傷はまだ瘡蓋残し5
午後六時。
「ただいま」
「お邪魔します」
前者が僕で後者が夏美。
僕は夏美を自分の家に招いていた。
「これも何かの縁だろう」
ということで。
「お帰り雉ちゃん。どうも夏美ちゃん」
出迎えてくれるのは当然秋子。
既に了解も取れている。
少しばかり不満そうな色も見えるけど秋子を以てするならばそんな嫉妬心さえ愛らしい。
量子?
仕事が入っているのでデートの途中で解散した。
元よりそのつもりだったから夏美と遭遇したのは良い縁だと思う。
「秋子。お茶を頂戴な」
「わかってる。夏美ちゃんは?」
「では私も……」
「はいはーい」
と軽く請け負ってキッチンに消えていく。
僕と夏美も我が家にあがってリビングでくつろぐ。
が、
「……あう」
どうやら夏美は緊張しているらしかった。
「そんな固くならんでもとって食ったりはしないよ?」
「男子の家にあがるのは……初めてで。みやげの一つも用意してないし」
「気にしないで」
「ご両親は?」
「二人とも他界。だから挨拶する必要は無いよ。楽にしてて」
「ごめんなさい」
「きっと異世界に転生して無双してるんだと思うからそこまで気に掛けるこっちゃない」
「…………」
肩をすくめる僕に赤い瞳で覗き込んでくる夏美。
どうやら僕の真意を測りかねているらしい。
まぁ重い話ではあろうけど、
「それで萎縮されてもつまらない」
というのが僕の本音なんだけど。
で、秋子の淹れてくれたお茶を飲みながらリビングでくつろぐ。
「秋子。今日の御飯は?」
「鰈の煮付けだよ」
「美味しそうだね」
「楽しみにしてて」
「あい」
茶を飲む。
「あの、春雉……」
「何?」
「いつも秋子ちゃんが料理してるの?」
「三食全てね」
「……ふぅん」
「まぁそれどころじゃないんだけど」
「というと?」
「炊事、洗濯、掃除、衣類の準備からアイロンがけまで我が家は全て秋子によって回ってるのよ。わはは。まいったか」
「…………」
沈黙する夏美。
呆れているのかと思えばさにあらず。
何やら考え事をしている様子だった。
沈思黙考。
「どしたの?」
「ううん。何でもないよ?」
「ならいいけど」
それから投影機を用いて夏美のおすすめアニメを見ることしばし。
「雉ちゃん。夏美ちゃん。ご飯だよ」
そんな声に中断させられた。
二人そろってダイニングへ。
三人分の料理が用意されていた。
白米と鰈の煮付けともやしの胡麻和えとわかめスープ。
いただきます。
ということで秋子と夏美と僕とで食卓を囲む。
「……美味しいですね」
そんな夏美の言葉に嘘や欺瞞は感じられなかった。
賞賛百パーセント。
「恐縮だよ。雉ちゃんは?」
「美味しいよ。といっても僕は言いつくしてるから今更だろうけど」
「ううん。雉ちゃんに美味しいって言ってもらえるのが一番なんだよ?」
「安いね。秋子は」
「雉ちゃん限定でね」
「……あう」
最後のは夏美の呻き声。
なにか不満でもあったのだろうか?
「ところでさ」
食後。
茶を飲みながら僕は言う。
「夏美は今でも総一郎を想ってるの?」
「雉ちゃん無粋」
黙らっしゃい。
「さすがに百年の恋も冷めるよ」
自身の胸元に視線を落として嘆息。
「だろうけどさ」
ちなみに秋子の胸は今日も今日とてタユンタユン。
「じゃあオド……オーバードライブオンラインはもう止めるの?」
何せ総一郎に近づきたいがために始めたものだ。
で、それが決裂した以上夏美がオドをプレイする理由が無くなった……のかな?
「ううん。オドは続けるよ。イレイザーズに居ちゃ駄目?」
「何のメリットも無いどころかスミスと一緒にプレイするってデメリットが発生するはずなんだけど」
「メリットは無いでも無いよ?」
「その心は?」
「秘密」
「…………」
秋子がジト目になった。




