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Luna/Blood  作者: 十立 章
一章 血統者の目覚め
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一章Ⅵ 「トド叫喚」

 大きめのゴムまりみたいなトドが出て来て、わぁわぁとうるさい。

 誰だこんな奴を連れてきたのは。


「美女ってさあ。鏡を見てから言ってくれないか?」


「は? お前、一回死にてぇみてぇだな?」


 このトドは喋るみたいだが、恐ろしく口が悪いらしい。

 不良じゃねぇか。


「すみません。こちらをどうぞ」


 持てるか分からないような小さな手で、香菜さんが取り出した手鏡を毒舌トドは器用に掴んだ。


「ったく、テメェもか。後で覚え……て、なんじゃこりゃああああ!」


「いや、こっちのセリフだよ」


 小さいのに声はデカい。とにかく汚い言葉を大声で喋るから疲れるな。


「てんめぇ! お前か! あたしをこんな姿で呼び出した奴は!」

「待て待て! お前の元の姿とか知らねぇよ! というか、尻尾で叩くのを止めろ!」


「うっせえ! あたしを神器として呼び出すのになんでこうなんだ! 大体あたしは美女なんだ。なんでこんなブッサイクにして呼び出せるんだよ! 一体どうなってやがる!」


 いや、どうなってやがるのはこっちの台詞だよ。

 剣を出そうとしたのに、なんで不良トドが出てくるんだ?


「確かに」うーんと可愛い仕草で唸るだけの香菜さん。


 レェミュさんは心当たりがあるのか、さほどびっくりはしていない。

 でも、表情からして鬱陶しそうに感じていると思うが。


「……いや、私たちだって出せなくはない。必要がないだけで。努力や才能もあるみたいだけど」


「「「あんなブサイクに?」」」


「お前らぶっ殺す!」


 鳩尾に頭から突っ込んできた。

 おい! まじかよ。


「ぐはぁ!」

 痛ってぇ!

 衝撃はそこまでだけど、当たりどころが……


「大丈夫ですか?」


 すぐに背中をさすってくれる香菜さん。なんて優しいんだろう。

 やっぱりこの人は天使だ。


 にしても、この糞トド。


「おい、でこ娘。そいつに優しくしたって見逃したりしねぇからな。そこの木偶の坊と一緒にあたしをコケにしたのは聞こえていたからなぁ。次に痛めつけてやるから覚悟しとけ」

 と言うと、瞬間移動をしたかのように西坂さんに突っ込み、俺のように苦しめた。


 加護ってのがあるんじゃなかったっけ?

