あなたは涼風の様で4
で、
「キシャーッ!」
「フシャーッ!」
僕の両隣で秋子と量子が牽制していた。
ちなみに量子は変装している。
いつもの紫セミロング。
着ている……と云うより設定されている服装は瀬野三のソレ。
それは秋子もそうだし僕もだ。
今日は終業式。
今日で区切りと思えば悪い気はしない。
少なくとも二ヶ月は胡乱気な視線から逃げられるのだ。
それだけでも価値はある。
そんなわけで、
「…………」
美少女二人(一人は立体映像)を引き連れて僕は学校に向かうのだった。
天清浄。
地清浄。
内外清浄。
六根清浄。
「君たち可愛いって自覚ある?」
うんざりと言ってしまう。
「ふえ……私は可愛いの?」
秋子が狼狽し、
「自覚が無きゃアイドルなんてしないよ」
量子は飄々と。
「一応僕も男の子なんですけど……」
精一杯の抗議。
「なら何の問題も無いよ」
「同じく」
この二人は……。
「はぁ~……」
盛大に溜息をつく僕だった。
「何よぅ。その反応は……」
これは量子。
「自覚が無いのがまた……」
「私邪魔?」
「そこまでは言ってない」
「なら良いじゃん」
「仕事は良いの?」
「この後グラビアの仕事が入ってるよ?」
「じゃあさっさと行ってきてよ」
これは秋子。
「せっかく仕事の合間が出来たんだから雉ちゃんに時間を使っても良いでしょ?」
「……む」
「だいたい秋子ちゃんは雉ちゃんに近づきすぎ。私だって雉ちゃんに愛されたい」
「……むぅ」
「いいよね雉ちゃん?」
「……む~」
量子の言葉に秋子が唸る。
気持ちはわからないでもないけど何だかねぇ。
そんなこんなで僕たちは瀬野三に登校。
遅刻ギリギリだ。
「じゃあ私は仕事に行くけど……」
奥歯に物の挟まったような量子の言葉に、
「とっとと行ってよ」
剣呑に秋子。
「雉ちゃん?」
量子が僕を睨む。
「その疑問符が怖いんだけど……」
「秋子ちゃんに流されないでね?」
「はぁ」
努力はしてみます。
というか努力するほど難しい事柄でもないんだけど。
「駄目なことしたら駄目なんだから」
「それを君が言う?」
一緒に風呂に入って裸を見せ合ってる仲で。
「私は雉ちゃんを誰にも渡すつもりはないよ?」
「それについては後の議論として……仕事に向かわないでいいの?」
「ん。後は雉ちゃんの良心に任せるよ」
そう云って立体映像の量子はこの場から消えるのだった。
「えへへ。雉ちゃん。二人きりだね?」
こっちもこっちで何だかなぁ。
どこにでもいる日本男児に相違ないはずなんだけど。
そう言うと、
「そんなことないよ。雉ちゃんすごく格好いいよ? 自覚無い?」
「有り得ない」
と秋子。
ありませんとも。
ともあれ昇降口へと向かう。
靴箱を開けるとメモ用紙が入っていた。
デジャビュ。
「あなたはまるで涼風の様。清涼を感じさせるのに捉えどころなく私をすり抜けていく」
やっぱり大日本量子ちゃんの『あなたはまるで』の一節が綴られていた。
何だろう……この毒電波感は。
誰の悪戯かはわからないけど、
「もしかして量子との関係がバレてる?」
そう危機感を覚えるのも仕方がない。
「雉ちゃん? どうしたの?」
「どうもないよ。行こっか」
メモ用紙をクシャッと握りつぶしてポケットにイン。
そして僕と秋子は教室へと向かうのだった。
先述したけど今日は終業式。
夏休みはそこまで近づいていた。
そのための代償と思えば終業式も悪くはない。
面倒ではあるけどね。




