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Danger-仕事に危険は付き物-











「まずい…非常にまずいぞ…!!」



男は、その場を行ったり来たりしながら、一人呟いた。



ビシッとした背広姿て、左脇には茶色い小さな鞄を持っている。


歳は三十代前半ぐらいであろう。




(どうする…“あれ”が無ければ、私の人生も…幸せな生活も…何もかも終わりだ…。)



絶望し、しゃがみ込んだ男の横を人々は不審そうに見ている。


関わり合いになりたくないと、足早に通り過ぎる主婦も居た。




と、その時。




「…それでね、その人達が私の指輪を探してきて下さったの。」



「へえ…すごいね。俺からも礼を言っておかないとな。」



一組の男女の話し声が、男の耳に入って来た。




(探して来て…くれた…?)







「き、君!その話…私にも詳しく聞かせてくれ!」



「えっ…?あなたは…?」



気づけば、男は男女の内の女性の方に、話し掛けていた。




「おい…あんた!俺の彼女に何の用…」


「頼む!その…探してくれた人達のこと…聞かせてくれ!」



こいつ…と今にも殴りかかりそうな男性を、女性が手で制止した。




「お急ぎなんですよね…?話すと長くなりますので、“刻の事務所”とだけお教えします。場所は………です。」



「………だな?わ、わかった。ありがとう!」



そう言うと、男は一目散に走り去っていった。




「一体、何なんだ…あの人は?もしかして、雫の知り合いだったのか?」



「いいえ…知らない人よ。だけど…困ってたみたいだから放っておけなくて…。それに…」



それに何だいと訊く男性に、雫は一呼吸置いてから答える。




「あの人には刻の事務所の方々の助けが必要だと思ったから。」











「ジャンケン…ポン!」



少女の威勢のよいかけ声と共に、全員一斉に手を出す。




「ちっ…今日は俺が買い出しか…。」



グーを出した男性が、忌々しげに呟く。




「決まりだね。今日は順司さんが買い出し係!」



「たくっ…仕方ねえが、行って来っか。要…それから陸斗。しっかり留守番しとけよ?」



「りょーかい!」



「りょーかいっす。」



順司というらしい男性に、要という少女と陸斗という青年が答えた。



パタンと裏口のドアが閉まり、順司は出て行った。







「………何時頃になると思う?」



要がテレビのリモコンを手に取りながら、陸斗に訊いた。




「三時間後。なまものは危ねえかもな。」



「大丈夫。なまものは、私が全部買って来るようにしてるから。…冷凍食品は溶けるかもしれないけど。」





「それは確実。順司さん、寄り道がある意味で趣味だし。」



パラッ…と雑誌をめくりながら、陸斗が相づちを打つ。




「寄り道っていうか…“宝くじが”だよね…。」



誰にともなく要が言った。



テレビでは、天気予報が放送されていた。




『明日の……地方の天気は曇り時々晴れ。日中は快晴となるでしょう。』



「あ、そういえば陸斗…?」



何だよとぶっきらぼうに聞き返す陸斗。




「いや、ずっと聞きたかったんだけどさ…陸斗って…」



バンッ!!