 それにこいつさっきから浮いてるけど、なんであんな勢いよく突っ込めんだよ。まるででけぇ弾丸……というか大砲の球じゃないか。


「きゃあ!」


 有言実行。


 てか、こいつマジで下衆野郎だな。

 こんなか弱い天使の顔面に向かって突っ込むとは。

 香菜さんのおでこに向かって頭突きしやがった。


「さぁて、もっとボコボコにしてやりたいところだが、これぐらいにしといてやる。あたしをこんなちんけな姿で呼び出しやがったが、そもそも神器は渡したりしねぇからな」


「おまえ、それで出て来たのか!」

「何言ってやがる。あたしを呼び出そうとしたのはてめぇだ。それで下手くそだからこんなナリで出てきたんだろうが!」


「え? 神器なの?」

「そうだ」

「剣って聞いたんだけど」

「てめぇが下手くそだからつったろ。頭の横に付いてんのは飾りか? ああん?」


 だめだ。会話にならない。しんどい。

 俺のせいで『剣』じゃなかったから機嫌が悪いのか、糞トドが言う『美女』で呼び出せなかったのが悪いのか、怒り狂っている。


 獣そのもの。

 ケダモノ。

 ビースト。

 とにかくこいつは危なすぎる。


「……あの、さっきリムリッドさんが言った『私たちだって出せなくはない』っていうのはどういう事ですか?」

 香菜さんが俺たちのくだらない会話に割って入ってレェミュさんに聞いた。


「神器の力を引き出すの。それは神器の人格としっかり意思疎通出来る段階にならないといけない。そうする事により、物質を変化させたり、精製させたり出来るルナの特性を応用出来るようになる。そして、神器を生き物の姿に変える事が出来る。誰もあまり試さないから分からないけど、多分努力だけではダメ。ただ、このトドのように自由気ままに動き、私たちの意思を無視して滅茶苦茶な行動をしてしまうからオススメはしないけど。聞こえた事ないかな? いきなり気ままに話しかけてきては、たまにルナの事を教えてくれる。だけど、殆どどうでもいい事を話しかけてくる。そういうのない?」


「ないな」

 西坂さんは即答し心当たりが無さそうな顔……いや、何言ってるんだという顔をしている。


 でも、香菜さんは心当たりがあるかもしれない。

 うーんと唸っている。


「うお、てんめぇ」


 ああ、さっきレェミュさん、さらっとトドの事をひどく言ってたっけ。

 ただ、反応が素晴らしい。

 片手で突っ込んでくるトドを捕まえた。


「放っ……せぇ! この」


「あなたはうるさいからしばらくこのままよ」

 じたばたと暴れるがさすがに小さいから振りほどく力はないみたいだ。

 罵倒を繰り返しうるさいのは変わらないが。


「そうですね。確かに私はあります。その……話すのは憚りますが。なんというか『うわっははは』とか『汝やりよるな』とか言ってキャラが変と言いますか、悪く言えば人格が破綻していて話したくないですね」


 神器って話せるものなんだ。

 でも、どれもまともじゃないのか。どうしよ……あんなトドが気ままに話しかけてくるなんて……

 気が滅入る。


「その……話しかけられるとかなんとかならないですかね」

「ええ、それは可能よ。神器の力に頼ろうとしないこと。無視すればそのうちあまり話さなくなってくるわ」


「はん、それは無理だな。てめぇは無意識にあたしを頼っている。普通はな、神器をこんな訳の分からない姿で呼び出したり出来ないわけだ。特にこんな生き物としてな。神器は所詮モノだ。だが、無意識に頼ったお前はルナであるあたしに委ね、そしてルナを変化させる力を自由に使わせた。結果こうやって暴れる事が出来たんだよ」


「……ん? 一体どういう事だ? トドが出てきたのは俺のせいなのか? 神器のせいなのか?」


「物分かり悪りぃ奴だな、お前は。要はお前があたしに力を使わせてこき使おうとしてんだ、無意識にな。で、お前もあたしも並の奴より力は使えるが、お前は下手だから使いこなせねぇ。だからてめぇは仮にもあたしの宿主だからあたしの体につまらねぇ小細工をしてトドみたいな姿に変えやがった。てめぇが制御出来る範囲で、かつ利用出来る状態としてな。それが今のこの醜い姿って訳だ。下手くそだろうが、最終決定権はお前にある。つまりはそういうこった」


 以外と説明はしてくれるんだな。ただ、人を馬鹿にした言い方するから有難くもなんともない。

 どうせなら、香菜さんが説明してくれた方が良かった。


「そういう事ですか。ルナを上手く使えないから自我のある神器に働いてもらう。だけど、制御するために神器が暴れないよう制限をかけている。それを全部無意識でやっているという事ですね。でも、普通剣が出てこないってならないのですか?」


「ああ、それはこいつがよっぽど出せもしねぇ、神器をなんとかひねり出そうとしたからだろ。だが、結局あたしにまた頼った。そんで、あたしに暴れられたくねぇからこんなちんけな姿にして制限をかけようとする。だが、出せない神器をあたし自身に変化させ出そうとする。まぁ、どっちにしたいかはっきりしねぇでやって、結果この醜い姿のほうが勝ったってところじゃねぇか? なにしろ無意識にやっているし、ルナっていうのは理由もよく分からねぇ無駄なことが多いもんだからな」


 なんか結局不確かな事だらけだな。

 まぁ、俺にはまだ神器を出すことが出来ないって事は分かったけど。

 マジ最悪だ。

 こんな事に関わりたくないのに。さっさと手放したい。


「ところで斧江さんの神器さんはなんて名前なんですか?」


 そういえば、こいつに名前があるのか?

