表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/318

傷はまだ瘡蓋残し1


 休日。


 いわゆる日曜日。


「布団を干すため」


 と称してアヴァロンと呼んでベッドから追い出された。


 しょうがないからすごすご起きて準備されている朝食に手をつける。


 日本食党の僕のために全部が全部じゃないけど秋子は日本食を作ってくれる。


 今日の朝食は白米となまり節とサラダと味噌汁。


 手際よく食べてご馳走様。


 それからリビングのソファに寝っ転がって日曜のニュースを見ていた。


 ちなみにテレビと云う習慣はブレインアドミニストレータとブレインユビキタスネットワークの都合上死文化となっている。


 家に備え付けられている投影機で番組を見ることも出来るけど、それより量コンを使って視界にイメージウィンドウを展開して閲覧する方が骨じゃない。


 で、意識でコンソールを操作してニュースを見る。


 ソファに寝っ転がりながら。


「電子犯罪ダメ、ゼッタイ」


 そんなことを番組に出ている量子が言っていた。


「今週もいっぱい違法者が出たんだよ。私悲しいよ……」


 ちなみにその中に僕も入っているんだけど言わぬが花だろう。


「でもさぁ。量子ちゃんが電子犯罪者を是正したって考えればそれは優しさじゃない?」


 人気のある男子アイドルグループの一人がコメンテーターとしてそんなことをほざいた。


 まったくだ。


 同意する僕。


「うーん。そうなんだけど。でも出来れば波風立てたくはないですよね?」


「量子ちゃんに逮捕されるなら本望だっていう人もいるくらいだし」


「電子犯罪ダメ、ゼッタイ」


「だよね~」


「特に電子ドラッグは駄目だよ~。そんなことをしても自身を追い詰めるだけだと思うんだよ~」


「だよね~」


 ここで司会者が割り込む。


「ええ、まぁそんなわけでですね。特に衝撃的だったのは金沢議員の電子ドラッグの件だと思うのですけど……」


「そうなんだよ~。『なんで手を出しちゃったの?』って言いたいよ。金沢ちゃん今まで立派にやってたのに……」


「監視社会もよりけりとは言いますが大日本量子ちゃんの引き締めが無ければやはりこういった件は幾度も起こり得るものじゃないかと」


「アングラまでは手が回らないからね~。でもでもでも視聴者の皆さんは真似しちゃ駄目だよ? 私とのちょっとした約束。BANG!」


 指鉄砲を撃つ量子だった。


 それから司会者とコメンテーターとで幾らか電子犯罪について議論がなされ、コマーシャルが挟まれた。


 僕はウィンドウを閉じる。


 と、


「雉ちゃん!」


 やっぱりか。


 大日本量子ちゃんが現れた。


「私の番組見てくれたんだね! 嬉しい!」


「暇潰しだよ」


 そっけなく僕は言う。


 ちなみに芸能コーナーも電子犯罪コーナーも終わっているため、此度のニュース番組で量子の仕事はもうない。


 それは熟知しているし、そしてそれ故に僕の家に現れたのは必然と云えよう。


「どうだった?」


「特に感想は無いなぁ……」


 というかニュース番組と云う奴は論評に値するのだろうか?


「雉ちゃんそっけない」


「淡白だとの自覚はあるけどね」


「雉ちゃん?」


「嫌な予感がするけど何?」


「キスして」


「駄目!」


 最後の言は僕ではなく秋子である。


 衣類を運んできてリビングで制服にアイロンを当てる。


「姑は黙ってて」


「姑娘だよ私は」


 言いえて妙な。


 さてさて、


「どうでもいいけど僕の意見は無視?」


「「雉ちゃんは私の!」」


 異口同音。


「フシャーッ!」


「キシャーッ!」


 牽制し合う秋子と量子だった。


 罪な男だね。


 僕は。


 まぁ犯罪者ではまったくあるんだけど。


「秋子。コーヒー淹れて」


「はいな!」


「量子。離れて」


「嫌だよ!」


 さいですか。


「雉ちゃ~ん? 私と良いことしようよ? 電子世界なら犯罪にならないよ?」


「それは僕じゃなくて土井春雉に言えばいいんじゃない?」


「春雉じゃなくて雉ちゃんに言ってるの!」


「アイドルのセリフじゃないね」


「別にアイドル止めても良いけど……」


「いや、止めて? ガチで僕が怒られるから……」


「むぅ」


 量子は不満げだ。


 僕は体を持ち上げてソファに座り直す。


「こんなことならパーフェクトコピーにするべきじゃなかったかな?」


「ウィータが何言ってるの」


 そうだけどさ。


「貸し一」


「何の用でございましょ?」


「デートして?」


「それくらいはまぁ構わないけど……」


 なんだかなぁ。


 秋子の淹れてくれたコーヒーを飲みながら僕は嘆息するのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