あなたは涼風の様で3
「うー……」
雑炊を食べながら僕は唸った。
眠い。
コーヒーで流し込む。
「無茶苦茶するね……」
秋子は苦笑していた。
眠いのだからしょうがない。
「昨日も遅く?」
「ううん。昨日は速やかに寝たよ?」
「それで寝足りないの?」
「まぁ別に僕がいなくても土井春雉がいれば世界は廻るし」
「…………」
秋子の瞳に剣呑な色が映る。
「冗談でも言わないで」
「冗談くらい言わせてよ」
「笑えませんよ」
「あははははー……はぁ」
まぁ面白くないのは理解できるけど。
雑炊をよそってはふはふと食べる。
コーヒーを飲む。
そして秋子にせがむ。
「今日くらいサボらせて?」
「駄目です。というか今日で最期じゃないですか」
何がって?
学校の前期工程が。
要するに今日は終業式で明日から夏休みに突入する。
外気温は最高潮。
太陽さん……有給を取っては如何?
自然に文句を言っても始まらないけど。
雑炊をはふはふ。
それから今日のニュース番組を見ながら言う。
「量子は頑張ってるね」
「ですね」
コックリと秋子。
「元が可愛い上に国家レベルでプッシュされればそりゃ当たりますよ」
「うん」
コックリと僕。
「雉ちゃんはまだ涼子ちゃんのこと……」
「それは無いかなぁ」
ぼんやりと云う。
事実だ。
無益にすぎるしね。
「大切な人ほど灯台下暗しだよ?」
「たしかに量子は大切だけどさ」
「雉ちゃんの意地悪……」
「わはは」
いい加減諦めれば?
その一言が言えない僕だった。
ニュース番組が終わりに近づく。
「じゃあまた明日。電子犯罪ダメ、ゼッタイ! BANG!」
量子が指鉄砲を撃って終わった。
そして、
「きーじーちゃん!」
家の投影機を勝手に作動させて大日本量子ちゃんが現れた。
アシストを使って僕に触れてくる。
「雉ちゃん雉ちゃん雉ちゃん!」
「何ですか何でしょう何でっしゃろ?」
「どうだった?」
「何がよ?」
雑炊をはふはふ。
「私の活躍!」
「感慨は湧かないなぁ」
今更だし。
「雉ちゃんの意地悪……」
それはさっきも聞いた。
秋子の口から。
「今日で学校終わりでしょ?」
「夏季休暇に入るだけだよ」
終わりじゃない。
というか終わってたまるか。
「夏休みはいっぱい遊ぼうね?」
僕に頬ずりして量子。
ちなみにそう云う信号を受信しているだけで実際の頬ずりとはまた別なのだけど。
「量子ちゃん! 雉ちゃんは私の!」
「聞き捨てならん」
と秋子。
「秋子にだけは言われたくないよ~」
「それはこっちのセリフ……!」
モテる男は辛いね。
雑炊をはふはふ。
「雉ちゃんは私の!」
「いいや私の!」
「けれども私の!」
「それでも私の!」
お互いに所有権を争ってキャンキャンわめくワンコたち。
まぁ互いに可愛いし幼馴染ではあるんだけど。
「…………」
僕は関わらなかった。
「「雉ちゃん!?」」
「…………」
ノーコメントで。
「今日は一緒に登校しようね?」
これは量子。
「構やしないんだけどね」
「雉ちゃんは量子ちゃんの横柄を許すの!?」
「まぁ量子だし」
他に言い様が無い。
「雉ちゃんの意地悪……」
それはさっき聞いた。