5.AIの愛ちゃん
ねえ、愛ちゃん。
最近斑がそわそわしている。何かあったのかと聞けば、別に無いと言うし。問題はない?
『そうですね。もしかしたら運動不足かもです』
自分が頑張った成果がでるのを楽しみにしています。
しかもそれはお肉を買って貰う為の手段なのです。とは、斑の評価を下げる為言えない。
美加様はそんな事実を知らない。だから顎に手をやり斑様の為に、まじめに考えて下さっていた。
…ちょっと、申し訳ない。
だけどそんな斑を可愛いと愛は思っている。
あー、運動か。週末しか外に出せてないなー。平日は帰ってきたらもう薄暗いし、まだこっちに慣れていない斑は、車にひかれる可能性があるし出せないよ。
仕方ない。埋め合わせに今日はお肉にしてあげよう。ただ塊だと月末で厳しいのでミンチ肉で野菜混ぜて嵩を増やさないと。
「あ、愛ちゃん。斑タマネギ食べられる?以前ピザ食べさせておいて何だけど」
『神獣には食べられないものはありません。創造神の加護で病気はしないのです。怪我も自然治癒力が高いですし、ただ魔力がなくなれば活動休止状態になり眠りにつきます』
「へえー凄いね」
『ですから、この世界で美加様と離れることは出来ません』
「ん?あれ?それって、何日ぐらい?」
『一週間が限度でしょうか』
「それなら大丈夫か。時々出張あるから居なくなるけど、大体3・4日だし」
『多分、連れて行けとおっしゃるでしょうけど』
「いいそう。でも残念ながら出来ないんだよね。斑の居る場所ないし」
多分それを可能にするでしょうね。というのは、愛はわざと言わなかった。美加に聞かれたなら嘘は言えないが、斑のマイナスになることは態々口にしない。
何故なら愛の本当の姿はAIではなく、斑の花嫁方補で本来の主は斑一人。
愛というのも仮の名称で、斑が正式に名付けたら結婚が成立するという関係だ。ただ問題なのは、斑がそれをわかっていない、と言う点だろうか。
そんな健気な愛が、何故地球でAIとして振る舞っているのか。
それは地球に来ることになった原因の一つでもあるからだ。
愛は幼いときから次期白虎様の花嫁になるのだと一族に教育されてきた。その為次期白虎が生まれた時からずっと側に付き添ってきた。そのまま10年以上関係がとれていたなら違ったのかもしれないが、前白虎様が崩御されるのが思ったよりも5年も早かったのだ。それだけ西の地が邪悪な気配に冒され、浄化するために力を出し切ったということなのだろう。
慌ててまだ子供だった白虎に役目を引き継ぐことになった。
引き継いだ斑は、必死に役目を果たそうと頑張っていたが、力の加減が難しく常にやり過ぎになってしまった。その度に斑は自信を無くしていった。
このままでは若い白虎まで潰ししてしまうかもしれない。そう考えた創造神は、それだけは避けたいと修行という名の避難を敢行した。平和な世界で癒すこと癒されることを知り、武力の使い方を間違わないようにと願いを込めて。
その同行に愛は迷わず手を上げた。自分がもっと寄り添って勇気づけることが出来たなら、あの地で一緒に頑張れていたかもしれない。そう思わずにはいられない。
見守ることだけしか出来なかった自分を変えるために、一緒に変わりたいと強く願った。
地球に来て美加に出会い、斑は変わっていった。甘えることを知らず虚勢を張ることしかしなかった若い白虎の斑。でもこの真鍋家ではただのペットとして居られるせいか、よく笑う。
しかも美加の魔力は心地良い。愛でさえも、側にいたいと思う。あの地で邪と戦い荒んでいた斑には、極上の癒しとなっているだろう。
それが悔しくも有り、嬉しくもある。乙女心は複雑なのだ。
ハンバーグを作っている美加の後ろ姿に愛はこっそりと呟く。
いざという時のために、美加様には召喚魔法を覚えて頂く必要がありますね。
その為に斑様には、美加様が留守の時に戦って頂きましょう。斑様が上がれば、必然と美加様もあがりますから。
ただ問題なのは、この周辺で戦う必要のあるモノがいるかどうかです。
そうと決まれば、この周辺の調査をしなければ。
愛は自分自身の意識を二つに分けた。二人に何があってもサポートが出来るように、本体はここで控え、分身を外に放った。
全ては斑のために。
そして愛は戦う相手を見つけた。
斑のテリトリーを冒すモノがいたのだ、それも沢山。
出来るだけ早くこのことを斑様にお伝えしないと!
愛は使命に燃えていた。
急いで斑の元へ知らせに行けば、美加の手でマッサージされだらしなく伸びている斑の姿があった。
斑様…。
そこに白虎としての威厳など欠片もなかった。
…いいのです。美加様がお仕事に出かけた後は、私が独占できる時間です。
どこまでも健気な愛は、今日もこれが通常運転。
そのあと昼寝に勤しむ斑に、そっと寄り添うのだった。
斑の強化計画、いつかどこかで花開くときがやってくるでしょう…?
私の連休は終わった。
次は未定。
今日かもしれないし、週末かもしれない。