要の言葉を遮るほど、のドアが凄まじい勢いで開けられた。




「はあ…はあ…。す、すまないが…はあ…刻の事務所は…はあ…ここ…だよな?」



ドアの前に立ってそう訊いたのは、サラリーマン風の格好をした男性だった。



よほど急いできたのか、前髪はバラバラに乱れ、顔全体に汗が滲んでいる。




「あ、はい…そうですけど。」



呆気にとられつつも、要が答える。



陸斗はチラと見ただけで、すぐに雑誌に視線を戻した。




「はあ…早急に…探して…はあ…欲しい物が…あるんだが…はあ…。」



「えっと…とりあえず座りませんか?奥の方で話を伺いますから。」



「い、いや…ここで構わない…。」



男はドアを閉め、近くのイスに腰掛けた。




「突然すまなかった…。だが、どうしても見つけなければならない物があって………。そう…明日の8時までに…いや…それでは遅刻する…7時半までにだ!」



「あの…何を探せばいいんですか?それから…名前を伺いたいんですが。」



相手に失礼の無いようにと、要は言葉を慎重に選んで訊いた。




「あ、ああ…すまない…。気がはやってしまって…。私は、こういう者だ。」



男は左胸のポケットから、一枚の名刺を取り出し、要に手渡した。




「………『株式会社クエート。代表取締役、西大寺 大期(さいだいじ たいご)』さんですか。

私は、雪森 要です。そっちのソファに居るのが溌 陸斗。今は買い出しに行っているんですが…オーナーが八代内 順司さんです。よろしくお願いします。」



要はそう返し、軽く一礼した。




「あ、ああ…よろしく。」



「それで…ご依頼の品は何ですか?」



「…パソコンのディスクだ。明日の会議に使う重要な資料を記憶しているディスク…。ああ…は、早く探してくれ!金なら…出せる限りでなら…いくらでも出す!だ、だから早く!!」



興奮する西大寺を、要が落ち着いて下さいとなだめる。




「…ディスク、か。で、どこに落としたって?」



陸斗が不意に口出しする。




「ち、ちょっと…陸斗!敬語で話しなさいよ…失礼じゃんか。」



「へいへい…。どこに落としたんですかっと。」



「ずいぶんやる気が無い態度だな…君。まあ、いい…見つけてくれさえすれば…いい。」



西大寺は多少憤慨していたが、つとめて落ち着き払った態度を心掛けた。




「すいません…陸斗は毒舌なもので。」



「…見逃しておこう。その代わりといっては何だが…必ず期限までに探してきてくれ。場所は…五番地、通称ペリルラビリンス(危険迷路)と呼ばれる場所だ。」



「ペ、ペリルラビリンス!?あの…入り口が無数にあって、入る度に出口が変わって法則を知らないと出れなくなるという迷路!?」



要が素っ頓狂な声を上げた。




「き、君達はプロなんだろう?ならば、危険な場所でも探せるはずだろ?」



「…ったり前だろ。いいぜ、その依頼受けてやる。」



陸斗は挑戦的に言葉を返す。




「な、何言ってんの…陸斗!ペリルラビリンスだよ、ペリルラビリンス!あんなところで探し物なんてできるわけ…」



「た、頼んだぞ、探し屋!明日の7時半までに、この住所に届けてくれ!」



「あっ…西大寺さん!まだ受けたわけじゃ…」



西大寺は要の止めるのを聞かず、あっという間に事務所から出て言ってしまった。



テーブルに、一万円札を数枚残して。




「…陸斗。責任とって、しっかり働いてよ!」



「要もな。」



「なんでよ…。私、受けるって言ってないじゃん…。」



要は嘆きつつも、視線は西大寺が前金として置いていった数枚の一万円札にあった。




(…とか何とか言って、お前も報酬次第じゃ受けようと思ったくせに。)



