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墨洲の告白3


「雉ちゃん雉ちゃんきーじーちゃんっ」


 秋子の声が聞こえて来た。


 割り込んで来た、が正しいかもしれない。


 何処に?


 僕の微睡の中に。


「雉ちゃん起きて?」


「んあ?」


 言われて覚醒する。


 半開きに目を開くと、その深淵を覗き込むようにパチクリとした黒い双眸が僕の視覚を捉える。


 秋子である。


 どうやら自分は机に突っ伏して寝ていたらしい。


 昼休みに飯を食ったところまでは覚えてるんだけど。


「スケジュール的には?」


「とっくに放課後だよ?」


 でっか。


「よく寝ていましたね春雉は」


 これは隣の席の夏美。


 皮肉ではなかろう。


 声に抑揚が無い。


 単純な事実の指摘。


 それ以上の感情を見いだせなかった。


「ちょっと寝不足でね」


 だから素直に答えられた。


「オド?」


「然り」


 簡潔に。


「廃人だね」


「夏美にだけは言われたくない」


「そっか」


「です」


 別に喧嘩ではないですよ?


「雉ちゃん?」


 これは秋子。


「どっかに遊びにいこ?」


「あ、私も同行していいですか?」


「ガルル!」


「どうどう」


 嫉妬に猛り狂う秋子を僕が宥める。


「どこ行く?」


「百貨繚乱でいいんじゃない?」


「異議なし」


 じゃあ百貨繚乱で。


「それと秋子」


「なぁに?」


「コーヒー」


「はいな」


 量子質量変換で水筒を取りだしカップにコーヒーを注いで僕に渡してくれる。


「今更なんですけど」


 とこれは夏美。


 僕はコーヒーを飲む。


 夏美はジト目になっていた。


「春雉と秋子は付き合ってるの?」


「いや?」


「別に」


 いとも簡潔に僕らは答える。


「なんかもう秋子って春雉の奥さんって立ち位置っぽいけど」


 間違ってはいないけど。


「まぁ色々ありましてね~」


 そんな言葉で誤魔化す。


「秋子は春雉が好きなの?」


「大好き!」


「春雉は?」


「蓼食う虫も好き好きかなって」


「残酷ですね」


 委細承知。


 コーヒーを飲む。


 それから、


「あんがとさん」


 と秋子に飲み干したカップを返す。


 量子変換してデータ化する秋子。


「じゃあ百貨繚乱に行きますか」


 まだ微妙に眠いけど。


「ん」


「です」


 秋子と夏美も答える。


「なんなら総一郎も呼ぶか? そっちの方が夏美も嬉しいだろ?」


「嬉しいですけど……」


 含むような言だった。


「私はオタクですし」


 それに何の関係があるんだろう?


「電子世界ならともかくあんまり現実世界で纏わりつくと迷惑かと……」


「そんなケツの穴の小さい男なら見限ればいいんじゃない?」


「でも墨洲くんは私なんかに優しくしてくれた」


 なら優しくしてくれたなら誰でもいいのかって話になるんだけど。


 チラリと総一郎の方を見やる。


 スクールカーストの天辺に混じって放課後の予定を話し合ってた。


「私は墨洲くん苦手です」


 これは秋子。


「じゃあ三人で駄弁ろうか」


 そして僕らは昇降口へと向かう。


 靴箱から外履きを取り出そうとして、


「…………」


 メモ用紙の切れ端が目に付いた。


 書いてあるのはアドレス。


 そのアドレスを覚えて何事もなくクシャッとメモ用紙を握りつぶす。


「雉ちゃん、行こ?」


「春雉」


「んだね」


 まぁ気にすることでもないだろう。


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