コの字デート5
「…………」
「あはははっ」
テンションと攻撃手段に違いはあれどコキアとミツナはハッピートリガーと化していた。
魔法と銃の弾丸が乱打される。
オドは無双ゲーと云うことで数こそ多いものの一体一体の敵はさして強くもない。
コキアはウィザード。
ミツナはガンリアー。
どちらも遠距離支援だけど超過疾走システムの恩恵によって敵を全く寄せ付けず……一方的に虐殺して回った。
「おおおっ! スターラッシュ!」
ソードマンのスミスも雑魚狩りに参加している。
主にコキアのフォローに回っている辺り、その真意が窺えた。
知ったこっちゃござんせんが。
「私もデートしたかった! 何で呼んでくれなかったの?」
これは隣のシリョーの憤慨。
「仕事があったんだからしょうがないでしょ」
「むぅ」
シリョーは口を尖らせる。
「ハイドちゃんの誘いなら何にもまして駆けつけたよ?」
「別に必要ないしなぁ」
本音だ。
残酷でもあるけどね。
「じゃあさ。これからデートしよ?」
「セカンドアースは十分だよ」
「そうじゃなくて。私とハイドちゃんだけで高レベルクエストをするの」
「ふむ……」
「サードギリシャ神話エリアとかどう? ヘラクレスを狩りに行かない?」
「まぁそれくらいなら」
不承不承頷く。
「決まり! じゃあ手っ取り早くこのステージを終わらそ!」
そしてシリョーは手に持った虹色の光を纏う槍で以て雑魚を蹴散らしにかかった。
ついでにボスキャラまで撃破する三面六臂の大活躍。
非戦闘区域でお茶をしながらヘラクレスステージの確認をしていると、
「シリョーさん強いっすね。ありえないっす」
瞠目するスミスに、
「ども」
気楽に返すシリョー。
「まぁあれだけやりこめば……」
これはコキアの言。
「シリョーさんはハイドとコキアさんの知り合いなんですか?」
「幼馴染だよ」
まさか、
「かの有名な大日本量子ちゃんです」
などと暴露するわけにもいかずお茶を濁す。
「同年齢? 同じイレイザーズのメンバーとしてリアルでも紹介できるかハイド?」
「無理」
僕の答えは簡潔を極めた。
電子データでしかないシリョー改め量子をどうやって会わせろと?
無論立体映像でコミュニケーションをとること自体は難しくない。
が、量子はしがらみが多すぎる。
僕の最たる悩み事の一角だ。
原因は僕で理由も理屈も僕に起因するんだけど。
「ネット引き籠りだからそっとしておいてやって」
「そ、そうか……」
スミスの口の端が引き攣っていた。
嘘はつかず……かつ誤謬を生み出す言葉で納得を引き出す。
それくらいの腹芸は僕とて出来る。
「じゃあシリョー。行くか」
「ん。その言葉を待ってた」
わくわくと云った様子でオリオン三連星を瞳に(アバターだけど)宿すシリョー。
「ん? またクエストするんですか?」
これはミツナ。
「僕とシリョーだけでね」
これは僕。
「私もついていっちゃ駄目?」
これはコキア。
「特に意味ないから止めておいた方が無難だね」
これは僕。
「どこに行くんだ?」
これはスミス。
「ヘラクレス狩り」
これは僕。
「マジか……! 必要レベル500台だぞ……!」
「僕レベル950台だし」
「私500~」
「というわけで今日はここで解散。僕とシリョーでヘラクレス狩りに行くから」
「どうせだからアバター取れるといいよね!」
「まぁラスアタを僕に任せてくれればいけるんじゃない?」
「ヘラクレスのアバター……! ドロップしたら売ってくれ!」
「おぜぜが必要よ?」
「いくらだ?」
「ネットマネーで十万から交渉しようじゃないか」
「払えるか! 学生が! そんなに!」
「だってオークションに出したら二十万は付くし。今なら半額キャンペーンだよ?」
「そこはギルドメンバーのよしみでさぁ……」
「だから半額キャンペーン。僕としても苦渋の決断だ」
「むう」
「ま、てきとうに考えておいて。別に買い手はいるからこっちとしてはスミスに固執する必要は無いんだけど」
「薄情者」
「耳が痛いね」
飄々と僕。
口笛なんか吹いたりして。
ちなみにひまわり娘。
さてさて、
「じゃ行こっかシリョー」
「アイサー」
そして僕とシリョーはサードギリシャ神話エリアへと飛ぶのだった。




