10.宝くじ結果と昭博の妄想
夕方急かされてインターネットで結果を見ることになった。
美加とてあれだけ斑に騒がれたら否応にも期待は高まる。そうそうに家のローンがなくなるかもしれないのだ。それだけでも人生においてアドバンテージが高くなる。負けた気分だった子供のことも乗り切れそうな気がしてくるのだから、現金なものだ。
「さて、宝くじを用意して」
胸の高鳴りを感じながら、美加は斑を膝に乗せてネットを開いた。
どれどれ。
一等 前後賞で3億円 これはないな。あったら心臓止るし。
……。
4組 126456番
……。
「斑」
「これで肉が買えるか?」
「あ、うん」
「今日の肉は和牛肉か?」
「あー、そうだね」
「主、お肉、お肉を買いにいかねば」
美加は放心状態で、斑の肉攻撃に返事をしていた。
一等 2億5000万 (前後賞 2500万)
何度見ても、数字は同じだった。
田舎のスーパーの横にあるような宝くじ売り場で、なんで出たの。
「グエッ、何を」
斑はカエルがひしゃげたような声を出しながら、ジタバタと手足をばたつかせ抗議をするが、それどころじゃないつーの。
「斑!」
ジタバタ。
「どういうこと?」
ダンダン!
「3億円だなんて、3000万の間違いじゃないの?」
「ねえ、聞いてる斑!」
腕の中でぐったりしている斑に気付き、美加は慌てて緩めた。
「びゃ、白虎たる我が、絞め殺されるところであった」
「だって…」
「我は食い扶持に困らない程度だと言った」
「だから、多い」
「我が食べたいのはA5ランクの和牛肉だ」
そこで初めて美加は斑と自分との認識の違いを知ったのだ。
「金はあっても困らぬのだろ?我に肉を!」
「あ、愛にもな。…コテツにはマグロだ」
は―――――ッ・…。
長い溜息をつきながら、美加は諦めた。斑にこちらの常識などあるわけがない。確認を怠ったのは、自分だ。
それにこれから先お金はどれだけあっても本当に困らない気がするし、受け取り方法だけしっかり考えよう。この田舎で受け取ったら、次の日からここでは間違いなく暮らせない。
仕事を休んで東京まで行って、口座を作るところからスタートだ。
要は、現実を受け入れて開き直るしかない。
「よーし!お肉と魚を買いに行くぞ!」
「「おーー!」」
「あ、斑も愛ちゃんも、コテツもお留守番だから」
「なんでだ!」
「動物は食べ物が売られているところには、入れないの」
がーん。
「昭博、この子たちの面倒見てて」
「わかった。火を熾しておく」
昭博に宝くじのことは言ってなかったけど、帰ってから言おうかな。
いや、出来れば言わないでおこう。中二病煩っている今なら、クロスボウとかレンジャー装備とか嬉々として揃えそうなんだよね。正直どこへ向かっているのか、理解が出来ない。そのうち自衛隊駐屯地に見学に行くとかいいそうだ。
とりあえず、騒いでいる子達が食べられるものを買いに行こう。
美加は近くのいつものスーパーではなく、美味しいお肉や魚などが揃っている総合スーパーに出向くことにした。
A5ランクまではいかないがそれなりに美味しいものが置いてあるのだ。
これがキッカケで斑と愛のお肉への憧れが強くなるのだが、それはまた別の話。
それよりも家に居る3匹と昭博というのが問題であった。
お金が出来てお肉が食べられると斑が騒いでいるのを、昭博が聞き逃すわけがない。その理由をしっかりと聞き、既に頭の中で算段を付けていた。
いつ冒険が始まってもいいように、準備を怠ってはいけない。
何故お金が出来ると冒険が始まるのかは、昭博の頭の中なのでわからないが、美加が思うレンジャー装備が既に頭の中では着用されているのだろう。3匹に演説をするように昭博は語り出した。
「斑、愛、コテツ!君たちに大事な話がある。まずはこれから先何が起こっても言いように、冒険に必要なものを揃える必要がある」
「ウム」
「ただそれが何か、こっちの世界では想像でしかわからない」
「確かにです」
「だから準備にあたり欲しい物がある。それはこの世界ではお金があっても作れないのだ。それを作れるものがいればこっちに呼びたい」
「何が欲しいのだ」
「マジックバッグだ」
「沢山のものが収納できるバッグか!」
「そうだ。それがなければ君たちのお肉や魚が鮮度を保って運べない」
「そ、それは大変です」
「そうなのだよ。コテツ君。お金があってもそればかりはこちらではどうにもならない。そこで斑君、君の出番だ。王たる君なら作れる者を知っていると思うのだ」
美加が居ないことをいいことに、昭博は味方を作ろうとしていた。美加はこの3匹にとても甘い。だからこそもふもふ攻撃で3匹が頼めば断れないだろうと踏んでいた。
向こうから誰かを呼ぶとき自分では出来ないとそこは悟った。ならば出来る者、美加をその気にさせるのが一番だ。お金もどうやら手に入るらしいし。
これから冒険は始まるのだ!
昭博の力説は美加が戻るまで続いた。そのお陰ですっかりその気になった3匹は、思い当たる人物の選定に入っていた。
あの者が良いだろう。
ファンタジーの幕開けとなるかも、しれない。