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彼氏の事情7

 僕はジキル名義でオドにログインすると昨夜揃えた「呂布セット」をネットオークションにかけた。


 スタートプライスは十万円。


 ちなみに第一種永久機関が人類を潤す以前、日本にはエネルギー源が無かった。


 そして専守防衛主義も手伝って、他国のエネルギー権益を奪うことも出来なかった。


 オイルメジャーの管理下に置かれ、一度デフォルト間際まで陥ったこともある。


 自国の借金であるから紙幣を刷って返済は出来るが、円の信用が落ちるのも必然で。


 そこからとある日本の科学チームが第一種永久機関を開発したことで情勢は一変する。


 無尽蔵のエネルギー供給によって日本はエネルギー先進国と相成った。


 その技術は世界特許がとられ日本の地位向上を実現し日本人を豊かにした。


 そんなこんなで一応円の価値は取り戻したもののデフォルト寸前まで陥った経験を痛手に見た日本政府はネットマネー本位制に移行したという事実がある。


 信用創造もみるみる加速し、しかして紙幣貨幣と違って重さが無いためある程度の信用性も得られるという寸法だ。


 当然何事もほどほどが肝心ではあるけど、少なくともネットマネーは超高度な量子コンピュータのアーティフィシャルインテリジェンス(ちなみにこのAIは日本国民から『量子りょうこちゃん』と呼ばれている)によって厳重かつ透明に管理されており、ときおり量子ちゃんの監視に引っかかった政治家の賄賂や裏金が明るみに出てニュースになることがある。


 閑話休題。


 そんなわけでブレインアドミニストレータによる脳の量子コンピュータ化によってネットマネーは個人の頭脳の中で管理されることになり、財布を持つ必要がなくなったわけだ。


 便利ね。


 そして円は一ドル百円台の相場を右往左往しており、子どもにとって十万円とは大金である。


 つまりネットオークションにかけた「呂布セット」……そのスタートプライスである十万円は僕にとっては大金と云うわけだ。


 とは言ってもあくまでスタートプライスかつネットオークションでの売買。


 おそらく五十万前後までは値上がりするだろうと僕は思っている。


 既に『ジキルのお部屋』というブログで広告宣伝もしている。


 食いつきは上々だったけど、結果を出すのは売り手ではなく買い手の方だ。


 ネット売買であるため自動的に金銭は振り込まれるし、呂布セットのデータも確実に譲渡される。


 今はもう亡き両親の残してくれた遺産は食うに困らないだけのモノなのだけど、趣味兼実益として僕はオドのレアオブジェクトをオークションで売りさばくことで小遣いを稼いでいるのだった。


 次はどうしよう?


「オーディンセットでも取りに行こうかな?」


 オーディンのアバター。


 グングニル。


 オーディンの眼。


 スレイプニール。


 フリズスキャールヴ。


 北欧神話ステージはもう何度も行っているため新鮮味はないけどオーディン自体が高レベルのボスでありレジェンドレアのアイテムを吐き出すため小遣い稼ぎにはもってこいだ。


 ちなみに僕のアバター……ジキルではなくハイドの方が装備している短刀グラムも北欧神話ステージで手に入れたレアアイテムである。


「雉ちゃん?」


 そんな声が聞こえた。


 当然秋子のもの。


「晩御飯が出来たの?」


「うん」


「そっか。ありがとね」


「食べよ?」


「あいあい」


 僕はオドをログアウトしてイメージウィンドウを視界から消すと、寝転がっていたベッドから起き上がる。


 ちなみに僕と秋子はお隣同士だ。


 そして僕に惚れている秋子が炊事に食事に洗濯にと奉仕してくれている。


「必要ない」


 とは既に言ってあるけど、


「私が好きでしているの」


 とけんもほろろ。


「幼馴染と云うのも厄介なモノである」


 ……なんて言ったら罰当たりかもしれないけどさ。


「今日の御飯は?」


「ホットサンド」


 おお。


「雉ちゃん好きでしょ?」


「大好きです!」


「そんな。いやん」


 秋子は頬を赤らめた。


 いや。


 別に君に、


「好きだ」


 と言ったわけじゃないんだけどな。


 まぁ恋は盲目とも言うし、しょうがなくはあるんだろう。


 相も変わらず業の深い。


 ダイニングに顔を出す。


 席に座って、


「いただきます」


 と一拍。


 僕と秋子は食事を開始する。


 メニューはホットサンドとレタスサラダとホットコーヒー。


 ん。


 良かれ良かれ。


 ホットサンドを食べる。


「どう? 雉ちゃん……」


「毎度毎度ご苦労様」


「そ~じゃなくて~」


「あー、はいはい。美味」


「誠意が足りないよ……」


「持ってないからな」


 残酷……そうには違いないのだ。


「どうせなら男でも作ってソイツにふるまえば?」


「今まさに」


 君は幸せだね。


 いいんだけどさ別に。


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