あなたは太陽の様で4
「ん~……」
コーヒーを飲む。
眠気覚ましだ。
ちなみに僕の学習机と夏美の学習机はドッキング済み。
そして僕らの前には昼食が。
夏美はごく一般的な『お弁当』と呼ばれるお弁当。
僕と秋子は重箱だった。
とは言っても二段の。
一段目は多彩なおにぎり。
二段目はいわゆる『幕の内』的なおかず。
それも秋子にかかれば高クオリティと化す。
つくづく僕にはもったいない。
「雉ちゃん。コーヒーのおかわりは?」
「もらう」
ええ。
甘えてるのは百も承知です。
流されてるのも百も承知です。
でもさぁ。
でもねぇ。
「秋子の好意を無下に出来ない」
って云うと責任転嫁だろうか?
ですね当然。
かといって突き放すことをしないかつ出来ないのも事実で。
結局甘えて流されているのだろう。
このコーヒー然り昼食の弁当然り。
「きっといつかは」
そんな声が聞こえてくる。
その声に耳を閉じて、
「…………」
ズズとコーヒーを飲む僕だった。
そしてある程度胃袋を刺激した後、
「いただきます」
と昼食を手にかける。
物騒な方向に間違えた。
昼食に手をかける……が正しい。
相も変わらず完成された味だ。
常々ながら秋子の器用さには舌をまく。
「どう? 雉ちゃん」
「九十点」
「そっか」
「秋子ちゃんは完璧超人ですね」
僕と秋子と共に机を囲んでいる夏美が言う。
「いえいえ。そんな大層なものじゃないよ?」
謙遜はこの際皮肉だ。
「可愛いし……」
「夏美ちゃんも可愛いよ?」
「おっぱい大きいし……」
「女性の価値はそれだけじゃないよ?」
「料理上手だし……」
「いまだ修行中の身だよ?」
「同じ女子として羨ましい」
率直な夏美の言葉に、
「…………」
秋子の表情に影が差す。
「秋子ちゃんは……」
更に持ち上げようとする夏美の言葉を、
「はいそこまで」
僕はシャットする。
それは秋子にとって喉の小骨だ。
チクチクと苛む後ろめたさ。
色々あるんだよ。
人にはさ。
ここで言うべき事柄でもないから黙ってはいるけど、
「あんまり褒められても恐縮するしかないから止めて」
偽悪者くらいにはなってもいいだろう。
「む……?」
と口を噤む夏美。
「ありがと雉ちゃん……」
「まぁ僕に原因があるんだけどね」
ツーカー。
「?」
一人夏美が首を傾げていた。
知ったこっちゃござんせんが。
さてさて、昼食を再開しよう。
「うまうま」
とおにぎりを頬張る。
中からはイクラが零れ落ちた。
「…………」
なんつー贅沢な。
「あ、当たりを引きました?」
悪戯っぽく秋子が笑う。
その笑顔……八十六点。
「なんでイクラ?」
「少しは雉ちゃんに還元しないとって両親が」
「おじさんとおばさんか……」
「家族ぐるみの付き合いなの?」
最後のは夏美。
「僕と秋子は幼馴染」
もう一つ言うと量子とも幼馴染。
そっちは不都合が生じるから言わないけど。
「気にしないでって言ってるのに……」
「気にしないでって言ってるのに……」
僕の不満に秋子が異口同音に慰める。
……全く……僕は秋子に支配されてるなぁ。
家でも奉仕され、学校でも常に一緒。
もはや言い訳の余地もない。
そんなこんなで気持ちを切り替えて昼食を再開する僕。
業の深さは言われるまでもない。




