藪からシャーペン
「ねえ、弘明」
3時間目、現代文。多くの生徒が目を閉じ、こくりこくりと不規則に頷いていた。素晴らしい理解力である。
となりに座る雪葉も、睡魔に冒されおかしくなったのだろうか、よく分からない提案をしてきた。
「あなた、この消しゴムを先生に投げてみてくれないかしら」
その言葉の意図を汲もうと、一瞬考えるがわからない。観念して答えを求める。
「いや、なんで…」
「分からない⁇ 例えばテスト中、自分が突然大声をあげて暴れ出したら、周りはどの様なリアクションを取るのだろう、とか。思ったりするでしょう⁇」
「ああ、まあ、分からなくもないが…」
「それならこの消しゴム、投げてくれるかしら?」
「交渉下手くそかお前は。今のところ俺にデメリットしかないんだけど。怒られるだけだし。」
「あら、それは早計ね。あなたが先生に叱られるとは限らないわ。あの先生がドMの可能性だって」
「いやいやいやいや、仮にドMでも授業中に性癖さらす教師なんていないだろ…怒られる可能性が高いのは確かだ…。せめて、何かしらの報酬をくれ。」
「そうね…今度パンケーキをご馳走するわ。これでどうかしら?」
「よし、乗った」
正直報酬なんてどうでも良かったが、対等な立場関係が壊れてしまったら今後が大変だ。オレは筆箱の中からシャーペンを取り出し、立ち上がった。
「ちょっ、弘明…シャーペンじゃなくて消しゴムって」
雪葉が何か喋っているが聞こえない。せっかくだから鋭利なものを投げたいじゃないか。
「おや、弘明くん、どうかしたかね?」
教科書を読んでいた先生がこちらを向く。ああ、ごめんなさい。オレは黒板に向かって全力でシャーペンを投げた。