのか溜息を漏らし、落ち着かない様子だ。


「うむ……敵も戦力を整えてきておるな」


 アシューの傍に座るグラファが顎の髭を擦りながら困った様子で言う。


「はい。また他の神器を所持している者に協力を仰いでいる節があり、ユリアナ・フォスターという女性に接触している可能性があります」


 ユリアナという神器所有者の報告を受け、アシューは歯痒さを感じていた。

グラファと共に何とか足取りを掴めたものだが、どうも上手くいかない。先に手を打ちたい所なのは言うまでもない。


「その女性はどこまで調べる事が出来た?」


「グラファ様の能力で神器を視認出来たところまでです。彼女は『斧』の神器を持っており、容姿の特徴としては少しオレンジがかった茶髪で二十歳に満たないぐらいの欧米系の少女です」


「先にそちらを仕留める事は可能か?」


「能力は未知数ですが……私なら可能でしょう。戦闘に慣れた様子ではありませんし、一人であれば可能かと思います。ですが、どちらを優先なさいますか?」


 エミとグラファには現在十二本あるであろう神器の所有者を探し、優先するようアシューは伝えてある。だが、ユリアナの件も看過出来ない事であり、まだ確証はないものの仲間にされる前に、手を打っておきたいのもエミは察してとれた。


「並行して頼む。どちらを優先しても構わない。好きにやってくれ」


「畏まりました。残りの神器については目星がついておりますので、神器を優先しようかと思います」

 アシューの後ろに立つエミは頭を下げ、自信ありげに答える。


「では、宜しく頼む。エミとグラファ以外の者はユリアナ・フォスターから神器を奪うよう動いてくれ」


「「「承知しました」」」




「では自己紹介だね。僕はユリアナ・フォスター。『斧』の神器を持っているよ。最近の悩みは僕を付きまとう人がいることだね。うーん、僕が可愛いからといって困りものだよ。あ、さてはぁ~~君たちじゃないだろうね?」


 紺のキャスケットを被ったボーイッシュな少女は、レェミュ達を茶化すようにおどけて見せた。

 ユリアナは白の半袖ジャケットに、裾を折り込んだデニム生地のショーパンを履いている。活発なイメージをファッションで体現している彼女は腕白で接しやすい感じだが、自由奔放で足並み揃えた行動が苦手そうな印象がある。


「ち、違います。そんな事はしてません! 私は今日初対面ですし」


 香菜は慌てて手と顔をぶんぶん振って身振りを使いながら否定する。


「ははっ、冗談だよ。冗談」


「私は後をつけていたわ。そうしないとこちらから近付こうとするなんて無謀だもの。だけど、私よりフォルデホルスの人間に気を付けた方がいい。彼らもあなたを放っておいたままとは限らない」


 レェミュの発言に驚いた香菜は目をひん剥き、ポニーテールを揺らしてレェミュを見る。いつもの可愛さは無くなり、焦りを隠せない香菜。どうしてか、レェミュは協力をお願いしに来た割に大胆な言い方をする。ただの正直者なのか考えがあるのか、ユリアナと一緒に呼ばれた男はレェミュ達を観察しながら話しを聞いていた。


「うわ、それは大変だ。僕が気付かない内にいつの間にか人気者じゃないか」


 レェミュの言った事をユリアナは気にしていない素振りで能天気に驚く。


「で、こっちのお兄さん達は?」


 レェミュ達の様子を見ていた金髪のおじさんの事をユリアナはここに呼ばれてからずっと思っていた事を聞いた。


「俺はクロイツ・ベルデンベアハルト。『鎧』の神器だ。これから宜しくお願いする」


 黒のワイシャツを腕まくりしている金髪のおじさんが名乗った。後ろ髪が長くて結んでいるのが特徴的で、前髪も長め。優しい雰囲気はあるのだが、顔の彫りが深く体は大きくてどちらかと言うとワイルドな印象だ。

 クロイツが軽く頭を下げるのを見て、クロイツの横にいる眼鏡をかけた男が名乗った。


「じゃあ、次は俺だな。名前はジャスレイ・ファン・ルドルフ。神器は持たないが、ルナの力を使える。クロイツに協力して月床石(げっしょうせき)を求めている」


 こちらの男も少しクロイツより背は低いが体はがっちりしている。眼鏡をかけているが知的というよりも無造作に逆立った茶髪の髪や整えられた顎鬚を貯えているので、クロイツに劣らずワイルドだ。