 香菜さんの質問は不思議な話だが、トドと呼ぶと絶対怒るだろうから名前で呼ぶのが正解だろう。


「あたしか?」

「はい」


平子(へいこ)だ」


「……それは斧江さんが付けてくれたんですか?」

「いや、あたしだ。平介の『平』を取って『平子』だ。……なんだその眼は」

「え? あ、いやいや。何もないですよ」

「あ? おい、てめ。その眼はぜってぇ何かあるだろ? こそこそしないではっきり言いな」


「何も無いですって!」

「何言ってんだ。ムキになるところが余計に変じゃねぇか! 早く言え!」


「もう! しつこいですよ。……分かりました。どうして平子にするんですか。助平の『平』を取って『平子』なんて可笑しな名前でしょ」


 うおい!


 可愛い顔してなんてこと言うんだこの人は! しかも何気に俺の名前を馬鹿にしてくれてるし。まさかの発言ですごい勢いで香菜さんの顔を見たよ。

 驚き過ぎて首がもげそうだ。


 それに平介の『介』は助平の『助』じゃないですからね。


「てんめ。どこがおかしいんだよ! 平和の『平』だろうが! いい名前から取ってんだよ。バカにすんな」


 痛ってぇええ!


 今度は首がもげるどころか、目が飛び出そうになって目が痛い。

 何言ってんだ、こいつ。

 不良のくせに、平和とかいい名前とか……照れんだろうが。


「うるさい。名前の意味なんてどうでもいい。疲れるからあまり私の手の中で暴れないで」

「はあ? てめぇ、あたしに喧嘩売るとはいい度胸だな? 良いぜ、乗った。それじゃあまずはその手を放して貰おうか」

「何言っているの? 離すわけないでしょ」


「いてててて! おまっ。や、やめろおおお」


 こいつ馬鹿だな。

 そのまま一生頭を握り潰されとけ。


「あの……斧江さん。平子さんをしまう事は出来ないんですか? さっき平子さんを出したなら逆も出来るんじゃ……」

「どうだろ。やってみますけど……」


 って、言ってみたもののどうやるんだろ?

 念じるのか?

 うーん、さっきは具体的にイメージしてみてこうなったんだろ? 上手くいくのか?

 なんか別の事が起きそうな気はするが方法は思いつかないし、イメージだけでもしてみるか。


 消えろ。

 消えろ。消えろ。

 消えろ。消えろ。消えろ。

 消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。消えろ。


「はん、無駄無駄。そう簡単にはいかねぇよ。あたしを舐めんなよ?」

 ダメか。くそ、どうすればいいんだ……


「もう疲れた。とりあえずトドを黙らせる事にする」


「は? ちょ、お前。何考え……おわっ!」


 レェミュさんがいきなり勢いよく振りかぶり、平子は野太い驚嘆の声を上げた。


「くっそぉおおおお! てめぇえええええ!」


 そして、トドは勢いよく放たれた。

 壁にくっきり跡が残るんじゃないかというぐらいトドは思いっきり叩きつけられた。


「「「消えた!」」」


 レェミュさんナイス。

 すげぇスッキリ。


「なるほど。こうすればいいみたいね」

「いや、流石に乱暴すぎ!」


 後で怒られるのは俺ですからね!


 うるさいのが居なくなり、しばらく平子の声を聞くことは無かったが、そのうち仕返しに来るだろう。そうしてしばらく俺は平子にビビる羽目になってしまうのだった。

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