コの字デート6
「じゃあ結局コの字関係ってこと?」
シリョー……いや量子が黒髪ツインテールを振り乱しながら槍で雑魚を掃討する。
当然超過疾走システムのアシストは十倍きっかり。
僕と同等の速度だ。
同時に秋子と夏美とも同等だ。
このエリアには僕と量子しかいないし無理にアバター名を使わなくても良いだろう。
「雉ちゃんも罪な人だね!」
「それを君が言う?」
僕は短刀グラムをふるって雑魚キャラの首を掻っ捌く。
クリティカルヒットが出てポリゴンの破片となる雑魚キャラ。
もとより僕のレベルは950台。
ヘラクレスステージでもあまり問題にならない。
無論僕の技量もソレを後押ししてるんだけど。
「何だかなぁ……」
量子はグロウランスを振るう。
ここでちょっと話題を逸らそう。
アイテムには希少価値がある。
順にコモン、アンコモン、レア、スーパーレア、レジェンドレア、ミラクルレアと分類される。
後者になるほどレア度が高い。
そして僕の持つ短刀グラムと量子の持つ槍グロウランスはミラクルレアに相当する。
その希少価値は最上級。
何せ十数億のプレイヤーがひしめくオーバードライブオンラインにおいて一つしか存在しない名称通りの奇跡のアイテムなのである。
多分オークションに出せば日本円で十億を軽く超える。
ドルで億がつくかもしれない代物だ。
それほどオーバードライブオンラインはプレイヤーに愛されて、熱狂させているゲームと云うわけなんだけど、
「まぁねぇ」
僕にしてみれば運が良いだけの事だ。
僕のアバター……ハイドはラックのステータスをガン上げしている。
である以上、クリティカルヒットの威力増大はもちろん、アイテムのスティールやドロップにおいてもレアアイテムの当選確率が常軌を逸していると言える。
ちなみに量子の振るうミラクルレアの槍グロウランスは僕が譲渡している物だ。
故に装備補正もあって僕と量子にとってヘラクレスステージは、
「中々手こずる」
程度のモノでしかない。
無論、秋子や夏美や総一郎では雑魚キャラに瞬殺されるステージなんだけど。
そして雑魚キャラを蹴散らし終えて一息つくと、大英雄ヘラクレスが現れた。
雄々しいというか猛々しいというか。
「ルオオオオオオオオオオッ!」
気迫抜群のボスキャラだった。
もっとも僕に気負いは無いしはばかりながら量子もそうだろう。
「じゃあちゃっちゃと片付けますか」
「ラスアタは僕に回してよ?」
「分かってますよっと!」
ヘラクレスの攻撃を超過疾走システムのアシストの恩恵で躱して槍を振るう。
僕も疾駆した。
ヘラクレスの死角から短刀グラムを振るう。
首を狙った一撃だ。
クリティカル判定が出てレベル900相応のダメージが付加される。
「それにしてもコの字関係ね……。墨洲くんはどうでもいいけど秋子ちゃんと夏美ちゃんには同情しちゃうなやっぱり」
ヘラクレスの巨体を相手にしながらも減らず口を叩くあたり余裕が垣間見える。
「量子は秋子の事情を知ってるでしょ?」
「それを言うなら雉ちゃんは秋子ちゃんの現状を知ってるでしょ?」
「…………」
黙して答えずヘラクレスの首を切り裂く。
「ねぇ? 気持ちはわかるけど秋子ちゃんの慕情を斟酌してもいいんじゃない?」
「僕の気持ちがわかるなら斟酌してくれてもいいんじゃない?」
「あ~いえばこ~いう~」
「お互いにね」
「夏美ちゃんも可哀想に」
「そっちの愚痴は秋子に言ってやって」
「雉ちゃんはそれでいいの?」
「…………」
駄目な理由がみつからないんだけど……。
言っても詮方無き……か。
「じゃあさ!」
ヘラクレスの心臓に槍を突き刺しながら量子が言う。
「雉ちゃんは私に惚れれば!? そしたら釣り合いとれるよ?」
「有機ロボットにでも意識を移植する気? 電子アイドルが?」
「駄目かな?」
「僕には十三階段が幻視出来る。ていうか自己確立はどうするのさ?」
それほど量子の市場価値は半端じゃない。
少なくとも本来の仕事には従事してほしいものだ。
「む~。雉ちゃんのケチ!」
「何とでも」
飄々と答える。
「雉ちゃんの隣で秋子ちゃんがパイオツを押し付けてるよ? 何も感じないの?」
「色々と精神修行にはなるよね」
「なるようにはならないんだ」
「……童貞ってだけなんだけど」
自分で言ってて悲しくなる。
でも挫けないぞ僕は。
「そろそろラスアタになるんじゃない?」
グロウランスでヘラクレスの肉を引き裂きながら量子が言う。
「あいまむ」
頷いてターゲットを量子に設定しているヘラクレスの背後を取り、
「オンリーハートストライク!」
心臓にヒットした場合にのみ大ダメージを加算するシーフとアサシンだけの特殊スキルでヘラクレスの心臓を貫く。
あまりにも高威力の必殺技を受けてヘラクレスはポリゴンの破片と散った。
スティールアイテムは無し。
ドロップアイテムはヘラクレスアバター。
「いる?」
ためしに量子に聞いてみる。
「嫌だよ。自分がそんなマッチョなアバターを繰るなんて……」
ですよね~。
とりあえずは台所事情と相談してどうするかを取り決めよう。
そして僕と量子はオドをログアウトするのだった。