「皆私の事を知っていると思うから、隣の女性を紹介するわ。『剣』の神器の藤宮香菜さん」

 赤い眼でちらっと香菜を見ると、彼女の方に手を向けレェミュは紹介する。


「今後ともよろしくお願いいたします」

 頭を深々と下げ、丁寧に香菜は挨拶をした。


「では、挨拶も済ませたし話をさせてもらうわ。あなた達はフォルデホルス家を知っていますか?」


「知らない」


 指を小さく開いた口の下に当て、全く知らない様子をみせるユリアナ。


「一つ目の月床石が落ちてから代々続いているルナ血統者の一族だろう」クロイツが当たり前のように話す。


「そう。彼らは先祖から力を受け継いできて強い力を持っているわ。だけど聞いていたようなお人好しなところは今の彼らには見えない。二回目の時は神器を持つ人と仲良くやっていたと聞いていたけど、今回の彼らは違う。何も知らない相手に交渉することも無く、複数でいきなり襲った。六つしか神器が無いと考えていたなら、五対一は勝ったも同然のような状況なのに徹底し過ぎている。不老不死やルナの力を渡していい相手だと私は思わないの」


「確かに、素人相手に複数で襲うなんて卑怯なやり方だ。放っておいていい相手ではないな。君はそんな相手だから阻止したいという訳か」


「ええ」


「……君はまだ若いのにとんだ事をしようとしているな」


 クロイツがレェミュの考えに関心し微笑むと、レェミュ達が望んでいた協力を持ちかけてきた。


「そうだな。俺たちも君たちに協力しよう。但し、お互い協力するのなら君たちの能力を知っておきたい。お互い能力を明かすことで信用も生まれるだろう」


「……そうね」


 さっきまでの様子と違いあまり決まりがいい返事をしないレェミュ。さすがのユリアナもレェミュの様子には気付き、軽い調子で話しに混ざろうとした。


「まぁ、あまり話したこともない相手にいきなり自分の手の内を明かすのも恐いよねぇ。弱点とか調べられるかもしれないし。それに後ろからざっくりとやられるかもしんないよね」


 ユリアナの放った一言で更に重たい空気が漂う。


 皆の暗い空気に冗談が通じないと悟ったユリアナは驚きながら慌てて訂正を試みた。


「おっ……とと。なーんてね。うそうそ、じょーだん! 僕は気にしないから、ね?」


 と言うと被っているキャスケットをユリアナは真上に放り投げる。するとあっという間に真上へ飛んで行き、落ちてきたかと思うとすぐにキャスケットはユリアナの両手に収まっていた。

 投げて落ちたのが一瞬だった。キャスケットはまるで早送りしたかのような動きなのだ。


「どう? 見ての通り、触ったものを速く動かす事が出来る力だよ」


 誰かが反応する様子もなく、沈黙が繰り返される。怖くて一旦瞑った目を片目だけ開いて皆の様子を伺うユリアナ。どうしようかソワソワして落ち着かないユリアナは誰かが喋りだすのを待ちきれずに切り出した。


「……ひぃぇえ。ーーなんなら神器も言っちゃおうか?」


 茶橙の頭を押さえ、色んな方向をキョロキョロと目を動かしながら、この重たい空気がなんとかならないかユリアナはあまり賢くない頭を使っていた。

 その答えが自分の手の内を明かすという答えになったのだが、信用を得るというよりも、ただここから逃げ出したいという浅はかな考えと言われても違いない愚行だろう。


「いやいい……そこは順番に紹介していこう。レェミュ。やはり俺達に教えるのは嫌かい?」


「……」


「……リムリッドさん?」


 無言で答えようとしないレェミュを見て香菜は心配になり、声を掛けるも香菜からレェミュは目を背ける。


 香菜もこの気まずい雰囲気に耐え兼ね、レェミュに近づいて何か伝えようとするが、レェミュはクロイツに向き直り口を開いた。


「お互いに能力を教えないまま、協力するのはダメかな? 私は能力を教えたくない」


 レェミュの発言で場は凍り付き、クロイツ達の表情は硬い。香菜は分かってはいた。レェミュが協力したくても、協力的な答えを返さない事を。

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