陸斗は心の中で言っただけで、あえて口には出さなかった。







午後四時二十分、五番街にて。



通称ペリルラビリンスと呼ばれるそこは、狭い路地がいくつも交差し合った“迷路”である。



そこに住むのは、世間では暮らしていけない無法者達。


故に、彼らが嗜好するタバコの煙が充満しており、視界は極めて悪い。



「…で、これがどういうわけか説明してもらおうか。」



順司が不機嫌そうに眉をしかめて言った。




「………陸斗に訊いて下さいよ。引き受けたのは陸斗なんですから!」



「ん…売られたケンカを買っただけっすけど。」



「いや、ケンカ売られてないし。」



適当に答える陸斗に、要が突っ込みを入れる。



要達三人は、一番近い入り口からゆっくり中を散策していた。



そこの住人達は、怪訝そうに見ていたが、まだ襲ってくる気配は無い。


そもそも、襲う気力すら無くしてしまうほど、ペリルラビリンスという場所は複雑難解な迷路なのだった。




「売られたケンカを買っただけ…か。ならば、仕方ない。」



「許しちゃっていいの、順司さん!?しかも、そんな理由で!」



「売られたケンカは買う…俺が陸斗に始めて教えた言葉だからな。」



「いや、純粋な子供であったろう頃に何教えてんの、順司さん!」



二度目の要の突っ込みを、順司はハハッと笑って流した。




「…って、漫才やってる場合じゃないし…。障害物は何も無いはずなのに…見つからないですね、ディスク。」



はあと要がため息まじりに言った。



ザッ…ザッ…と三人の足音が、不気味にこだましている。



虚ろな目をした住人と、何回か目が合って、そのたびに要はギョッとした。




「…なに、びびってんの、要。」



「別にびびってなんかないよ!ただ…なんか…」



「お探しのディスクとやらはこれかい、お嬢ちゃん。」



不意に要の言葉を遮って、二人の住人が要達の前に立ちはだかった。



一人はちぢれた赤髪を持ち、舌や耳など至る所にピアスをはめた若者。


頬にはそばかすのようなぶつぶつができており、笑い方もニタニタしていて気味が悪い男性だ。




もう一人は茶色い癖毛髪を肩の位置まで伸ばした若者。こちらも舌と耳にピアスをしている。


おでこの位置にサングラスをかけ、舌をダラリと出した同じく気味の悪い男性。




「頼り無さそうなりサラリーマンが落としたのを、優しい俺達が拾っておいてあげたよー。」



赤髪の若者が言って、




「そうそう。これが欲しい?金額次第では返してあげようか?」



茶色い癖毛髪の若者がつけ加えるように言った。



「…じゃあ、無料ってことで!」



「ああ!?この女…ナメてんのか?」



要の軽い口調に、赤髪の方が激怒する。




「だって、金額次第って言ったでしょ?無料にしてくれたら、二人とも無事でいさせてあげる。」



「いっちょまえに挑発だあ?兄貴…俺らバカにされてるみてえですぜ!」



茶髪の方も憤慨してみせた。



だが、要達は全く怯む様子は無い。




「答えは、“はい”か“いいえ”かでよろしく。」



「ん…三秒以内で。」



「言うようになったじゃねえか、要。ま、俺ぁどっちでもいいけどよ…。」



陸斗と順司が面倒くさそうに小声で付け加えた。




「それが人に物頼む態度か、ああ?」



「兄貴…やっちまいやしょうぜ!」



堪忍できなくなったようで、茶髪の方がうらぁと要に殴りかかる。



ナックルをはめた拳が要の顔面に…




「のあっ!?」



…当たらなかった。



要がひょいとかがみこんだので、スカッという音が鳴った見事な空振りに終わったのである。



おわっとと、と茶髪男が態勢を崩す。



そこに、




「ほいっ…と。」



ゴッ!!



いつの間にか両手に木の棒を携えていた陸斗が、鳩尾に痛恨の一撃を加える。




「ぐはっ!!」



茶髪男は短い悲鳴を上げると、よろめいてドッと壁にぶつかりバタッと地面に倒れた。




「な…相棒に何をした!?」



赤髪の男の目は、驚きで大きく見開かれ、やや逃げ腰だった。




「棒で打っただけだぜ?鳩尾に一撃食らったら、大抵のやつは動けなくなるかんな。」



「くそっ…ふざけた真似しやがって…。女より先に痛い目見せてやる!!」



宣戦布告するように言うと、赤髪の男は懐からサバイバルナイフを取り出した。



そして、




「うらあぁぁ!!」



ナイフを振り回しながら、陸斗に向かって突進してきた。



ガッ!



ナイフは、陸斗の武器である棒に深々と突き刺さる。




「あーあ…めんどくせー。順司さん、よろしくお願いっす。」



「ちっ…仕方ねえな。」



慌ててナイフを抜こうとする赤髪の男に、順司はプラズマガンの照準を合わせた。




「くそ…抜けろ!離せよ、ガキ!!」



「ガキで悪かったな。無理矢理抜くと、ナイフの先が折れ…」



陸斗の警告は間に合わず、ナイフはバキッと音を半分にきれいに折れた。



「なっ…ナイフが折れるなんて…」



「だから警告してやったのに。…順司さーん、今っす。」



おうよと答えると、順司は銃の引き金をグッと引いた。



パンッ!




「ぬあっ!?」



銃口から飛び出した光の塊…プラズマは、狙い違わず赤髪の男性の左足首に当たる。



たまらず、男性はしゃがみ込み、足を両手でさすった。



そこへ、




「たあっ!!」



ドカッ!



