11.楽しいバーベキューと神獣
美加は昭博の企みなど知らず、大漁の買い物をして帰ってきた。
3匹はまだ始まるとも決まっていない冒険のことで盛り上がっていて、それに気付いていない。
流石なのは肉の匂いをかぎつけた斑だ。お迎え宜しく玄関に走って来た。
「帰ったか」
相変わらず言葉はふてぶてしいが、シッポはゆらゆらと揺られている斑と、
「お帰りなさいませ。お迎えもせず失礼しました」
流石のコテツである。
愛ちゃんはそれを見守っている。
「ちゃんとお留守番出来た?」
「準備は着々とすすんでおるから、心配するな」
ん?斑が準備するものなどないのに、と美加は思ったが、この物言いはいつものことなので、突っ込まなかった。
逆にお肉がすぐに食べられるようにと、準備をサボらないように昭博を見張っていたのだと捉えた。
「斑は偉いね」
一応褒めておくことにした。
「我しか出来ないことがあるからな」
そんなことがあっただろうか?まあ、コテツは昭博がサボっていても叱らないだろうし、愛ちゃんは見守るだけだから、まあ急がせるのは斑しかいないか。
納得した美加は、荷物を持ってキッチンへと向かった。
「美加帰ったのか?」
「あ、うん。もう火は熾きた?」
「バッチリ、テラスにお皿などは全部用意できてるから」
「じゃあ、お肉焼いてこの子達に食べさせて。その間に野菜とか準備するから」
買ってきたお肉の半分を昭博に渡し、残りはどれだけ残るかわからないけど取り敢えず冷蔵庫にしまった。
「わかった。じゃあ、みんなこっちに来い。ただし火の側には寄るなよ」
お行儀よくお皿の前で三匹が並ぶ。その後ろ姿を見て美加は吹き出しそうになった。元の姿が猛獣に近い白虎だとは思えない。ケット・シーは猫の妖精だから、元々可笑しくないのだけど。
可愛いから良いか。
鼻歌交じりに美加は野菜を切っていった。お肉や魚がメインだと言っても、野菜は栄養バランス的にも食べさせたい。向こうの世界では多分動物の内臓まで食べるはず。だから栄養バランスがとれていると思うけど、こっちでは生の内蔵など食べさせない分、しっかりとバランスを考えないと。
お肉を一通り食べた二匹は、その後野菜とお肉を混ぜた物を食べさせ、コテツには別に鮭を焼き始めた。
「コテツ、魚が気になるのはわかるけど、それ以上近寄ってはダメ。昭博コテツの面倒は宜しく」
コテツを膝に抱き、昭博は鮭をひっくり返した。
「斑と愛ちゃんは、私の膝で大人しく待ってるのよ」
というのも、今日のメインのお肉がこれから焼かれるのだ。今まで食べたのとはちょっと違う。絶対に身を乗り出すだろうと予測が付いた。
左手で二匹を引き寄せておき、右手でお肉を網の上に投入。
じゅわっとお肉の焼ける音と香ばしい香りが鼻孔を刺激し、二匹ともお肉に釘付けになる。
「にくー、にくー、肉だ!」
やはり香りが違うのがわかったか。斑がいつもの肉の歌?を言い出した。
「すぐにお皿に入れてあげるから、これ以上近寄ったらダメ」
「我の肉」
「わかってる。愛ちゃんと交互に入れてあげるから」
軽く炙るだけでいいお肉は、良い意味で血が滴る感じで色々と滾るのだろう。完全に目が捕捉者のもので文字通り目の色が違って怖いぐらいだ。
これでステーキとか食べさせた後は、グルメになりすぎて破産に追い込まれるに違いない。幾ら億単位のお金が手に入るからと言って、何でも買えるとは限らない。
周りに気付かれないように、嫉みや嫌み集りが来ないように、謙虚に買い物をすることが世渡りには大事。
何故なら宝くじで当たったのは良いが、周りにばれて結局普通の暮らしが出来なくなった人もいると聞く、善し悪しなのだ。
だから昭博に宝くじのことがばれても、余計な物を買わないように監視しないと。
「お肉美味しいね」
「うむ、旨い」
「魚も美味しいです」
「コテツはやっぱり魚が好きだね」
そんな和やかな雰囲気の中、天気が少し悪くなってきたのか雲が出始めてきた。
「今日雨なんて降るって言ってた?」
「いいや、どうせ雲だけだろ。降っても屋根があるから風が酷くない限り大丈夫だし」
「そうだね」
その後も黙々と食べ続ける三匹に、自分たちも合間に必死に食べる。
この小さなお腹のどこに入るんだろうか。お腹をさすってもどこも出ていないのをみて、美加は不公平だと思う。私のお腹も引っ込んだままなら良いのに。
網の上のお肉が完全になくなった頃、空の上は完全に曇りとなった。
「兄者を誰か呼んだか?」
「まだ、誰も」
「私もまだ」
「どう考えも、こっちに来ようとしているとしか思えん」
「もしかして、例の件で?」
「そうかもしれんが、兄者のことだ。暇だったとか言いそうだ」
なに、なんか不穏なこと言ってる気がするのは、気のせい?
しかも例の件ってなに?
「あなたたち、何の話してるの」
「あ、いえ。なんでも」
「ないわけないよね?この空…。ここだけ曇ってるし」
そうなのだ。よく観察すると他はとてもよく晴れているのに、この家の周りだけやたらと薄暗い。これは何かあるとしか思えないところに、何かを隠している発言は聞き逃せなかった。
その時だ。何かに押さえつけられたような重い空気を纏ったように身体がなったのは。
『来てやったぞ、白虎』
いやいやいやいや、勘弁して。
ファンタジーもこの世界でここまで来たら、絶対にやばいから!
美加は頭痛が酷くなる頭を抱えながら、夢なら覚めて欲しいと願った。
『白虎の主よ。我に何を願い、何を代価として出す?』