あなたは涼風の様で5
「きーじちゃん」
ルンと声を弾ませて秋子が近づいてきた。
今期のロングホームルームも終わり後は帰宅するだけだ。
時間は正午。
昼食どき。
「デートしよ?」
「構やしないけどさ……」
どんだけ春雉スキーなんだろ?
ピクリと隣が震えるのがわかった。
その因果までは知らないけど。
「どこ行く?」
「百貨繚乱でいいんじゃない?」
定番と云うか鉄板と云うか。
「夏美は?」
僕は隣の席のクラスメイトに話題を振る。
「え? 私ですか?」
目と口で三つの円を作って夏美。
赤い瞳がこちらを捉える。
「そ。一緒にいかない?」
「でも春雉は秋子ちゃんとデートするのでしょう?」
「だね」
「だよ」
秋子はソレと悟られない程度にジト目だった。
長く付き合っている僕がかろうじてわかる程度。
つまり僕への非難だ。
知ったこっちゃござんせんが。
「でもお邪魔じゃ……」
狼狽える夏美は趣があったけどそれはともあれ、
「いいよね? 秋子?」
ニッコリと笑ってあげる。
何が効くって秋子には僕の笑顔が一番効く。
「あ……」
とか、
「う……」
とか唸った後、
「あ・き・こ?」
念を押す僕にカクンと項垂れて、
「はい」
と肯定する。
うん。
司法取引成立。
ルンと僕が踊る。
実際ではなく心臓がね。
「二股デートですか?」
確認するような夏美に、
「多分違うと思うな」
スケジュールで予定を確認しながら僕が言う。
「さて、とりあえず昼食をとろうか。何が食べたい?」
「私は……何でも……」
「雉ちゃんの食べたいものでいいよ?」
主体性ないなぁ。
「じゃあ寿司!」
今決めた。
「回る方の?」
「回らない方の」
「あの……さすがにそんなことは……」
「大丈夫!」
「何が?」
「僕のおごりだから」
「それはそれで心苦しいんですが……」
「とりあえずランドアークを捕まえよっか。話はそれからだね」
「はいな」
肯定する秋子に、
「えぇぇ?」
困惑する夏美。
そんな二人の手を取って僕は歩き出す。
人気ある女生徒の双璧と手を繋いでの下校。
そりゃもちろん衆人環視の視線が痛いわけで。
気にしてもしょうがないと思って無視無関心を貫いた。
昇降口で外靴に履き替えた後、秋子と夏美と手を繋いで校門を出ようとすると、
「雉ちゃん!」
校門に背中を預けて佇んでいた紫髪の美少女が僕を見つけてパッと華やぐ。
秋子にも夏美にも負けず劣らずの美少女。
錬金術でもこうはいかないという完成された美貌。
量子だ。
着ている……というより設定されている服装は瀬野三のソレ。
「だろうとは思ったけどさ」
苦笑してしまう。
「あ! なんで秋子ちゃんと夏美ちゃんと手を繋いでるのよ!」
「これからデートだから」
「私もデートする!」
はいはい。
「ね? 二股デートじゃなかったでしょ?」
「三股という意味だったんですか……」
「モテる男は辛いね」
「あはははは~」
無味無色の笑い声で調子を合わせる夏美だった。
「どこ行くの?」
「祝夏季休暇ってことで散財するために寿司屋へ」
「奢ってくれる?」
「無論」
別に誰彼に金銭を突っ込むわけではないけど秋子と量子と夏美は例外だ。
色々とお世話になってるしね。
「雉ちゃん両手が塞がってる……」
むぅと呻く量子。
僕の両手は秋子と夏美で占拠されている。
「代わりましょうか?」
「駄目」
夏美の良心的な提案を僕が却下する。
「なんでよぅ……」
「夏美と手を繋げる良い機会だから」
「雉ちゃん?」
「雉ちゃん?」
瞳に影差す秋子と量子。
そのクエスチョンマークが怖いんですけど……。