要の強烈な足蹴が飛ぶ。




「ごふっ!!」



それは、男性の背中を直撃。



彼は目を回しながら、前のめりにドッと倒れた。




「はい、終わりっと。降魔するほどの敵でもないね。」



ぱんぱんと手をすり合わせながら、要が言った。




「雑魚の雑魚ってレベルだもんな。つまんねえ…さっさと出口探して帰るぜ。」



「帰りたいのは山々だが…出口はどっちだ?」



順司の問いかけに、




「どっちって…あれっ?一本道じゃなかったっけ…?」



要は周りを見渡しながら、自問自答した。



入った時は確かに一本道を通ってきたはずが、改めて振り返って見てみると、道が二本に増えている。




「…増えてるね。」



「増えてんな、絶対。」



「増えたな、なぜか。」



要、陸斗、順司の三人とも、ほぼ同じことを同時に呟いた。




「………なんで?」



「知るかよ…壁に足でも付いてるんじゃねえの?」



「いや、それは無いでしょ!足が生えた壁なんて話、聞いたことないんだけど。」



陸斗の意見に、的確に突っ込みを入れる要。




「…無えと百パーセント言い切れるのか、要?」



そう問いかけて真剣な眼差しを向けてきたのは、陸斗ではなく順司だった。




「へっ?どういう意味で…」



「…静かにしろ。何か聞こえる…。」



「聞こえる…?」



順司の報告に要も耳を澄ましてみたが、特に何も不審な音や声は聞こえない。




「聞こえないですよ、オーナー。」



「俺にも聞こえねえ…ってことは、順司さんは壁の心を読んでんじゃねえか?」



陸斗が言ったその時。




「陸斗、思い切り棒で壁を叩け!要、利き足で壁を蹴れ!…」



順司が厳しい口調で二人に命令したのだった。



突然のことに、要も陸斗もえっと目を丸くしている。




「急にどうしたんで…」



「いいから早くしろ!要から見て、ちょうど真ん前の壁だ!」



「はあ?…やってみますけど、後で理由聞かせて下さいね。」



首をひねりつつも、要は壁の正面でふぅと息を吐き護身術の構えをした。



「…ふうん、なるほど。そういうことか。」



陸斗は誰にも聞こえないような小さな声で言って、壁に向いて身構える。




「よし…行くぜ?」



問いかけるように言って、プラズマガンを身構える順司。



一塵の風が、三人の間をサーッと吹き抜ける。




「…今だ!思い切り行け!」



「たあっ!」



「やっ!」



順司のかけ声で、三人は一斉に壁に向かって、攻撃を仕掛けた。



ボコッという打撃音が二回と、銃声が一度鳴り響く。



ドンッという衝撃音と共に三人の目の前の壁が倒れた。



すると、




「まさか見破られるとはな。」



「しかし、馬鹿な奴らだ。自分達から死期を早めるなんてよぉ…。」



壁の後ろから、二人の人間が出てきた。



そして、その二人を筆頭に更に何十人という若い男女が続々と現れた。




「おー…出て来た、出て来た。さすが、順司さん。」



「えっ…何、これ?どういうこと?」



陸斗は見下ろすように右手を額の前にかざし、要はぽかんとしていた。




「何だ、まだわからねえのか、要?壁は本当の壁ではなく、ただのハリボテだったっつうことだ。」



「…てめえら、この状況で何くっちゃべってんだ!?」



意外にものんびりした調子の三人に、筆頭の内の一人は憤っていた。



短いオレンジ髪をツンツンにはねさせた、ジャンキー風の若い男性だ。




「なあ、リーダー?こいつらは、痛めつけてから金目の物を漁りましょうぜ?」



「…そうか。活きの良い魚ってのは、まず弱らせてから後に身を裂くのが常識だったな。…野郎共、やっちまいな!」



「おう!!」



リーダーのかけ声で、ナイフなどの武器を手にした何十人という若者達が一斉に要達に襲いかかる。




「…俺らとやろうってわけな。」



「力の差を思い知れや、ガキぃ!」



「おらおら!さっさと、金目のもの渡して降参せんかい!」



鎌やナイフを手にした五人の若者達が陸斗に向かってくる。



哀れ、陸斗は若者達の武器の餌食に…




「ぐはっ!?」



「…っう!?」



…はならなかった。



悲鳴を上げ、バタバタ倒れていったのは、若者達であった。




「くそっ…なめるな、ガキっ!!」



「ガキじゃねえーって。」



パキッ!



