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彼女の事情1


「雉ちゃん雉ちゃん」


 あいあい?


「起きて」


 あい。


「くあ……」


 欠伸一つ。


 目を瞬かせて僕は覚醒する。


「秋子~」


「なに?」


「コーヒー」


「もう用意してるよ」


「…………」


 どうも。


 僕はダイニングに顔を出す。


 いつもの僕の席に朝食とコーヒーが置いてあった。


 僕の胃袋はもう秋子のモノだね。


 ちょっと罪悪感。


 言うと秋子がへこむから、


「…………」


 黙ってコーヒーをすするんだけど。


 季節は春。


 瀬野三に入学したてのほやほや新入生だ。


 秋子と同じクラスになったのは……なんだかな。


 腐れ縁もここまでくればいっそ清々しい。


 というか秋子と毎日毎時一緒に居るため男子からは偏見を持たれて秋子以外に友達はいない。


 そして救い難いことに秋子はそれを歓迎している節がある。


 気持ちがわからないと言えば詐欺になるけど……だからって……ねぇ?


 やっぱり罪悪感。


「…………」


 僕は無心でコーヒーを飲み、それから朝食をとりはじめる。


「どう?」


「とは?」


「御飯美味しい?」


「秋子の作る料理はいつも絶品でしょ。もはやソウルフード」


「そう? うぇへへへぇ……」


 ソウルフードがこの際キーワードだろう。


 軽やかに微笑むように見えるのはあくまで秋子の美貌がそう見せるだけであって、見慣れている僕にしてみればだらしない笑顔を通り越してちょっぴりキモい。


 そんな僕の残酷な感想はともあれ、照れ笑いをしながらテーブルに頬杖をつく秋子。


 大きな胸がポヨンとダイニングテーブルの上に乗っけられる。


 生憎と僕は違うけど、巨乳好きには眼福だろう。


 ご飯を食べながら量コンを起動。


 適切なイメージウィンドウを出す。


 ネットオークションのソレだ。


「おお……」


 思わず呟いてしまった。


「どしたの?」


 クネリと小首を傾げる秋子。


 可愛らしい仕草だけどその件に関しては言ってあげない。


 代わりに答える。


「オークションに捌いたオブジェクト」


「呂布セット?」


「それ。六十五万でフィニッシュ」


「ふわ……」


 さすがに秋子も目を見開いた。


 子どもが持つにすぎる大金だ。


「よし」


 と僕は決意する。


「秋子」


「何でしょう?」


「今週末はデートしよっか」


「ふえ……」


 ポカンとした後、


「はやや……!」


 秋子は目に見えて狼狽えた。


 うん。


 可愛い可愛い。


 椅子の背もたれまでのけ反って、重たそうな胸を腕で支えて、顔を赤らめる秋子は抜群に愛らしい。


 だからってやられる僕でもないんだけど。


 ごめんね秋子。


 とまれ、


「秋子は僕とデートしたくない?」


「したい! けど……」


「ならいいじゃん」


「うー……」


 目で抗議される。


 知ったこっちゃござんせん。


 淡々と味噌汁を飲む。


 うん……薫り高い。


 そして、


「ご馳走様」


 と一拍。


「お粗末さまでした」


 そう言って秋子が食器を片づける。


 土井家の家事は紺青さん家の秋子ちゃんがやってくれる。


 それは炊事、掃除、洗濯、洗い物にまで及ぶ。


 僕はと云えばされるがまま。


 秋子のアイロンをかけてくれているシャツを着て、制服のパンツとブレザーを身に纏うのだった。


 カチャカチャとキッチンで洗い物をする音が聞こえてくる。


 秋子は良いお嫁さんになる。


 それは断言できる。


 何だろうね?


 この胸のチクチク感は。


 罪悪感?


 それとも慕情?


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