12. 青龍
いやいや、ド◯◯ン・ボールじゃあるまいし、願い事があるから呼んだわけじゃない。
お願いだから帰ってくれないかな。
心で突っ込んでみたけど、当然誰も答えてくれない。
そりゃーね。白虎来て眷属来て、ケット・シー来て精霊まではどうにかなると思うのよ。でもね〜、龍は無理でしょう。こんなのCGでも映像じゃなければ、無理だし。
「ごめん。お願い事はないから、帰って」
驚愕の顔で昭博は見るけど、じゃああんたが言ってくれるわけ?
冒険したいなら、ここで踏ん張れよ。
「我に帰れと言うのか」
「だって困るし」
「だが、そ奴らが我に用があるとだな」
なんか言葉遣いまで変わってきたよ。この青龍。
そして斑を見たので、肉を取り上げ「どういうことだ」と睨んだ。
「我じゃない。昭博が…。」
「へえ…」
自分でもちょっと怖いよと思う低い声が出た。
昭博を締めて吐かせるべく一歩進めば、土下座された。これが噂のザ・土下座か。なんてのんきなことを思いながら、先を言わせた。
「冒険には付き物のお金では買えないマジック・バッグが欲しかったです」
「それで」
「それを作れる人が来てくれたらな〜と、直ぐにとかじゃなくて、先には、という意味で。でも、まだ誰も呼んでないはず、だよね?斑!」
「我は呼んでない!」
ということは、勝手に来たんだ?
「な、なんで我を虐めるのだ」
あ、泣いた。
ココだけに雨という涙が降ってくる。しかも大粒。
ダメだ。これ以上この状態で誰かに見られたら、訳の分からない奴らが検分させろとか来そうだ。最近はすぐに携帯で映像を取って、動画をネットに流す人たちが多すぎる。そのせいで個人情報ダダ漏れに一度なったら、抑えが効かない。
本当に東の神獣青龍なのだろうかと疑いたくなるが、それは後だ。
「わかったから、ここに居たいなら人化するか、トカゲか何かこの世界にいるものになって」
「居ていいのか?」
「変化してくれるなら」
「わかった」
スーッと空から消えたかと思ったら、目の前に男の子がいた。
で、この子…誰?
どう見ても幼稚園児にしか見えない。
まさか…。
マジか!
「兄者、その姿は」
「先ほどので、力を使い果たした。我は肉を所望する」
「仕方ない。昭博お肉焼いて」
「はい、ただいま!」
青龍を膝に乗せ、焼けた肉を少しずつ口に運び食べさせた。
青龍もお腹が減っているのか、大人しく口に入ったお肉を食べている。
「美味しい?」
「旨い」
姿が子供になってそれに精神が引きずられているのか、答え方も声も少し子供っぽい。
なんか、可愛んですけど。
餌を待っている小鳥の親になった気分だ。
「それは何だ?」
「野菜よ、肉だけじゃダメ、これも食べるの」
「わかった」
ペロリと大人2人前を食べたら落ち着いたのか、やっと話が出来る感じになった。
お腹が一杯になったからなのか、眠たそうな顔で何故来たかを話し始めた。
「共に戦っていた白虎が居なくなってから、対等に話せる者がいなくてつまらない。ただ気になって西の様子を見に行けば以前より少し緑が増えているではないか。不思議に思いその土地のものに聞くと、白虎の主と契約した緑精霊が頑張っているとのこと。だから余計にこちらのことがどんなところなのかが気になった。どうにかしていけないか思案していると、我の名が白虎から聞こえたからつい…。ただ現れるには格好がつかないから、カッコよく登場して見たのだが叱られてしもうた。美加殿は胆力がある。流石、白虎の主じゃ」
「へえ、カレン頑張ってるんだ。今度呼んで話を聞いてみよう」
「ならば、あちらに一度行ってみると良い。我が連れて行ってやろう」
「いやいやいや、こっちの世界の生活があるから」
「それならば心配するな。時空間を移動するのだ。時間の進み具合を変えることが出来る。こちらの一時間を向こうの一日とかに」
「じゃあ、この地球での活動時間10時間を向こうでは10日間過ごせるってこと?」
「そうだ」
「でも、それって身体の老化が早くなったりしない?」
「それは大丈夫じゃ。何故なら美加殿は白虎と契約して魔力が多い。そういう者は老化が遅いと言われておる」
青龍との話を目を輝かせている昭博を見て、美加は我に返った。
やばい、私までその気になりそうだったよ。あぶない、あぶない。
「あ、うん。ゆっくり考えてみる」
「…そうか。ならば、我と契約をすればいつでも来られる」
「契約しても何かが変わるわけじゃないのね?」
「昭博殿が欲しいと言っていたマジックバックが出来るようになる」
昭博を見ればすぐに契約をしてくれと懇願するような顔をしていた。これで断ったら絶対いネチネチ、ネチネチと拗ねる。誰も困らないのなら、いいかなー。
「青龍は私と契約したら、向こうの神力増えたりするの?」
「…そこはわからん。だけど、今以上に悪くなるとは思えん」
「じゃあ、いいよ。西も時々白虎の代わりに見てくれると嬉しい」
「あい、わかった。では名をくれ」
「じゃあ、単純だけどハルで。春は命を育む大事な季節。万物が発し、木の芽が張り、天候が晴れる。それらを司る青龍はその象徴であって欲しい願いを込めて」
「我はハル。生命を育むことが出来る地に」
先ほどの幼稚園児ではなく、誰から見ても目麗しい青年になった。これが本当の姿なのだろう。うん、かっこいい。
「美加、良い名を貰ったお礼に、我の祝福をやろう」
額に軽くハルは口づけた。
その瞬間から今まで見えていなかったものが見え始めた。
「なに、これ」
「我と同じように視えるようになったようだ。平たく言えば心眼が能力として増えたと言うことだ。見たくなければ、閉じろと念じれば見えなくなる。逆に見たければ、開けと念じれば良い」
第三の目というやつ?
その人が纏っているエネルギーが視えるってことかな?ここにいる皆はとても綺麗な澄んだ色をしていた。解釈として敵意がなく、心も体も病んでないってことでいいのかな?
良いような、悪いような。その人の本心が視えるってある意味怖い。余程のことがない限り閉じておこう。
「わかった。ハル、変化があるなら先に教えて。こっちも心構えってものがあるんだから」
「いや、変化があるかどうかは賭だったのだ。流石は我の主だ」
もういいよ。
私の常識は、神獣には通じない。
これが今日心に刻んだことだ。
「では、我は戻る」
「あ、うん。またね」
「ああ、また来る。斑、主を頼んだ」
「任せておけ、兄者」
来たときのあの演出は何だったかと言うぐらい、スーッと溶け込むように帰って行った。
疲れた。食べた気がしないけど、違う意味でお腹が一杯。
片付けて、お風呂入って寝よう。