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Luna/Blood  作者: 十立 章
一章 血統者の目覚め
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一章Ⅶ 「猛獣との稽古」

 美女と共同生活をしているんだぞ、と言われているが詐欺だろ?


 脳内で罵倒されるので耳を塞いでも聞こえてくる。

 そしてトドが言う美女なんて見たことない。

 見たことあるのは醜いトド。


 ああ、地獄だ。


 平子の八つ当たり。

 あれは散々だった。小一時間ぐらいはぎゃあぎゃあ喚くは叩くは体当たりしてくるわ、暴れに暴れていて大変だった。

 その日は我慢出来なくなり、香菜さんに連絡して逃げ込んだ。追っかけてくる平子は西坂さんに拘束されて助かったが、消えるまで家に帰る事が出来なかった。

 時間が経つと消えてしまうみたいだが、毎回出てきては電池切れになるまで逃げるのはきつすぎる。しかも勝手に出てくるし。


 そこでこれから香菜さん達やレェミュさんが神器を出す練習を兼ねて、平子が出てきても消せるように今後付き合ってくれる事になった。練習は香菜さんの家で行う事になったのだが、改めてよく見ると敷地も家も広すぎる。道場の娘と聞いていたがすごく立派な家だ。

 道場の中に向かうと十分すぎるぐらいやはり広かった。これなら思いっきり身体を動かせて練習が出来るな。有難いことだ。


「何やってんだ! 一ミリも出てねぇじゃねぇか! もっとイメージしやがれ!」


 って、なんでこうなるんだ……


「てめぇ! 早くしろよ! いつまでもあたしが直々に教えられる訳じゃねぇんだぞ。消えるまでにモノにしな」

 いや、頼んでないけど。


「平子の言う事は気にしないで。私がちゃんと教えるから」

「はぁ? 赤女! てめぇに何が教えられるってんだ! 邪魔すんな」

「邪魔はしていない。早くあなたのやる事をやって力尽きて」


「てんめ! ……う」


 レェミュさんに飛び込もうとする平子が怯んだ。

 シャッと身構えるレェミュさんを見てこの前の事を思い出したんだろう……

 どうでもいいからそのまま大人しくしてくれ。集中できない。


「たく、しっかり見といてやるからちゃんとやれよ。あたしもお前にやられちゃ困るんだ。ルナを使えるようになってこの醜い体をなんとかして貰わないといけないからな。さぁ、斧に変化させるイメージを具体的に想像してみろ」


 くそ、命令ばっかりでむかつくな。

 はあ、剣の次は斧のイメージかよ。そんな触った事のないもの想像しろって言ってもな。


 そう、何故か今日は斧を出す練習をする羽目になったのだが、ルナウイルスの力で得た俺の超能力が『触れたモノを斧に変える力』らしくて、まずはその力を使えるようになれと平子は言う。

 今日も神器を出す事に失敗して平子が出てきたが、あいつが言うには「自分の力を使えないのにあたしの力を使えるわけないだろ!」らしい。


 で、レェミュさんが折角来てくれたのにこの糞トドに教えられている。

 ああ、レェミュさんの方が良かった。

 トドならいつでも出来るし。

 神器より先に俺の力ってやつがあるなら、早く言ってくれよな。


「おお、やっているな。どうだ? 調子は」


「どうもこうもさっぱりです」

 ようやく来てくれた。二人の知恵を借りれば、少しは上達するかもしれない。……借りられるかは分からないけど。


 あれ? 西坂さんだけ……天使はどこに行ったのだろうか。


「藤宮だが妹弟子が来てな。来れるか分からないが遅れて戻ってくると言っていた」


「そうですか……」


「おい、いい加減口ばかり動かさないでさっさと練習しろよ。殴るぞ」


 そのヒレみたいな手じゃ殴れないだろ。とは言えないが、叩かれても痛いだろう。

 それからしばらく平子にスパルタ教育を受けながら練習するが、一度も斧を出すことが出来ない。レェミュさんと西坂さんはじっと俺たちの練習を見てくれているが、平子のせいで手伝える空気ではない。

 そろそろ平子の電池切れは起きないだろうか? 後、香菜さんはいつ来るのだろう。


 香菜さんに癒して貰わないと心が折れそうだ。


「すまない。ちょっといいだろうか」


「ああ、なんだ?」

「提案なんだが、一度短い棒を持って実践に近い練習をしてみてはどうだろうか?」


 おっとぉ?

 西坂さんが助けに来たと思ったら不穏な事を言っていないだろうか……


「ほう、なるほどな」

「手の平ぐらいのサイズじゃ、守ることは出来ないし、相手に攻撃することも出来ない。斧に変化させないと何も出来ないって事だ。追い詰められることにより、いい結果が生まれるかもしれない」


「え? ちょっと待って下さい!」


「いいじゃねぇか、やってみるか」

「いや、良くないって!」


 おい、何嬉しそうな顔して言ってんだ。そして何故誰も俺の味方が居ないんだ?

 え? ……レェミュさん? あなたも……ですか?


「よし。それじゃあ相手役だが、俺でも構わないのだが折角ここまで熱心に相手をしていたんだ。平子、君が相手役をやってみるか?」

「てめぇ、分かってんじゃねぇか。やってやるよ。丁度鈍臭くてむしゃくしゃしてたんだ。サンドバックにしてやる」

「おい、主旨が違うだろ!」


 何を言っちゃってくれてるの?

 西坂さんが要らない事言うから、平子に火が付いてしまったじゃないか! しかも、レェミュさんは見ているだけだし。

 え、俺の為にしてくれているんだよね?