一人の男性が振り上げたナイフを、陸斗は棒で根元からへし折った。



「なっ…棒でナイフを…!?」



「この棒は特殊なんだぜ?ナイフなんか通すわけねえじゃん。…はっ!」



ドカッ!




「ぬあっ!」



あっという間に、陸斗は五人を棒で倒してしまった。




「ん…順司さんと要は…っと。おっ…やってる、やってる。」



「愚かなる人間よ…滅びるがよい!」



サタンを降魔させた要が言って、辺りに凄まじい衝撃波が起きている。




「ぐはぅ!!」



「がっ…!!」



「きゃっ!?」



要を取り囲んでいた若者達は、全て壁にぶつかり地に倒れていった。




「ちっ…やあっ!」



衝撃波をかいくぐり、一人の若者が要の背後に回る。




「調子に…のんな、女がっ!!」



「…てやっ!」



「がはっ!」



要はくるりと体を反転させ、踵落としを見舞わせた。




「ふう…こっちも終わったよ、陸斗。オーナーは…っと。」



「よっ…と。」



パンッという破裂音が陸斗と要の耳にも、否応なしに入ってきた。




「じ、銃を使うなんて卑怯だぞ、こいつ!」



「あー…?おまえらに卑怯呼ばわりされる覚えは無えな。」



パンッ!



「うああっ!」



再び銃声が響き、また一人若者が痺れた体を携え地に臥す。




「正々堂々と勝負しなさいよ、弱虫おやじ!」



「…弱虫おやじだ?」



言葉に反応するように順司の右肩がピクッと動く。




「今ね…はああっ!」



「うおっと…!やるな、未来の美人さんよ。」



鎌を持った若い女性の攻撃を、寸手のところで彼はかわした。




「あんたの度胸に免じて、プラズマガンは使わず勝ってやるよ。」



「あら、それは有り難いわね…たあっ!」



若い女性は、今度は順司の顔を狙ってきた。



それを順司は、不敵な笑みを浮かべ、上半身を後ろに曲げひょいと交わす。




「プラズマガンを使わなくても、あんたと戦える。」



「えいっ!やっ!…なんで、当たらないの!」



女性はがむしゃらに攻撃を繰り出す。



順司は最小限の動きだけで全て避けてみせた。




「なんでか教えてやろう。それはな…あんたの心を読めるからだ。はっ!」



「ああっ!!」



順司の左足の蹴りは、女性の膝の裏に当たった。



女性は体勢を崩し、トサッと倒れた。




「ま…まだよ…私は…!」



「止めときな。きれいな体を、俺は傷つけたくねえ。周りを見りゃどっちが優勢かわかるだろ?」



「………っ。」



プラズマガンの銃口を頭に向けられ、女性は悔しそうにうつむいた。



「…タネがわかったてころで帰るか、要、陸斗。」



順司が散歩から帰るような口調で言って、




「帰りましょうか。」



「ん…そういうこてで。」



要と陸斗も言葉を返し、三人は壁のあった場所を通りながら帰路に着いたのだった…。









午後八時一分。



刻-とき-の事務所にて。



依頼者の西大寺は、ありがとうと礼を述べながら、ディスクを受け取っていた。




「最悪の場合、明日の朝ギリギリになるかと思っていたが…素晴らしい働きぶりだ、探し屋!」



「これでも、プロですから。」



要要は当然のことのように、さらっと返した。



陸斗は、疲れたのか雑誌を顔にかけソファーで眠っている。





「いやいや、さすがだ!オーナーの八代内さんの鍛え方がいいんでしょうな!」



「鍛えた覚えは無えんだが…。」



イスに座ってテレビをぼうっと見ていた順司が、ぽつりと呟く。




(鍛えられた覚えは少しはあるかも。)



要は心の中で順司に言葉を返した。




「それで…報酬の話ですが。」



「は、はい!」



要の背筋がピンと張る。



西大寺は、これで足りるだろうかと徐に財布から札を出した。



「毎度ありがとうございます!またのお越しをお待ちしてます。」



「…スーパーの店員みてえな返し方だな。」



ふああと大きくあくびをしながら、陸斗が言った。









-続く-

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