 さりげなく棒を渡すのは止めてくれ! 西坂さん!


「は? 何言ってんだ。丸腰なのはこっちだぜ? お前は斧出しゃ真っ二つに出来るじゃねぇか。……ん? それ、あたしが不味くねぇか?」


「あれ、もしかして怖気づいたのかい? だったら俺が相手役を務めるけど」

「誰が怖気づくだぁ? あたしを舐めんなよ。はん、出す前にボコればいいんだろ? じゃあ行くぜ! 先手必勝だ!」


「おい、ちょっと待っ! 糞トドぉおお!」


 また、いきなり頭突きしてきやがった。くっそ。躱したけどあれ当たると、軽い割には痛いんだよ。

 相変わらずなんて速さなんだ。

 くそ、こうなったら適当に振り回して……当たれば儲けもんだ。


「おっ! てめぇやんのか?」

 と、言いながらいきなり平子は急停止する。


「はっ、ビビってんじゃねぇか。棒切れに真っ二つにされるのが恐ぇのか?」

「おまえ……覚悟は出来てんだろうな……」


 こいつ相変わらず恐いな。だけど、こうなったらやるしかない。

 いつもの恨みを晴らすんだ。


 ……。

 …………。


 はい、ダメでした。


 ああ、痛い。最悪だよ。

 マジで速い。

 あいつマジでイカレてやがる。嬉しそうに飛び込んできたり、叩いてきやがるし。


 ……まぁ、やられてばっかりという訳じゃなかったけど。

 当てようとするので精一杯だったが、何と無く感覚が分かってきた気はする……そう、なんか手の平の中で何かもぞもぞする感じがあった。途中から斧を持っている錯覚なのか、出せそうな気がした。

 ……にしてもあいつ。好きに暴れまくりやがって。


 まぁ……腹は立つが満足した様子で姿を消してくれた。俺に喋ってくる感じもない。

 はぁ……やっと、解放された。それはそれで良しとしよう。しばらく寝ててくれ。

 あれ? そういえばいつまでも痛いな。所々腫れてきたし。ケガって加護があればしないんじゃなかったっけ?


「あの……そういえば、加護っていうのは身を守ってくれる盾みたいなものですよね? 俺なんで傷だらけなんですかね?」


「それは色々考えられるわ」


「え? あの時斧で切られて致命傷になってもおかしくなかったのに、殆ど無傷だったんですよ? 何でも防いでくれないんですか?」

「ええ、大体は何でもよ。だけど、加護をどうにかする事は出来るの。思いつくのは三つある。一つはルナを無駄に消耗しない為、無意識にセーブしている。二つ目は平子が加護を破っている。そして、三つ目は平子があなたの加護に干渉して使わせないようにしている。そんなところかな」


「要するにほとんどあいつのせいなんだな」


「ええ、そうね。……そんな様子ならちゃんと加護を使えるようにした方がいいわね。さっきの事があったせいじゃないけど、意識的に加護を使うか使わないか出来るようになっていた方がいいと思う。そういうコントロールが出来るようになると、平子に破られたり、干渉されたりするのも簡単に出来なくなるからね。それに神器を出すのにヒントを得られるかもしれない。襲われた時だって身を守る為にも精度は必要なのもある。そのぐらい出来ないといざという時に無駄にルナを消費していたら自分の身を守れなくもなるし、色々やらないといけないわね」


 なんか嫌な気がするんだけどな……

 でも、レェミュさんはきっと優しいはずだ。俺の思い過ごしだろう。


「色々……って、何をやるんです?」

「そうね。嫌かもしれないけど、ひたすら打ちのめされて加護で防御する練習と、あえて加護を使わず防御しない練習。わざと痛みを感じるようにするの」


「ただのどMの修行じゃないですか!」


「ええ? ……でも、仕方ないと思うの。……頑張ってほしい」


 え? あ……ちょっと強く言い過ぎたかな。

 なんか少ししょんぼりしているような……いや、でも痛いのは普通嫌がるよ。

 嫌がらなかったら、正にただのマゾだし。


「あ、あの……すみません。真剣に考えてくれてたんですよね。言い過ぎました」


「え、う……うん。嫌だったら仕方ないと思う。もうちょっといい方法考えてみるから気にしないで……」

 この後、ちょっとだけレェミュさんと気まずくなってしまったが、練習は平子がいないうちに続けた。今日はマゾヒスティックな練習は行わず、重点に置いていた斧を出す練習をやり続けた。だけどやっぱり難しい。掴みかけたコツを生かせず、成果を上げることも無く今日はお開きになった。




「それにしても遅かったわね。何をしていたの?」

「ごめんなさい。あの子とは仲が良いものだから……つい」


 レェミュの言葉は表情が乏しいのもあって、本人が思っているよりもきつい言い方のように感じてしまう。レェミュは機嫌が悪いのではないが、香菜は申し訳なく感じてしまい、反省しているような暗い表情で答えた。


「まぁ、私達がちゃんと練習に付き合っていたから大丈夫だけど。それより今後の事ね」

「はい、どうですか? 上手くいきそうですか?」

「ええ、彼らも同じ考えを持っているわ。以前にも少し話した事がある二人だから大丈夫よ」


「そうですか。これで『斧』と『鎧』がいれば、フォルデホルスとの戦いも五分で戦えそうですね」

「ええ、その為にも今度私と一緒に協力をお願いしにいくわよ」


「分かりました。……どんな人か少し楽しみです」

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